引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◇side:爆豪勝己
「爆殺卿! 爆殺卿!」
「何かコメントをお願いします!」
目を覚ますと、そこは見慣れねえ記者会見の会場だった。
数え切れねえフラッシュが、鬱陶しいくれえに瞬いてて、その中央に立ってんのは、俺だ。
後ろには、ヒーローコスチューム姿の俺が、どデケエ銅像として立っていた。握りしめた手を天高く突き上げるポーズだ。
「爆殺卿! ヒーロービルボードチャートの殿堂入り、おめでとうございます!」
ボヤけてたはずの頭が妙にハッキリとしていく。
そうだ。思い出した。
俺はヒーロー“爆殺卿“として鮮烈なデビューを飾り、オールマイトの引退後、No.1ヒーローとして頭角を現していったんだ。
そんで気付けば、ヒーローランキングの最上段に何度も何度も名を連ね、殿堂入りだ。
ついでに言うと、高額納税者ランキングの方も殿堂入りしてる。
そうだ。俺はとっくに自分の夢を叶えてたんだ。
「おめでとう、爆豪少年。」
いつの間にかオールマイトが、俺の隣に立っている。
かつて“平和の象徴”と呼ばれたその英雄は、還暦を優に越えた今でも、滲み出るような威厳がある。
そんなあの人が笑顔で花束を差し出してくる。
『爆豪少年。いや、爆殺卿。君はヒーローとして、今日まで一度も負けることなく、勝ち続けた。その勇姿は救いを求める多くの人にとっての希望となったはずだ。おめでとう。今の君は、私をも超える
最高のヒーローだ。』
俺が花束を受け取ると同時に、フラッシュが再び弾け、拍手が嵐のように押し寄せる。
確かに受け取った花束は少しだけ重たかった。
「おめでとう。かっちゃん。」
拍手とフラッシュが少し落ち着いた、その隙間を縫うように――背後から、聞き慣れすぎた声が飛んできた。
「やっぱり君は凄いよ。僕なんかじゃ到底敵わないや。」
「・・・ったりめえだ。」
舌打ちと共に振り返る。そこに立ってたのは、今も昔も鬱陶しい腐れ縁だ。
ヒーロー”デク“として、万年ランキング2位のまま、俺の後ろを追いかけてくる邪魔臭え存在だ。
オールマイトから受け継いだ個性を多少は使いこなせるようになったらしいが、まだまだ俺の足元にも及ばねえ。
「・・・つーか何の用だデク! こっちはテメエの100倍は忙しいんだよ! アポ取れ! アポ!」
「ああ、ごめん。ごめん。実はさ、君にその、大事な話があって。」
保険見てえなその前置き。自信のなさそうな間の取り方。無駄にこっちを気遣うような目線。
昔から一ミリも変わってねえ。同じ空間にいるだけイラついてくる。
「いや、こんな場で話すことじゃないかもしれないんだけど、でも、やっぱりこんな場くらいでしか話せないって言うか。」
「長え! 結論から先言えやボケ! テメエに付き合ってっと日が暮れるわ!」
「う、うん。だよね。それじゃあ、」
ぶちっ。
乾いた音。デクの奴が引き抜いた緑色の髪の毛が、数本、俺の前に差し出される。
「食って。」
「・・・・・・は?」
「いや、その。DNAを取り込めれば何でもいいんだけど、」
「そこじゃねえ! 何してんだって聞いてんだ! クソデクがぁ!」
いつの間にか記者会見場は消えて、真っ黒な空間の中に俺とデクだけが立っている。
「何って、分かるでしょ? 僕がオールマイトから授かったこの個性、OFAを君に譲渡したいんだ。」
「何、言ってやがる。」
喉の奥がひくりと引きつる。
視線が、髪の毛と、デクの腹立つ顔の方とを行き来する。
「君ならさ、この個性をもっと上手く扱えると思うんだ。」
「っ、当然だ...! 俺のセンスならテメエより使いこなして...って、そういう話をしてんじゃねえ!」
淡々と、爽やかに、優しく。まるで当たり前のことみてえに。
デクは自分の夢を、憧れを、アッサリと手放そうとしていた。
「オールマイトともちゃんと話し合ったんだ。かっちゃんになら安心して託せるって言ってくれた。」
「・・・やめろ。」
「僕はさ。もう十分、いい夢を見せてもらったよ。無個性に戻ったとしても悔いはない。だからさ。僕の代わりに、かっちゃんが最高のヒーロになって、」
「やめろっつってんだろ!!!」
気づけば怒鳴ってた。手にした花束を床に投げ落とした音も、やけに大きく辺りに響く。
「ふざけんな! ふざけんじゃねえぞ、デク!」
ずっとずっと望んでた。
最高最強のヒーローになって、デクの野郎に完全勝利して、オールマイトからも選ばれる。
それは全部、俺の理想。そうだったはずだ。なのにどうして、こうも気に食わねえ。
「何だそのツラは?」
「え?」
髪の毛を差し出したままのデクは、キョトンと首を傾げる。
こっちを真っ直ぐに見つめるその眼が最高に気色悪い。
個性を渡して、自分の夢を諦めることに、迷いも、後悔も、躊躇もない。そんな清々しい目。
「分かってんのか!? オールマイトにもらった個性だぞ! 諦めの悪いテメエが、それを簡単に手放すわけがねえ!」
怒りなのか、困惑なのか、もう自分の気持ちすらも分からねえ。
「すっとぼけてんじゃねえぞ! 俺は知ってんだ! テメエがどういう人間かをなぁ!」
誰よりも。嫌になるほど。俺はアイツを知っている。無個性で弱っちいくせにヒーローに憧れて。
何度俺に、笑われても、見下されても。折られても、否定されても。
奴の眼はヒーローの背中を追い続けた。口や態度でどれだけ取り繕っても、その瞳の奥には、未練がましい憧れが残ってた。
「認めねえ! 認めねえぞデク!」
一歩を踏み出し、大嫌いな腐れ縁に近づいていく。胸ぐらを掴んで、その瞳をじっと見つめる。
「で、でも、今の僕は君の理想で、」
「こんな手応えのねえテメエに勝って、俺が満足すると思ってんのか!? ああん!?」
「……じゃあさ。」
いつの間にか戻ってきていた会場の床から、もう一つの銅像が生えてくる。それはデクの姿を模したものだった。
「これでどうかな? 僕とかっちゃんが、同率一位で。No.1が二人いて、切磋琢磨する世界は?」
「ざけんな! テメエと俺が同格だとでも言いてえのか!? クソ雑魚が!!」
「えっ、じゃ、じゃあ、やっぱり僕の個性を渡して、君を唯一のNo.1に、」
「舐めんじゃねえぞ! オールマイトの個性がねえと、俺はテメエに勝てねえとでも言いてえのか!? 爆破の個性1つで俺ぁ充分なんだよ!」
「なら、僕は個性を持ったままで、それでも君がNo.1ってことで……」
「いーや認めねえ! オールマイトを受け継ぐのは俺のが適任だ! そこでテメエに負けてたまるか!」
「じゃあどうすればいいんだよ!? めんどくさいなぁ!」
デクの野郎は頭を抱え出したが、んなもん知ったこっちゃねえ。
「いい加減にしてよかっちゃん! 君は一体、どんな理想を用意すれば納得がいくんだ!?」
「あぁ? 用意だぁ!? 誰が誰に何を恵むって? 上から目線で言ってんじゃねえぞ! そんなもんなくたってなぁ、」
爆破で飛び上がる。視界に映るのは自分自身の銅像。作り物の未来を象徴する出来が良すぎて気味の悪い像だ。
「
手をかざし、放った爆破で、虚像を粉々に吹き飛ばす。
「さ、さすが爆殺卿!」
「えっと、ほら、既存の枠組みに囚われず、悪しき慣習を破壊するという決意の現れ、ですよね?」
「こ、これこそが、新時代のNo.1、」
「何でもかんでも雑に褒めてんじゃねえぞ! 気色悪い! 何も分かってねえ奴からの称賛なんざ、騒音と同じだ!」
マスコミどもの雑音と、媚びた笑顔、捻り出したような拍手を、怒鳴りつける。
「こんな薄っぺらい世界に用はねえ! 全部まとめてぶっ飛ばしてやんよ!!」
叫びと同時に、体の奥から、渾身の爆破を解き放つ。それは激しい光となって、偽物だらけの会場を貫いた。
バキッ、って音と共に、空間そのものには無数のヒビが入って、ガラス細工みてえにボロボロと崩れてく。
「なっ、なんてことを!」 「爆殺卿のご乱心だ!」 「正直、いつかやるんじゃないかと思ってた!」
マスコミどもの悲鳴と怒号が、遠くで反響していた。だがその声も、次第に歪み、引き延ばされ、意味を失っていく。
世界が――溶ける。視界はゆっくりと暗転し、流れる血と焦げた空気が、意識を現実に引き戻して、
「……死ねえ!!!!!」
【死ねっ!?】
偽りの世界はもう跡形もない。 目の前にあるのは、確かな現実と倒すべき敵だけだ。
手からは赤黒い爆炎が迸る。
【ちょ、】
俺の個性を奪おうと、手を伸ばしてた黒ローブのヴィランに、それは直撃した。
轟音と衝撃の中心で、黒ローブのフードは消し飛ぶ。焼け焦げた布片が宙を舞って、奴の素顔が顕になる。見慣れねえ顔だった。
【悪くねえ威力だ。おかげで目も覚めた。】
俺の爆破の元は、ニトログリセリンを含む汗だ。そしてその“大元”は、血液中の血漿。
ついさっき会得した赤黒い爆破は、その血漿を手の血管から直接起爆する。
だから、高威力の爆破を体温や湿り気に関係なくぶっ放せる。
その代償として、爆破を放った右腕は、手のひらが裂けて夥しい量の血が滴り落ちてる。だが、この程度で止まるほど俺はやわじゃねえ。
更なる爆発で身体を押し出して、よろめいている奴との距離を一気に詰める。
【っ...!!!】
「捕まえた...!」
ボロボロの手で奴の両手首を掴み、至近距離で爆破する。個性を奪う奴の腕は、黒い煙をあげながら、だらりと垂れ下がっていた。
個性のデパートみてえな奴なら、回復系の個性であの傷を治せるかもしれねえ。
だから腕が治りきる前に勝負をかける。
さらに踏み込んで、そのまま奴に抱きつくようにして、その背中に手を回した。 互いの呼吸がぶつかり合うほどの距離まで身体が密着する。
【まさかっ、この至近距離で爆破をっ...!!】
「ハッ、もう遅え!」
心臓が高鳴り、全身の血が熱く煮えたぎる。
狙うのは、先ほどまでの手だけを使った爆破ではない。全身の血を余すことなく使った、捨て身の一撃だ。
下手をすれば死ぬ。が、そうならねえギリギリを見極めて、起爆すれば問題はねえ。
俺ならそれができるはずだ。
【落ち着くんだ爆豪勝己! その技は君にとっても危険すぎる!】
ローブ野郎が、切羽詰まった声を上げる。
素顔が剥き出しになった今、奴の表情を見れば、その言葉が計算も駆け引きもない、純粋に俺を心配してのものだと分かった。
それが何より気に入らねえ。
「ヴィランの癖して随分とお優しいな。テメエやっぱ、俺をずっと殺さねえよう、手加減して戦ってたろ?」
白霧や死柄木にトドメを刺さなかった判断。俺への致命打を外した攻撃。判断材料は他にもある。
奴が人を殺さねえように立ち回ってたのは確かだろう。奴なりに事情があんのかもしれねえが、
んなもん知るか。
「そんだけ手を抜いてても、俺に勝てるってか!? 舐めプ野郎が!」
自分が見下されてたという事実。それが何よりも許しがたい。
「俺を舐めたことぉ、後悔させてやるよぉ!」
全身の血が沸騰したように脈打ち、全身からは火花が散る。
「クリムゾン・ハウザー!!!」
渾身の爆破。
轟音が世界を塗り潰し、赤黒い熱の奔流が解き放たれる。
「勝つのは俺だぁ!!!」
その爆炎の中心で、俺は自分のありのままを吠え続けた。