引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◆side:AFO
機械仕掛けの巨体を持て余していた僕が、何とかその体勢を安定させた頃。
「その足をどけろ、AFO...!」
USJにいきなりエントリーしてきたのは、オールマイトの息子である緑谷出久くん。
何度見てもお父さんそっくりのアメリカンな画風だ。
僕の名前を知っているし、何だかめっちゃ睨んでくるし、父親から僕の悪い噂をたっぷりと聞かされているのは間違いなさそう。
それよりも、彼と目が合った瞬間、不思議で懐かしい感覚が僕の身体を駆け巡ったのだ。
与一を感じたんだ。緑谷くんの中に。
志村菜奈やオールマイトと対面した時と同じ感覚だ。彼らは与一の血縁ではないというのに。一体彼らの何が、僕に与一の残滓を感じさせているのやら。
「その足をどけろって、言ってるだろ!」
僕の思考を断ち切るように、緑谷くんがデコピンを放つ。その風圧が数発の空気砲となって、僕の元へと飛んできた。
『ちょ、ま、』
「まさかお前にも会えるとはな、緑谷出久。」
巨体のままで慌てふためく僕を守ってくれたのは、転孤くんだった。
彼が手を振るうと同時に大きな竜巻が発生して、空気砲を器用に受け流してくれる。
ありがとうマジで助かった。
「誰だ、お前は!?」
警戒する緑谷くんに、転孤くんは自らの名を明かす。
「死柄木弔。AFOの意思を継ぐ者だ。そして、ヒーローの皮を被った快楽殺人鬼・オールマイトを裁く、
「ふざけるな! 人の命を弄んでるのはAFOの方だろ! それにオールマイトが快楽殺人鬼? 訳の分からない事を言うな!」
「そうか。お前は父親の本性を知らないのか。可哀想に。」
何だこれ。緑谷くんと転孤くんがよく分からない内容のレスバをしている。
あ、ガチ目のバトルが勃発してしまった。
というか緑谷くん。意外と口調の荒い子だったんだな。半年前にストーキングしていた頃は、穏やかそうな感じだったから、僕とオールマイトの仲を取り持ってくれるかもと思ってたのに。
「おいクソデク!落ち着けや!んな雑な攻撃が通じっか!」
お、彼は爆豪勝己くん。ヴィランからモテモテな緑谷くんの親友じゃないか。
緑谷くんを助けようと、爆破の個性で浮上した彼の前には白霧が立ちはだかる。
『おっと少年。悪いが加勢には行かせないぜ?』
「邪魔だ! ぶっ殺すぞクソモヤが!」
『うわっ口悪っ! それでもヒーロー志望か? えーっと少年。元気なのはいいけどさ、あんまり担任の先生を困らせんなよ?』
「何目線で語ってんだテメエは!」
爆轟くんと白霧も、機動力を生かした三次元での戦闘を始めてしまった。
僕の思惑を超えて、事態はすっかり予想外の方向へと突き進んでいる。あーもうめちゃくちゃだよー。
『(何で来ちゃったんだ緑谷少年に爆轟少年。相手はAFOだ。危険すぎる! 転孤くんもすっかり洗脳されているのか、私を快楽殺人鬼だと思い込んでるし、もうメチャクチャだ。助けに行きたいけど皆んな動き早すぎ! 目で追うのがやっとだよ私は!)』
僕と違ってオールマイトは、緑谷少年らに加勢するでもなく、どっしりと構えて事態を静観している。その表情からは一切の動揺が読み取れない。
半ばパニック状態の僕とはえらい違いだ。その貫禄をちょっとだけでも分けて欲しい。
ひょっとしたらオールマイトは、生徒達の勝利を確信しているんだろうか。だとしたらあの余裕な態度も頷ける。
もしそうだとしたら。転孤くん達がピンチだ。
僕の目からだと互角に見えるこの戦いも、実は緑谷くんらの有利に進んでいるのかもしれないのだ。僕はよく分からんけど、オールマイトが言うんだったらきっとそうなのだ。
転孤くん達が大怪我をする前に、急いでこの戦いを止めなくては。
『その、皆んなー! ちょっとタンマー!』
僕は大きく、だが努めて穏やかな声で、戦場の中心に割って入った。
『もっと僕らは互いの事を理解し合うべきだと思うんだ! 戦いよりも話し合いだよ話し合い! だからまずは、危ない個性なんか収めて!』
「いまさら何を言って!」
『ひっ!』
緑谷くんの鬼の形相に睨まれる。思わずチビりそうになるのを堪え、できるだけフレンドリーな口調で会話を続けた。
『まあまあ落ち着いて緑谷くん。冷静になって話し合えば、きっと分かり合えると思うんだ。実際ほら、君のお母さんとも、話してみたらすっかり仲良くなって、』
「っ!? 母さんと...? 何を言って、」
『ああ、君のお父さんの同僚だと嘘をついて、家を訪ねたんだ。それについては謝るよ。魔王だって馬鹿正直に名乗るわけにもいかないだろう?』
「母さんに、一体何をっ...!」
『別に何もしちゃいないさ。ただお喋りをしただけだよ。そうだあの時のお土産、“変な味”とかはしなかったかな?』
「っ...!!!」
あれ? あの時渡したお土産が口に合ったかを確認しただけなのに、緑谷くんが絶句してしまったぞ?
「AFO! お前の目的は、僕と、僕の持つこの個性だろ!」
『はぇ?』
緑谷くんにいきなり怒鳴られてしまった。確かに僕は自首のために、緑谷くんと仲良くなるのを狙っている。
でも別に彼の個性を狙ってなんかいないぞ? どうして彼はそんな勘違いを?
「なのにどうして、関係ない人を狙うんだ! お母さんといい! 葉隠さんといい!」
『え、葉隠さん...?』
いきなりの名前が出てきたぞ。はがくれ?
ああ、そういや、ドクターが集めてた入学者一覧の中に名前があったっけ。確か、
『ああ、あの子か。君の同級生の透明な女の子だね?』
「そうだ。お前が踏み潰した、僕の同級生だ!」
『・・・ん!?』
踏み潰しただって!?
おいおい、僕が何の恨みもない若人にそんな残酷なことするわけないだろう?
まあ、百歩譲ってうっかりミスとかなら有り得なくも・・・
あれ、僕やった...!?
『あー、もしかして、緑谷くんが怒ってる理由って、僕が、その、葉隠さんを、踏んじゃった、から?』
「そうに決まってるだろ!!!!」
そりゃ緑谷くんもキレるわ!
少し前、この機械の身体でふらついた時、足元に違和感を覚えた事があった。
気のせいだろうと今の今まで忘れていたが、もしあの時、葉隠さんを踏んづけていたとしたら。
「てん、いや、弔くんに白霧。大変なんだ! 落ち着いて聞いて欲しい! 僕はA組の生徒、葉隠透さんを踏み潰したんだ!」
どうしていいかも分からず、とりあえず転孤くん達に報連相。情けない限りだ。
「生徒の1人を踏み潰した?先生が?」
『おいおい。やり方がアンタらしくないんじゃないか。無関係の子供にそこまでするなんて。』
「まさか先生、」
そう、そうなんだ。全ては僕の不注意が起こした事故なのだ。
転孤くん達にもそれがしっかり伝わったはずだ。今から急いで、ドクターの下に駆け込めば、葉隠さんを助けられるかもしれない。
まあ、ちょっと改造されるかもしれないが、このまま死ぬよりはマシだろう。その際は、ドクターが洗脳みたいな余計な事をしないように気をつけないとだけど。
「まさか先生は見抜いたのか。雄英に潜んでいた、ヒューマライズの内通者。俺たちでもつかめなかったソイツの正体が、A組の葉隠透だって。」
・・・はぃ? いきなり何を言い出すんだ弔くん?
『なるほどな。葉隠が1人だけ避難せずにこの場に留まっていたのも、内通者としての仕事を果たすためだったってわけか。先生はそれに気付いて、先手を打ったんだな?』
いや違うって! 葉隠さんもただ逃げ遅れただけとかでしょ、多分。踏んづけちゃったのも偶然だし、
【流石だよ。どうせ君は気付いているんだろう? 僕の正体が葉隠透ではない事も。】
そうそう。彼の正体が葉隠透ではない事も、ん?
今、喋ったのは、誰だ?
【葉隠透を選んだのは、化けやすかったからだ。サポートアイテムで声さえ誤魔化せば、透明化の個性があるだけで成り代われるからね。こんなに早く気付かれるとは思っていなかったけど。】
機械仕掛けの僕の右足が吹き飛んだ。そこから出てきたのは、黒いフード付きのローブを纏った謎の人物。
どうやら僕がうっかり踏み潰したと思っていた葉隠さんは、葉隠さんじゃなかったようだ。おまけにソイツはヒューマライズの内通者らしい。
もう訳が分からない。流石の緑谷くん達もこれには呆気にとられていた。
【これでどうかな? 光の屈折率を変えて、君たちにも僕が見えるようにした。この透明化の個性、葉隠透から“奪った”はいいが、常時発動型だったからね。なかなか不便で。まあフレクトの”反射“と違って、まだ調整が効くだけマシか。】
「そうかお前か。ヒューマライズの新しい指導者ってのは。」
転孤くん曰く、ソイツはヒューマライズの新しい指導者って事らしい。だとしたら随分な大物だ。
それに奴は気になる事を言っていた。透明化の個性を奪っただって? それじゃあまるで、僕の使うAFOみたいじゃ、
【全因解放。】
黒フードの男の手には、数多の個性を集約させたエネルギー弾が収束していった。
おいおい嘘だろ?
『どうして君がその技を・・・』
【君は早く退場してくれ、旧時代の魔王。】