引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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オールマイトは諦めさせたい。

 

 

『緑谷少年。あれから大丈夫かい?』

 

「はい、何とか。」

 

 私の個性を受け継いでしまった少年。彼の名前は緑谷出久というらしい。

 

 そんな緑谷少年との出会いから数日後。私は彼を事務所に呼び出し、土下座していた。

 

『本当に申し訳ない!私だって、こんな大事になるとは思っていなかったんだ!』

 

「ちょ、顔をあげてください!オールマイト!」

 

 マスコミたちの前で、緑谷少年が変身してしまった時は大変だった。

 

 私とソックリの画風に、息子だなんだと誤解されながらも、彼は動けない私を抱えて、どうにかこうにかマスコミの包囲を突破してくれたのだ。

 

『マスコミ諸君、今は勘弁してくれ!いずれ君たちにも真実を話す 

!だが、今はまだその時ではないんだ。』

 

「そんな勝手な!でも、オールマイトの言う事なら、」

「オールマイトの言う事だしな。何か考えがあるに違いない!」

「きっと事情があるんだ。この個性社会を揺るがしかねない程の、のっぴきならない事情が!だってオールマイトがそう言ってるんだから!」

「それなら我々は、彼の事を詮索するのは辞めましょう!あの時俺を救ってくれた、オールマイトからの頼みですから!」

 

 適当なことを言ってたら、マスコミの人達は納得してくれた。彼らもちょっとチョロすぎないか?私の言うこと信じすぎだ。

 

 確かに、一度やニ度や三度や四度、彼らの命を偶然救ったことはあるが、それはヒーローとして当然のこと。余り気にせず、公平な報道を心がけ、是非とも私を引退に追い込んで欲しいんだが。

 

 まあ、今回ばかりはそのおかげで助かった。

 

『家の周りに変な人とかいないかい?もしいたら、私の方から苦情を入れて、』

 

「いえ、それは大丈夫です。と言うか、変身した僕って元と画風が違いすぎて。誰も“緑谷出久”とは気付かないんじゃないかな〜って。」

 

 なるほど。何はともあれ、彼が身バレしていなくてホッとした。

 

『改めて謝らせてくれ。君をこんな騒動に巻き込んでしまって、』

 

「いえ、謝るのは僕の方です!僕が不注意で、貴方の個性を勝手に継承してしまったから、こんな事に!」

 

『いやいやいやいや!今回君は、一方的な被害者なんだから!気に病まないでくれ、マジで!』

 

 一応、緑谷少年への個性譲渡については、事務所の仲間達に報告してある。

 

 サーは、ものすごく怒ってたな〜。

 

『オールマイト、君の事だ。私などでは推し量れないような、大いなる考えがあるんだろう。君ともあろうものが、行き当たりばったりで個性の譲渡を行ったとは思っていない。』

 

『いや、その、』

 

『だが、せめて一言相談して欲しかった。もっと、私達のことを信頼して欲しい。』

 

『そ、そのぉ・・・』

 

 言えなかった。ほとんど事故のような形でワン・フォー・オールを渡してしまったなんて。

 

 だが事故とはいえ、緑谷少年は9代目継承者になってしまったのは事実だ。

 

 となれば、話さないわけにはいくまい。

 

『緑谷少年。非常に心苦しいんだが、君に伝えておかなくてはならない。魔王・ A F Oとの因縁についてだ。』

 

 とは言っても、私も正直よく分かってはいない。師匠から聞いた話の受け売りだ。

 

  A F Oは弟思いの優しい男だったらしい。だが、社会の混乱と共に、徐々に個性の力へと溺れていったそうだ。

 

 奴はとうとう、最初の個性持ちである光る赤子を殺し、その個性を奪った。魔王として世界に君臨するために。

 

 そんな兄を止めるべく立ち上がったのが、初代のワン・フォー・オールだ。

 

 兄から授かった”画風を変える“個性。それに、弟が持っていた“個性を渡す個性”。2つが合わさり生まれたのがワン・フォー・オール。って事らしい。知らんけど。

 

 そんな個性は脈々と受け継がれ、私の師である7代目は A F Oを追い詰めるも、後一歩で取り逃し、腰をいわして引退した。

 

 そうして8代目に選ばれたのがこの私だ。先代たちと違い無個性で、身体もボロボロの私は、ラッキーだけで何故かNo.1ヒーローに上り詰め、 A F Oは自滅した。

 

「いや、そうはならないでしょ。」

 

『いや、そうなったんだよ!マジで! A F Oは私の姿を見るなり、自爆攻撃をしてきたんだ!』

 

 奴が何を考えていたのかは知らないが、あの時はマジで怖かった。流石は魔王。頭のネジが緩みまくっているに違いない。

 

「でもそれなら、 A F Oはもう死亡してるんじゃ、」

 

『いや。最強最悪の魔王が、あんな無様な最期を遂げるはずはない。奴はきっと、私を逆恨みして、復讐の機会を窺っているんだ。ひょっとしたら、その矛先は9代目になった君へと向かうかもしれない!』

 

「っ...!!!」

 

 話していればいるほど実感する。やっぱ、考えなしに渡していい個性じゃなかった!ごめん、緑谷少年!

 

『そうだ、緑谷少年!今からでもその個性、私に再譲渡しちゃわないか?私が8代目かつ10代目を兼任する事になるが、仕方ない! 流石にA F Oもまだ君の存在に気づいてないだろうし、』

 

「オールマイト。心配してくれる気持ちは嬉しいです。でも、ここまで聞いて、黙って見てるなんて、できません!」

 

『で、でも、戦うのは怖いだろう?正直。相手は魔王だぞ?』

 

「はい、怖いです!でも、このまま向き合うことから逃げ出して、オールマイトが予言通りに死んじゃう方が、僕はその何百倍も怖い!」

 

 何この子カッコいい!精神がちょっとヒーローすぎる!

 

 そう言えば死の予言の事も、彼には話してしまっていたな。そうだ、彼はこういう子だ。困っている人がいれば、駆け寄って、手を伸ばさずにはいられない。

 

 私なんかより、よっぽど英雄に向いてるよ。

 

 いや、感心してる場合じゃない。無個性のままヒーローになる、その大変さは私が一番知っているのだ。ここは大人としてしっかり止めなくては。

 

『あの、緑谷少年、』

 

「 O F Aの話を聞いて、改めて分かりました。オールマイトが僕を信じて託してくれたこの個性が、どんなに凄いものかって。僕は、そんな貴方の気持ちに応えたい!」

 

 クッソ、言えない!深く考えずに勢いで譲渡しちゃったなんて言えない!

 

「僕は必ず、貴方のようなヒーローになってみせます!」

 

『そ、そうか〜。』

 

 どうしよう。緑谷少年が覚悟固めちゃった。このままだと、彼は私のように酷い目に遭う。

 

 いや、そうはさせない!こんな健気な少年を点滴まみれにしてたまるか!

 

 そうだ、良い事を思いついたぞ!

 

『そこまでいうなら、私も君の夢を全力で応援させてもらおう。ただし、“試練”を乗り越えられたらの話だがね。』

 

「し、試練ですか!?」

 

『そうとも。君が後継に相応しいか、それを確かめるための試練だ。当然、クリアできなければ、 O F Aは返して貰う。』

 

「は、はい!頑張ります!」

 

 我ながら名案だ。

 

 試練という程で無理難題を課し、それができなかったという大義名分で、個性を回収する。

 

 緑谷少年なら、一度した約束を反故にする事もないだろう。

 

 完璧だ。今日の私は冴えている。

 

『君には、ここの掃除をして貰う。ゴミを全て片付けられなければ、試練は失敗だ。』

 

 私が彼を案内したのは近場の砂浜。見渡す限りの不法投棄で埋め尽くされている場所だ。

 

 無個性の彼ではどうしようもあるまい。せいぜい、軽めのゴミを数個撤去できるくらいだろう。

 

 おまけにボランティア活動にもなるというお得な試練だ。

 

「これを全部っ、ですか。あの、期限は、」

 

『あー、えっと、1日だ。』

 

「1日ぃ!?」

 

 流石にやりすぎたか?いや、念には念を入れておこう!

 

「い、1日って、そんなの不可能じゃ、」

 

『お、おいおい。ヒ、ヒーローなんて、不可能を可能にするのがお仕事なんだぜ?それを目指す君が、そんな弱音を吐いてどうするよ。』

 

「た、確かに!オールマイトの後継になるからには、それくらいの気構えでいないと!」

 

『その通りだ。どんな手を使ってもいい。この海岸線のゴミを全て取り除ければ、試練はクリアだ。君の健闘を祈る!』

 

「はい、頑張ります!グギギギギ!」

 

 そう言って変身し、必死に試練に挑む少年を見ていると、何だか胸が痛くなる。酷いパワハラでもしてる気分だ。

 

『緑谷少年。忘れたか?変身してもパワーが増すわけじゃなくて、』

 

「分かってます!でも、この姿だと勇気が湧いてくるんです!憧れのヒーローとソックリですから!」

 

『うぐっ!』

 

 マジで少年が良い子過ぎて胸が痛い。胸が痛すぎて血反吐はいちゃったよ、私。

 

 だが、これも全ては彼の安全安心な将来のためだ。

 

『悪く思うなよ、緑谷少年。』

 

 

 

 

 

 

 翌日砂浜に行くと、全てのゴミが消えていた。

 

『ハァ?』

 

 何だこれ。私は夢でも見ているのか?だが、何度目を擦っても見えているものは変わらない。

 

『み、緑谷少年。一体、何が、』

 

「え、えっとぉ、ですね。」

 

 緑谷少年は事の経緯を話してくれた。

 

 私が帰った後も、試練に挑み続けていた彼の元へ、幼馴染の爆豪少年が現れたという。

 

『デク。お前どういう事だぁ?何でお前がオールマイトと一緒に、それにその姿、どうやって、』

 

 爆豪少年は、海岸へ向かう私と緑谷少年を偶然見かけ、後をつけてきたらしい。

 

 幸い、会話を聞かれてはいなかったようだが、彼は緑谷少年の変身を目撃してしまったのだ。

 

 慌てて緑谷少年は元の姿に戻るも、時すでに遅し。

 

『おい、答えろ!何だそれ、個性か!?無個性のはずだろテメエは!俺をずっと騙してやがったのか!?』

 

「いや、これは、その、」

 

『そんでぇ、どうしてオールマイトとテメエが一緒にいたんだ!?それにその姿、まさかテメエ、オールマイトの関係者だったのか!?まさか、隠し子・・・』

 

「違うってぇ!落ち着いてよかっちゃん!僕のお父さんは火を吹くだけの個性で、」

 

『ハッ、どうだかな!?そもそもクセエと思ってたんだ!テメエの親父、一度もツラぁ見た事ねえぞ!』

 

「そ、それは海外に出張に行ってるからで、」

 

『どんだけ長え出張だよ!全然帰ってこねえじゃねえか!』

 

 話がちょっと逸れ始めたその時。事態は急変する。

 

 近くの町で強盗を働き、ヒーローに追われて逃げてきたヴィランが、たまたま海岸を通りかかったのだ。

 

『お、情報通りだ。良さげな人質と、パワーアップアイテム発見〜♪』

 

 そのヴィランの個性は“リサイクル”。“誰かが捨てたものを自由に操る”という力だった。

 

 海岸線にあったゴミ全てを纏い、ヴィランは巨人へと姿を変える。人質に選んだ爆豪少年を、ゴミの山へと取り込んで。

 

「かっちゃん!?」

「クッソ、またかよ!?」

 

『ヒーローども、攻撃はよせよ。俺の中にいるガキが、ただじゃ済まないぜ〜!』

 

 ヴィランを追っていたヒーロー達も海岸へと駆けつけたが、2日連続で人質にとられた爆豪少年がいるせいで手を出せない。

 

 そして、そんな状況で黙っていられる緑谷少年ではなかった。

 

「かっちゃんを離せ!!!!!」

 

 彼を助けたい一心で、マッスルフォームへと変身を遂げる。

 

『なっ!?その姿は!?ひ、ひぃっ!命だけはぁ!?』

 

 オールマイトによく似た彼の姿にヴィランはビビり散らかしたらしい。不服だ。私を見た第一声がそれって。私、一応ヒーローだぞ。

 

「ざけんなよ、クソデク!テメエはまた、俺を助けたつもりかぁ!?」

 

 そして、ヴィランの個性が緩んだ瞬間を、爆豪少年は見逃さない。

 

「見たかクソナード!俺にはテメエの助けなんざ、必要ねえんだよ!」

 

 爆破を駆使し、ゴミの山から自力で脱出を果たしたのだ。やっぱ天才だな、爆豪少年。

 

「かっちゃん、大丈夫?」

「大丈夫に決まってんだろ!目ついてんのかテメエは!?」

 

『なっ、オールマイトじゃねえ!?よく見たらパチモンじゃねえか、騙しやがって!』

 

 人質を失ったヴィランは自棄になって突っ込んでくるも、攻撃できない理由が無くなったヒーロー達に敵うはずもない。

 

『プロミネンス・バーン!!』

 

 最終的にはエンデヴァーの炎熱でヴィランは撃退され、海岸には平和が戻った。

 

 そのついでとして、海岸線を隠していたゴミは全て灰燼と帰したのである。

 

 めでたしめでたし。

 

 

 

『いや、そうはならんだろ!』

 

「いや、ほんとなんですって!?」

 

 にわかには信じられないが、ニュースやら何やらを見る限り、緑谷少年の話は全て真実だ。

 

 どうすんだこれ、試練達成しちゃったぞ。しかも私、前回で『どんな手を使ってもいい』って太鼓判押しちゃったから、ノーカンとも言い辛い。

 

 いや、ここは!

 

『おめでとう。緑谷少年。君は確かに試練を突破したようだ。』

 

「じゃあ。僕の夢を応援して、」

 

『ただし、“第一の試練”を突破に過ぎないがね。』

 

「え、まさかまだ試練が!?」

 

『と、当然だろう!?ヒーローならば、度重なる幾つもの困難を乗り越えなければならない!』

 

「た、確かに!」

 

 緑谷少年。ちょっと素直過ぎない?現在進行形で騙しといてなんだが、ちょっとオジサン心配になっちゃう。

 

 だが、これは好都合だ。悪いが利用させてもらおう。

 

『そうだな。次の試練は猫探しだ!この街で迷子になっているという7匹の猫を、明日までに探し出して貰おう!』

 

 

 翌日、緑谷少年は試練を達成してしまった。

 

 私が帰った後も猫探しを続けていた彼は、爆豪少年とバッタリ遭遇。口論から掴み合いの喧嘩に発展する。

 

 突き飛ばされた緑谷少年は、通りすがりの通行人にぶつかってしまう。フードにマスクという怪しい風貌だったその通行人は、ぶつかった弾みでマッスルフォームへと変身した緑谷少年を見て、

 

『な、まさか俺を追って!?クッソ、役に立たねえなあの情報屋!』

 

 と口を滑らせたそうだ。

 

 そう、彼は手配中のヴィランだったのだ。なんか既視感あるぞこの流れ。

 

 さて、警察に通報しつつ、少年2人はヴィランを追う。奴が逃げ込んだのは下水道に作っていた秘密の研究室だった。

 

 そこには街で攫ったと思われる7匹の猫。違法薬物の実験台として、使うつもりだったらしい。

 

 追い詰められたヴィランは、ラボ内に充満させたガスで少年達を気絶させ、爆豪少年を人質に逃走を図ろうと企てた。

 

 もうあれかな?爆豪少年にはヴィランを惹きつける変なフェロモンでも出てんのかな?

 

 だが、そんなヴィランの企ては失敗に終わる。変身した緑谷少年の威圧で怯んだところを、爆豪少年の爆破で一撃。

 

 こうして奴は、駆けつけたプロヒーローに引き渡され、誘拐された7匹の猫も無事飼い主の下へ送り届けられた。

 

 めでたし。めでたし。

 

「オールマイト。次の試練はなんですか!?」

 

『え、つ、次!?』

 

「はい。当然、まだあるんですよね?試練。」

 

『え、そ、その通り!えっと次は・・・』

 

 どんな試練も無意味だった。

 

・試練を与えられた緑谷少年が、爆豪少年&通りすがりのヴィランと遭遇。

 ↓

・爆豪少年が人質に取られかけ、なんだかんだでヴィラン撃退。

 ↓

・ついでに試練を達成

 

 という黄金パターンだ。なんかもう、見えない力が働いているとしか思えない。

 

 まるでワン・フォー・オールが、緑谷出久を英雄にしようとしているような気さえする。

 

 というかこの街、隠れたヴィラン多過ぎだろ。どうなってるんだ治安は。

 

 いやでも街は関係ないか。一回、街の外なら爆豪少年も巻き込まれないと思い至って、郊外の山で試練を課した事がある。

 

 そしたらその山に、たまたま爆豪少年が趣味の山登りに来ていた。そしていつものパターンだ。

 

「おい!いい加減にしろクソデク!何がどうなってんだ!?何でテメエと一緒にいると、毎度ヴィランに襲われんだよ!?」

 

「ぼ、僕だって分かんないよ!でも、これは、詳しくは言えないんだけど、試練で」

 

「わけ分かんねえ事言ってんじゃねえぞクソナードが!!」

 

 爆豪少年は半ばノイローゼになっていた。無理もない。彼が人質にされた件数は、遂に2桁に達していた。

 

 だんだん彼も、人質に慣れてきたのか、最近は7割くらいのヴィランを、人質にされる前に撃退できるようになっている。

 

 資格なしでの個性使用は違法だが、殆どが急を要する事態であるため、警察側もあまり注意できない。

 

 爆豪少年側からヴィラン側に近づいた結果の事態であれば、警察も強く出れたんだろうが、毎回彼は完全な被害者。責めようがないのだ。

 

 ちなみに、警察などから表彰されまくった影響で、緑谷少年も爆豪少年もちょっとした有名人になってしまった。

 

 爆豪少年なんか、近所の子供達に、「あ、人質マスターだ!」「ほんとだ〜!ヴィラン御用達の人だ〜!」とか言われてキレてた。可哀想に。

 

 さて。どうしよう。そろそろ試練もネタ切れだぞ。それに生半可な試練を振っては、どうせ突破される未来しか見えない。

 

『私は一体、どうすれば緑谷少年の夢を潰せるんだ!?』

 

 今私、凄いヴィランみたいな事言ってるな。

 

『考えろ。考えるんだ。八木俊典。どうすれば緑谷少年に、ヒーローを諦めさせられる!?』

 

 そうだ、サー!

 

 彼に試練を担当して貰おう!彼は無個性だが強い!クッソ重い印鑑をポイポイできるくらいには強い!

 

 いくら緑谷少年でもサーには敵うまい。ならば、サーに勝つ事。それを最終試験にしてしまうんだ!

 

『すまない、オールマイト。私もその緑谷という少年と顔合わせはしておきたい。だが生憎、今日から重要な任務があるんだ。しばらく事務所には戻れない。』

 

『SHIT!!!!!』

 

 ここにきてまさかのスケジュール問題!

 

 他のヒーローに頼むか?いや、仮にも無個性の少年と全力で戦ってくれるプロなんているわけがない。

 

「オールマイト!次の試練は!?」

 

『うぉっ、緑谷少年!?え、えーっと、そうだな〜。』

 

 あれ?気のせいだろうか。何だか緑谷少年の身体に違和感がある。マッスルフォームの塗りが何かいつもと違うというか。

 

 まあ気のせいか。それより、試練だ!次の試練を考えなくては!

 

「あの、オールマイト。できればなんですけど、試練がいつまで続くかを教えて貰ってもいいですか?雄英受験に備えての試験勉強もあるので、その計画も立てないと。」

 

 ほう、緑谷少年はやはり雄英志望か。ん、待てよ。そういや私、来年から雄英の教師になるという話があったな。確か試験にも立ち会う事になっていて・・・待てよ。

 

『緑谷少年。今日で試練は以上だ。』

 

「え、もうですか!?」

 

『もう!?もうって何!?』

 

「いえ、僕はきっと、他の人よりも何倍も頑張らないとダメなんです!僕がなりたいのは、オールマイトみたいな最高のヒーローだから!」

 

『あ、ああ。じゃあここからは、ほら、あれだ。他人から与えられた試練ではなく。自らが課す試練に挑むといい。あと、筆記試験対策も忘れずにな!』

 

「はい!これまで本当にありがとうございました!必ず、雄英に合格して見せます!」

 

 緑谷少年は何故か兎跳びで帰路につく。大変心苦しいが、彼が雄英に受かる事はないだろう。

 

 あそこの試験では、筆記はもちろん、実技の点数が重要になってくる。しかも今回の試験は対ロボットという、バリバリの戦闘系試験。

 

 レスキューポイントの加点があっても、“画風を変える”だけの個性では、ロボを破壊する事などできまい。

 

 つまり最初から、彼は詰んでいたのだ。

 

 だが、私はそれだけで、彼の受験失敗を過信したりはしない。最悪の事態を想定し、次善の策を打っておくのだ。

 

 そう、念には念を入れて、採点を担当する雄英の教師陣にも口添えをしておく。

 

 声をかけるなら、あの2人がいいかな?

 

『やあ、プレゼントマイクに相澤くん。すまないね。こんな忙しい時に時間をとってもらって!』

 

『いやいやぁ、オールマイトの呼び出しとあらばぁ、応じないわけにはいかんでしょ!』

『合理的にいきましょう。先に用件をどうぞ。』

 

 さて、どう説明したものか。伝える内容が内容だけに言葉選びは慎重にしないと。

 

『あの、緑谷出久という少年、分かるかい?ほら、最近よくニュースになってる。』

 

『ええ、もちろん知ってますよぉ!我々の間でも有名ですからぁ!』

『確か、今年の受験生でしたね。それが何か?』

 

『えーっとねぇ。』

 

 緑谷少年を貶すようで気が引ける。だがここは心を鬼にして!

 

『緑谷少年は、その、非常に未熟なんだ。だから、えっと、彼のことを思って、だな。試験の際には、厳しい目で、彼を採点して欲しいんだ。』

 

『・・・・・・』

『・・・・・・』

 

 よし、聡明な2人のことだ。これで私の言わんとしている事を汲み取ってくれるはず!

 

 これで万事抜かりはない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトが去った後の職員室で、プレゼントマイクと相澤消太は先程の事について話し合っていた。

 

『なあ相澤。緑谷出久ってあれだろ?オールマイトの息子って噂の。』

 

『ああ。雄英の入学前から、地元で起きたヴィラン事件、数十件の解決に関わってる。』

 

『ハァ〜、親父さんに似て優秀ってわけだ。大方今日の訪問は、“オールマイトの息子”っていう色眼鏡をとって、他の受験生と同じように、公平に評価してくれっつー念押しだろうな。あの人も真面目っつーか何つーか、』

 

『だからこそあの人は、いつまで経ってもNo.1なんだ。それに、言われなくてもそのつもりだ。どんな生まれだろうと、ヒーローに向いてなきゃ除籍する。』

 

 そう言い捨てて、相澤は視線を手元の資料へと戻す。そこには、まだ見ぬ有精卵たちの若々しい顔が並んでいた。

 

 

 

 

 

 

『緑谷少年。試験の本番、頑張るんだぞ。その、悔いが残らないようにな。』

 

「はい、行ってきます!」

 

 緑谷少年は何故かマッスルフォームのまま、電車を使わずダッシュで試験会場へと向かっていった。

 

 うん、だいぶ緊張してるみたいだな。それだけに、彼に待っている運命を思うと、胸が痛い。

 

 夢破れるのは辛いだろう。だが私のように身の丈に合わない役割を背負って、身体がズタボロになるよりはよっぽどマシだ。

 

 せめてもの罪滅ぼしに、彼は私のヒーロー事務所で雇って、一生面倒を見るとしよう。

 

 ヒーロー知識が豊富な彼ならば、裏方としての方が力を発揮できるはずだ。

 

「オールマイト!雄英に受かりました!主席合格です!」

 

『何ぃ!?』

 

 しかし後日、緑谷少年が告げてきたのは余りにも予想外の結果だった。

 

 どうやら彼は、実技試験開始早々、大量のロボを破壊してヴィランポイントを大量ゲット。お邪魔ロボを大破させて他の受験者を救ったことでレスキューポイントを荒稼ぎ、という事らしい。

 

 そんなバカな。O F Aは画風を変えるだけの個性だ。お邪魔ロボを壊せるパワーが出るなんてあり得ない。

 

『そ、それに、緑谷少年。いつまで変身しているんだい?今くらいは元の姿に戻っても、』

 

「え、変身してませんよ?」

 

『ん?』

 

 彼は何を言ってるんだ?彼は今、マッスルフォームの私に勝るとも思わない筋肉質な体つきで、あれ、おかしいな。この筋肉触れるぞ。画風を変えただけの見せ筋じゃ、実体は無いはずなのに。

 

 もしかして、

 

「オールマイトからの試練と自主試練で、身体を仕上げられました。ヴィランとの戦闘経験があったからこそ、実技試験でもすぐに動けたんだと思います!」

 

 その筋肉マジもんなの!?

 

 なんて事だ。彼は純粋なフィジカルだけで、正々堂々試験を突破してしまったのだ。

 

「その、恥ずかしながら、新聞にも、載っちゃって。」

 

 紙面では、緑谷少年の存在が大きく取り上げられている。そこには、“オールマイトの再来”という見出しが付いていた。

 

『なるほど、どうやら私のしていた事は余計なお世話だったようだ。』

 

「何を言ってるんですか。こんな僕が、ここまで来れたのは、オールマイトがいたからです!それにほら、余計なお世話はヒーローの本質だって、去年のインタビューで言ってたじゃないですか!」

 

『いや、色々違うだろ。それは!』

 

 何はともあれ、おめでとう緑谷少年。

 

「君は最高のヒーローになれるよ。」

 

 私と違って、ね。

 

『はい!必ず最高のヒーローになります!オールマイトみたいな!』

 

 いやだから!君はとっくに私を超えてるんだってば!

 

 私みたいなヒーローを目指す必要なんて、いや、待てよ。

 

 もしも緑谷少年が新たな平和の象徴になれば、私も円満に引退できるんじゃないか!?

 

 彼ならばA F Oを倒す事だってできるかもしれない!うん、彼ならば大丈夫だ!安心して次代を託せる!

 

『緑谷少年。次は君だ!頼んだぞ。』

 

「え?あ、はい!必ず期待に応えてみせます!」

 

 そう、これは、私が最強の後継と出会い、最高のヒーローを辞するまでの物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

『爆豪少年の家にー、私がー、来たーーー!』

 

 ちなみに爆豪少年は総合2位で合格だったらしい。

 

 試練で巻き込んでしまったお詫びも兼ね、彼の家までお祝いしに行った。

 

『いやぁ〜。合格おめでとう!素晴らしい動きだったよ!だって2位!2位だぜ?緑谷少年に次ぐ優秀な成績だ。君も嬉しいんじゃないか?幼馴染と仲良くワンツーフィニッシュなんて!』

 

「っ...!!!!!!」

 

 そしたら、般若のような顔でキレられた。何で?

 

 

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