引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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オールマイトは説得したいし、AFOは取りなしたいし、緑谷出久は助けに来たい。

 

 

『おいAFO!何をボーッとしてる!お前は一体、転孤くんに何をしたんだ!?答えろーっ!!』

 

 魔王の言葉に耳を疑った。

 

 いきなり現れた、仮面のヴィラン・死柄木弔。AFOは、その正体がお師匠の孫である志村転孤だと言う。

 

 そんなはずはない。転孤くんは今、普通の学生として平穏な日々を送っているはずだ。

 

 今年の年賀状写真でも、爽やかな好青年って感じだったし、彼がヴィランになっているなどあり得ない。そう、絶対にあり得ないはずなのに、

 

「白霧。まずは教師どもを片付ける。手伝え。」

 

『はいよ。』

 

 死柄木弔の操る個性が、その希望を打ち砕く。

 

 竜巻をうまく使った攻防一体の立ち回り。個性を使った飛行と格闘術を織り交ぜた戦法。

 

 特に後者は紛れもなく、お師匠の戦闘スタイルそのものだった。

 

『まさか本当に、彼が...!?』

 

 死柄木弔は、白いモヤモヤとも連携しながら、教師達を一人ずつワープゲートへと押し込んで、次々に無力化してしまう。

 

 気付けば、私以外の教師陣は全員、何処かへと転送されてしまっていた。

 

 あ、何気にこれ大ピンチだ。

 

「さて、これでようやく話ができるな。オールマイト。」

 

 死柄木弔は仮面を外す。その下にある素顔は、間違いなく志村転孤くんのものだった。変装や幻覚の個性で化かされているとも思えない。

 

『転孤くん。どうしてこんな事を!?』

 

「おいおい、アンタがそれを言うのか?俺がこうなった原因の一つは、アンタにあるんだぜ?No.1。」

 

 転孤くんの目に宿るのは、私への強い憎しみだった。

 

 いやなんで?私、転孤くんに何かした?

 

「オールマイト。アンタには世間にひた隠しにしている秘密がある。そうだろう?」

 

『ど、どうしてそれをっ!?』

 

 確かに私には、世間にひた隠しにしている秘密がある。

 

 No.1ヒーローなのに本当はクソ雑魚だと言う秘密が!

 

 だがどうして、転孤くんがそれを知ってる?お師匠ですら、私の弱さには気付いてくれなかったはずだぞ。

 

「アンタがAFOと出会った夜、僕もあの場にいたんだよ。そこでお前の本性を知ったんだ。」

 

『なっ、見ていたのか、アレを。』

 

 な、なるほど。

 

 私が散歩の最中にAFOと遭遇し、その自爆攻撃に巻き込まれたあの夜を、転孤くんに見られていたのか。

 

 今思い返しても、あの時の私は情けなかった。AFOの奇行に混乱していた事もあって、警察の到着を待たず、パニック状態で現場を走り去ってしまったのだ。

 

 No.1ヒーローにあるまじきその無様な姿が、転孤くんの言う私の“本性”なのだろう。

 

『すまなかった転孤くん。』

 

「謝って済むなら、ヒーローは要らねえ。」

 

『うっ。その、失望、したかい?』

 

「ああ。これでも小さい頃は、アンタの大ファンだったんだぜ?今日、こうして素顔を晒したのだって、アンタと本音で話し合いたかったからだ。きっと僕は、心のどっかで願ってたんだよ。アレは僕の勘違いだって、アンタが否定してくれるのを。」

 

『いや、見間違いなんかじゃない。君が見たものは、全て真実だ。』

 

「・・・そうか。がっかりだよ。」

 

 そう、転孤くんが見たものは全て真実だ。

 

 私が本当は弱いことも、あの夜情けなく逃げ出した事も、全て事実だ。それを偽るつもりはない。

 

「もう一つ聞かせろ。どうして、あんな事(AFO殺害未遂の末、放置)をしたんだ?どうして今までそれを隠してた。」

 

 あんな事?情けなく現場から逃げた事についてだよな?

 

『決まってるだろう。(いきなり自爆したAFOが)怖かったんだよ、私は。』

 

「そんなに怖かったのか?人(AFO)をアレだけ傷つけておいて、自分自身(のキャリア)が傷付く事が。」

 

『え?自分自身が傷付く事?怖いよ!当たり前でしょ!!』

 

「何開き直ってんだ、テメエ!!」

 

『あ、ごめんなさい。』

 

 いやだって、怖いだろう!?

 

 自分より何百倍も強いはずの魔王が、いきなり自爆したら!そりゃ逃げ出したくもなるって!

 

 自分自身が傷付くのだって怖いさ!クソ雑魚の私からしてみりゃ、全てが致命傷なんだから!私だって無駄死にしたいわけじゃないし!

 

 おかしいな、妙に話が噛み合わない。転孤くんも私が本当は弱いことを知ってるはずだから、すれ違う要素なんて無いはずなのに。

 

 って言うか転孤くん。ちょっとキレすぎでは?

 

 昔は私のファンだったらしいし、本当は弱い事を知って、失望し怒るのも分かる。

 

 だがそれだけで、AFOの下でヴィランになってしまうくらい、私を憎むようになるのは幾らなんでもブチキレすぎだ。

 

 もし仮に、私が転孤くんの大切な人を殺しかけたのにも関わらずあんまり反省してない、とかだったらギリ納得するんだが。

 

 やっぱり何か行き違いがあるのか?これはもう転孤くん本人に確認するしかなさそうだ。

 

『あ、あの、転孤くん。』

 

「どうした?」

 

『えっと、もしかしたらなんだが、何か誤解があるんじゃないかな?』

 

「今更何を言ってる。たった今、自分で認めたばかりだろ。あの夜アンタが犯した罪を。」

 

『いや、罪って、幾らなんでも大袈裟すぎるだろう?』

 

「・・・なんだと?」

 

 現場からは確かに勢いで逃げ出したしまった。それは良くない。だが、その後は何とか冷静になって、5分足らずでちゃんと警察に通報し、私自身も臨場してる。

 

 もっとも、AFOは現場から逃げ去った後だったが。それよりも、事務所に脱獄囚であるムーンフィッシュが転がってて、死ぬほどビビったのを憶えている。

 

 まあ何にせよあの夜については、転孤くんが闇堕ちする原因になる程、私に非があるとは思えない。

 

「おい、オールマイト。今の言葉は聞き間違いか?本気でそんな事を言ってるのか?」

 

『ああ、本気だよ!寧ろあの時ああしたのは、ファインプレーとさえ思っている!』

 

「っ...!!!」

 

 そう、あの時逃げ出したのは、寧ろファインプレーまである。

 

 もし私が、あの時逃げずにAFOを追跡していたら、追い詰められた奴がさらに暴れていたかもしれない。

 

 そうなれば、私が無駄死にするどころか、更なる被害が出ていたかもしれない。

 

 そうなると、一度現場から撤退してから、救援と共に舞い戻ったのは、結果的に最適解だった気がする。

 

 私が弱い事を知っている転孤くんなら、それも分かってくれるかもしれない!

 

『転孤くんもよく考えてみてくれ!そうすればきっと理解できるはずだ!あの夜の私の行動は、(結果的に)何も間違っていなかったって!』

 

「アンタ、何を言ってるんだ...?」

 

 あれ、何だか転孤くんがドン引きしているような?

 

 いやまあ、大人として言い訳を並べ立てている今の私は、ドン引きされても仕方ないくらいにはカッコ悪い。

 

 でも、転孤くんに足を洗わせるためにも、彼の誤解を解かないとだし、

 

「と、とにかく!秘密を世間に公表して、然るべき制裁を受けるんだ!アンタだって、最後くらいはヒーローらしく潔い幕引きをしたいはず、」

 

『え、秘密を世間に公表?』

 

 秘密って、私が弱い事だよな?

 

『それならとっくにやってるよ?Y◯uTubeで、週一で暴露動画出してて、』

 

「くだらない嘘はやめろ!!」

 

『いやほんとだってば!この通りチャンネルも、あ、全動画削除されてる。』

 

「ふざけてるのか!?オールマイト!」

 

 私は何ひとつ嘘を言ってないのに、転孤くんの怒りはどんどん膨れ上がっていく。

 

 このままじゃ、まともな話し合いすらもできなくなってしまうだろう。

 

 ここは一つ場を和ませないと!

 

『なあ転孤くん。何をそんなに怒ってるんだ?おばあちゃんに教わってるはずだろ?辛い時ほど笑顔にならなきゃ!ほら、スマイルスマイル!って、間違って転孤くんの仮面の方に話しかけちゃったよ!HAHAHA!』

 

「うるせえ黙ってろ!!!!!」

 

 だめだこりゃ。私の奥の手である小粋なジョークすら通じない。

 

 もうどうやっても、転孤くんの怒りを鎮められる自信がない。

 

「いい加減にしろオールマイト。分かってるのか?あの夜アンタは、一つの命を奪いかけたんだぞ?」

 

『はぁ?』

 

 私が、AFOと対峙した夜、一つの命を奪いかけた?何の話だ?

 

 寧ろ私、殺されかけた被害者だよ?私が誰の命を奪いかけたというんだ?

 

 えーっとAFOの事?ではないか。アイツは自爆しただけだし、普通に復活して来たし。

 

 となると、私が奪いかけた命って、あ、アイツか。

 

 そう。私はAFOと遭遇する少し前、Gから始まるあの虫にも遭遇しており、熾烈な戦いを繰り広げていたのだ。

 

 転孤くんはその様子も見ていたのだろう。シリアスな顔で命がどうの言い出したからビックリしたぞ、全く。

 

 もしかしたら、さっきの私に合わせて、転孤くんなりにジョークで返してくれたのかもしれない。

 

 なーんだ。そういう事だったのか。

 

『HAHAHA、一つの命を奪いかけただって?もしかして、私がこの手で叩き潰したあの害虫(G)の話かな?いや〜そういう事だったのか〜。途中まで全然気付かなかったよ、HAHAHAHAHAHAHA!』

 

「っ、害虫、だと...?」

 

『だって害虫だろ?あんな奴(G)は、その場に居るだけで不快で気持ちが悪く、良くないものをばら撒いている害虫でしかない。転孤くんだってそう思うだろ?』

 

「だっ、だから、殺そうとしたのか?」

 

『ああ。余りに鬱陶しかったから、ついつい後先考えずに手が出てしまってね。奴(G)の頭にSMASHさ。』

 

「・・・・・・」

 

『でもそのせいで、やつの体液で手がべちゃべちゃになってしまってね。気持ち悪いのなんのって。おまけに奴ときたら、頭を潰してるのに死んでないときたもんだ。もっと上手くやるんだったと、今でも後悔しているよ。HAHAHA!』

 

「っ、アンタはヒーローだろ?」

 

『いや、別にいいだろうそれくらい。私だけじゃない。エンデヴァーをはじめとした他のヒーロー達も、皆んなそれくらいは平気でやってるはずさ。私だって、この手でどれだけ害虫を葬ってきたかは、もう覚えていないレベルだし。』

 

「なっ、何を言ってる。そんな事をして、何とも思わないのか?」

 

『いやまあ、ちょっと可哀想とは思うけどさ。相手は害虫だし、仕方ないかなって。いや〜それにしても、転孤くんは本当に優しいな〜。あんなに気持ちの悪い害虫の命も、そこまで大切にできるなんて〜。』

 

「・・・・・・」

 

 まさか害虫トークで、ここまで話が弾むとは思っていなかった。場の雰囲気もあったまってきたし、転孤くんを説得するなら今かもしれない。

 

『転孤くん。優しい君にはヴィランなんて向いていない。今からでも遅くないはず、』

 

「もういい。アンタがどういう人間かは、よく分かった。」

 

 おお、私がどういう人間か、ちゃんと分かってくれたらしい。粘り強くコミュニケーションをとった甲斐がある!

 

『じゃあ、私と一緒に出頭して、』

 

「ありがとな。これでもう、ヒーローには何の未練もない。アンタをちゃんと憎めそうだ。」

 

 転孤くんは手にした仮面で顔を覆う。

 

「オールマイト。アンタだけは、この手で一発ぶん殴らないと気が済まない。」

 

『あれぇ?』

 

 竜巻に身を包んだ転孤くん。仮面の奥の視線からは、先ほどよりも燃え上がった強い憎しみを感じてしまう。

 

 え、だから、なんでぇ!?

 

 

 

『転孤くん、グレちゃった...』

 

 USJにいきなり現れた彼は、僕の息子を名乗りながら、雄英のヒーローたちを次々と蹴散らしていく。

 

 なかなかいい動きだ、流石は自称僕の息子。だなんて感心してる場合じゃない。

 

 あの優しかった転孤くんが、どうしてこんな事を。

 

 何故だか彼は、オールマイトを死ぬほど敵視してるし、僕をめちゃくちゃ慕ってくれてる。

 

 いやおかしいだろ。どうしてそんな事になるんだよ。

 

「オールマイト。アンタだけは、この手で一発ぶん殴らないと気が済まない。」

 

 僕がグチャグチャ考えている間にも、転孤くんは良からぬ覚悟を決めている。

 

 考え事に集中しすぎて、彼とオールマイトの会話を聞いていなかったのだが、何がどうして転孤くんがNo.1ヒーローを殴る流れになったのやら。

 

「先生ありがとな。オールマイトと話をする時間をくれて。これで踏ん切りがついたよ。」

 

『あ、うん。うん?』

 

「安心してくれ。先生が雄英に来た目的はちゃんと分かってる。」

 

 おお。転孤くんは僕が自首にしに来たという事を分かって、

 

「ヒューマライズの雄英襲撃計画を潰すため、そうだろう?先生の陽動のおかげで、奴らの別働隊は楽に制圧できたよ。」

 

『?????????』

 

 うん。これは全然分かってもらえてないやつだな。っていうかヒューマライズ?どうしてその名前がいきなり?

 

「先生がまだ雄英に残っているのを見るに、(ヒューマライズの)“内通者”とは接触できてないんだろう?」

 

『え、あー。』

 

 な、内通者?ああ、僕の自首に協力してくれた青山くんの事かな?

 

 彼となら一応もう接触できて、

 

「僕と白霧。それに脳無でオールマイトの相手をする。その間に先生は、内通者を見つけてとっちめてくれ。」

 

『ええぇ!?』

 

 僕が青山くんをとっちめるの?なんで!?

 

「じゃあ頼んだぞ、先生。」

 

『ちょ、ちょっと待って!』

 

「心配するな。僕もこの13年で強くなった。脳無もいるし、相手がオールマイトでもそう簡単にやられはしない。」

 

『いや、そうじゃなくて、その、内通者の素性ついてなんだが、』

 

「なんだ?まさかもう内通者の正体を掴んでいるのか?」

 

『まあ、その、彼は僕の身内というか、』

 

「身内?とにかく僕は、オールマイトと決着をつける。内通者のことは任せたぞ、先生。」

 

 あーもうどうしてこうなる!

 

 転孤くんは竜巻を纏い、今にも突撃して行きそうな雰囲気だ。

 

 確か君、オールマイトの大ファンだったはずだろう?どうしてそんなに彼を殴りにいきたいんだよ。

 

 幾ら何でも不自然だ。もういっそ、転孤くんが誰かに洗脳されてるとしか思えな、

 

 まさか本当に洗脳か!?

 

 おいドクター。やるとしたら君だろう。いつかはやると思っていたが。遂に一線を超えやがったな。戻ったら説教だ。そして転孤くんを早いとこ正気に戻させなくては。

 

 いやその前に、オールマイトにもちゃんとその事を教えておかないと!

 

『聞いてくれオールマイト!僕の部下にはとんでもないマッドサイエンティストがいてね。転孤くんは今、彼に洗脳されてる状態なんだ!』

 

『な、なんだとっ。そういう事だったのか。AFO。貴様なんという事をっ!』

 

 え、僕ぅ!?

 

 いや違うんだ。僕は何もやってなくて、部下が勝手にやった事で、なんて言っても信じて貰えないだろうな。

 

「先生!また僕を庇って!よく聞けオールマイト!僕がここにいるのは洗脳なんかじゃない。僕自身の意思だ!」

 

 あ、転孤くんが飛び出してしまった!

 

『くっ、転孤くんは完全に洗脳されてるようだな。おのれAFO!』

 

 だからそれは誤解なんだってオールマイト!

 

 不味いぞ。これだと転孤くんvsオールマイトが勃発する!

 

 転孤くんが勝っても彼が罪を重ねる事になるし、負けても負傷は免れないだろうしで、どう転んでも具合が悪い。

 

 これも全部転孤くんを洗脳した君のせいだぞドクター!

 

 そんな事をする奴だとは思っていなかった。いや嘘だ。正直いつかはやるんじゃないかと思ってました。

 

 責任をとってなんとかしてくれ。この場を収めてくれよドクター。

 

 あ、そう言えばここへ来る前に、ドクターから幾つかの個性を託されていたっけ?

 

 ピンチの時に使うといい的な感じで。

 

 どんな個性かはよく分かっていないが、今以上のピンチなどあるまい。他に取れる手段もないし、もうヤケクソだ。一気に使ってしまおう。

 

「うおおおおぉ、うぉお!?」

 

 僕の周り黒い泥が溢れ出した。

 

 USJを飛び回っていたメカ脳無達が僕の手元に次々と転送されてくる。

 

「っ!?」

 

『何をしている、AFO!』

 

 僕に注意が向いた事で、幸いにも転孤くんvsオールマイトの戦いが止められたらしい。

 

 セーフ!危ない危ない。となると残る問題は、発動したこの個性を僕が制御できてないという事だ。

 

 誰か助けてくれないか?

 

 ドクターが託してくれたこの個性は、思っていた以上にジャジャ馬だったらしいんだ。

 

『ちょ、ま。』

 

 次から次へとメカ脳無が転送されてきて、僕は奴らの硬い身体にギュウギュウと押し込められていく。

 

『やばい、しぬぅ!』

 

 呼吸を確保するためにメカ脳無の大群を押し除けようとした所で、ドクターが渡してくれた二つ目の個性が発動した。

 

 僕の手に触れられたメカ脳無は次々とその姿を変え、僕の身体と“融合”していく。

 

 これはアレだな。チート個性・オーバーホールから“融合”の要素を抜き出して、特化させた個性っぽいな。

 

『なるほど。ドクターらしい柔軟な発想だ。』

 

 泥ワープの個性でメカ脳無を呼び寄せ、融合の個性で体内に取り込む。これこそがデザイナーズコンボなのだろう。

 

 メカ脳無100機と融合した僕は、ロボットアニメの悪役のような、巨大な機械の肉体を手に入れていた。

 

 うむ。なかなかカッコいいじゃないか。それにデカい。身長だけならマキアにも並んだかもしれないな。

 

 唯一の懸念があるとすれば、僕がこの新しい肉体を全く使いこなせないと言うことだ。

 

 今までとは身体の体重と重心がまるで違うのだ。戦闘センスが壊滅的な僕では、戦うどころか、まっすぐ立ってることすらできない。

 

『おっとっとっとぉ!』

 

 大きく傾いた身体がそれ以上倒れないように、右足のケンケンで何とかバランスを保つ。

 

 その衝撃だけでUSJには大きな地響きが起きていた。

 

『よっこいしょっと!!』

 

 浮いていた左足を勢いよく地面に下ろし、ようやく僕の体勢は安定する。

 

『あれ、何か踏んだか?』

 

 下ろしたばかりの左足に妙な違和感がある。慌てて辺りを確認するが、転孤くん、白霧、オールマイトはちゃんと無事だ。

 

 他の雄英教師はワープゲートで飛ばされてたし、うん。誰かを踏み潰したんじゃないかと心配したが、気のせいだな、気のせい。

 

 よかった。よかった。

 

『おや?あそこにいるのは、』

 

 物理的に上から目線になった僕の視界は、USJへと駆け込んでくる、とある人物を捉えていた。

 

 

◇ Side:緑谷出久

 

 13号先生の誘導の元で、僕たち1-Aの生徒たちはUSJから避難していた。気絶してしまった青山くんも、僕が担いで一緒に避難している。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。全部、僕が悪くて・・・」

 

 意識を失ったままの青山くんは、うわ言のように何かを呟いている。もしかしたら、あの仮面のヴィランに精神干渉系の個性で攻撃されていたのかもしれない。

 

「青山くん。君は何も悪くない。君はただの被害者だよ。」

 

「っ、緑谷、くん...!」

 

 今の僕には、悪夢にうなされているような彼の手を、強く握ってやる事しかできない。ソレがたまらなくもどかしかった。

 

 既に、プロヒーローへの通報は済ませてある。避難する途中ですれ違った雄英の先生達も、向こうに参戦している頃だろう。

 

 襲撃犯はどういうわけか、通信電波の遮断といった妨害を、一切行っていなかった。『どんなヒーローがやってきても僕の敵ではない。纏めて返り討ちにしてやるさ。』みたいな余裕の現れなんだろうか。ソレとも何か別の理由が?

 

「ねえ。相澤先生たち、大丈夫かな?」

「平気だって。オールマイトもいるんだし。もうすぐ増援も駆けつける!きっとすぐに解決するって。・・・多分。」

 

 クラスの皆んなも、それぞれが不安を口にしていた。

 

 当たり前だ。幾らヒーロー志望の学生でも、ヴィランの襲撃なんて滅多に経験する事じゃない。

 

 僕とかっちゃんは例外だ。

 

 初めて間近にする本物の悪意に、皆んなが気圧されてしまうのも仕方がない。

 

 僕とかっちゃんは何だか小慣れてしまって、もはやヴィランとの遭遇が駅で酔っ払いを見かけるくらいの感覚になってしまったけど、ソレはきっと感覚が麻痺してるだけなんだろう。

 

 僕だって、1番最初のヘドロヴィランとの遭遇の時は、本当に怖かったんだ。

 

 でもそれ以上に、あの日に見せてくれたオールマイトの勇姿が、僕の脳に強く焼き付いている。

 

 彼の正体が、重傷を抱えた非戦闘系個性持ちの引退至上主義者だと知った時はすごく驚いた。

 

 だけどオールマイトは、僕の憧れたヒーローそのものだったんだ。あのヘドロヴィランとの戦いを僕は忘れない。

 

 知恵を絞って策を巡らせ、相手の思考と行動を完全に読み切り、嵌め倒す。

 

 その見事な知略と、それを実行に移すだけの勇気。

 

 彼はあの日、証明してくれたんだ。たとえ無力でもヒーローたり得るんだと。

 

 完全無欠のヒーローじゃない。小心者で臆病で弱くて、そんなオールマイトだからこそ、僕は心を打たれたんだ。

 

 彼ならきっと、どんな事態も切り抜けてくれる。普段の僕ならそんな風に楽観視する事もできたかもしれない。

 

 なのに妙な不安が消えないのは、きっとあの黒仮面のヴィランのせいだ。奴の存在に、僕の中の何かが反応している。ひどく抽象的な感覚だけど、とにかく嫌な予感がするんだ。

 

 もしかしたら。あの仮面のヴィランこそ、オールマイトの言っていたあの、

 

「なあ葉隠さん!ちゃんと着いてきてる?いたら返事してくれ!」

 

 尾白くんが声をあげた。しかし、その声に応える同級生の姿は見えない。徐々に周りの皆んなにも、混乱が広がっていった。

 

「葉隠さん、どこにいるの?」

「途中まではちゃんと着いてきてたはずだ!浮いてる手ぇが走ってんの見たし、」

『すみません!私の責任ですっ!』

「もしかしてまだUSJに居るんじゃ、」

 

 僕の中で、恐ろしい想像が現実味を帯びていく。

 

 葉隠さんの個性は透明化。自分の身体を周囲から見えなくする、多分常時発動型の力。

 

 ヒーローとしての隠密行動には最適の力だけど、非救助者としてはそれが最悪に働いてしまう。

 

 もし彼女が、プロヒーローと凶悪なヴィランが激闘を繰り広げているであろうあの場所に取り残されているとしたら。

 

「僕が行きます!」

 

 言葉は勝手に口から出ていた。

 

『待ってください!ここは先生である私が、』

「そうだぜ緑谷!それに1人よりA組皆んなで行った方が、」

 

 13号先生に切島くん。先生と同級生。それぞれの立場から2人は反論してくれる。僕を心配してくれての言葉だ。ありがたい。だけど、

 

「いやダメです。大人数だとあの未知のヴィランの的になります!それに、救出と離脱が目的なら、機動力があっていざという時は盾にもなれる僕1人で行く方がいい!って思うんです。」

 

 自分の考えを夢中で述べる。

 

「でも葉隠を見つけられんのか?」

「そうだよ!目印の手袋とかが外れてたら、」

 

 確かにその可能性もある。でもあの人の個性があれば。

 

「あの八百万さん。サーモグラフィーみたいなの作れる?」

 

 僕の推測が正しければ、これで透明な葉隠さんを見つけられる、はずだ。

 

「葉隠さんの個性は透明化。だけど多分、光の屈折を弄って、人の網膜に映らないよう調節してるって感じだと思うんだ。手袋を付けている以上、実体は間違いなくあるわけだし、身体機能が問題なく働いている以上、常人と同じように体温はあるはずなんだ。だからそれを目印にすればきっと見つけられる。勿論これは僕の憶測だし、オールマイトが既に葉隠さんを見つけている可能性もあるわけだけど、やっぱりここは万が一を考えて、」

 

「わ、分かりましたわ!お作りします!」

 

 段々とブツブツが早口になっていくキモい僕にドン引きしつつも、八百万さんはリクエストに応えてくれた。

 

 創造されたのは、両目にサーモグラフィーを搭載した特製のゴーグル。

 

 八百万さんから手渡されたソレは、僕の手に渡る前に、かっちゃんに引ったくられて爆破で真っ二つにされていた。

 

 んん!?

 

「ちょ、かっちゃん!?」

 

「おい!クソが自惚れてんじゃねえぞ!俺だってタフネスには自信があんだ!機動力も爆破で空飛べる俺が上!分かるかぁ?俺の方が圧倒的に救出・離脱に向いてんだ!それにぃ、オールマイトがあんだけ警戒してたヴィランが居るとこに、テメエ1人で突っ込もうってか!?」

 

「いや、それは、」

 

「だからぁ、俺もついて行ってやる!テメエみてえな足手纏いの背中くれえは守ってやっから、せいぜい感謝しろカスが!」

 

「え、えっと。」

 

 あいも変わらず僕の幼馴染は情緒不安定だ。でも、きっとかっちゃんが言いたいのは、

 

「僕を助けに来てくれる、ってこと?」

 

「ハァ!?頭湧いてんのかボケがぁ!」

 

 うん。僕の勘違いだったかもしれない。

 

 でも雄英に入ってからというもの、歪だった僕たちの関係性も、少しずつ変わっているような気がするんだ。

 

 その中でも特に大きなきっかけだったと思っているのが、数日前に行われた戦闘訓練。

 

 初めて本気でかっちゃんと戦った。気持ちと力を全力でぶつけ合った。

 

 その結果、お互いに勢いが余って核兵器を粉々にしてしまい、両者死亡扱いで引き分けた。

 

 決着は付かなかったけど、前よりはずっと、かっちゃんの目を見て、話ができるようになったと思う。

 

「ほらよ!」

 

「痛っ!」

 

 かっちゃんは、真っ二つにしたゴーグルの片方を僕へと投げ渡してくる。丁度、片眼鏡の様になったソレを僕は右目に装着した。かっちゃんももう片方を左目に。

 

 思えば小さい頃から、彼と何かを半分こにした事なんて一度も無かったかもしれない。

 

 少しは僕を認めてくれたんだろうか。

 

「八百万さんごめんね。折角作ってくれた物を壊しちゃって。」

 

「いえ私は構いませんが。その、本当に行くんですの?」

 

「うん。葉隠さんを放っておけない。」

 

 八百万さんを含めたA組の皆んなからの、心配そうな視線を受け止め、背を向ける。

 

「おいデク!早くしろ行くぞ!!」

「うん。分かった。」

 

『ちょっと待ってください!生徒の君たちを行かせるわけにはいきません!』

 

 走り出した僕とかっちゃんを止めようと、13号先生はブラックホールを使用する。

 

 僕らの身体はその引力に引っ張られて動きが止まり、そして突然消失した。

 

『っ!?2人が消えた!?』

 

 先生の裏をかいた“本物”の僕らは、消えた“虚像”とは逆方向に駆け出していた。既にブラックホールの射程からは逃れている。

 

「テメエ。また小賢しい個性の使い方覚えやがって。」

 

「そんな事より、今は葉隠さんを見つけないと!」

 

「じゃあ離せや!重てえしキショいんだよ!この体勢!!」

 

「いやでも、これが1番スピード出るし!」

 

 僕は今、かっちゃんを背中に抱えている。傍目からはおんぶしているように見えるだろう。

 

 確かに僕だってこれは恥ずかしい。でも、僕の筋力を活かした跳躍と、爆破による空中加速を組み合わせて最速に至るには、この体勢が最も効率的なのだ。

 

「あ、見えてきた!」

 

「おい、どういう状況だありゃ!?」

 

 程なくしてオールマイト達の姿が見えてくる。しかしそこに広がっていたのは余りにも予想外の状況だった。

 

 雄英の先生たちは、オールマイトを残して誰1人としてその姿が見えない。

 

 対してヴィラン側は、黒仮面の若い男に、白いモヤを纏う異形と、新手が加わっている。

 

 そして、最初の襲撃者である黒仮面の男。主犯格と思われる奴は、100体近くの機械兵を取り込んで巨大な肉体を手にしていた。

 

 あんな巨体で暴れられたら、とんでもない破壊規模になる。葉隠さんがこの場に取り残されていたら、ひとたまりもないはずだ。

 

 その前に早く見つけて救出を、

 

「おいデクあそこだ!あの親玉の右足の近く!」

 

 かっちゃんの言う方に目を向ける。肉眼では何も見えない。しかし、八百万さんのゴーグルは、人型の熱源を確かに捉えていた。

 

 少し体格に違和感はあるけど、透明である以上、葉隠さんで間違いはない。

 

「かっちゃん!」

「わあってる!」

 

 僕が空中を蹴ると同時に、かっちゃんは最大出力の爆破を放つ。

 

 その推進力を利用して、僕らは一気に加速した。

 

「そこで待ってろ!透明女!」

「僕らがっ、君を助けに来た、」

 

『よっこいしょっと!!』

 

 巨大な機械兵は、振り上げていたその足を勢いよく振り下ろす。

 

 人型の熱源があった場所に。

 

「っ、やめっ、」

「葉隠さん、逃げて、」

 

 間に合うはずは無かった。

 

 地響きと共に、USJの地盤には足跡型のクレーターが生まれる。その中心には、依然として人型の熱源があった。

 

『あれ、何か踏んだか?』

 

 上から声が降ってくる。人の命を踏み潰した事なんて、何とも思っていなさそうな呑気な声だった。

 

『おや?あそこにいるのは、』

 

 機械兵越しに黒仮面の男と目が合った。その瞬間に僕の視界が切り替わる。

 

 椅子の並んだ異空間。そこに現れた8つの人影。僕に向かって手をかざすその中の1人。白髪の青年。

 

 僕の頭に溢れ出した、OFAにまつわる記憶。

 

「その足をどけろ、AFO...!」

 

 倒すべき敵の名前を口にして、僕は一歩を踏み出していた。

 

 

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