引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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オールマイトは計画したい。

 

 

『私がー、出勤してー、来たー!』

 

 今日も雄英教師としての1日が始まる。

 

 決め台詞と共に職員室へ入っていくと、朝からハイテンションのプレゼントマイクが出迎えてくれる。

 

『Yo,オールマイトォ、朝からご機嫌だなぁ〜!ティーチャー生活、楽しんでくれてるようで、何よりだ!』

 

『ああ、まあね!』

 

 教師世界は素晴らしい。事件があっても出動しなくていいのだから。私は危険な目に遭う事は無いし、現場にはまともなヒーローが派遣される。これぞWin-Winだ。

 

 教師としては(無論ヒーローとしても)ズブの素人だった私も、先輩先生達のサポートもあって、ここでの生活にもだいぶ慣れてきたしな。

 

『そうだ、プレゼントマイク。日頃のお礼にコイツを受け取って欲しいんだが。』

 

『WAO、オールマイトからの贈り物なんて光栄だな、でかっ!』

 

 僕が指差した小包みのサイズに、プレゼントマイクも目を丸くする。

 

『友達に依頼して、君のサポートアイテムを作ってもらったんだ。ぜひ役立ててくれ!』

 

『おいおいおい。良いのかよ、こんな手間と金が掛かってそうなの、貰っちまって。』

 

『当然だ。君にはいつもお世話になってるからね!』

 

 教師として赴任してから、プレゼントマイクの助言と明るさ、そして言いたい事をスパッと言ってくれる真っ直ぐさには、かなり助けられてきた。

 

 これはせめてものお礼だ。

 

『サンキューな!オールマイト。大事に使わせて貰うぜ!!』

 

『そうだ、今日私、A組の皆んなとUSJで救助演習をやる事になってるんだ。どうだろう。そこで早速、プレゼントの試運転ってのは。』

 

『なるほど。確かにあそこはだだっ広くて、丁度いい。3年の授業で、ちょいと着くのが遅れちまうだろうが、そうさせて貰うぜ!』

 

『ああ。待ってるよ。』

 

 プリントを抱えて、職員室を出ていくプレゼントマイクを見送る。よし、これで仕込みは万全だ。

 

 さて、緑谷少年が雄英に主席入学してから、本当に色々な事があった。

 

 とりあえず、爆豪少年にはO F Aのあれやこれやを全て正直に話した。流石に巻き込み過ぎたし、隠し通すのも、無理そうだったし。しょうがない。

 

「ハッ、気に入らねえ!オールマイト。この雄英でアンタに思い知らせてやるよ。デクじゃなく、俺を選んどきゃよかったってなぁ!」

 

 遺恨は残らないでも無かったが、爆豪少年はひとまず事実を飲み込んだ。

 

 答えを見つけるのはまだまだ先かもしれないが、彼はひとまずそれを探す道のスタートラインに立てたのだ。ここからは真っ直ぐに進むだけ。もう伸び代しか無いだろう。緑谷少年とは、互いに高め合う良きライバルとなって欲しいものだ。

 

 それにしても、今年のA組は本当に粒揃いだ。

 

 緑谷・爆豪両少年の他にも、プロヒーロー・インゲニウムの弟である飯田天哉くん。

 

 そして、僕の大親友である現役最強ヒーロー・エンデヴァーの三男である轟焦凍くん。久々に会ったら、立派に大きくなっててビックリだ。その“綺麗な顔”と実力も相まって、女子にはさぞ人気だろう。

 

 人気といえば、我が後継である緑谷少年も色々な意味で人気者だ。首席合格の肩書きもそうだが、どちらかというと私絡みの話題の方が主因っぽい。

 

「ねえねえデク君。オールマイトって、家だとどんな感じなん?」

 

「いや麗日さん。オールマイトと僕は一緒に暮らしてるわけじゃなくて。」

 

「そっか〜。有名人がお父さんだと大変やね〜。」

 

「いやだから、僕とオールマイトは親子でもなんでもなくて、」

 

「そうだぞ麗日君!オールマイトがメディアでの明言を避けている以上、俺たちも緑谷君の友人として、気付かないふりをしておくべきだ!」

 

「飯田君まで!?」

 

 まあ相変わらず勘違いはされたままだが。とは言え、彼本来の優しい性格も相まって、級友とは良い友人関係を築けているようだ。

 

 入学初日のスポーツテストに戦闘訓練で確かな実力を見せた事もあって、彼はクラス内でも一目置かれた存在になっている。

 

 教師陣からの評判も凄くいい。『息子さ、あ、いや、緑谷君。大変優秀ですね。現場主義の貴方が第一線を退いてまで、雄英に赴任してきた理由が分かりましたよ。』みたいなコメントを沢山頂いている。生暖かい笑顔と共にだ。

 

『何というか、私はとんでもない傑物を目覚めさせてしまったのかもしれない。』

 

 実力に人望。彼は既に次世代の平和の象徴として、その片鱗を見せている。彼とエンデヴァーがいれば、この先のヒーロー社会も安泰だろうな。

 

 これで私も気兼ねなく、引退活動に専念できるというものだ。

 

『ああ、13号先生。明日のUSJでの救助訓練、よろしく頼むよ。すまなかったね。私の我儘聞いてもらっちゃって。』

 

『いえいえ。生徒達も喜ぶと思いますよ。No.1ヒーローである貴方の実技演習なんて。息子さ、いや、緑谷君にも最高にカッコいいとこ見せちゃってください。』

 

『AHAHAHA・・・』

 

 悪いな13号先生。明日私が見せるのは最高にカッコいい姿じゃない。最高にカッコ悪い姿なのさ!

 

 A組の生徒が見ている前で救助の実技演習を行い、無様に失敗するのだ。勿論、わざと失敗するような狡い真似はしない。正々堂々、実力で無様を晒して見せる。

 

 私のクッソみたいな実力では、どんなに簡単な救助演習でも、失敗する自信があるからな!

 

 さて、するとどうなるか。

 

「オールマイト、てめえクソ雑魚じゃねえか!ずっと俺たちを騙してやがったのかぁ!死ねえ!」

「なんか、思ってたんとちゃうなぁ、オールマイト。もしかして、口だけの男だったん?」

「失望しましたオールマイト!全ヒーローの規範たるべき貴方が、その程度の実力では周囲に示しがつきません!早く引退してください!」

 

 そう。A組の諸君から、私は盛大に失望されるのだ。

 

 更に、そんな私の醜態は雄英全体へと瞬く間に拡散されるのだ!

 

 そう、プレゼントマイクの手によって!

 

 先ほど、彼へと送ったプレゼント。アレは高出力のメガホンだ。ただでさえ大きい彼の声を更に遠くまで飛ばせるよう、デイブに作って貰った。

 

 USJでは、その試運転という形で、私の救助演習の様子をマイクに実況して貰うのだ。言葉のプロたる彼ならば、キレッキレのワードセンスで私の無様さをこき下ろしてくれるはず。

 

 そしてその実況音声は、メガホンによって増幅され、USJから遠く離れた雄英本校舎にてリアルタイムで響き渡るだろう。

 

 ソレを皮切りに、私が無能だという真実は社会全体へと伝播していき、肩書きだけのヒーロー・オールマイトは無事に引退へと追い込まれるのだ。

 

 優秀な緑谷君が、無能な私の息子であるはずはないと、親子疑惑もついでに払拭されるだろう!

 

 うん。我ながら完璧な計画だ!

 

 何か予想外でのアクシンデトでもあれば話は別だが、管理も警備も行き届いたUSJで、そんな事が起こるはずもない。

 

『これで引退間違いなし!待ってろよUSJ!待ってろよ引退生活!』

 

 

 

 

 

 この時の私は知らなかった。これから起こる最悪の事態を。恐るべき危機が雄英へと迫っていたことを。

 

 

 

 

 

 

『いやぁ〜、緑谷少年〜。今日のUSJ、楽しみだな〜。』

 

「オールマイト。今日はいつにも増してハイテンション高いですね。」

 

 USJへと向かうバスの中。自らの引退に思いを馳せ、ウッキウキの私は緑谷少年へと話しかける。

 

「そうだ、オールマイト!戦い方について相談したい事があって、」

 

『緑谷少年。戦い方についての相談なら、相手を間違ってないかな?』

 

「いえ。貴方に相談したいんです!今、空を走る練習をしてるんですけど、行き詰まってて。オールマイトにヒントを貰いたいんです!」

 

『空を走る!?ヒント!?いや知らんて!』

 

 というか、バスに乗り込む際、ちょっと不思議な事があった。A組の皆んなが、緑谷少年の隣の席を譲ってくれた気がするのだ。あれは何だったんだろう。気のせいかな?

 

「ケロ。緑谷ちゃんとオールマイト、楽しそうに話してるわね。」

 

「貴重な親子の時間、やね。」

 

 周囲からも生暖かい視線を感じる。これも気のせいなんだろうか?

 

 

 

 

 

 

『USJにー、私たちがー、来たー!』

 

 程なくして、A組20人の生徒と私、相澤先生に13号先生は、USJへと到着した。

 

 相変わらず凄いなここ。これだけの設備を用意するのに、一体どれだけの費用が掛かっているのやら。生徒達もその壮大さに目をキラキラさせている。

 

 おや?あの金髪の子は、青山優雅くんか。

 

僕はできる僕はできる僕はできる僕はできる僕はできる僕はできる。

 

 何だか様子がおかしい。顔色が悪いし、体もびくびくと震えている。これは間違いないな。

 

 ウ◯コだ。

 

 青山くんはウ◯コを我慢しているに違いない。確か彼の個性は、使いすぎるとお腹が痛くなるという話だし。

 

 あれ、青山くんが級友たちの下を離れ、移動し始める。

 

 やっぱりウ◯コか。

 

 だが青山くん。ソッチにトイレは無いぞ。トイレだったら、ここから車で5分くらい行ったとこにしかない。事前にその説明もあったはずだ。

 

 それなら、どうして青山くんはあんな茂みの中に、

 

 まさかそこでウ◯コか!?

 

 ダメダメダメダメ。ソレは流石に美しくないぞ青山くん!

 

 13号先生とかに言えば、トイレに連れてってもらえるって!ちょっと時間はかかるだろうけど!

 

 話題が話題だ。大事にすれば、青山くんの今後の学校生活に関わる。

 

 私はそっとクラスの輪から離れ、青山くんを追いかけた。

 

 お、見つけたぞ!よし、まだズボンを下ろしてはいないようだ!

 

『青山くん。』

 

「っ!?オールマイト...!」

 

 僕の声に驚いた青山くんは、身体をビクリと震わせて驚き、手にしていた小さな機械(?)を取り落とす。コロコロと転がって、イケポチャしたソレに目もくれず、彼は恐る恐るといった様子で此方を振り返る。

 

 その顔には脂汗が浮かび、その目は絶望に染まっていた。

 

 無理もない。彼は今、野糞をしようとした現場を、教師に押さえられたという、地獄みたいな状況なのだ。

 

『こんなところで何をしてるんだい?』

 

「それは、それはっ、そのぉ、」

 

 青山くんの口から漏れるのは、普段からでは考えられない程のか細い声。

 

 流石にソレを本人の口から言わせるのは酷だろう。

 

『いや、すまない。ソレを言う必要はない。君がやろうとしていた事は、何となく分かっている。』

 

「っ...!なるほど。流石はオールマイトですね。」

 

 青山くんは観念したように目を伏せる。いや、気持ちはわかるが、落ち込みすぎだって。

 

「経緯はどうあれ、こうする事を選んだのは他ならぬ僕の意思です。覚悟はできてます。ぶん殴るなり、警察に連れて行くなり、好きにしてください。」

 

 野糞未遂くらいで、そこまではしないよ!?

 

『落ち着けよ青山くん。そんな事はしないさ。君を責めるつもりもない。仕方なかったんだろう?君の個性の事は、全て知ってる。』

 

 そう、仕方ないんだ。なんせ彼の個性は、使うたびにお腹が痛くなるというもの。こればっかりは本当に仕方ない。

 

「なんでっ、なんでっ、僕を責めないんですか!?」

 

 青山くん、泣いちゃった。

 

「僕はクズのヴィランなのにっ!」

 

 だから野糞未遂くらいでそこまで!?

 

 いやまあ、青山くんは美しさに強いこだわりがあるらしいからな。ここまで思い詰めるのもさもありなんか。

 

 ここは先生として、彼の思い込みを解いてやらなくては。

 

 今にも泣き崩れそうな青山くんを引き寄せて、抱きしめてみる。

 

『大丈夫だ。青山くん。誰にだって失敗はある。大切なのはそこからどう挽回するかだ。』

 

「っ...!オ、オール、マイトォ...!」

 

 たかがウ◯コの話なのに、何でこんなに感動的な雰囲気になっているのやら。

 

 まあ、青山くん本人にとっては、一大事なんだろう。

 

「オールマイトォ、僕はっ、僕はっ!今からでも間に合いますか!?」

 

『ああ。今からでも十分に間に合うさ。』

 

 車で十分。トイレへ行くのは、今からでも、まあ、間に合いはするだろう!きっと!

 

「こんな汚れきった僕でも、ですか!?」

 

『・・・あ、ああ!』

 

 汚れきった?

 

 あ、ちょっと間に合わなかったのか!?

 

 まあ、何とかはなるだろう。USJの倉庫とか漁れば、替えのパンツくらい出てきそうだし。

 

「僕は、っ、僕はっ、ずっと、貴方のような、ヒーローになりたくて、」

 

『ああ。なれるさ。君はなれる。君が理想とする最高のヒーローに。必ず。』

 

「うっ、ううっ、うわあああああああああああああああああああん。」

 

 涙腺が決壊した青山くんを、そっと抱きしめる。

 

 そう。ヒーロだって人間だ。トイレに行くし、お腹は減るし、夜は眠くなる。

 

「あ、あのぉ、オールマイトに、伝えないといけない事があって!」

 

『ああ。落ち着いて。何でも言ってくれ。』

 

 青山くんが不安に思う気持ちもわかるが、ウ◯コなんていう微笑ましい失敗くらいで、ヒーローへの道が閉ざされるわけもない。

 

 もし、ヒーローへの道が閉ざされるとしたら、それはもっと洒落にならない裏切りとかだ。例えば、ヴィランと共謀して、雄英に招き入れちゃうみたいなやつ。

 

 だが、青山くんみたいないい子が、そんな極悪非道の事をする腐れ外道なわけはない。そこはちゃんと信頼している。

 

 

「オールマイト!AFOが、雄英を襲いに来るんです!」

 

『・・・はぁ!?』

 

 それと同時に、災害救助用に用意された近くの湖から、ブクブクと泡が吹き出し始める。

 

 湖の中に何かがいる。その何かが今にも浮き上がろうとしている。

 

 水飛沫と共に、黒いマスクで顔を覆った1人の男が姿を現した。忘れもしないあの雰囲気は、

 

『オール・フォー・ワン...!』

 

『久しぶりだね、オールマイト。』

 

 間違いない。あの魔王は生きていたのだ。そして戻ってきた。おそらくは私への復讐のために。

 

 帰還した魔王は、水面から顔だけを出し、手足をバタバタと動かして、苦しそうに水飛沫をあげている。

 

 ・・・んん?

 

『再会したばかりで悪いんだがねえ、足を攣って溺れそうなんだ!助けてくれゴボボボボボボボボボボボボボ!』

 

 AFOが足攣って溺れてる...?

 

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