引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◆side:AFO
【全因解放。】
放たれたエネルギー弾は、大気を揺らしながら僕の元へと迫ってくる。やばい。あれの威力は僕が身をもって知っている。
『ウォーツ・シェル!!!』
大急ぎでガードの姿勢をとり、機械の身体をイボの個性でさらに覆う。これが僕のできる精一杯。
だがそれでも、全因解放は凌ぎきれない。
『っ...!!!』
轟音と共に、幾重の防壁も機械の巨体も、クッキーみたいに砕け散った。次の瞬間、全身には果てしない激痛が襲いかかってくる。あまりの苦しさに意識が飛んでしまいそうだ。
『耐えられたか。流石にしぶといなAFO。』
黒ローブは感情を押し殺したような、しかし何故だか馴染み深い声で僕を評する。
機械の鎧を纏っていたおかげで、僕は何とか一命を取り留めたようだ。ドクターに命を救われたのはこれで2度目になってしまうな。ありがとうマジで。
でも、今のままだと不味い。手足の感覚がおぼつかないし、恐らくは呼吸器をはじめとする身体の生命維持装置が一部欠損してる。
これだとまともに動く事もできなさそうだ。
「先生に、何してんだ!」
『うちの大将をそう易々とやらせるとでも?』
動けない僕をカバーしようと、転孤くんと白霧が奴に挑んでいく。ワープゲートと竜巻を活かした、高機動のフォーメーションだ。どこから来るのか分からない、神出鬼没の神速攻撃。これなら、
『随分と必死だね君たち。そんなに魔王が大事なのかな?』
竜巻を纏った転孤くんの蹴りが黒ローブに直撃する寸前。奴の姿が掻き消えた。
「っ!?」
『どこに消えた!?』
『エニー・テレポ。』
アレは瞬間移動の個性か? ワープゲートの比にならない速度で、奴は白霧の背後に転移する。
『使い魔+ミイラ+テレキネシス。』
念動力で動きの鈍った白霧の実体部分に、奴から伸びた龍の化物と包帯が巻き付き、拘束してしまった。
『ワープゲートは厄介だ。君から貰うとしよう。』
「おい白霧!!!!!」
『悪いな、弔。あとは頼む。』
黒ローブの手が白霧に触れる。
奴はそのままワープゲートの個性を奪い去ってしまった。そのまま投げ捨てられた白霧は、力無く地面を転がる。その身体のモヤは徐々に薄くなっていった。
「テメエ、」
『安心してくれ。白霧という男も死にはしない。僕の目的は個性だけだ。それ以外はどうでもいいからね。』
激昂した転孤くんの目前に、白いワープゲートが現れる。
「っ!? こいつ白霧の個性を、こんなに早く使いこなしてっ、」
ワープゲートから伸びた奴の手が、転孤くんの首を掴んでいた。
『ハァハァ、待て待ってくれ! おい黒づくめ! お前の狙いは僕だろう? AFOが欲しいなら持っていけ! 転孤くんは関係ないはずだ!』
呼吸がうまくできないせいで声が掠れる。それでも僕は必死に声を張り上げた。
少し不本意な形ではあるが、このUSJで“竜巻”を使いこなす転孤くんの姿を見た。アレを見れば分かる。転孤くんがどれだけの時間を費やして、あの個性と向き合ってきたのか。
今まで、沢山の個性を奪い取ってきた僕に、こんな事を言う資格はない。虫が良すぎる事も分かっている。だけど、
『お願いだ! 転孤くんからその個性を奪わないでやってくれ! それは転孤くんの努力の結晶で、家族との繋がりを示す絆の証でもあって、』
『・・・分かってるさ。そんな事くらい。』
一瞬だけ、黒ローブの何かが揺らいだ気がした。しかし一瞬だけ覗いた人間的な感情はすぐに消え失せ、奴は元の冷淡な口調を取り戻す。
『でも悪いね。僕らの夢のために犠牲になってくれ。』
ワープゲートから奴が手を引き抜くと同時に、転孤くんはその場に崩れ落ちる。驚くほどにアッサリと。彼の個性も奪われてしまった。
「先生、ごめん...!」
『何を謝ってるんだ転孤くん! もういい1人で逃げるんだ。君は、』
「でも僕、諦めないよ。僕は死柄木弔だから。」
それでも。転孤くんの目から闘志が消える事はなかった。無個性の身一つの状態で、黒ローブへと飛びかかっていく。
その背中を僕は見送る事しかできない。
『竜巻+突風+衝撃波。』
「っ...!」
無個性の状態で、多彩な個性を操る黒ローブに敵うはずもない。奪われた自身の個性に吹き飛ばされた転孤くんは、地面を転がり、僕の近くへと倒れ込んだ。
『転孤くん。しっかり...!』
身体の痛みに堪え、伸ばした右手で転孤くんの腕を掴む。幸いにも脈はある。だが、彼の中にあった“竜巻”の個性因子は、完全に消失していた。
アレ、でも、何だこれ。転孤くんの中で、別の個性因子がまるで残り火のように、
「離してくれ先生!」
僕の手を振り払い、転孤くんは立ち上がる。どうやら彼は逃げるつもりなど毛頭ないらしい。僕がここにいるせいで。弱いせいで。何もできないせいで。
『転孤くんいい加減にするんだ! 逃げろと言ってるだろ! 君は洗脳されてるだけで、僕を守る理由なんてこれっぽっちも、』
「違う。違うんだよ先生。」
ポツリポツリと呟きながら、転孤くんは前へと歩く。壊れた仮面が外れ、彼の素顔が顕になった。
「僕はただ、自分の意思で、自分の力で、大切なものを守りたい。そのために、僕は死柄木弔になったんだ。」
転孤くんは、いや、弔くんの目は本気だった。
「僕は今度こそ、どんな手を使ってでも先生を助ける、真の
弔くんは自分で道を選んでいた。その先に待っているものが果てしない暗闇だと分かっていても。
【やれやれ、おいたがすぎるよ。】
黒ローブの手に、再びエネルギーが収束していく。奴はもう一度、全因解放を撃つ気だ。今アレを喰らったら、僕も弔くんもタダでは済まない。完全に消し炭だ。
【これが最後のチャンスだ。そこを退いてくれないか? 死柄木弔。】
「ハッ、お断りだ。バーーカ。」
中指を立てた転孤くんの右手には、仄かな光が宿っていた。しかしそれでも、全因解放に対抗するには力が足りない。
『動け!僕の身体ぁ...!』
個性でイボを身体に生やし、ソレを蜘蛛の手足のように操り、弔くんの前に出ようとする。だが途中でイボの手足は砕け、僕は顔から地面に突っ込んでいた。
『クッソ、こんな時にぃ...!』
体力の問題か、短期間で高出力を連発しすぎたせいか。僕の得意技だったはずの母の個性すらも、もはや上手く働いてくれない。
僕はやはり何もできない。弔くんに標準を合わせる黒ローブを、憎々しく睨みつけるのがせいぜいだ。
『弔くん...!』
せめて彼は、彼だけは、
『誰か、助けてやってくれ!』
それは心の芯から飛び出した、僕の願い。
『うっせえぞクソヴィランが!』
その願いへの返答は酷い罵声だった。
右手を構えていた黒ローブが、突然“爆破”に見舞われる。奴の体勢は崩れて、全因解放のエネルギーは霧散した。爆豪くんの仕業なんだろうが、
『わっ』
混乱している僕の身体は浮き上がり、黒ローブからどんどん離れていった。顔を上げると、アメリカンな画風の少年が視界に映る。
『緑谷くん...?』
どうやら彼は僕と白霧の体を抱えて、黒ローブの射程から逃れてくれたらしい。横を見ると、転孤くんもまたオールマイトに抱きかかえられている。
『あの、緑谷くん。どうして僕らを助け、』
「ヒーロー志望、ですから。それに身体が勝手に動いてたんです。貴方達と同じように。」
そう言い切ったヒーローは笑う。その笑顔は、思わず目を逸らしてしまう程に僕には眩しすぎるものだった。