引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◇ side:緑谷出久
『あの緑谷くん。どうして僕らを助け、』
「ヒーロー志望、ですから。それに身体が勝手に動いてたんです。貴方達と同じように。」
初めて間近で向き合った悪の魔王は、僕が思っていた以上に穏やかな人物だった。
葉隠さんを踏み潰されて、母さんを人質にするような言い方をされて、最初は頭に血が昇った。
でも、葉隠さんへの攻撃は、潜入していたヒューマライズの指導者を炙り出すためのものだった。
母さんを訪ねたのも事実だろうけど、本当に危害を加えるつもりなら、幾らでもやりようがあった筈だ。でも、実際僕らは何もされていない。そう考えると、あの発言は僕と死柄木の戦いを止めるためのブラフだったのかもしれない。
青山くんを気絶させたのも、何か考えがあっての事だったんだろうか。
ここへ来て、AFOという人物の目的が分からなくなってきた。
「あの、1つ聞いてもいいですか?」
『ん、なんだい?』
「貴方は何のために、ここへ来たんですか?」
『え、自首だけど...?』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
「あの、今は真面目な話をしてて、」
『いや本当! ホントに自首しに来たんだってば!』
◆side:AFO
「え、自首って、なんで?」
『そりゃあ。僕の作ってしまった敵連合を終わらせるためだよ。』
「え、それでいいんですか!? いやまあ、良い事? では勿論あるんですけど。」
『当然さ。もう魔王の座に未練はないよ。僕の征服を待たずして、世界はすっかり平和になってしまったからね。』
僕は緑谷くんに対し、雄英にやってきた目的を事細かに説明した。
彼には助けて貰った恩もあるし、こんな状況で何かを取り繕っている暇もない。それもあってか、言葉はスラスラと出てきた。
緑谷君は真剣な様子で僕の話を聞いてくれて、僕の言う事をまっすぐに信じてくれた。
本当に良い子だ。良い子すぎて泣きそう。
「貴方なりに目指していたんですね。平和の象徴を。」
『そんな大層なものじゃないさ。僕はただ作りたかったんだと思う。弟が笑顔でいれる世界を。』
そう。最初はただそれだけで良かった筈なんだ。
『だけどある日、訳もわからないまま、弟が居なくなって、会いに行くのをビビっているうちに死に別れて。その事を今でも後悔してるんだ。』
「なるほど。それでずっとOFAを狙っていたんですね。弟さんと再会するために。」
『・・・・・・え?』
「はい?」
『えっとOFA? どうして君が与一の個性の名前を知ってるんだい?』
「え、だって、僕は継承者なので。」
『継承...?』
「あれ、もしかして、何も知らないんですか?」
緑谷君が、コイツマジかみたいな目を向けてくる。だって仕方ないじゃないか。本当に何も知らないんだもの。
「えっと、僕の個性は、あなたの弟さんから、代々受け継がれてきたもので、僕もオールマイトから、この個性を受け継いでいて、」
『えぇ!? 初耳なんだけど!』
個性を継承!?
いやまあ、個性を与えられるAFOなんてのがあるんだし、弟の与一がそれに近い個性を持ってても不思議はない。
つまり今、緑谷君の持っている個性には、与一の因子が残っている可能性が高いというわけだ。
『・・・・・・与一。』
ずっと求めていたチャンスは、思いがけずにやってくる。
緑谷君の個性を手に入れれば、与一ともう一度会えるかもしれない。
欲しい。絶対に手に入れたい。
『緑谷君。』
僕は魔王だ。手段は選んでいられない。どんな手を使っても、OFAを手にしてみせる。
『OFAを譲ってください! この通りです!!』
僕は魔王。手段を選んではいられない。
弟と再会するために、恥も配分も捨てて、15歳の少年に向かって土下座する。
いや、恥と外聞なんて元々ないから、実質ノーダメかもしれない。
え、無理やり奪い取ったりはしないのかって? 今の僕が緑谷少年に勝てるわけないだろう?
第一、命の恩人である緑谷少年相手に、そんな汚い手を使うのは流石に忍びなさすぎる。
「ちょ、AFO!?」
『お願いだ緑谷君! いや緑谷様! 何卒! 靴でも足でも、幾らでも舐めます!』
「ちょっと落ち着いてください!」
緑谷少年からは、信じられないものを見るような目を向けられるが、そんな事ではへこたれない。
『あ、そうだ! おじさん、何でも好きな個性をあげちゃうから!』
「いや、要らないですって。」
『遠慮しないでいいから! そうだ。今まで集めた全部の個性をプレゼントするよ!』
「あの、だから、」
『まだ足りないのかい? あ、それならこのAFOも、君にあげちゃうから。』
「え、ちょっと待ってください! AFOって個性を渡せる個性ですよね? ソレそのものを譲渡できるんですか!?」
『あーできると思うよ。多分。』
生まれ持ったこの個性を手放すのは、流石に僕も思うところがある。
だが、与一と会える可能性には比べるべくもないし、この後タルタロスへ行く予定の僕には、無用の長物だ。
それなら、誰かに渡して有効活用してもらった方が、世のため人のためになるというもの。
「っ、本気で言ってるんですか?」
『ああ。本気も本気さ!』
その言葉に嘘はない。
弟にもう一度会えるなら、僕は持てる全てを投げ出したって、
【ハウザー・インパクト。】
オールマイト達がいる方で、大爆発が起こる。黒ローブだ。もう追ってきたのか!
【アイアンボール+回游+念動力。】
爆煙の中からは、攻撃を喰らった転孤君が転がってくる。
不味いな。僕も加勢に行きたいのだが、全因解放で喰らったダメージがまだ残っている。個性も身体も思うように動いてくれない。
「あの、AFO! すみません!」
『え、ちょ、緑谷君!?』
黒ローブの襲来を確認した緑谷少年は、私の方をジッと見つめると、“驚きの行動”に出る。
え、怖い怖い。どうして今、この状況でそんな事を!? 一体、何考えてるんだ!?
【それじゃあ、君の個性を渡して貰おう。】
そうこうしてるうちに爆煙が晴れて、ショッキングな光景が露わになる。
それは黒ローブに首根っこを掴まれたオールマイトの姿だった。
『負けた? あのオールマイトが...?』
目の前の光景が、とてもじゃないが信じられない。
オールマイトの自慢の筋肉は何処かへと消え去り、彼の身体は傷だらけのガリガリになっていた。
一体どんな攻撃をされたら、あんなに酷い姿になるんだ。
『おのれ、よくもオールマイトを、』
黒ローブへと視線を写して、ようやく気付く。黒ローブのフードは焼け落ちて、その素顔が露わになっている事に。
『え・・・』
思考が止まる。声にならない声が、頭の奥で弾けている。
流れるようなストレートの白髪に、痩せた長身の体つき。そして優しげながらも、確かな意志を感じさせる、萌葱色の瞳。
『与一...?』
その輪郭が最愛の弟と重なった。胸の奥に封じ込めていた感情と記憶が、とめどなく溢れ出す。
そして、答えが出た。
『君は、与一じゃないね。』
【・・・・・・】
与一とよく似た風貌。僕とよく似た性質の個性。それを備えた存在には、“2人”だけ心当たりがある。
『君は、与一の息子だね。』
【ようやく気付いたか。叔父さん。】
戦いを離れた与一が、最愛の人との間に設けた双子。
『どうして、君がこんな事を?』
【個性を持った唯一の人類になる。それが僕の夢でね。今日の雄英襲撃はその第一歩なんだ。】
僕と同じように、不老の個性でも手に入れたんだろう。彼は父親とソックリな姿で、途方もない夢を語っていた。
【改めて名乗っておこう。僕の名前は死柄木