引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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AFOは計画したい。

 

 

『やっぱカッコいいなぁ〜。オールマイトは。』

 

 オールマイトとの決戦(初手自滅)から13年が経ち、ようやく目を覚ました僕がやること。

 

 それはネットサーフィンだ。

 

 なんせこっちは浦島太郎状態。オールマイトと和解し、自首を成し遂げるという野望のため、まずは情報収集だ。

 

 どこか弟の面影を感じるオールマイトの勇姿を見ることで、ジェネリック与一ニウムも摂取できるから、一石二鳥だ。

 

 どれどれ、手配中の”ウォルフラム“とかいう凶悪敵が、何者かに暴行を受け、拘束された状態で、地元ヒーロー事務所の前に転がされていたという。

 

 ここ数年、世界各地で自警活動を行っている謎の組織の仕業と見て、捜査され・・・

 

 うーん、この事件はオールマイトとは関係なさそうだ。遠い海外のニュースだし。

 

 そんな事より、オールマイトオールマイト!

 

「随分熱心だな先生。やはり気になるか?オールマイトが。」

 

『と、ととと当然だろ?彼は宿敵であり、僕の身体をこんな風にした、憎むべき仇でもある。』

 

 適当な事を言ってドクターを誤魔化す。

 

 僕が自首を企てていることも、ほんとはそんなに強くない事も、ドクターにバレてはいけない。

 

 バレた瞬間、下剋上からの改造人間ルートだ。

 

 って事で、僕が自滅で負った傷も、オールマイトにやられたという事にしている。というか、僕が起きた時から、なんかそういう事になっていた。

 

『そういえばドクター。マキアは一体どこに行ったんだい?』

 

「ああ。彼ならば郊外の山に潜ませている。先生の指示通りにな。」

 

 そんな事指示したっけ?13年前から、ずっと実務はドクターに一任してたからなぁ〜。僕は何となく彼の提案に頷いたり、適当にコメントしてただけだ。

 

 ああ、やっぱり魔王なんて早く辞めたい。一刻も早く自首すべく、オールマイト調べに精を出そう。

 

『ん?何だこれ。』

 

 ふと目に止まったのは、スマホで撮られたと思しき、画質の荒い映像だった。

 

 ツンツン頭の少年を人質にとったヘドロヴィランと対峙し、見事に助けて勝ってみせたオールマイト。

 

『カッコいい!』

 

「ん?」

 

『い、いや、敵ながら天晴れだ。13年経った今も衰えはまるで感じられない。相変わらず侮れない相手だ。ふ、ふっふっふ〜。』

 

「ああ。まったく忌々しい。」

 

 そうそこまではいつも通りだ。問題はその後。

 

 筋骨隆々の緑髪の男が映ったのだ。パッツパツになった学ランを見るに学生か?

 

 それにしてもオールマイトにそっくりだ。もしかして息子さん!?

 

 ネット上での反応も僕と似たようなものだった。

 

「ん?ああ、やはり先生も気になるか。“オールマイトJr.”が。」

 

『あ、ああ。というか本当にオールマイトの息子なのかい?』

 

「さあな。まあ、十中八九そうだろう。全く我々の監視を掻い潜って、いつの間に子供なんてこさえたのやら。」

 

 まあ、確かにあのビジュアル。単なる空似とも思えない。何より、あの少年からもどこか与一の面影を感じるし。

 

 これはオールマイトの息子として間違いないな。

 

『ふっふっふ。』

 

「ん、どうした先生。」

 

『いや、彼ならオールマイト攻略の、良いカードになると思ってね。』

 

 将を射んと欲すればまずは馬を射よ、ともいう。オールマイトと和解するために、その息子さんを懐柔するというのはどうだろう。

 

「なるほど。身内を狙うとは、実に先生らしいやり口だ。」

 

 ドクターがなんか言ってるが無視無視。さて、このオールマイトJr.くんだが、やはり何の情報も無い。

 

 着ている制服に一般的なものだし、校章のようなものは識別できない。ドクターは念のため、周辺の学校全ての学生を調査したらしいが、あんなムキムキの生徒はいなかったという。

 

 僕はもう一度、動画の方に視線を戻す。そこには、仕事終わりの父親を担いで現場を後にする親孝行なJr.が映っていた。

 

『ドクター。どうしてオールマイトは、突然息子を世間に晒したんだろうね?』

 

「確かに妙じゃな。初お披露目というにはグダグダだった。何かアクシデントでもあったのやら。」

 

 アクシデントか。Jr.が飛び出さざるを得ない何か。その原因となったのはヴィランが、或いは人質になっていた、

 

『爆豪勝己、か。』

 

 もしかしたら、Jr.は彼の大親友とかなのかも。それで思わず飛び出しちゃったとか?

 

 それなら、

 

『もし、この爆豪勝己くんがまたヴィランの人質になったりしたら、Jr.の姿を見られるかもしれないな〜。まあ、そんな偶然あるわけないか〜。あはは〜。』

 

「なるほど。確かに“偶然”では、そんな事は起こらんだろうな。早速、子飼いの手足にあたってみよう。」

 

 ん、何かドクターがブツブツ言いながらどっか行っちゃったぞ?

 

 まあ良い。そんな事より、出かける準備だ。僕も、現地へ足を運んで、情報を集めるとしようじゃないか!

 

 

 

「静岡の、ヘドロヴィランの騒動があった辺りだ。ターゲットは、爆豪勝己という少年。ああ、適当な捨て駒を唆して、誘導してくれ。」

 

 主からの指示を受けて、早速裏から手を回す。

 

 先生は恐らく13年前から、いや、恐らくそれよりずっと前から、己が死に瀕する事を予期していたのだろう。

 

 だからこそワシに、組織の権限を託してくれていた。自分がいなくとも、問題なく組織が機能するように。

 

 そのおかげで“手足”の使い方にもだいぶ手慣れてきたものだ。まあ、先生の足元には遠く及ばないのだろうが。

 

「おお、やはり動いたか。オールマイトJr.。」

 

 今回も先生の読みは正しかった。爆豪という少年を突っつくと、毎回Jr.は現れる。何らかの関係があるのは間違いない。

 

 人とマシンの両方で、爆豪の身辺を調査させたが、満足な結果は得られなかった。

 

 人の方は偶然オールマイトを見かけて心臓発作でダウンしたり、マシンの方は暴れたヴィランの巻き添えで壊れたり。

 

 何をされたか分からないまま、通信が途絶えたソレらも少なくない。

 

 とにかく、向かわせた全てが見事に迎撃されてしまったのだ。

 

「何かあるのは間違いない。じゃが、今はあまり突っつかん方がいいな。藪蛇になりかねん。」

 

 今はただ、先生からの指示を待とう。あの人はきっと、ワシなどでは考えつかないような、恐ろしい知略を巡らせているはずだ。

 

 

 

 

 

『おいおい、嘘だろ?不運すぎるだろ。爆豪って子。』

 

 アレから彼は毎日ヴィランに襲われている。この目で見たから間違いない。

 

 おまけに、彼をストーキングする不審者やスパイロボットまでもがウジャウジャと現れたのだ。まあ、そっちの方は通報するなり、コッソリ壊すなりで何とかなったが。

 

 一体誰がこんな酷い事を。流石に心配になって、彼をしばらく見守ることにした。

 

『あ。あの男の子緑髪だな。おお、変身したぞ。デク?デク君か。彼がJr.の正体か。なるほどなるほど。』

 

 幸い、Jr.の正体は知れた。緑谷出久と言って、お母さんと2人暮らしだそうだ。お父さんは長い海外出張に出ていて、近所の人も誰も姿を見た事がないという。これはもう、オールマイトの息子確定だな。

 

 さて、住処も家族も素性も全て抑えた。こうなればやる事は一つだ。

 

 菓子折りを持って、緑谷家にご挨拶だ!いざ!

 

 勇気を出してチャイムのベルを押してみると、緑髪の優しそうなご婦人が出てくる。彼女は僕を快く出迎えてくれた。

 

『どうも〜。いや〜、お宅のご主人とは“仕事上の付き合い”がありまして。』

 

「まあ、主人と?」

 

『今度また、その仕事でご主人にお世話になるかもしれないので。折角ならご挨拶をと。偶然、こちらを通りかかったので。』

 

「それはまあご丁寧に。こちらこそ主人がお世話になってます。ウチのがその、仕事でご迷惑をお掛けしたりは、」

 

『迷惑だなんてとんでもない!確かにご主人には(物理的に)顔を潰された事もありますが、』

 

「顔を潰された(比喩表現)!?まさか主人は何か取り返しのつかないミスを、」

 

『いえいえいえ!アレは私のミス(自滅)ですから!』

 

「すみません!ウチのは気持ちの優しい人なんですけど、どうもそそっかしいとこがあって、」

 

『確かに!でも僕は、そんな彼(オールマイト)のお茶目なところも大好きなんですよ!』

 

 話はご主人(オールマイト)という共通の話題があったせいでかなり盛り上がった。なかなかの好感触だ。

 

『そういえば、出久君はどちらに?』

 

「ああ。今日はなんか、郊外の山?に行くみたいです。出久は雄英を志望しているので、最近はトレーニングを頑張ってて。」

 

『ほお、それは素晴らしい!立派な息子さんですね!』

 

 なるほど。緑谷君は雄英への受験を控えているのか。それで修行中という事か。才能に胡座をかかず努力できるなんて素晴らしい。

 

『それではまた。今日は急に押しかけて申し訳ありませんでした。』

 

「いえいえ、大したお構いもできなくて。また是非遊びにいらしてください!」

 

『ええ。今度は必ずご主人と一緒に。』

 

 奥さんに別れを告げて、エアウォークで緑谷くんが修行をしているという山へ向かう。

 

 奥さんとあんなに仲良くなれるとは思わなかった。この勢いで緑谷少年ともお友達になってしまおう!

 

 これがきっと、オールマイトとの和解への第一歩だ!

 

 

 

 

『危ない危ない。まさか爆豪くんもこの山へ来てて、またしてもヴィラン騒動に巻き込まれているとは。』

 

 爆豪君。もうお祓い行ったら?呪われてるとかのレベルだろ。

 

 ヒーローやら警察やらが現場を去るまで、洞窟に身を隠していたら、声をかける前に緑谷少年は帰ってしまった。

 

 チラッと見た彼は前よりガタイが良くなってるな。成長期って素晴らしい。受験に向けて相当気合いが入ってる。

 

『あれ?もしかして、この時期に来られるのは迷惑だったかな?』

 

 一生に一度の大切な高校受験だ。緑谷君はその準備で一分一秒が惜しいはず。

 

 僕の我儘でその貴重な時間を奪う事はできない。魔王にだって、奪っちゃいけないものくらいある。

 

 そうだ。会いに行くのは彼が雄英に受かってからにしよう!まあ、彼ならきっと受かるだろうし!

 

 よし、決めたぞ!

 

『僕は雄英に乗り込む!』

 

 そして、雄英高校の中で、大勢の生徒が見守る中、オールマイトに自首をして、和解を申し出るのだ。

 

 いかにオールマイトが僕を憎んでいようとも、可愛い生徒の前で自首しに来た無害な男を、八つ裂きする事はできまい。

 

 一応、嘘泣きの個性でもストックしておくか。どんな汚い手を使ってでも、オールマイトが僕を殴り辛い雰囲気を作ってやる。

 

 さて。そうなると問題となるのは雄英への侵入経路だ。

 

『正面突破、は止めておこう。それでは多くを敵に回しすぎる。そうだ、あの個性を使えばいい。』

 

 ドクターが便利だと言ってたとある個性。ソレなら雄英の内部にピンポイントで潜り込める。

 

『僕には”ワープゲート“がついている。雄英への侵入は造作もない。ふっふっふ。』

 

 よしいいぞ。風は僕に吹いている!

 

『決行は雄英の入学式から2週間後!今からあと三ヶ月後だ!』

 

 入学式直後は、学校側もバタバタしてそうだからな。それが落ち着いた頃に作戦は決行だ!

 

 大丈夫。きっと上手くいく。

 

 だってこれは、僕が完璧な計画で、オールマイトと和解し、自首するまでの物語なんだから!

 

 

 

 

 

 

 

 僕は知らなかった。その時、身を潜めていた洞窟が、我が忠実な部下であるギガントマキアの寝床になっていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

『主よぉ。ずっと待っていたぁ!俺は一体、何をすればぁ!』

 

 もう13年になるだろうか。主が復活し、再び命令を下さるのを、ずっとずっと待っていた。

 

 ようやくだ。暗く静かな洞窟の中に潜み続けた日々が、報われる刻が来た。

 

『危ない危ない。まさか爆豪くんもこの山へ来てて、またしてもヴィラン騒動に巻き込まれているとは。』

 

 間違いなく主の声だ。主人の匂いだ。主が帰ってきたのだ。俺を迎えに!

 

 身を潜めているのか、主の声には独り言としか思えない程のボリュームだ。

 

 だが、”犬“の個性で聴覚が発達した俺ならば、問題なく聞き取れる。そう、これは主から俺への秘密の通信なのだ。

 

『あれ?もしかして、この時期に来られるのは迷惑だったかな?』

 

 迷惑だなんてとんでもない!早く命令を!俺は一体何をすれば!?

 

『僕は雄英に乗り込む!』

 

 雄英に乗り込む。

 

 ソレが俺の役目か。雄英、知っている。ヒーローどもの学校だ。

 

 久しぶりに暴れられる。街を踏み潰し、命を蹂躙しながら、そこへ向かうとしよう。

 

『正面突破、は止めておこう。それでは多くを敵に回しすぎる。』

 

 なに!?それはダメ、なのか。途中で暴れられないのは残念だが、主の命令なら仕方ない。

 

『そうだ、あの個性を使えばいい。』

 

 あの個性?そうか。地中を移動できる”土竜“の個性か。確かにソレなら、侵入には打ってつけだ。

 

 だが地中を掘り進んでいる間は、雄英の正確な位置が把握できない。道標でもあれば話は別なのだが。

 

『僕には”ワープゲート“がついている。雄英への侵入は造作もない。ふっふっふ。』

 

 なるほど。雄英に侵入した主の匂いを道標に、掘り進めればいいのか。

 

『決行は雄英の入学式から2週間後!今からあと三ヶ月後だ!』

 

 分かった。

 

 主よ。貴方の命令通り、3ヶ月後、この手で雄英を襲撃し、殺戮の限りを尽くす!

 

 お喜びになった主の顔が今から楽しみだ。

 

 

 

 

 

『お、緑谷くん。試験を主席合格か〜。流石だな〜。よーしそろそろ、雄英への自首ツアーを準備するか〜。』

 

 この時の僕は知らなかった。この訪問が、雄英史上最悪の敵襲撃事件にまで発展する事。

 

 そしてその先に、最悪の再会が待っている事を。

 

 

 

 

 

 

 

『ねえねえドクター。君が前に言ってた、ワープゲートって借りられるかな?』

 

「ああ、構わんぞ。」

 

 もう間も無く、雄英では入学式がある頃か。僕の、雄英押しかけ自首計画もいよいよだ。

 

 その鍵となるのが、目的地への転移を可能とするワープゲートの個性だ。

 

『本当に便利な個性だね。どんな場所にも繋げられるんだろう?』

 

「まあ、一部例外はあるがな。転移には正確な位置座標も必要だ。」

 

『え?』

 

 ちょっと待ってくれ。話が違くないか?

 

「まあ、その辺りの調整はワシに任せろ。教えてくれ。先生の目的地は何処じゃ?」

 

『えっと、それは・・・」

 

「なんだ、随分勿体ぶるじゃないか。場所によっては座標の割り出しに時間がかかる。意地の悪い事はしないで早く教えてくれ。」

 

『え、えっと、雄英、です。』

 

「ほぉ。」

 

『いや、べ、別に自首しようだとか、オールマイトと仲直りしようとかは思っていないさ!ただ、”僕が復活した“という事を知らしめてやろうと思ってね。よ、要は殴り込みだよ。あは、あははは。』

 

 咄嗟の思いつきで誤魔化してみる。正直、苦しいかもと思ったが、ドクターは信じてくれたようだ。

 

「いきなりやる事がそれとはな。流石は先生だ。」

 

『い、いやぁ〜。まあね〜。』

 

「脳無は何体連れて行く?丁度、対オールマイト用に調整したとびっきりの個体が、」

 

『い、要らないよ!!!』

 

「ん?」

 

 そんな物騒な奴ら、連れてけるわけないだろ!化け物連れて自首しに行く魔王がいるか!

 

 ・・・とは言えないし。どう誤魔化そう。うーん、これしかないか。

 

『1人で十分だ。歳をとったオールマイトや、有精卵、現場から退いた教職ヒーローに、この僕が遅れをとるとでも?』

 

「おお、なんという不遜!それでこそ、この世界に君臨する魔王だ!だが、無理だけはするなよ。先生は病み上がりなんだ。」

 

 よし、これで雄英に乗り込むのは僕1人だ。後はちゃっちゃと自首って、ヒーロー達にドクターを売る!

 

 長年尽くしてくれたのに、すまない。君の技術と思想は余りにも危険すぎるんだ。

 

 ってわけで、僕と一緒にタルタロス入ろうな。

 

 そんな事を僕が考えているとも知らず、ドクターは話を続ける。

 

「なるほど。先生1人だけなら、移送も楽そうだ。ワープゲートも、もうすぐ海外遠征から帰ってくる頃だしな。」

 

 ん?帰ってくる?もしかしてワープゲートって、人なのか?

 

「それより、雄英への襲撃はいつなんじゃ。決行日は?」

 

『2週間後だ。』

 

「そんなに早いのか!?それは、少し弱ったな。さっきも言ったが、ワープには正確な位置座標が必要で、それを得るためには、雄英の内部にスパイを送り込む必要がある。今からだと正直キツイぞ。」

 

 な、なるほど。それなら、自首はこの際延期にするか?

 

「まあ、一応こっちに引き込める者がいないかを、あたってみるが、」

 

 そう言って彼は、顔写真付きの資料を漁り始める。アレは、今年の入学生だろうか。

 

 その中に見覚えがある金髪の少年を見つける。

 

『ドクター。心あたりがあるんだ。そっちは僕に任せてくれないか?』

 

 1枚だけ資料を抜き取る。そこには、かつて”ネビルレーザー“を授けた無個性の少年・青山優雅の姿があった。

 

『優雅くん。大きくなったな〜。』

 

 ヒーローに憧れながらも、無個性に苦しむ当時の彼は、どこか弟と重なって見えた。

 

 それもあって、彼のことは随分と気にかけていたつもりだ。

 

『優雅くん久しぶり〜。憶えてるかな〜。A F Oおじさんだよ〜。』

『お父さんとお母さんは元気かな?ちゃんといい子にしてるかい?』

『君はきっと大者になれるよ。将来が楽しみだ。ふふふっ。』

 

 お父さんの仕事の影響なのか、やたらと引っ越しが多かった彼の様子を、定期的に見に行ったりもしていた。

 

『そうか彼も雄英に入れたのか。これはめでたい。頼み事ついでに盛大にお祝いしよう。そうだ、ケーキでも注文して持ってこう。キラッキラにデコレーションして貰おうんだ。彼、そういうの好きだし!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「優雅。改めて、雄英への入学、おめでとう。」

「今までよく頑張ったわね。」

 

「何言ってんのさ!それもこれも全部、パパンとママンのおかげだよ⭐︎」

 

 僕は生まれつき皆んなと違った。個性が無かった。

 

 パパンとママンは、僕以上にその事を気に病んでいたんだと思う。だから、”個性を譲渡できる者”の噂に縋った。

 

 そして噂は本当だった。僕が後天的に授かったその個性の名はネビルレーザー。ヘソから長射程・高威力のレーザーを出す眩い個性だった。

 

 身体に馴染まなかったが、パパンとママンはそれを制御するためのサポートアイテムまで与えてくれた。

 

 僕はずっと、与えられてばっかりだ。でもそのおかげで、僕は皆んなと同じになれた。このまま努力を続ければ、夢にも手が届く。ヒーローにだってなれる。

 

 そう自惚れてしまったんだ。

 

『優雅くん久しぶり〜。憶えてるかな〜。A F Oおじさんだよ〜。』

 

 取り返しがつかなくなった後で気づいた。僕が縋ってしまったのは、悪魔の手だったと。

 

 A F O。裏社会に君臨し続ける闇の帝王。数々の悪事に手を染め、敵対したどんな凶悪な組織も容赦なく叩き潰してきた、魔王と呼ぶに相応しい存在。

 

 僕にその正体を知られた後も、彼は何食わぬ顔で家族に近づいてきた。

 

『お父さんとお母さんは元気かな?ちゃんといい子にしてるかい?』

 

 決死の覚悟で海外へ逃げたこともある。だが無駄だった。どこへ逃げようとも、A F Oを振り切れない。奴はいつも、虫も殺さぬような明るい笑顔に冷徹な本性を隠して、僕の前にやってくるんだ。

 

『君はきっと大者になれるよ。将来が楽しみだ。ふふふっ。』

 

 怖い。

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 

 僕をどう利用するつもりなのか、それは分からない。具体的な命令はまだ一つもないからだ。だが確かなことがある。僕はこの先、一生彼の呪縛から抜け出せない。

 

 そう思っていたのに。ある日、奇跡が起きた。

 

『私が来た!!!!!!!』

 

 救世主が魔王を討ち滅ぼしてくれた。思いがけず、僕はその呪縛から解放されたんだ。

 

 あの日の事は忘れられない。家族全員で涙を流して喜んだ。これでもう何に縛られる事もないんだと。

 

 その日から僕は、自分の本当の夢を追い求めるようになった。コツコツと重ねた努力が身を結び、とうとう雄英への入学も果たした。

 

 今日はそのお祝いだ。パパンとママンが、とっておきの店を貸し切りにしてくれた。

 

「今日は、雄英の初日だったんだろう?どうだったんだ?」

「お友達はできそう?優雅。」

 

「ノープロブレム!周りは僕に勝るとも劣らない、眩い子達ばっかりさ!楽しい学校生活になりそうだ⭐︎」

 

 クラスには、オールマイトの息子と噂される緑谷くんもいる。今日は体力テストがあったが、彼の叩き出す記録は凄まじかった。爆豪くんと轟くんも、それに拮抗する力を持っていた。

 

 負けていられない。絶対に叶えてみせる。

 

 オールマイトのような最高に眩しいヒーローになるっていう、僕の本当の夢を。

 

 

 

 

『優雅くん久しぶり〜。憶えてるかな〜。A F Oおじさんだよ〜。雄英へ入学したんだって?おめでとう〜。今日はそのお祝いに来たんだ。』

 

「な、な、なっ、なんで、貴方がっ、」

 

 夢は現実へと還る。

 

 恐ろしい魔王は、あの頃と同じ虫も殺さぬような優しい笑顔で、僕の元に帰ってきた。

 

 

 

 

 

『優雅くん久しぶり〜。憶えてるかな〜。A F Oおじさんだよ〜。雄英へ入学したんだって?おめでとう〜。今日はそのお祝いに来たんだ。』

 

 青山一家と久々の再会だ!

 

 彼らの予約していた店が、たまたま僕がオーナーをしていた所で良かった。

 

「な、な、なっ、なんで、貴方がっ、」

 

 青山一家はかなり驚いてくれている。いいリアクションだ。

 

 だが、僕の生存を喜んでくれてるのは間違いない。だってほら、3人とも喜びで肩を振るわせて、嬉し涙まで流してくれている。

 

 何ていい人達なんだ!

 

『そうだ。優雅くんの雄英入学祝いとして、特注のケーキを持ってきたんだ。是非受け取って欲しい。』

 

「あ、あああ、は、はいっ!」

 

 行きつけのケーキ屋さんで、ゴッテゴテのデコレーティンをして貰った、自慢のケーキだ。

 

 マジパンで作った、青山一家3人の可愛い人形を乗っけて貰った。もちろん食べれる奴だ。派手好きな彼らなら、きっと喜んでくれるだろう。

 

「ひ、ひいっ!!!!!」

 

 だが、感動からか恐る恐る箱を開けた優雅くんは、中のケーキを見て、悲鳴と共に腰を抜かす。

 

『そんなに嬉しかったのかな?それなら僕もわざわざ用意した甲斐がある・・・あ、』

 

 きっと、エアウォークでここまで来たせいだ。ケーキの箱を揺らしすぎた。

 

 ケーキは崩れ、青山一家のマジパンは頭が粉々に砕けている。上に乗ってた苺も潰れて、青山一家の返り血みたいになっててグロい。

 

 何これ縁起悪っ!!!

 

『いやぁ〜、すまない。僕はそそっかしくてね〜。ちょっとした弾みで、こういう脆いのを直ぐに壊してしまうんだよ。はははっ。』

 

「「「っ...!!!!!」」」

 

 どうしようこの空気!

 

 青山一家の3人、黙っちゃったじゃないか。全員、目を合わせてくれない。なんか気まず過ぎて、僕が3人を脅してるみたいな雰囲気だ。

 

 もう、ここはしれっと本題に入るっきゃないか。

 

『そういえば優雅くん。君に頼みたいことがあるんだが、』

 

「は、はい!なんでもやります!だから、パパンとママンだけはっ」

 

『明日からも学校だろう?これから毎日、雄英に入る時はコレをつけてって欲しいんだ。』

 

 僕が彼に手渡したのは、ドクター謹製の小型機器だ。

 

「こ、これはっ?」

 

『盗聴器と発信機がついててね。リアルタイムで音声と座標を発信し続けてくれるんだ。』

 

「ゆ、雄英へのスパイになれって、ことですか?」

 

『まあ、そうなる。僕は近いうちに、雄英を訪ねようと思っていてね。そのために君の助けを借りたいんだ。』

 

「っ...!!」

 

 青山くんは余り気乗りしてないな。当然だ。彼はヒーロー志望なんだし、表向きは魔王な僕のスパイになるなんて、論外だ。いくら仲良しとは言え、こうやって会っていることすら本当は不味いのかもしれない。

 

 だが、落ち着いて聞いて欲しい。僕は別に悪いことをしに行くんじゃない。自首しに行くんだ。ならばその手助けは、寧ろヒーローらしい行動だと言えるんじゃなかろうか。

 

『安心してくれ優雅くん。君のクラスメイトや先生は、一切傷つけないと約束しよう。』

 

「そ、っそ、それは、本当、ですかぁ?」

 

『酷いなぁ〜。優雅くんは、僕が友達に嘘を言う男だと思ってるのかい?』

 

「っ!いや、そ、そんなつもりじゃ、」

 

 僕が事情を説明しても、優雅くんは首を縦に振ってくれない。

 

 そうだ。もっと、僕が自首することの重要性をアピールすればいいんだ!

 

 僕が自首しなければ、野放しになるであろうドクターの危険性。それをしっかりと説明すればいい!

 

『部下の1人に、とあるマッドサイエンティストがいてね〜。僕は止めているんだが、いつ、君やお父さん達のような無辜の民を素体にして、改造人間を作るか、分からないんだ。僕の言いたいこと、理解してくれるだろう?』

 

「はい分かりました。だから、パパンとママンだけは、どうか、お願いします。

 

 お、おお。僕が自主することの意義を分かってくれた、のか?でも、

 

『どうしたんだ優雅くん。顔色が悪いじゃないか。やっぱりやりたくないのかい?』

 

「い、いえっ、僕は別にっ、」

 

 優雅くんが本当に辛そうだ。やっぱり、無理強いするのはよくないかも。

 

『無理にとは言わないさ。そこまで君が嫌がるなら仕方ない。さっきの件は忘れてくれ。』

 

 今日のところは、この潰れたケーキだけ回収して、お暇するか。にしても、このケーキどうしよう。僕もドクターもあんまり甘いもの食べないからな〜。

 

『勿体無いけど仕方ない。使い道も無いだろうし、処分しよう。』

 

「しょ、処分!?」

 

 僕がケーキに手を伸ばしたその時だった。優雅くんは跪いて僕の脚を掴む。そして涙ながらに訴えかけてきた。

 

「僕が!僕がやります!必ずやり遂げてみせます!絶対、絶対失敗しません!だからどうかっ、この通りです!」

 

 ・・・優雅くん。どしたん?

 

 ちょ、ちょっと落ち着こう。ほ、ほら、優雅くんのパパンとママンもフォローしてくれってば!

 

「私たちもできる限りの協力はします!」

「お願いしますお願いしますお願いしますお願いします!」

 

 アレェ!?優雅くんのパパンとママンまで、彼と同じ体勢に!?

 

 涙ながらに跪く家族と、それを見下ろす僕。これじゃあまるで悪の魔王じゃないか。うん、悪の魔王だったわ。ってそんな冗談を言ってる場合じゃなさそうだ。

 

 と、とりあえず、僕はこの場から消えた方が良さそうだ。一応、ドクターの発信機だけは置いていこう。スパイの仕事を優雅くんに任せると言わない限り、この場は収まりそうにない。

 

 だがせめて、最後に一言。優雅くんにフォローを入れておこう。

 

 彼はなんだかんだで僕の頼みを聞いてくれたし、あの涙だって、誰か大切な人を思って流してるって事くらいは分かる。

 

 彼は優しい子だ。小さい頃からそれは知っている。だからこそ、彼は良いヒーローになれると思うんだ。

 

 それを踏まえてこの言葉を送ろう。

 

『ありがとう優雅くん。助かったよ。君は最高のヒーローだ。僕にとっての、ね。』

 

「っ......!!!」

 

 あれぇ!?青山くんが過呼吸になっちゃった!救急車ー!誰か救急車呼んでー!

 

 

 

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