引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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AFOは釈明したいし、オールマイトは警戒したい。

 

 

『やあ、海外での遠征お疲れ様。君がワープゲート使いだね?えーっと名前は、』

 

『白霧っつー者だ。よろしくなAFO。ようやく会えて嬉しいぜ!』

 

 白霧と名乗ったその男は、笑顔(?)で僕の手を取ってくれる。

 

 ラフなジャケットを身に纏った彼は、手足や顔が白いモヤのようになっている。

 

 彼も改造人間なんだろうか。何というか、見た目の割にはかなり爽やかな感じだ。

 

『で、魔王様。今回、俺は何すりゃいいんだ?』

 

『ああ。もうすぐ雄英に潜り込んだスパイから、位置情報が発信されてくる。そこに向けて、ワープゲートを開いて欲しいんだ。』

 

『なるほど。その後はどうすんだ?俺も先生に付き添って、いつでも逃げれるよーに、準備しとくか?』

 

『い、いや。付き添いも必要ないし、合図が来た瞬間、直ぐにワープゲートで僕を転送し、その後すぐに閉じちゃってくれ。迎えも要らない。』

 

 白霧は一見良い奴そうだが、彼だってドクターの関係者。僕が自首を企てていると知れば、何をされるか分からない。

 

 念のため近くを彷徨かせるのは辞めておこう。

 

『さて、後は時が来るのを待つだけだ。』

 

 手元の機器をじっと見つめる。僕の雄英訪問に適した場所と時間を見つけ、位置情報を発信する事。それが優雅くんへのお願いだった。

 

 今のうちに、忘れ物はないかの確認でもしておくか。えーっと、オールマイトに差し入れる用の菓子折りは持った。緑谷婦人にも好評だった、高級カステラだ。

 

 まあ、自首するだけだし、持ち物はソレくらいでいいだろう。

 

「先生、本当に大丈夫じゃろうな?何度も言うが、先生の身体は病み上がりで、せめて脳無を同伴させるなり、」

 

『しつこいなドクター。僕には僕のプランがある。君はいつから僕に意見する立場になったんだい?』

 

「っ、す、すまん!」

 

 監視役を付けられそうになり、焦った僕が一睨みをきかせると、ドクターはたちまち萎縮し、口をモゴモゴと動かし始める。

 

 なるほど。これがパワハラか。どうやら僕は、また一つ罪を重ねてしまったらしい。

 

『す、すまないねドクター。言いすぎたよ。』

 

「いいや。謝るのはワシの方だ。先生。」

 

 ドクターはポツリとそう呟くと、その場で地べたに手をついて、勢いよく頭を下げる。

 

 土下座だ。

 

『っ!?ちょ、ドクター、一体何をして。』

 

「いつからか、先生の優しさに甘んじ、己如きが先生と対等な友人だなどと、思い上がっていた。その事を謝罪させてくれ。」

 

 待て待て待て待て、そこまでしなくていいから!これじゃあまるで、僕が最低のパワハラ野郎みたいじゃないか!?

 

『なるほど。これが魔王の威圧感、か。』

 

 ちょ、白霧!?

 

 違う。誤解だ。だからそんな目で見ないでくれ。腕を組んで俯いたまま、勝手に納得しないでくれ!これはドクターとちょっとした行き違いがあるだけで、

 

「その思い上がりついでに、もう一つ謝らせて欲しい。AFO。アンタはワシにとって、生きる希望なんじゃ!」

 

『ド、ドクター?』

 

「誰もが見下し蔑んでいたワシの研究を、先生だけは笑わないでいてくれた!先生だけがワシを見ていてくれたんだ!そればかりか、その個性を以て、研究の正しさを肯定してくれた。それがどんなに嬉しかったか!」

 

 そういえば、ソレが彼との出会いだったな。“摂生”の個性をゲットするために、彼には適当なお世辞を言ったのは憶えているが、彼がそんな風に思っていてくれたとは。全然気付かなかった。

 

「かつてオールマイトが、先生の前に現れた日のことを、ワシは今でも昨日のことのように思い出す。確かあの日も、ワシは先生の勝利を信じ、送り出した。」

 

『あ、ああ。そうだったね。』

 

「だが、戦いの後に遺ったのは、憎きオールマイトの手によって、頭を砕かれた先生の姿だった。」

 

 そうか。ドクター視点だとそうなるのか。『ああ。あれ?実は僕の自滅だったんだよ〜。許してチョンマゲ〜。』なんて今さら言えない。

 

「ありとあらゆる手段を使い、先生の命を繋ぎ止めた。だが、確かに生きているのに一向に目を覚まさない。先生が目覚めるまでの13年間。ワシらはずっと胸が張り裂けそうな思いだったよ。」

 

『そ、そうだったのか〜。アハハ。』

 

「もう、あんな思いはしたくない。今回は何だか胸騒ぎがするんじゃ。先生の身に悍ましいナニカが迫っている、そんな風に思えてならない。」

 

『ド、ドクターは心配性だな〜。』

 

「先生の力を疑ってしまう事、許してくれ。だがもう、ワシはアンタを失いたくはないんじゃ。」

 

 お、重っ。いくらなんでも重いよドクター!

 

 血の繋がった可愛い弟とかに執着するならまだしも、僕は赤の他人だぞ!?第一、君にそこまでして貰える程の事を僕は出来てない。

 

「ワシが新たに用意した個性じゃ。せめてこれを持って行って欲しい。調整を終えたばかりの分、発動までにはラグがある。だが、必ず先生を危機から救ってくれるはずだ。」

 

 いや、危機も何も、僕は自首をしに行くだけで、

 

「もし、これがワシの杞憂に終わればそれでいい。その時は、先生の力を見誤った愚かなワシを始末してくれ。先生の手で逝けるなら本望だ。」

 

 だから重いって!!!

 

 なんだよ、もう受け取るしかないじゃん!自首するだけだから、絶対使わないだろうけど!

 

「必ず、無事に帰ってきてくれ。先生。」

 

『あ、ああ。』

 

 どうしよう、凄く自首し辛い!

 

 これだけ慕ってくれるドクターを裏切り、僕は自首をし、なんなら彼をヒーローへと売り渡す予定なのだ。何かすっごく心が痛む。

 

 そ、そうだ。中止。計画は中止にしよう。優雅君がいる限り、雄英への自首はいつでもできる。

 

『し、白霧!』

 

『ああ、分かってる!』

 

 自首計画の中止を白霧へと伝えようとしたその時だった。彼は自身の白いモヤを歪め、僕の身体をスッポリと包み込む。

 

『あれ?白霧?』

 

 気付けば、手元の機器にはピコンピコンと赤いランプが付いている。優雅君からの合図だ。

 

 そういや彼には、『合図の瞬間、直ぐに僕を転送し、ワープゲートはすぐに閉じろ。』と命じていたっけ。

 

『ちょ、タンマ、』

 

 僕の静止も間に合わず、転送は完了する。

 

 そして、

 

 

 

『久しぶりだねオールマイト。再会したばかりで悪いんだがねえ、足を攣って溺れそうなんだ!』

 

 全く優雅くんってば、おっちょこちょいだな〜。ワープゲートの出現位置になる位置情報発信を、水中からやっちゃうなんて〜。

 

『助けてくれゴボボボボボボボボボボボボボ!』

 

 

 

 

 

 

 

『オール・フォー・ワン・・・!』

 

 オールマイトは戦慄していた。宿敵である魔王が生きていて、雄英に襲来したのだ。そして、足を攣って溺れている。足を攣って溺れているのだ。

 

『オール・フォー・ワン・・・?』

 

 間違いない。あの全身の鳥肌が立つような異様な雰囲気に、頭の奥を揺さぶるような低く甘い声。

 

 以前とは違い、悪趣味な黒マスクを着けている以外は、かつて対峙したあの時と何も変わっていない。

 

 奴は間違いなく、最強最悪の魔王だった。

 

『オールマイトォ、ゴボボボ、聞こえてるんだろう?ちょ、待って、本気でやばい、ゴボボボボボ。』

 

 そんな魔王が溺れかけている。

 

『青山少年。これは一体?』

 

「わ、分かりません!こんなの、知らない!彼が溺れてるのに関しては、ぼ、僕、何も分からなくて、もう、何が何だか、」

 

 青山くんは泣き腫らした目を赤くして、必死に弁明している。どうやら彼も、この状況に心当たりはないらしい。

 

 謎は深まるばかりだった。

 

『誰かーーーーー、助けてーーーーーー、ゴボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ。』

 

 どう見ても溺れて死にかけているようにしか見えない。ならば助けに行くべきなのだが、相手はあのAFO。絶対に裏があるはずだ。

 

 私が救助に来た瞬間を狙うとか、あの湖そのものにとんでもない罠を仕掛けているとか。

 

『ゴボボ、ボボボボボボボボボボ、ボボボーボボーボボ、ゴボボボボボボボボボボボボボボボ!』

 

 ならばAFOはこのまま放置だ。

 

 まずは生徒たちを遠くに逃し、優秀なプロヒーロー達へと通報するのが先だ。魔王への対処は本職に任せるに限る。

 

『おーい皆んな!』

 

 手始めに、1-Aの生徒へと呼びかける。彼らは、大声を張り上げて手を振る私と、溺れているAFOに気付いたようだ。

 

「おい、あっちで誰か溺れてるぞ!」

「もしかして今日の救助訓練って、もう始まってる感じ!?」

「なるほどな!入試の時とおんなじか。実戦によーいドンは無いってわけだ。」

「溺れてるのって先生か?あんな黒マスクの先生いたっけ?」

「相澤先生みたいに、あんまりメディアに出ないタイプのヒーローなんじゃね?」

 

 あれぇ、皆んな!?何でこっち来ちゃうわけ!?早く逃げて欲しいのに!

 

「水の中には私が飛び込むわ。泳ぎは得意なの。」

「なあなあ。俺の帯電なら、AED代わりになんじゃね!?」

「バカ!そんな繊細な使い方、どうせ出来ないでしょうが!」

 

『ちょ、生徒諸君。違うんだ。これは訓練じゃなくて、』

 

 私の静止を待たずに、生徒たちはすぐさまAFOの救助に取り掛かる。

 

 素早く奴を湖から引き上げ、気道の確保に努めていた。おお、私の生徒たち優秀。って感心してる場合じゃない!

 

『生徒諸君!無警戒すぎるぞ!ソイツは危険なんだ!』

 

「危険?救助されたこの人が?何で?」

「もしかして。今回の要救助者は、危険な個性を持ってるって設定だったんじゃ、」

「確かにそれなら、不用意な救助は2次被害の原因にもなるな。」

「ごめんなさい。不用意に飛び込んだ私のミスだわ。」

 

 違う!そうじゃない。そうじゃないんだ!

 

 まあ、雄英の施設にヴィランが紛れ込み、ましてや溺れているなんて、想像もつくわけないだろうが。

 

『落ち着いて聞いてくれ。その男は、』

 

『ハァ、ハァ、ゼエ、ハァ。助かったよオールマイト。君の生徒達は優秀だね。彼らのおかげで命拾いしたよ。』

 

 AFOは顔を上げ、私へと声をかけてくる。仮面で隠れて見えないが、恐らくその下には邪悪な笑みが隠れている事だろう。

 

 奴は白々しくも息を荒げる演技をして、まるでついさっきまで、本当に死にかけていたかのように振る舞っている。

 

『AFO。貴様ぁ!』

 

『ゲホッ、ゴホッ。おっと、』

 

 立っている事すら出来ないといった様子で、奴はフラフラと倒れ込む。なんて三文芝居だ。

 

「おお、えっとAFO先生(?)。大丈夫っすか?」

「俺らで肩貸しましょうか?」

 

『ああ、すまないね。あと、僕は別に君たちの先生じゃないんだ。

 

『なっ、よすんだ!佐藤少年に切島少年!』

 

 だが、A組の生徒達は、そんな奴にも手を差し伸べてしまう。クッソ、皆んな良い子達なのが仇に!

 

『AFO。貴様何しにここへ来た。返答次第では、ただでは済まさんぞ。』

 

 そう、タダでは済まさんぞ。私ではなく、雄英に所属する優秀なプロヒーロー達がな!

 

 さて、そんな精一杯の威嚇だったが、奴にはまるで通じない。

 

『まあ、落ち着いてくれオールマイト。君だって、多感な時期の生徒達に見せたくはないだろう?』

 

 そう言って奴は、近くにいた切島少年と佐藤少年の身体を引き寄せる。

 

『哀れな弱者が、圧倒的な強者によって一方的に蹂躙され、臓物を撒き散らすなんていう、グロテスクな様を。』

 

『っ!?』

 

 そうか。奴はハナっから、私と真正面から戦う気などなかったのだ。

 

 溺れたフリだって、私を混乱させてその場に釘付けにしつつ、人質になりうる生徒達を誘き寄せるためだろう。 

 

『おのれ・・・!』

 

 周囲の生徒達もようやく異変に気付いたようだ。奴に対して、警戒の姿勢をとり始める。

 

 だが、時すでに遅し。人質をとられている以上、私も彼らも迂闊な真似はできない。

 

 大失態だ。奴の仕掛けた奇策に、こうも易々とハマってしまうとは。

 

『なんて奴だAFO・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

『ハァ、ハァ、ゼエ、ハァ。助かったよオールマイト。君の生徒達は優秀だね。彼らのおかげで命拾いしたよ。』

 

 自首ツアー早々、予想外の事態に見舞われた僕だったが、1-Aの良い子達のおかげで一命を取り留めた。

 

 荒い息を整えて、オールマイトへと微笑みかける。今こそ、宿願を果たす時だ。

 

『AFO。貴様ぁ!』

 

『ゲホッ、ゴホッ。おっと、』

 

 足がもつれて転んでしまう。大事なところでよくコケるという、僕の悪い癖が出てしまった。頭から地面に激突する事も覚悟したが、

 

「おお、えっとAFO先生(?)。大丈夫っすか?」

「俺らで肩貸しましょうか?」

 

『ああ、すまないね。あと、僕は別に君たちの先生じゃないんだ。』

 

 ガタイの良い2人の少年が優しく抱き止めてくれた。流石はオールマイトの生徒達。皆いい子だ。彼の教育が行き届いている。

 

『なっ、よすんだ!佐藤少年に切島少年!AFO。貴様何しにここへ来た。返答次第では、ただでは済まさんぞ。』

 

 だが案の定というべきか、オールマイトは僕を警戒しているらしい。今すぐにでも殴りかかってきそうな勢いだ。

 

 だが、それについては抜かりなし。僕が自首する先に雄英を選んだのは、その生徒達を利用して、彼からボコられるのを防ぐためなのだ。

 

『まあ、落ち着いてくれオールマイト。』

 

 敵意が無い事を示すため、切島君と佐藤君とやらの身体を親しげに引き寄せる。

 

『君だって、多感な時期の生徒達に見せたくはないだろう?哀れな弱者(僕)が、圧倒的な強者(オールマイト)によって一方的に蹂躙され、臓物を撒き散らすなんていう、グロテスクな様を。』

 

『っ!?』

 

 そう。幾らオールマイトが僕を憎んでいようとも。純粋無垢な生徒達の前で、ましてや息子である出久くんが見ている前で、自首しに来た無害な人間を殴れまい。

 

『おのれ。』

 

 僕の浅ましい自首計画に、オールマイトも気付いたらしい。思わずちびっちゃいそうになる程の、凄まじい殺気を向けられた気がする。

 

 だが、僕は魔王なんだぜ?自首という目的を果たすためなら、手段は選ばない。

 

 どれだけ汚い手を使おうとも、必ずお縄を頂戴して、足を洗ってみせるからな!

 

『なんて奴だAFO・・・!』

 

 流石のオールマイトも、僕の自首に賭ける思いに心を打たれたらしい。だってほら、感動しているのか、肩を振るわせているし。

 

 ここまで来れば、自主は成功したようなもの。後はタルタロスまでのウイニングランと洒落こもう。

 

『あれ、おかしいな?』

 

 もしかしたら気のせいかもしれない。初めての自首本番にナーバスになっているだけかもしれない。

 

 だが、確かに違和感を覚えたのだ。

 

『僕はただ自首しに来ただけなのに、オールマイトや生徒達から、やたらと睨まれてるような。』

 

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