引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◆
『やあ久しいねえ。オールマイト。早速なんだが自首がしたい。菓子折りも持ってきたんだ。受け取って欲しい。』
『デトロイトスマッシュ!!!』
そこで僕は目を覚ます。
やれやれ、今日も酷い悪夢を見た。夢の中でオールマイトにぶん殴られるのは、もう何度目だろうか。
さて、僕はオール・フォー・ワンという者だ。しがない魔王をやらせてもらっている。
目標はある。自首する事だ。
さて。僕がどうして、魔王でありながらそんな事を望んでいるのか。話すと実に長くなる。
あれはそう、100年以上も前の事だ。当時の母は、身に覚えのない双子を妊娠していた。その兄の方が今の僕だ。
「なあ、あの人、怪我してないか?」
「えっと、大丈夫ですか?」
『うるっさいんだよ!消えな。』
僕たちを孕ってから、いや、それよりもずっと以前から、母は荒んだ生活を送っていたという。
おまけに彼女は原因不明のとある病を患っていた。身体のあちこちから硬質のイボができるというもの。
「でもそれ、やっぱりおかしいですよ!ちゃんと診てもらわないと!」
「5分くらい行ったところに診療所がある!ここからなら、直接担ぎ込んだ方が早い!」
『だから消えなって言ってんだろ!ちょ、アンタら何なんだい!?』
「そのお腹、もしかして妊娠されてるんですか!?なら尚更です!」「お腹の子供達のためにも、お母さんは元気でいてもらわないと!」
そんな母を診療所へと連行したのは、通りすがりのおせっかい焼きカップルだったという。彼らは、強く握った母の手を決して離さなかったそうだ。
僕たち双子が産まれたのも、その時の診療所だ。残念ながら、母は出産と同時に亡くなってしまったので、僕と弟の“与一”はしばらく施設で育てられる事になった。
『にいさん!みてみて!このコミックってやつ、絵があるから読みやすいよ!あ、でも、この字なら読める!えーっとねぇ、
『お〜、与一は賢いな〜。天才だなぁ〜。』
朧げながらも憶えている。施設での生活は、それなりに楽しく、平穏なものだった。だが、楽しいことほど長続きはしないものだ。
僕と弟が7歳になる頃。施設にも怖い人たちが来たので、僕は弟を連れて、こっそりとそこを抜け出した。弟は泣いて嫌がったが、僕は黙ってその手を引いた。
『兄さん?なんでここを出て行かないといけないの!?ちーちゃんとも、あーくんとも、お別れしたくないよぉ!』
『来なさい。黙ってついてくるんだ、与一。』
例え与一からどんなに恨まれても、お兄ちゃんとして守らなきゃいけない。それが、死んだ母が唯“一”、僕に“与”えてくれた使命だと思ったから。
その日からの日々は、余り楽しいモノとは言えない。当然だ。僕らの預かり知らぬところで、世界は滅茶苦茶になっていたんだから。
新たなる遺伝子“異能”が各地で発見された事をきっかけに、世界は二つに分かたれた、だそうだ。正直わけが分からなかった。持っているモノは人それぞれだ。どうしてそれだけで人は区別したがるんだろう。そんな大切なモノなら、分け合えばいいのに。
すっごく偉い王様が、世界の皆んなに異能をプレゼントするか、全員から異能を取り上げちゃえばいいのに。子供ながらにそんな事を考えてしまった。
そう、僕は魔王に憧れたんだ。施設で同じコミックを読んでいた与一は、正体を隠して孤独に戦うヒーローに憧れていたが。
そして、幸か不幸か。僕にはそれができるだけの才能があった。
オール・フォー・ワン。そう名付けたのが僕の力だ。名前はコミックから拝借した。
手で触れた味方に異能を与え、触れた敵から異能を奪う、そんな異能。はっきり入って、世界すらも手にできる、そんな力だ。
だが、1つだけ問題があった。
『あっ、個性お漏らししちゃった。』
使い手である僕がポンコツだったのだ。
オール・フォー・ワンとかいう異能は、ジャジャ馬もいいとこ。僕のような無能には、扱いきれる代物じゃなかった。
誰かに触れた拍子に暴発して、うっかり個性を奪ってしまったり、与えてしまったり。弟ともそれで一悶着あった。
『アレ?兄さん。今、僕に何かくれた?』
『え?それは“画風が変わる”個性!?間違って与一に変な個性あげちゃった!?いや、違うんだ。そんなつもりじゃ、』
『ありがとう兄さん!これ、僕へのプレゼントなんでしょ?僕が異能を持ってないのを気にしてたから!嬉しい!大切にするね!』
『・・・そうか、僕のプレゼント。気に入ってくれて嬉しいよ〜。よーく選んだ甲斐があった。』
『この異能、名前は何にしようかな〜。そうだ!ワン・フォー・オール!兄さんのとお揃い!』
『こ、こいつぅ〜!!!!』
『すごい!この個性ならどんな姿にも変身できる!ねえ兄さん。これで僕も、かっこいいヒーローになれるかな?』
『ああ、勿論。よーし、それじゃあヒーローごっこをしよう!僕は魔王役だ〜!アハハハハハハハ!』
まあ、その件は問題ない。可愛い弟の喜ぶ姿が見れたので、結果オーライだ。
そう。問題なのは、僕たちを襲ってきた不届き者から、個性を奪ったりした時。
他人の個性因子というのがどうも懐いてくれないのだ。頑張って支配しようともしてみたが、
『ほら、
「◯ね。」
こんな有様だ。因子がここまで反抗的だと、その個性を使いこなせるわけもない。
だから稀にこういう事が起きる。例えば、僕たちを襲ってきた悪漢どもを、“鋲突”の個性で撃退した時なんか、
「悪かった!降参だ!」
「もう、お前ら兄弟に手出しはしねえ!だから、許してくれぇ!」
『兄さん。この人たちもこう言ってるんだし、それに、やり過ぎるのは良くないよ。』
『与一。こんなモブ共にまで気を配るなんて、お前は本当に優しいなぁ〜。分かったよ。彼らはこのまま解放して、アレ、引っ込め方が分かんないぞ?こうか? 』
「ぎゃああああああ!傷口を念入りに抉ってきやがったあぁぁああ!」
「なんてガキだぁ!容赦ってもんを知らねえのか!?俺らはただ、お前らから小銭を巻き上げた後、たっぷりサンドバックにして楽しんだ後に、無認可の研究機関に二束三文で売り飛ばそうとしただけなのにぃ!」
いやほんとに。異能って難しい。僕が唯一使いこなせるのは、母が遺してくれた“イボ”の異能くらいなものだ。
そんなこんなで、襲ってくる治安の悪い連中をシバき回しつつ、兄弟水入らずの生活は続いた。
しかし優しい弟は、僕が個性を使って悪漢を痛ぶることを楽しんでいる(ように見えている)事に心を痛めていたらしい。
『僕を守ってくれてるのは分かってる。でも、最近兄さんのやり方は度がすぎてる。誰も死人が出なかったとはいえ、ビル1つを吹き飛ばすなんて、どう考えてもやりすぎだ!』
『よ、与一には関係ないだろう!』
僕を尊敬してくれている弟に『いや〜。実はアレ、トイレで踏ん張ってたら、思わず“全因解放”しちゃっただけの事故なんだよ〜。ごめんね、てへぺろ!』なんて言えるわけもない。
兄という生き物は、弟の前でカッコつけたくなるのがサガなのだ。
何より僕は怖かったんだ。たった1人の家族が手の届く所から離れていくのが。
そのせいで見栄を張った。
『こ、これも全部、僕の覇道へと繋がる、大いなる計画の一部なのさ!大丈夫!なんの心配もいらない!ほら、施設を抜け出したあの日と一緒さ!お前は黙って、僕に着いてくればいい!僕と行こう!可愛い弟よ!』
作り笑いとともに伸ばした手を与一は取ってくれなかった。
その日からだ。弟が反抗期に入ったのは。彼は自室に閉じこもって、1日に10回くらいしか構ってくれなくなった。前は1日中だって構ってくれたのに。
『強く、ならなきゃ。』
きっと僕が頼りないからだ。だから弟は僕を信じてくれなかったんだ。
力をつけなきゃ。弟が僕をみていてくれるように。この手で夢を叶えて、可愛い弟が笑顔で生きれる世界を作る、そんな最高の魔王にならなきゃ。そう思った。
僕にも夢ができたんだ。
それからだ。過酷な修行の日々が始まったのは。弟と会える時間が減るのは辛かったが、これも全ては弟のため。そう思うとモリモリ元気が湧いてきた。
『兄さんは、一体どこへ行きたいの?』
僕は気づいていなかった。弟に見てもらいたいはずの自分自身が、弟をまるで見ていなかった事に。
◆
『うぉっ、眩しっ!』
光る“彼”との出会いは、僕が修行を始めてから3ヶ月が経とうとしていた頃。
エア・ウォークの練習中に、制御が効かなくなり、日本海の向こうまで歩いて行ってしまったのがきっかけだった。
『やあ。君は日本人かな?それも異能持ちの。全く、見つけたのが私で良かったよ。』
見知らぬ地で行き倒れていた僕を解放してくれたのは、幼い少年だった。大人びていて分かりにくいが、年は僕とそれほど変わらなかったと思う。
それと、何か眩しかった。物理的に。というか光っていた。
『“光る赤子”。そう言えば伝わるかな?あー、待ってくれ。その先は言わなくていい。赤子にしては育ちすぎだって思ってるんだろう?しょうがないじゃないか。私はきっと、ヨボヨボのお爺ちゃんになったって、“光る赤子”そう呼ばれ続けるんだろうさ。』
その少年は世界で1番の有名人だった。世界で初めて、公的に異能が認定された男の子。
その逸話は、日本にも届いていた。健常者と異常者(便宜上こう呼ぶ)が手を取り合う事を訴え続け、一千万人にも及ぶ信奉者がいるというカリスマ的存在。
“神の子”なんて呼び名もあるくらいだ。
『っていうか君、僕なんかと話していていいのかい?組織のトップとして色々と忙しいんじゃ、』
『あー平気平気。どうせ大事な事は、幹部のジジババが決めるんだ。私はただ、アイツらのしたためた原稿をすまし顔で読むだけなんだし。』
『そういう、感じなのか。』
『笑っちゃうだろう?組織の奴ら、“私の光を浴びると、どんな病気も治る”だなんて広めてるんだぜ?勘弁してくれよ。そんな力が無いってのは、私が一番分かってるのに。』
だが、実際に話してみて、その印象は吹き飛んだ。そこに居たのはちょっと擦れただけの、等身大の子供だった。
『第一、世界で初めての異能は私じゃないだろう?インドじゃ、私の大先輩が沢山いたっていうじゃないか。やってらんないよ、英雄だなんてさ。』
おまけに彼は、自分自身の役目にどうも不満を感じているようだった。
『嫌なのかい?僕は君を心から尊敬してるんだぜ?それだけ多くの人に見て貰えるなんて、凄い事じゃないか!』
『凄いのは私じゃなく、私を担ぎ上げてる周りの連中だよ!こんな神輿になるだけの人生、辞めれるもんなら辞めてやりたいよ!』
『でも、立派な組織じゃないか。立場の違う両者が手を取り合えるよう、必死に頑張って、』
『おいおい。組織の建前を本気で信じてるのか?そう言っとけば、人と金が勝手に集まってくるんだよ。末端はともかく、ここの幹部に、世界平和を本気で望んでる奴なんていやしないよ。どいつもこいつも、権力にしか興味が無いから。』
少年は賢かった。いや、賢くならざるを得なかったんだろう。
『君、友達や家族はいないのかい?』
『全員死んだよ。私が光って生まれたせいで。君は?』
『弟が、1人。』
『そうか。大事にするんだよ。』
その日から彼との生活が続いた。とは言っても、山に篭って修行を続ける僕に、忙しい日々の合間を縫った彼が、日に数度訪ねてくるという形だ。
彼とは沢山お話しをした。だが、互いに話せる話題など限られている。
『君は知らないだろう?私の身体は瞼の下まで発光してるんだ。おかげでちっとも眠れない。』
彼の話は、大抵、個性や組織の愚痴。
『ウチの弟が4歳の頃の話なんだがね。パンチの練習をしてたあの子が、僕のタ◯キンを、』
対して僕は、弟の話が主だった。彼は余りにも熱が入った僕の様子に辟易しながらも、どこか懐かしそうに耳を傾けてくれていた。
互いに話したい時に、話したい事を一方的にぶちまけられる。そんな風に気を遣わなくていい相手と出会えたのは、初めてだった。彼の方も、もしかしたらそうだったのかもしれない。
そして、彼と出会ってから、1月が過ぎようとしていた頃。
『そろそろ僕は日本に帰るよ。弟が寂しがっているだろうしね。』
『・・・そうか。丁度良いよ。君の弟自慢に付き合うのにも、うんざりしていた所だ。』
『別れる前に、1つ聞いておきたいんだ。もし僕が、君の個性を奪えると言ったら、どうする?』
『・・・その話がホントなら、私よりよっぽど神様に向いてるよ。君。』
彼に初めて、僕の個性を詳しく話した。その腕前が未熟な事も、個性を失ったその先で、何が起こるか分からない事も、僕がその奪った力で何をしようとしているのかも説明し尽くした。
それでも彼の決意は固かった。
『やってくれ。どうか私を人間に戻してくれ。』
その言葉こそが彼の心からの願いだった。
「アハハハハハハハハハ!」
“発光”の個性を奪い、ピッカピカになった僕を見た彼は、その場で笑い転げていた。
「いや〜、すまない!側から見た自分が、こんなにシュールだったとは思わなくてね!ハハハハハ!」
光らなくなった事で、彼の表情がよく見える。発光している時よりも、よっぽど明るく見えた。
「すまないね。私の願いのせいで。そんな面白人間にしてしまって。」
発光は常時発動型らしい。個性の制御が未だ不慣れな僕では、
Can’t stop shining!って感じだ。
だからこそ非常に目立つ。その分、役に立つ部分もあるのだが。
『謝るのは僕の方だ。友達である君の力を、利用する事になってしまう。』
「気にするなって。存分にやってくるといい。君がどんな世界を作るのか、楽しみにしているよ。」
そんな応援の言葉を残して、彼は山を駆け降りていく。
『付き添おうか?万が一、組織の人間に見つかったりしたら。』
「ハッ、光ってない私に、アイツらが気付けるわけないだろう?自由な人生っていうのを、満喫してみるさ。まずは、熟睡って奴をしてみるよ!」
『また会おう。耀。』
「達者でね、全。」
互いに友の名前を呼び合って、僕たちは別れた。それぞれの夢へと続く方に足を向けて。
『僕の名はオール・フォー・ワン。魔王だ。光る赤子を殺し、その個性を奪った。腐りきったこの組織は今日より、僕をトップとして生まれ変わる。』
そしてその日、僕は”組織“の会合を襲撃し、魔王としてのデビュー戦を果たす事になる。
『異論はあるかな?』
千を超える個性と兵器で対抗してくる組織の構成員たちを、僕はこの身1つで迎え撃つ。
戦いは一方的だった。負けたのは僕だ。
そう、僕は普通にボコボコにされて負けた。
数の暴力で、順当に捻り潰された。まだまだ修行が足りなかったようだ。
いや、その、違うんだ。死者を出さないように、色々と加減してたから、フルパワーを出さなかったんだ。
殺す気でやってれば、まあ、もうちょっとは良い勝負ができた、はずだ、多分。まあ、これからも殺しは無しかな。それは優しい与一が悲しむから。
というか、あれだけいい感じの啖呵をきって別れた友達に合わす顔がない。ごめん。いつか絶対、この世界を支配してみせるから、気長に待っていて欲しい。
さて、そうと決まれば、早速逃げ・・・戦略的撤退だ。
常に光っているせいで、アホみたいに見つかりやすい。おまけに僕は、”光る赤子を殺して個性を奪った大罪人“として世界的に報道されてしまったから、尚更だ。
しかし今、”組織“は僕を追跡するどころではないだろう。僕の襲撃をキッカケに、数々の不正や汚職、兵器密造なんかが明らかになり、国際的に非難されているとか何とか。
ひょっとしたら、僕のリベンジを待たずして、勝手に瓦解するかもしれない。って事で、実質僕の勝ちって事でいいんじゃなかろうか。
『よし、日本に帰ろう。戦いで疲れたし、与一を摂取して、癒されなくては。』
日本へと向けて、エアウォークでスキップスキップ。与一と再会できる事を思えば、自然と足取りも軽くなる。
日本でも僕の悪行は報道されているだろうが、与一ならばきっと分かってくれるだろう。なんせ僕らは心でつながり合った兄弟なんだ。互いに知らない事なんて何もな
『与一ぃ!?誰だソイツは!?』
日本で僕を待っていたのは、人相の悪いオレンジのツンツン頭と肩を組んだ、愛しい弟の姿だった。
なんだあのツンツン頭。与一と、あんなに仲良さそうに肩を組んで。いや、肩を貸してるのか?だがそんなの関係ない!ズルいぞ!
最近与一が恥ずかしがって、肩を組んでくれなくなった僕への当てつけか!?
『与一、その男が誰かは知らないが、安心してくれ。僕が来た。お前をすぐに助け出して、』
弟は手を伸ばす僕を見て、後ずさる。それは明確な拒絶のサインだった。やばい、泣きそうだ。
あ、僕が光っているせいか?いや、違うんだよ与一。この個性ははオンオフができなくて、僕の趣味ってわけじゃ、
『兄さんが海の向こうで何をしてきたのか、それは知ってる。』
おお、僕がしてきた事を知っているだって!?
やはり弟は僕の真意に気づいている。僕が光る赤子だった耀を殺したフリをして、密かに逃していた事も当然知っているはずだ。
『そうさ!まさにお前が知っている通りのことをしてきたんだ!初めての経験だったが、中々気分が良かったよ。癖になりそうだ!フッフッフッフ。』
『ッ...!!!!』
人助けなんて初めての経験だった。だが、友達の笑顔を見れて、中々気分がいい。何より、あの達成感は癖になる。
『これは始まりに過ぎない。これからも同じことを、世界各地で繰り返すつもりさ。勿論、お前と一緒にだ。与一。』
魔王だからこそ手を取れる。そんな人間はまだまだ世界に沢山いるはずだ。だからこそ僕は、この手を伸ばし続けるつもりだ。できるなら与一には、隣でそれを見ていて欲しい。
きっとそれは、僕の、いや、僕たち兄弟の夢にも繋がっていくはずだ。
『さあ、共に行こう。可愛い弟よ!』
『兄さん。僕はこの人と一緒に行く事にした。』
はぁあああああぁぁあ!?
『与一、どうしてそんな、』
『兄さんはもう、僕の知っている優しい兄さんじゃなくなってしまった。信じたくなかったけど、それがよく分かった。』
『待ってくれ!何でっ、僕のことが嫌いになったのか!?』
『いいや。大好きだよ、兄さん。』
『僕も大好きだ与一ぃ!!!!!』
『大好きだ。だからこそ止めたいんだ。弟として。』
な、何だこれ。一体何が起こってるんだ。僕と与一は通じ合っているはずなのに。どうして分かってくれないんだ。
それに何か、致命的なすれ違いが起きているような。だとしたら原因は、もしかして、
『ツンツン頭、お前か。お前が与一に余計な事を吹き込んだせいで!』
『違う!この人は関係ない!僕自身の意思で選んだ事だ!』
『嘘だ!与一、お前は騙されているんだ!あのツンツン頭、目つき悪いし絶対性格も悪いぞ!なんか、こう、あれだ、同級生のノート燃やしそうな顔してるぞ!』
許さない。絶対に許さないぞ、ツンツン頭。ボッコボコにして、”身体中から異臭がする“異能でも送りつけてやろうか!?
『やれやれ。話が通じそうにないな。逃げるぞ。”変速“に入る。』
『分かった。』
ツンツン頭は僕を無視して、与一の手を取り、猛スピードで逃げ出した。なんて事だ。このままでは弟が攫われる!
そうなれば与一は、危ない連中とつるむようになり、チャラチャラした格好や、危ない遊びなんかに手を出すようになり、グレてしまう!そうはさせないぞ!僕は兄として弟を守る責任がある!
『与一、僕が必ずお前を助け、』
力が入り過ぎたのか、エアウォークが暴発。おい嘘だろ。肝心な時にこれか。
『与一ぃ〜!行かないでくれ、与一ぃ〜!!』
寂しそうな顔で此方を僅かに振り返る弟を見ながら、僕は彼と逆方向へとぶっ飛んでいった。
◆
『絶対、絶対見つけ出してやるからな!与一!』
与一は誘拐されてから、僕の魔王活動はより本格的なものとなった。
最愛の弟を探すために、とにかく多くの”目“が必要だった。魔王としての職務性質上、部下がいすぎて困るという事もないだろう。
というわけでスカウトを開始した。世界各地のアングラ組織へと乗り込み、そのトップとのタイマンを繰り返したのだ。
結果は全敗。
いや〜、流石は組織のトップだ。お強い。
だが、殴り合い(僕がサンドバックになっていただけとも言う)を通して、トップの方々は僕を気に入ってくれたのだ。
僕の熱意が届いたのかもしれないし、”光る赤子殺し“と言う御し易いブランド品に興味があったのかは、定かではないが。
こうして僕は、多くの配下と裏社会における多少の影響力を手に入れた。
その力を使って全力で与一を捜索し、数年かけてようやく見つけた。
彼が身を置いていたのは、奇しくも僕が寄生している組織の対抗勢力。早速、乗り込もうとしたところで、僕は気付く。
仲間達に囲まれた与一の笑顔に。
襲撃は延期だ。もっと様子をみよう。
ん、何だその女は?なんか与一といい感じじゃないか。え、お付き合いだって!?
襲撃なんてしてる場合じゃない。その女の素性を徹底的に洗わせよう。弟に悪い虫を近づけさせるわけにはいかない。ふむ、調べた限り問題はない。与一との相性も良さそうだ。だが、念には念を入れて、もっと詳しく調べておこう。
え、与一、結婚すんの!?
なんて事だ。おめでとう!式はいつ挙げるんだ?ひょっとしたら僕も、親戚代表として呼ばれる感じか!?
いや、今の僕たちは仮にも敵同士だ。そんなわけ、だが、万が一という事もある。スピーチの原稿と、結婚祝いの品だけでも用意しておこう。数年単位で時間をかけて準備して、
え、与一、パパになったの!?それも双子!?
2人とも可愛いな〜。小さい頃の与一にそっくりだ。
ふむふむ。子供達と平穏に暮らすために対抗勢力を一時的に離脱する、か。是非そうしてくれ。
弟は、ツンツン頭に何か謝ってるな。あ、駆動っていうのか。あのチンピラは。って言うか何を謝ってるんだ?
ああ、兄である僕を止めるための戦いから、身を引く事を気にしていたのか。そんな事、気にしなくていい。ほら、駆動って奴もそう言ってる。
・・・意外といい奴なのかもな、駆動って。あれ、駆動の奴、与一の髪の毛食べたぞ!?キモっ。やっぱアイツ、クソだわ。
さて、与一は組織を抜けて、人里離れた山の中で平穏な暮らしを送る事にしたらしい。これで接触はしやすくなった。
おお、与一の子供達もスクスク育っている。すっごく個性的な子たちだ。せっかく訪ねるなら、子供達へのお土産の1つでも、持っていくか?今時の子供たちって何が好きなんだ?コミックとかでも喜んでくれるんだろうか。ここは慎重に吟味して、
あれ、知らないうちに、子供達が成人している!
気付けば、与一も、そして僕も、すっかりオッサンになってしまった。子供たちが自立して、与一は夫婦水入らずで暮らし始めた。
一応、自立した子どもたちもストーキング・・・いや、見守っておくか?
「与一さん。やっぱり子供達の事、心配ですか?」
『いいや全然。どうか彼らには、僕とも、兄さんとも関係ない、彼らだけの物語を紡いで欲しい。』
やっぱり、ストーキングはしないでおこう。
というか与一を訪ねるなら今がチャンスか?だが、せっかくの夫婦2人っきりの時間。もう少し、楽しませてあげるとしよう。
訪ねるのはもう少し先でいいはずだ。そう、もう少し先だ。別に、与一と向き合うことを怖がっているわけじゃない。
僕と彼は血を分けた兄弟なんだ。だから大丈夫。きっと自然に、昔みたいに仲の良い兄弟へ戻れるはずだ。
そうなれたら、話したいことが沢山ある。僕もここ数年で、頑張って魔王してたんだ。組織では結構な古株になったし、部下の奴らがイカれポンチばっかりで、すぐ人殺そうとするから叱り飛ばして止める、そんな毎日だ。大変だけどやりがいがある仕事で楽しい。きっと、ちゃんと話せば与一も分かってくれると思う。だから、とりあえずここ数年の魔王業を分かりやすく説明できるように、まずは資料作りから、
え、与一が死んだ?
『おやすみ、与一。』
安らかな顔で弟は眠りについていた。天寿を全うした、ということなんだろう。
『何をやってるんだ?僕は?』
全部は弟のためだった。
弟に見ていて欲しかった。弟が笑顔でいれる世界を作りたかった。
『何をしたいんだ?僕は?』
だけど、その弟はもういない。
『いっそ、弟を追いかけるか?いや、それはダメだな。向こうで与一に怒られる。』
僕にはもう夢しか残されていない。せめて飛びっきりの魔王になってやろう。誰もが平等でいられる世界を作るんだ。そうじゃなきゃ、胸を張って与一に会いに行けない。
そうと決まれば、僕には時間が必要だった。
社会が変わり、異能は個性へと呼び名を変え、ヒーローという概念が生まれ始める中で、僕は1人の科学者に目をつけた。
殻木球大という男だ。僕はドクターと呼んでいる。『個性特異点』とかいう、何かよく分かんないけど凄そうな学説を唱えたせいで、学会を干されたとかなんとか。
「オール・フォー・ワン、じゃと!?ハハハッ、まさかこんな個性が存在していたとは!?やはり、個性特異点は存在する!ワシは正しかった!先生!アンタがそれを証明してくれた!」
個性を見せたら、信じられないくらいに懐かれた。
なので個性を貰った。『摂生』。運動能力を引き換えに、人の二倍の生命力を得られる個性だ。僕のフィジカルは一層クソ雑魚になったが、これで長生きできる。時間は十分に確保できた。
だが、殻木球大という男はそれだけでは終わらない。僕の予想をPlusUltraして、とんでもない事をしでかした。
何と何と僕の異能、いや個性のオール・フォー・ワンをコピーしてしまったんだ。いや何だよ、個性をコピーって。君が魔王でいいだろもう。
「先生。ワシにできることがあれば何でも言ってくれ。この生涯をかけて、その夢の礎になる事を誓おう。」
ドクターはめちゃめちゃ有能だった。その圧倒的な技術力で、あらゆる個性を複製し始めたのだ。それはもうあり余るくらいに。
余った個性は勿体無いので、部下達への誕プレとして配るようになった程だ。
彼のおかげで、“敵連合”と名づけた僕の組織は急速に勢力を拡大していた。だが、全然気は休まらない。
だって僕は、相変わらず弱いままだったんだから。部下とはいえ、自分よりよっぽど強い悪人面に囲まれるのは、生きた心地がしない。クーデターでも起こされた日には、僕は泣きながら土下座するしかないだろう。
僕だって長生きした分、個性を使いこなそうと修行を続けてはいたんだが、驚くほど何も成長しなかったのだ。
「先生!これを見てくれ!先生に指示された改造人間の草案だ!ようやく、理論が完成した!あとは実践あるのみ!」
一応断っておくが、僕は改造人間を作れなんて言ってない。何それ、怖っ。
「早速、第一号を作ろう!適当な個性持ちを誘拐して、」
『ま、待ってくれ。改造するならせめて、死にかけの人かつ、本人の了承を取った上で、とかにしないか?』
「なるほど。改造人間の制御について頭を悩ませていたんだが、素体に忠誠心を持たせれば、その問題をクリアできる、というわけか。流石は先生。面白いアプローチだ。」
『いや、そうじゃなくて。』
僕はドクターの暴走を止めようと必死だった。手綱を握っていなければ、この男は世界を滅ぼしかねない。それと並行して、他の部下へも注意を払って、いやはや。魔王というのは大変だな。ホントに。
だが諦めるわけにはいかない。与一に誓った夢のためにだ。個性によって混沌としたこのヒーロー社会を平和にするため・・・
あれ?もう十分平和なのでは?
異能はとっくに“個性”として社会的に認められ、法整備も進んできた。ヒーローという存在も職業として制度化され、治安も年々よくなっている。
というか、敵連合が世界で唯一の反社会勢力なんじゃないか?
血気盛んな部下達の憂さ晴らしをするために、その攻撃先を別の反社会組織へと限定していたせいかもしれない。
死穢八斎會、異能解放軍、ヒューマライズ、ゴリーニファミリー。
僕の優秀な部下達は、国の内外問わず、色んな所に喧嘩を売っては、ぶっ潰してくれたのだ。
『主よ。次は?一体次は何を潰せば!?』
『うんうんマキア〜。いい子だから、暫くは大人しくしてようね〜。』
部下の中でも特に優秀なのがこの巨人・ギガントマキアだ。改造人間第1号。僕がたまたま山での修行中に、死にかけていた指名手配犯の彼を発見したのが出会い。
一応、命の恩人という事で、改造後もこうして僕を慕ってくれている。だが、じゃれつくのだけはやめて欲しい。貧弱な僕の身体では、全身の骨が砕けて死んでしまう。
ってか僕の敵連合、強すぎね?
世界が平和になった以上、正直こんなやばい組織は解体したい。
だがもし、仮にもトップである僕が、そんな事を考えているとバレたら・・・
「先生。アンタにはガッカリだよ。せめてもの労いだ。最強の改造人間にしてやろう。腕は何本にして欲しい?」
『主が裏切った!俺を裏切ったんだ!ずっと信じてついてきたのに!八つ裂きにしてやるぅ!』
ってなるに決まってるじゃないか!
僕が敵連合を裏切ろうとしている事は、部下たち、特にドクター達には絶対バレちゃいけないな。
僕だって人間だ。死にたくないし痛いのは嫌だ。それに僕が死ねば、制御を失った敵連合が世界を滅茶苦茶にしてしまう。
それはダメ、絶対。
そうだ、ヒーローに助けて貰おう。強くて聡いヒーローに、敵連合をぶっ潰して貰うんだ!
まあ、僕も捕まるだろうが、殺されたり改造されたりするよりはマシだろう。
『とは言え、居ないんだよな〜。そんな理想のヒーローなんて。』
数十年前に僕のアジトを襲撃しにきた、志村菜奈という女はかなりいい線いってた。
ただ、あの頃はまだ魔王活動に精が出ていた時期。今思えば勿体無いことだが、僕がこの手で撃退してしまったのだ。
勿論、正面からの戦いで勝ったわけじゃない。ビビった僕がアホみたいに“全因解放”を連射し、その一つがたまたま命中しただけだ。
そのせいで彼女はギックリ腰を患い、ヒーローを引退。今は息子夫婦と一緒に穏やかに生活しているらしい。
彼の息子はヒーローとは関係ない一般人だし、個性も確か戦闘向きでは無かった気がする。流石に望み薄か。何よりあの幸せ家族にちょっかいをかけるのは申し訳ない。
そう言えば、あの時志村菜奈と一緒にいた金髪の少年は、中々いい目をしていた。
彼が今頃ヒーローになっていて、僕を倒すために奮起していてくれたらな〜。
まあ、そんな漫画みたいな話、あるわけないか。
『私が来た!!!!!!!!』
ところがどっこい!
なんとあの日の少年は、No.1ヒーロー・オールマイトとして、大成していたのだ。
間違いなくその狙いは私だった。彼は敵連合の傘下を次から次へと打倒して、僕の力を削いでくれた。
ありがとう。本当にありがとうオールマイト。大好きだ。すっかりファンになってしまった。
志村菜奈もそうだったが、何故だかオールマイトからは弟の面影を感じる。姿形はまるっきり違うのに。真っ直ぐに誰かを助けようとする所が似てるのかもしれない。
とにかく、早く会いたい。そして僕をとっ捕まえて欲しいものだ。
そうだ。ささやかながら、彼の活動を応援しよう。傘下組織に警告という形で、オールマイトの恐ろしい噂を広めるのだ。
『皆も気をつけるといい。オールマイトは、その知略と暴力で、対峙したヴィランの心と身体を、笑顔で破壊するイカれた男だ!それに彼、倒したヴィランを生きたまま喰っているらしい。ああ、確かな情報だよ。全く恐ろしい男だ。』
仮にもトップからの言葉だ。部下達も真に受ける。そしてオールマイトをさらに恐れるはずだ。
恐怖ほど人を狂わす感情はない。部下達が自滅でもして、オールマイトの仕事がやりやすくなれば幸いだ。まあ、あんまり効果はないだろうが。
『貴様がオール・フォー・ワンだな!』
そして彼が、敵連合の傘下をほぼほぼ全滅させた頃、遂に僕は彼の前に現れたのだ。
ああ、この日をどれだけ待ち侘びたか。これでようやく魔王を終えられる。彼ほどのヒーローの手で幕を下ろせるなら、僕だって本望だ。
手を挙げて、投降の意思を示そうとしたところで、オールマイトの異変に気付く。
『逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。コイツだろ、お師匠がいってた魔王って! 』
オールマイトが何か呪詛のようなブツブツと共に身体を震わせていたのだ。
あの震えは僕への怒り故か!?
一見ビビっているようにも見えるが、それはあり得ない。敵陣に堂々と乗り込んでおいて、恐くて震えるマヌケなどいない。ましてや相手はあのNo.1ヒーローなのだ。
『散歩中の迷子で、どうしてこんなヤバい奴に遭遇しちゃうんだよ!あー死んだ!私絶対死んだー! 』
オールマイトの震えが変速した。これはちょっと不味いかも。予想以上に彼はブチギレているようだ。投降した所で丁重に扱われるとは思えない。
下手をすれば殺される。彼のスマッシュで顔を吹き飛ばされてしまうかも。
『今からでも土下座したら許してくれるかな?いやダメだろ。相手は悪の魔王だぞ?きっと私を酷い目に逢わすに違いない。例えばそう、生きたまま身体中のはらわたを引き摺り出す とか。あー終わったー!』
生きたまま身体中のはらわたをを引き摺り出すだって!?
今、オールマイトの口から、ヒーローらしからぬ発言が出たぞ!?
何てことだ。オールマイトは復讐鬼だった。師を引退に追い込んだ僕を、生き地獄へと堕とす気だ!怖い!
逃げたい!逃げたい!逃げたい!逃げたい!
『逃げたい。逃げたい。逃げたい。逃げたい。 』
早く逃げなくては!そうだ、前みたいに“全因解放”を撒き散らして、その隙にトンズラだ!雑な遠距離ブッパ最高!
『あ、やばっ、撃つ方向ミスって、』
恐怖ほど人を狂わす感情はない。自滅を誘える。これは誰の言葉だったっけ。ああ、僕か。
僕が真上に撃ってしまったエネルギー弾は、重力に従って戻ってくる。口をぽかんと開けた僕の元へと。
『あ、これ、死
僕を中心に大爆発が起こる。
『な、何て奴だオール・フォー・ワン!いきなり、捨て身の攻撃に出るとは!私を警戒しすぎだろ!そんな事しなくても、ローキック一発で倒れるぞ私は! 』
オールマイトの声すらもどんどん遠くなっていく。
ああ、僕もとうとうここまでのようだ。
与一。僕ももう直ぐソッチに行くよ。いや、きっと与一は天国に行ってるはずだ。だったら、僕は会いに行けないか。
最後にもう一度だけ、弟と話したかった。そして全てを打ち明けたかった。
僕は魔王でも何でもない。ただのお兄ちゃんだったって。ただ、お前が遠くに行くのが嫌で、その癖ビビりで、見栄を張って、ウジウジして、失敗ばかりを重ねた、最高にカッコ悪い道化だったって。
そして、仲直りがしたかった。
『ダメなお兄ちゃんでごめんよぉ、与一。』
「おお、先生!良かった!目が覚めたか!」
目を開けて、一番最初に飛び込んできたのは、見慣れた髭面だった。
『ここは地獄かな?ドクター。』
「残念ながら現世だよ。先生。」
体中に違和感がある。息が苦しい。何だこれは?呼吸器?
「回復系の個性と肉体の改造、そしてありったけの医療機器。ワシの技術の全てを使い、13年間。先生を生かし続けた。それがようやく報われる。」
待ってくれ、13年間?
知らないうちにそんなに時間が経っていたのか?
『アレからどうなったんだ?オールマイトは?』
「ああ、奴は今でも現役だ。平和の象徴だなんだと持て囃され、このヒーロー飽和社会に君臨し続けとるよ。」
『・・・そうか。』
とりあえず、自爆に巻き込んでしまったオールマイトが、無事でよかった。
ただ、ますます僕への怨みを募らせているんだろうな。僕が生きていると分かったら、地獄の果てまでも追いかけてきそうだ。
最後まで仲直りできなかった弟の面影を感じるからだろうか。オールマイトから憎しみを向けられるのは、何だか辛い。
師匠をギックリ腰に追い込んでおいて、今さら何をと言われるかもしれない。だが、せめて彼とは・・・
「だが、オールマイトの天下も終わる。めでたく魔王の復活した今日がその始まりだ。さあ、先生。願いを言ってくれ。何をしたい?」
願いだって?そんなもの決まってる。
『自首したい。オールマイトと仲直りした上で。』
「ハハハッ、最高のジョークだ!そんな冗談を言えるだけの元気があって、安心したわい!」
勝手に盛り上がるドクターを無視して、僕は固く決意する。
敵連合もオールマイトも僕自身の事も。お粗末な魔王の夢の後始末を、この手で必ずつけるんだ。
そう。これは魔王たるこの僕が、最高の模範囚になるまでの物語だ。
そして、仲直りを果たすまでの物語でもある。