引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久   作:バケギツネ

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AFOは誤解を解きたいし、オールマイトは避難したい。

 

 

「ごめん。ごめんなさい。」

 

 パパンとママンを人質にされ、スパイになるよう命じられた時、AFOは確かにこう言っていた。

 

『安心してくれ優雅くん。君のクラスメイトや先生は、一切傷つけないと約束しよう。』

 

 その言葉を信じてしまった。AFOには、約束を守る義理も道理も無い。そんな事、本当は分かっていたのに。

 

 なのに縋った。込み上げてくる罪悪感を少しでも減らしたくて。

 

 僕はどこまでも卑怯者だ。

 

「僕のせいで、僕のせいで・・・!」

 

 切島くんと佐藤くんが人質にとられた。なのに僕は、体が震えて動けない。助けたいのに。友達が危ないのに。

 

 ・・・いや、違う。僕のような裏切者には、彼らと友達でいる資格すらない。

 

 もう僕は、正真正銘のクズのヴィランなんだから。

 

 

 

 

『おいおい、オールマイトにA組の良い子たち。笑顔はどうした?ヒーローは笑って、助けを求める人を安心させなくちゃならない。こんな事、ヒーロー学の基礎中の基礎だろう?』

 

 小粋なジョークを飛ばしてみたが、重い空気は変わらない。

 

 うん、間違いないな。僕は警戒されている。何故だろう?

 

 僕はここに来てから何も悪い事はしてないし、切島くんと佐藤くんとは親しげに肩を組んでいるだけ・・・もしかしてそれが原因か?

 

 間違いない。自首しに来たくせに、態度が馴れ馴れしすぎて引かれているんだ。

 

 でもこの場合、どういう態度が正解なんだろう。僕は今回が一応自首の初挑戦なので、そういった事には明るくない。誰か教えてくれ。ヒーロー学で習うだろそういうのも。

 

 そうだ優雅くんに聞いてみよう。

 

 この場で唯一の友達を探して、視線を動かす。お、見つけた。彼は何故か隅の方で膝を抱えて、何かをしきりに呟いている。

 

「ごめん。ごめんなさい。僕のせいで、僕のせいで・・・!」

 

 なんだか尋常じゃない様子。あの優しく明るい青山くんをあそこまで追い詰めるなんて、一体誰の仕業だ?友達として見過ごせないぞ!

 

 あ、もしかして僕か?

 

 きっと彼は、位置情報の発信場所をミスったせいで、僕が溺れてしまった事を気に病んでいるんだろう。

 

 僕なら全然気にしてないから。寧ろ感謝しているくらいだ。僕がこうして雄英への自首に着手できたのは、全て彼のお陰なんだから。

 

 本当はこの場で、直接感謝を口にしたいが、それでは彼がスパイだと周知するようなもの。

 

 というわけで、涙目の彼と目を合わせてサムズアップを送るだけに留める。『感謝するよ、マイヒーロー。』そんな想いを込めてみた。きっと伝わっているはずだ。

 

 あれ、青山くんが泡吹いて倒れちゃった!?

 

「おい、青山どうした!?何されたんだ!?」

「分からねえ!あのヴィランと目を合わせた瞬間、急に青山が苦しみ出して!

「多分、そういう個性だ!皆んなもアイツと目を合わせんなよ!」

 

 ち、違うって。僕はそんな事やってない!

 

 第一そんな強力な個性を、僕が上手いこと扱えるわけないだろう!?

 

「テメエ、よくも青山を!」

 

 やばい、切島くんがキレた。

 

 鬼の形相で身体を硬化させ、僕を睨みつけたまま、その拳を構えている。

 

 ぼぼぼ、暴力反対!

 

 おいおい君はヒーロー志望だろう。無辜の魔王に殴りかかっていいのか!?オールマイト、君の教育はどうなっているんだ!

 

 不味いぞ。今の僕は『摂生』による弱体化に加えて、病み上がりの状態だ。あんな痛そうなパンチに耐えられるはずが無い。

 

 特に、顔の呼吸器を破壊されでもしたら、本当に死んじゃいかねないぞ。

 

『た、助け』

 

『待つんだ!切島少年!!!』

 

 オールマイトの怒鳴り声で、切島君の動きが止まる。僕は九死に一生を得たようだ。

 

『切島少年。君の気持ちは分かる。だが今は堪えてくれ。その行動は危険すぎる。』

 

 そう。まさにその通り。その行動は危険すぎる。だって僕が死んじゃうんだから。

 

 オールマイト。前言を撤回させてくれ。君は立派な教師だ。

 

 生徒たちが僕を危険人物だと勘違いする中で、彼だけは僕の真意に気付き、教え子の暴走を止めてくれたのだ。

 

『AFO。貴様の狙いは私の命だろう?生徒たちは関係ない。人質なんて小賢しい真似は辞めたらどうだ。』

 

 オールマイト。前言の撤回を撤回させてくれ。君はクソ教師だ。

 

 オールマイトの命を狙う?人質?君には一体、何が見えているんだ?

 

 どう見ても僕は自首しに来ただけ・・・

 

 そう言えば僕、ここへは自首しに来たって言ったっけ?

 

 ・・・・・・言ってないな。

 

 じゃあ僕が悪いじゃないか。ごめんよ。

 

『あの、』

 

 口を開くと同時に、何処かから伸びた包帯のようなものが、切島くんと佐藤くんに巻きついて、僕の元から遠ざけていく。

 

『ナイスだ、相澤くん!』

 

 オールマイトが『相澤』と呼んだ男の仕業らしい。人質(人質じゃない)の生徒を見事な手際で奪還していった。

 

 雄英教師のプロヒーローだろう。

 

 黒ずくめの全身に、包帯をマフラーのように巻いている。特徴的なゴーグル越しの赤い目が、僕を油断なく射抜いていた。

 

 あれ、何か身体がムズムズするなぁ。ん、個性が使えない。もしかして、個性封じの個性!?

 

 ズルい、僕の天敵じゃないか。僕から個性を取ったら、何も残らないというのに。

 

『オールマイト。一体どういう状況ですか?奴は?』

 

『奴の名はAFO。複数の個性を操る凶悪なヴィランだ。あの手に触られるなよ、個性を奪われる!』

 

『ったく、無茶苦茶な能力だな。おい、聞いたな生徒諸君。お前らは迅速にUSJを離脱し、雄英本校舎へ救援要請!急げ!』

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 Mr.相澤の動きは実に合理的だった。即座に状況を理解して、生徒たちを退避させる。

 

 実に優秀なヒーローだ。って感心してる場合じゃない。僕は急いで弁解しなくては!

 

『えっと、初めましてかな?相澤先生。不法侵入の件は謝ろう。だが僕は、別に悪い事しに来たわけじゃ、』

 

『騙されるなよ相澤くん!奴は人の心に取り入り弄ぶ事を史上の喜びとする破綻者って先代の先代が、その又先代の先代から聞いたって話  だ!信用できない!』

 

『ちょ、相澤先生。それは全て誤解なんだ!それに悪いことしようにも、僕はクソ雑魚でそんな力なんて、』

 

『信じるなよ相澤くん!奴は以前の戦いで、私の事を自身のアジトごと吹き飛ばそうとしてきたんだ!あの破壊力は脅威だ!気をつけろ!』

 

 あーもう。ちょっと黙っててくれないか、オールマイト!

 

 

 

 

『相澤くん!奴は以前の戦いで、私の事を自身のアジトごと吹き飛ばそうとしてきたんだ!あの破壊力は脅威だ!気をつけろ!』

 

 AFOがー、USJにー、来た!

 

 なんてふざけて現実逃避してる場合じゃない。

 

 そう、因縁の相手である最強最悪の敵・AFOが雄英に襲来したのだ。恐らく狙いは私の命。

 

『気をつけろ?言われるまでもありませんよ、オールマイト。この雄英に易々と侵入してる時点で只者じゃないのは分かります。』

 

 隣でそう答えるのは、イレイザーヘッドこと相澤消太くん。私と同じ雄英教師で、私と違って頼りになるヒーローだ。

 

 人質にされてた生徒たちも彼が救出してくれたし、個性を使おうとしていたであろうAFOも彼が“抹消”で静止してくれた。

 

 もう全部、相澤くん1人でいいんじゃないか?足手纏いになる前に、私も避難していい?

 

『オールマイト。貴方の話通りなら、奴は相当の大物だ。ここで押し留めなければ、生徒たちにも危害が及ぶ。食い止めますよ。2人で。』

 

 そう、その意気だ!

 

 ところで彼は『2人で』と言った。1人は相澤くんだとして、もう1人は誰だろう?

 

 13号先生なら今も退避中の生徒達の護衛を担っているし。まさか緑谷少年か?幾ら彼の実力が高いとはいえ、いきなりAFOにぶつけるのは危険すぎるんじゃ?

 

『俺は後方で抹消とバックアップに専念します。前衛は任せましたよ。オールマイト。』

 

 え、私ぃ!?私も戦うのぉ!?

 

 いやいやいやいや待て待て待て待て。相澤くん。私だって戦いたい気持ちは山々だ。

 

 だが今回は相手が悪すぎる。なんせ最強の魔王だ。相澤先生ほどの実力者でも、一瞬の隙が命取りになる。

 

 そんな状況で私というクソ雑魚を抱え込んでみろ。奴は必ず、そこに付け入ってくる。そのせいで相澤くんが負けちゃったら、申し訳なさすぎる!

 

 相澤くんは絶対に、私なんかと組まずに1人で戦った方が強いのだ!

 

 よし、早速進言しよう。

 

『相澤くん。ここは1人が奴と戦い、もう1人は生徒達の後を追うべきだ。魔王の相手は、それに相応しい強さを持った者にしか務まらない。私の言っている意味が、分かるな。』

 

『オールマイト。本気ですか?』

 

『ああ。本気だとも。(私は)足手纏い。そう言っているんだ。個性(OFAのハッタリ)に頼った戦い方しかできない未熟者に、この場に立つ資格は無い。悲しいがそれが現実だ。』

 

『っ...!!!』

 

 相澤くんの顔が強張った。きっと、キメ顔で恥ずかしげもなく、戦いを放棄した私へ、怒りを募らせてるんだろう。

 

『貴方1人でAFOとやらを相手にするつもりですか?』

 

 え、しないよ!?何でそうなった!?

 

『お言葉ですがオールマイト。その判断は合理的じゃない。貴方の話通りなら、AFOの持ち味は個性の多彩さ。“抹消”は寧ろ相性が良い。上手く使えば、奴を封殺する事だって、』

 

『わ、分かった!分かったってば!じゃあそれでいいよ!それで!君と私でタッグ組めばいいんでしょ?』

 

『何ですかその態度!?やる気あるんですか、オールマイト!?』

 

 そんな事言われたってぇ!だって私、絶対お荷物になるんだもん!

 

 でもあのままだと、AFOとタイマンさせられそうだったし!こう言うしかないじゃないか!

 

 何故だ。何故なんだ相澤くん。どうして私をそんなに戦わせたいんだ?私の事ホントは嫌い?

 

 だって君は知ってるはずだ。私が本当は弱いってことを!

 

 だって以前の職員室で、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『相澤くん。相澤くん。今日の実技試験、見事な動きだったよ〜。流石だ〜。』

 

『世辞なら結構です。合理的じゃない。貴方に比べれば、まだまだですよ。』

 

『いやいやいや。とっくに君は、私なんかを追い越してるって!実力でも実績でも!』

 

『No.1ヒーローが何言ってるんですか。』

 

『いや、ここだけの話なんだけどね。今までの実績は全て、ラッキーの産物なのさ!私ホントは、実力なんてこれっぽちも無いクソ雑魚なんだよ〜。AHAHAHA〜。』

 

 

『・・・・・・過ぎた謙遜は嫌味にしか聞こえませんよ。』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ってな具合に、ちゃんと私が弱いことを説明しただろう!?どうなってるんだ相澤くん!?

 

『それじゃあ仕掛けますよ。俺が奴の動きと個性を封じている間に、渾身の一撃を!』

 

『わ、分かった!・・・え、ちょっとま』

 

 私が指示を呑み込めていないうちに、相澤くんの捕縛布が、AFOの両腕を固定する。

 

『えぇ!?痛い痛い痛い痛い!相澤先生ー!誤解だー!これは全て悲しいすれ違いなんだー!』

 

 余りにもアッサリとAFOは拘束され、情けない声をあげている。

 

 魔王の姿か?これが。

 

 何かが引っ掛かる。確かに今の状態なら、流石の奴も何もできまい。個性も動きも使えない以上、抵抗する手段はない筈だ。

 

 なのにこの胸騒ぎはなんだ?何か恐ろしい危険が徐々に迫っているような。

 

『助けてくれよオールマイト!君からも、相澤先生に言ってくれ!僕はただ雄英に自首しに来ただけなんだ〜!』

 

 何より怪しいのが奴の態度だ。

 

 この後に及んで、自首しに来たなどと言う、くだらん嘘をペラペラと。

 

 どう考えても、追い詰められた魔王の行動とは思えない。明らかに、奴は此方をおちょくって、余裕をひけらかしているのだ。

 

 分からない。一体この状況下で、その自信は何処から湧いてくるんだ!?

 

 まさか、これは罠!?

 

 相澤くんに個性を封じられているとは言え、奴ならそれを掻い潜る手の一つや二つ。持っていてもおかしくない。

 

 ヘドロヴィラン戦で私がやった(やってない)ように、わざと隙を見せて誘い込み、私に渾身の一撃を叩き込むつもりなのか!?

 

 そんな手の込んだ事しなくても、そこら辺の石とか投げれば、殺れるぞ私は!?

 

『信じてくれよ。オールマイト。ほら僕の目を見てくれ。これが嘘をついてる魔王の目に見えるかい?』

 

 目を見るだって?

 

 そんな事、怖くてできるわけないじゃないか・・・ハッ!

 

 そう言えば奴には、“目を合わせた相手を苦しませる個性“があったんだ!青山くんを攻撃したやつ!

 

 危ない危ない。巧妙な手に引っ掛かる所だった。やはり奴は、私を嵌めようとしているに違いない。

 

『オールマイト、何してるんです!早くトドメを!』

 

『いや、待つんだ相澤くん!何かがおかしい!これは罠だ!』

 

 必死に熱弁する私を、AFOは鼻で嗤う。

 

『おいおい。罠なんてある訳ないだろう?さっきも言ったように、僕は自首しに来たんだ。そうだ、友好の証に“お土産”を持って来たんだよ。』

 

 お土産、だと?

 

 AFOはいきなり何を言っているんだ。お土産?カステラとかか?

 

 いやいやいやいや。そんなわけはない。奴の言うお土産なんて、何か碌でもないものに決まっている。

 

 大量破壊兵器とか、未知のウィルスとか、凶悪指名手配犯とか!

 

『オールマイトもきっと気に入ってくれると思うんだ。実はこのお土産、君の大切な人にも既に送っていてね。』

 

『なっ、何ぃ!?』

 

『僕の予想以上に、楽しんで貰えたみたいでね。どのお土産にしようか、必死に悩んだ甲斐があったというものさ。』

 

『貴様っ・・・!』

 

 まさかコイツ、サーやデイブに何かしたのか!?

 

 そう言えばあの2人とは、最近連絡を取れていない。

 

 どちらも忙しい身だし、これまでも月単位で音信が途絶える事は多々あった。なので気にしていなかったのだが、まさかAFOの魔の手に掛かっていたなんて!

 

 許せない。悪魔の所業だ。復讐の手段として、私自身でなく、私の周囲を傷つける事を選ぶとは。

 

『無事、なんだろうな。』

 

『ああ、当然だろう。』

 

 幸いにも、サーとデイブは殺されてはいないらしい。恐らく2人は何処かに生きたまま捕えられているのだろう。もしもの時の人質というわけか。

 

『なんて卑劣な・・・!』

 

『それについては謝るよ。ただ僕も魔王の端くれ。目的のために手段を選んではいられなくてね。』

 

 AFOは悪びれる様子もない。人と人との繋がりを利用し弄ぶ事など、奴は何とも思っていないんだろう。何という悪逆非道。

 

 だが、無力な私は奴を睨みつける事しかできない。

 

 情けない限りだ。

 

『オールマイト。とにかくまずは見て欲しい。これが僕のお土産、』

 

 次の瞬間、USJの地盤には巨大な亀裂が入り、大地が震え始める。

 

 この揺れは地震じゃない。とんでもない質量のナニカが地中を掘り進み、今にも顔を出そうとしているのだ。

 

『貴様らぁ、我が主に何という狼藉をぉ!!!』

 

 現れたのは、岩のように頑丈そうな皮膚に包まれた半裸の巨人だった。

 

 彼の出現した場所には、底が見えない程の大穴ができていた。地面を掘り進んで潜伏し、攻撃のチャンスを待っていたのか!?

 

 もし私が、罠に気づかずAFOに殴りかかっていれば、あの巨人の攻撃に巻き込まれ、一巻の終わりだった。

 

『ご無事ですか!?主よ!』

 

『え、マキア!?・・・え???えっと、久しぶり〜?僕は大丈夫だよ?』

 

 AFOが“マキア”と称したその巨人はその圧倒的な力で、主を縛っていた捕縛布をいとも簡単に引きちぎる。凄まじいパワーだ。

 

『抹消が効かない!?どうなってる!?』

 

 隣では相澤くんが混乱している。あの巨人を抹消で縮めようとして、失敗したらしい。

 

『あれだけの巨体。個性でそうなってるのは間違いない。だが抹消で消せないとなると、異形型と同じで、常時発動状態の個性なのか?もしくはそれに限りなく近く、個性が調整されている?どう思います?オールマイト。』

 

 え、何だって?

 

 そんな事を私に聞くなよ!私が分かるわけないだろ!

 

『あの巨人相手じゃ、俺の個性も、肉弾戦も通じない。なるほど。オールマイト。貴方が俺を足手纏いと言っていたのは、そういう事でしたか。』

 

 うん、違うよ。

 

 そもそも足手纏いなんて言ってないよ!?

 

『ま、まあ相澤くん。私も言いすぎた。君の力が必要になる時は必ず来る。だから、その、あんまり凹まないでね?』

 

 適当なフォローを入れたが、相澤くんの表情は曇ったままだ。

 

 ちょ、頼むよしっかりしてくれ!

 

 私が全く頼りにならない以上、あの巨人に対抗できるのは相澤くんだけなんだから!

 

 

『この時を待っていた!主よ、どうかご命令を!』

 

『え、命令?じゃ、じゃあ、この場を何とかして欲しいんだけど、』

 

『仰せの通りに!この場に居る者を皆殺しにして見せましょう!!』

 

『・・・いや、違うよね!?』

 

『ハッ、確かに。その程度では生温い。この場を制圧した後、雄英とやらの本校舎にも乗り込み、破壊の限りを尽くすとしよう!それをもって、我が主復活の狼煙としようぞ!』

 

 AFOの命令で巨人は動き出す。

 

『やはりこうでなくては!相手が誰であろうと、恐れる事なく突き進み、踏み潰し、破壊の上に君臨する!それこそが我が主!AFOだ!』

 

 色々な意味で余りにも強大すぎる配下を従え、その肩に乗りながら、全てを見下ろすAFO。

 

 その姿は魔王と呼ぶに相応しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 僕は自首しに来ただけだ。なのにどうしてこんなことに。

 

 確かに、自首しに来た事を言ってなかったのは、僕に落ち度がある。

 

『助けてくれよオールマイト!君からも、相澤先生に言ってくれ!僕はただ雄英に自首しに来ただけなんだ〜!』

 

 だがその後、自首しに来たって僕はちゃんと言った!確かに言ったんだ!

 

『信じてくれよ。オールマイト。ほら僕の目を見てくれ。これが嘘をついてる魔王の目に見えるかい?』

 

 なのにどういうわけか、全然信用してくれない。僕はこんなにも真摯な態度を貫いているというのに!

 

『オールマイト、何してるんです!早くトドメを!』

 

『いや、待つんだ相澤くん!何かがおかしい!これは罠だ!』

 

 しまいにはオールマイトも、罠がどうとかよく分からない事を言い出した。思わずこれには苦笑してしまった程だ。

 

『おいおい。罠なんてある訳ないだろう?さっきも言ったように、僕は自首しに来たんだ。そうだ、友好の証に“お土産”を持って来たんだよ。』

 

 そう、ここで僕は切り札を思い出したんだ。それは自首の手土産として用意した、お高めのカステラ。

 

 菓子折りを持って、敵地を襲撃する魔王なんていない。これを見せれば、きっとオールマイト達だって分かってくれる。そう思っていた。

 

『オールマイトもきっと気に入ってくれると思うんだ。実はこのお土産、君の大切な人にも既に送っていてね。』

 

『なっ、何ぃ!?』

 

 そう、オールマイトの大切な人。彼の奥さんである緑谷引子さんだ。

 

 彼女の家を訪ねた際の手土産も、このカステラだったのだが、

 

『あら、美味しい。きっと夫も気に入りますよ〜。あの人、こういう甘いものが大好きなので〜。』

 

 と太鼓判を押して頂いた。

 

『僕の予想以上に、楽しんで貰えたみたいでね。どのお土産にしようか、必死に悩んだ甲斐があったというものさ。』

 

『貴様っ・・・!』

 

 オールマイトは顔を顰める。まあ当然だ。仮にも宿敵である僕が、勝手に奥さんを訪ねていたなんて、いい気はしないだろう。

 

『無事、なんだろうな。』

 

『ああ、当然だろう。』

 

 オールマイトの奥様に手出しだなんてとんでもない。むしろ失礼のないように気をつけていたさ!

 

『なんて卑劣な・・・!』

 

『それについては謝るよ。ただ僕も魔王の端くれ。目的のために手段を選んではいられなくてね。』

 

 オールマイトが今まで見た事ないくらい、怖い顔をしている。恐ろしすぎて、とてもじゃないがヒーローの顔には見えない。

 

 だが、それだけ奥さんが大切だという事だ。

 

 くぅ〜、推せる〜。

 

『オールマイト。とにかくまずは見て欲しい。これが僕のお土産、』

 

 縛られながらも身を捩って、何とか懐のカステラを取り出そうとする。

 

 僕が溺れた時に水没して、グッチャグッチャになっていそうだが、まあ無いよりはマシだ。僕の想いはきっと伝わる。

 

 そんな風に考えていた次の瞬間だった。

 

『貴様らぁ、我が主に何という狼藉をぉ!!!』

 

 マキアがー、USJにー、来たーーーー!

 

 ・・・いや、何でだよ。

 

 僕はUSJに行けなんて、一言も言ってないぞ!?

 

『ご無事ですか!?主よ!』

 

『え、マキア!?・・・え???えっと、久しぶり〜?僕は大丈夫だよ?』

 

 彼は相変わらずの怪力で、僕を縛っていた布を引きちぎってくれる。そして、握り潰さないように注意しながら持ち上げて、肩の上に乗せてくれる。

 

 これをやってくれたのは久々だが、良い眺めだな〜。って、そんな場合じゃ無い。早くお土産を見せて、

 

 あ、カステラ落としちゃった!

 

 マキアの掘った穴の中に、カステラころりんすっとんとんだ。穴は相当深いようで、カステラの包みが落下した音すら聞こえない。

 

 食べ物を粗末にするなんて、僕はまた一つ悪事に手を染めてしまったようだ。

 

『抹消が効かない!?どうなってる!?』

 

 相澤先生はマキアの巨大化を抹消しようとしているようだが、上手くいっていない。

 

 なんでだ?

 

 そういや前にドクターが、マキアに宿った7つの個性因子は、その殆どを常時発動型へと変質させてる、的な事を言っていた。

 

 マキアは僕の次くらいに、個性の制御が苦手だからな。それを補うための調整なんだろう。

 

 抹消できないのも、その辺りが関係していそうだ。

 

『この時を待っていた!主よ、どうかご命令を!』

 

『え、命令?』

 

 幸いにもマキアは、昔と同じで僕のいう事だけはしっかりと聞いてくれるらしい。これは僥倖だ。

 

 もう僕は何を言っても信じ貰えないだろうし、いっそマキアに、この場を取り持ってもらうか!

 

『じゃ、じゃあ、この場を何とかして欲しいんだけど、』

 

『仰せの通りに!この場に居る者を皆殺しにして見せましょう!!』

 

『・・・いや、違うよね!?』

 

『ハッ、確かに。その程度では生温い。この場を制圧した後、雄英とやらの本校舎にも乗り込み、破壊の限りを尽くすとしよう!それをもって、我が主復活の狼煙としようぞ!』

 

 何でそうなった!?

 

 マズイぞ、マキアの生来の荒っぽさのせいで、僕の命令がバイオレンスに自動変換されてしまう!

 

『やはりこうでなくては!相手が誰であろうと、恐れる事なく突き進み、蹂躙し、破壊の上に君臨する!それこそが我が主!AFOだ!』

 

 マズイマズイマズイ。マキアが相当盛り上がっちゃってる。久しぶりに暴れられるのが、よっぽど嬉しいみたいだ。

 

 こんな状況で、『ねえマキア、一緒にツレ自首しようぜ〜♪』なんて言えない。

 

 言った瞬間失望されて、グチャグチャに踏み潰されるのがオチだ。僕は一体、どうすればいいんだ!

 

 助けて、ヒーロー!!!

 

 

 

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