引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◇side:オールマイト
爆豪少年の奮闘で、私と緑谷少年、そしてAFOと転孤くんは、無事に黒ローブから逃れる事ができた。
『転孤くん! しっかり!』
ひとまず、ここまで運んできた転孤くんの容態をチェックだ。
ちなみに少し離れたところでも、緑谷少年がAFOの様子を診ている。
『緑谷少年。君にはAFOの方を頼みたい。ほら、ね?』
「・・・はい。ありがとうございます。」
ありがとうございます?
万が一、AFOが暴れ出した時に備え、奴の近くには私より断然強い緑谷少年を置いといた方がいい。そう判断しての采配だ。
危険な役目を任せてしまって、申し訳なく思っていたんだが、まさか感謝されるとは。
ひょっとしたら、緑谷少年はドMの類なのかもしれない。
『おーい転孤くん! 大丈夫か!』
とりあえず今は転孤君の介抱だ。
幸い呼吸はしっかりあるが、救出の際のドタバタで、彼はすっかり意識を失っているようだ。
こういう時、どうするのが正解なんだろう。身体の傷を探して、止血とかした方がいいんだろうか?
とりあえず、転孤くんの服を脱がせて、ん、彼の懐から何か出てきたぞ。注射器?
「っ、ここは、」
お、気絶していた転孤くんも目を覚ましたようだ。ポカンとした顔で私の事を見つめている。
「っ、ありがとう、オールマイト。いや、離せ人殺し! お前に助けられる筋合いはねえ!」
転孤くんは混乱している。
残念ながら、洗脳による僕への憎悪はそのままらしい。なんかいい感じの雰囲気になって、そのまま和解できないかと期待していたのに。
「クッソ! 竜巻の個性が完全に消えてる! 個性さえあれば、まだ“トリガー”でやりようはあったってのに。」
転孤くんがなんか凄いこと言ってる。
え、トリガーって、個性をブーストさせる、副作用の強い違法薬物だろう?
『ちょ転孤くん! なんだトリガーって。AFOの奴に、そんなものまで使わせされてるのか!?』
「んなわけねえだろ。ドクタ、別の同僚に渡されてんだよ。「助からないと思った時は、ソイツを使って有意義に死んどくれ。」ってな。」
なんだそのヤバい同僚。
しかし、転孤くんのような子供に、そんな捨て身の武器を持たせるなんて、やっぱ敵連合って頭おかしい。
「言っとくが先生は、トリガーの事は全く知らない。優しすぎるあの人の事だ。僕たちがそんなものを持ってるって知ったら、間違いなく止めるだろうし。」
『や、優しい? あのAFOが?』
「ああ。少なくともお前よりはな。」
転孤くんの洗脳は思った以上に重症らしい。
この事件が終わったら、デイブ辺りに相談しよう。ちょっと専門分野が違うかもだが、まあ、デイブなら何とかしてくれるだろ。多分。
おや? 少し離れたところでAFOも目を覚ましたみたいだ。緑谷少年と何かを話してるな。
奴も流石にしぶとい。命に別状はなさそうだが、あの様子ではまともに動く事すらできないだろう。
いかに極悪非道なアイツでも、この状況で尚も悪事を続けるような愚かな真似はするまい。
さてそうなると、私が次にやるべき事は1つだ。気は一向に進まないけど。
『転孤くん。私はすぐに黒ローブのところに戻らないといけないんだ。すまないが置いていく。個性を抜かれた直後だし、君はここで安静にしておいてくれ。』
「・・・勝てる気でいるのか? あの黒ローブに。不意打ちとはいえ、先生をあそこまで追い込んだ奴だぞ。」
勝てる気でいるって? そんなわけないだろう。
いかに弱い私だって、あの黒ローブがアホほど強い事は分かる。激強なAFOをワンパンしてるんだから。イカれてるよマジで。
でも、
『爆豪少年を助けに行かなくてはだからね。君の事も守らないといけないし。』
「・・・・・・」
震える頬を必死に抑えて笑顔を作る。転孤くんが少しでも安心してくれるように。
ぶっちゃけた話、1人だったら私は確実に逃げ出していた。今日のUSJでもそうだ。事あるごとに私は逃げようとしてたっけ。
だって仕方ないじゃないか。皆んなが思っているほど私は強くないんだし、その場に居ても足手纏いだ。それならとっとと逃げ出して、プロの皆んなに託す方がずっといい。
そんな風に言い訳して。
『安心してくれ転孤くん。私は平和の象徴だぜ?どんな相手でもちょちょいのちょいで、あ。』
転孤くんの方を振り返りながら、歩いていたのが不味かった。地面の出っ張りに足を取られた私は、盛大にすっ転ぶ。
「おい、オールマイト!」
転孤くんも慌てて私に駆け寄ろうとしてくれたが、流石にそれでも間に合わない。
『ぎゃっ...!』
無様に倒れ込んだ私は、そこにあった大きめの岩に頭部を強打し、
力尽きる。
『・・・・・・』
「え、お、オールマイト...?死んだ?」
『い、いや、生きてるから、ギリで。』
流石の転孤くんもこれには困惑だ。その目を白黒させている。
「おい大丈夫なのか?」
『ああ平気さ。ちょっと額から血が止まらないけど、もう慣れっこだし、』
「いや、それもそうだが、アンタのその姿の方だ!」
『その姿? あ、』
私はここでようやく気付く。OFAの力で投影していたマッスルフォームが解除され、私の本当の姿が転孤くんに丸見えだという事に。
『え、えっと。これは、その、・・・い、いやん!転孤くんのエッチ! 見ないで!』
「ふざけるな!」
『はいごめんなさい。』
「その姿は何だって聞いてる!」
骸骨のようにガリガリで身体中には点滴と手術痕。転孤くんが声を荒げるのも無理はない。異様な姿だ。
「その傷。生きてるのだっておかしいレベルだ。アンタはいつから、そんな身体でヒーローを、」
『あー。大体デビュー初日からかな〜。』
「ハァ!?」
『それにこの身体も慣れれば悪くないもんさ! 優秀な友人が高性能な麻酔薬も開発してくれてるし! まあその友人からは、私の体はほぼゾンビって言われてるんだけどね! 酷すぎて笑っちゃうだろ? HAHAHAHA!』
「笑いづれえ!!」
『まあそれはさておき。私は爆豪くんを助けに行くから。それじゃ!』
「待て、さておくな。今の流れでどうしてそうなる! 行くんじゃねえ!」
『やっぱり君は優しいな。なんだかんだで私の身体を心配してくれてるんだろう?』
「はぐらかすな! 死にてえのか!?」
『死にたいわけないだろ!? 痛いのも嫌だし、ヴィランは怖いし、正直今からでも逃げ出したいし、とっとと引退して平穏な日々を送りたいんよ私は!』
「お、おう。」
『でも今はさ。なんだか逃げたくないんだ。』
相澤くん達はワープで散り散り。プロヒーロー達の到着もいつになるかは分からない。こんな私でも、この場においては唯一の大人で、ヒーローだ。
その責任に背を向けるわけにはいかない。
『今ここで逃げ出したら、君のおばあちゃんにも合わせる顔がないしね。じゃあ今度こそ行ってくるよ。』
「・・・なあオールマイト。」
『悪いけど。どんなに止められても、』
「いや。もうアンタを止めはしない。だが一つ聞かせろ。」
『ん?』
「なんなんだ?アンタは。」
真っ直ぐにそう問いかけられた。
「ヒーローとしてのアンタに一度はアンタに憧れた。その次は、大切な人の仇としてアンタを憎んだ。でも、この雄英でアンタに救われ、アンタの事を色々知って、僕はもう、アンタが分からなくなった。」
『・・・・・・・』
「平和の象徴。先生の仇。おばあちゃんの弟子。快楽殺人鬼。」
『え、快楽殺人鬼?』
「教えてくれ。どれが本当のアンタなんだ?」
え、快楽殺人鬼? なんだ快楽殺人鬼って。まさかボケか?
この状況下で僕を和ませようと、渾身のボケをかましてくれたのか?
やっぱり彼は優しい子だ。
さて、私もボケ返したいところだが、転孤くんの問い自体は真面目なもの。私も真剣に答えを出すとしよう。
そうだな。色々と考えさせられる問いだが、
『やっぱり私は、平和の象徴・オールマイト・・・』
そう言いかけた口が止まる。
『・・・いや違うな。本当の私は、八木俊典っていうヒーロー好きのオッサンさ。』
「八木俊典...?」
『ああ。私の本名さ。デイブ以外は誰もこの名前で呼んでくれないからさ。時々私も忘れちゃいそうになる。ああでも、週一のYouTube撮影で一応名乗ってるか。“ノリノリ!八木俊典!”ってね!』
「はぁ?」
『すまない話が逸れたね。とにかく私は、今も昔も八木俊典のままなのさ。強くはないし、頭も良くない。そんな事は自分が一番分かっているのに、心の底から本物のヒーローに憧れてる。いい年して夢を諦めきれない、哀れな中年男だよ。』
「・・・・・・・」
さて。こんな所でいいか。爆轟少年の元へ急ぐとしよう。
だが、どうしよう。私の個性、もう通じる気がしないぞ?
お手軽なパワーアップ手段でもあればいいんだが、そんな上手い話があるわけ、
あれ? なんだかおかしいぞ。身体が妙に熱い。なんだこれ?
「お、おい。まさかオールマイト、“ソレ”を使ったのか?」
青ざめた顔で、転孤くんが僕の左肩を指差す。
『え、使ったってなんの話、』
転孤くんの指差した場所を見遣る。そこには、少し前に転孤くんから取り上げていた注射器が、深々と突き刺さっていた。
まさか、さっき転んだ拍子に刺さってしまったのか!? 強すぎる麻酔のせいで全然気付いていなかった。
『あ、あのー、転孤くん。この、注射器って、』
「さっき話した特別性のトリガーだ。強力なブースト効果と引き換えに、使用後は副作用で絶命する。」
『・・・・・・・』
え、絶命マ?
じゃあ、えっと、私死ぬの!?
「お前。まさか自分の命を捨ててまで、生徒を守るつもりか!?」
『い、いや、違うんだよ。転んだ拍子にうっかり注射しちゃっただけで、』
「ふざけるな! そんな偶然があるか!」
いや本当なんだってば!
え、マジで言ってる? ちょ、私、ホントに死んじゃうの? この後。
『ち、ちなみに、転孤くん。副作用で死ぬって、具体的には。』
「さあな。なんせ僕も使ったことはないからな。ドクターもまだ知らないらしい。」
『じゃあ、ワンチャン絶命を免れたりは、』
「いやソレはない。使った奴は、地獄のような激痛と共に、惨たらしい死を迎えるのは、理論上、間違いないそうだ。」
『そ、そうなんだ〜。へぇ〜。』
そ、そっか。死ぬのか。私。地獄のような激痛に苛まれながら、惨たらしく死ぬのか、私。
な、なるほど。うん、そうか。いやその、死を覚悟したことは100回以上あっても、死が確定した経験はそうそう無かったからな。
まあ、どのみち命をかけて戦うつもりだったんだ。おまけでパワーアップできた分、寧ろラッキーだったと言えるかもしれない。
うん。きっとそうだ。そう思わなきゃやってられない。
『多分、ここが私の死に場所かな。』
「おい、今なんて、」
『ああ何でもない。大丈夫。転孤くんの事は必ず助けるさ!』
転孤くんに聞かれてしまった独り言を誤魔化して、僕は重い腰を上げる。
サーの予言。私の迎える惨たらしい死。流石にここで間違いないだ
【爆速ターボ。】
聞き慣れた爆音と共に、何かが高速で飛来してくる。
あれはまさか黒ローブか! あの飛び方、爆豪少年の個性を奪っているだと!?
奴の身体中が傷だらけなのを見るに、爆豪少年もかなり奮闘したらしいが、倒すには至らなかったらしい。
彼は無事だろうか。いや、今はそれよりも、
『転孤君、危ない!』
マッスルフォームに変身して、近くの転孤君を慌てて突き飛ばす。
「なっ、オールマイト!」
へなちょこタックルの割には、意外と遠くまで押せてよかった。少なくとも、これで直撃は免れるだろう。
【やっぱり彼を庇ったか。オールマイト。】
そして、回避が間に合わなかった私には、爆炎を纏った黒ローブが、真上から弾丸のように突っ込んでくる。
【ハウザー・インパクト】
『んぐっ...!』
螺旋状の爆波が全身に叩きつけられる。熱と圧が同時に襲いかかってきた。視界が白く塗り潰された。
【こんな勝ち方ですまない。ああでもして隙を作らないと、当たってくれないと思ってね。】
『ハァ、ハァ。随分と買い被ってくれるじゃないか。』
【と言うか何だい? そのガリガリの姿は。いつもの筋肉はどうしたんだ?】
『HAHAHA、何、ちょっとダイエットしただけさ。ゲホッ、ゴホッ!』
あーダメだ。身体がまるで言うことを聞いてくれない。ただこの情けない意識だけが、重たい身体に取り残されている感じだ。
「テメエ! オールマイトから離れろ!」
爆煙の切れ間から転孤君が飛び出してくる。
幸いにも爆破も直撃は免れたらしい。驚く事に、その身体には切り傷の一つすら負っていない。
「ソイツには、まだ聞いてえ事が山ほどあんだ!」
個性はない。策もない。それでも、彼の足は止まらなかった。
『止めるんだ転孤くん! こっちへ来るんじゃない!』
【アイアンボール+回游+念動力】
個性によって加速した鉄球が、無防備な転孤君の胴体に容赦なく叩き込まれる。
「っ――!」
衝撃が直に身体を貫いて、彼は宙を舞い、床を転がる。その骨が悲鳴をあげる声が聞こえた。
「かっ、あっ...!」
【肋骨を折った。死にたくなければジッとしていてくれ。】
歯を食いしばる転孤君に、黒ローブは淡々とそう告げる。
【君もだオールマイト。そのまま大人しくしててくれ。個性さえ貰えれば命までは奪わない。たとえ未来が決まっていても、君には死んで欲しくないんだ。】
『え、未来???』
突然、サーみたいな事を言い出した奴は、グッタリとした私の身体を、首を掴んで持ち上げる。
『んっ、ぐぅ...!』
やばい。絶体絶命だ。個性を使って、何とか抵抗できれば、
【それじゃあ、君の個性を渡して貰おう。】
『っ...!』
爆煙がゆっくりと晴れていく。焼け落ちたローブに隠されていた、奴の素顔が目の前に現れた。
『そんな。どうして...?』
そこに居たのは、そこに居るはずのない人物だった。
透き通るような白い髪に、緑の優しげな目。その風貌の人物については、お師匠から聞いた事がある。
初代のOFA所持者として。