引退したいオールマイト vs 自首したいAFO vs 何も知らない緑谷出久 作:バケギツネ
◇
『潰れろ。平和の象徴。』
巨人の腕が私の本体へと振り下ろされる。
『どうやらゲームオーバーのようだな。』
あんな攻撃、避けようも防ぎようもない。私もどうやら年貢のお納め時らしいな。
せめて最期はと、変身を解いて、笑いながら目を瞑る。
『俺との戦いをゲーム扱いだと!?それだけに飽き足らず、変身を解いた!?戦いの最中に目を瞑る!?この期に及んでまだ舐めた真似をっ!』
え、違う違う!これは余裕じゃなくて諦めなんだ!
全く、最期の最期まで勘違いされるとは、ある意味私らしい幕引き・・・
『YEAAHHHHHHHHH!!!!』
聞こえたのは耳をつんざくような轟音。目を開けた先にいたのは、耳を抑えて疼くまるマキアと、音の発生源と思しき、
『プレゼントマイク!!』
『YO、期待には添えたか?オールマイト。』
救援が間に合った!頼もしい私の同僚が助けに来てくれたのだ!
彼の手には見慣れないメガホンが握られている。アレは確か、私が今朝に渡したサポートアイテム。
『アンタからのプレゼント、ハッキリ言って最高だ!早速使わせて貰ってるぜ!HEYAAHH!!』
そう。アレはデイブの技術力と、私の給料半月分の結晶だ。
メガホンによって、プレゼントマイクの声に指向性を持たせる事で、攻撃範囲が狭まる事と引き換えに、爆音の威力を10倍にまで引き上げる。
『何だこれはぁ、ぐおおおおお!!』
マキアへの効果は的面のようだ。あの巨体がふらつき始めている。
奴はただでさえ、“犬”の個性で耳が良い。強化されたマイクの声を浴びせられては、ひとたまりもないだろう。
相澤くんが抹消しきれなかったのを見るに、“犬”の個性も常時発動型。
爆音のダメージを和らげるために、一時解除するという訳にもいかないらしい。
『正直、あの巨人が気の毒だぜ。今の俺とじゃ相性が悪すぎる。俺が今日、たまたまこのサポートアイテムを貰ってなきゃ、話はまた違ったろうにな。』
確かに。プレゼントマイクの言う通りだな。ラッキーな事もあるものだ。
『まさかオールマイト、こうなる事を全部見越してたんじゃねえだろうな。余りにもタイミングが良すぎるぞ!』
『HAHAHAHA、偶然だよ偶然。君が助けに来てくれるなんて、完全に予想外だった。』
『ハッ、なるほど?今日に限って、俺をUSJの救助演習に呼び出してたのも、ただの偶然と。』
あ、そう言えばそんな約束もしてたな。色々ありすぎて忘れていたよ。
『まあ、そういう事にしといてやるぜ!HEYAAHH!!!!』
マイクの轟音はアレだけ恐ろしかったマキアを完全に封殺していた。奴はもう、地に膝をついていて、倒れる寸前といった様子だ。
ほぇ〜。流石は実力派のプロヒーロー。肩書きだけの私とは大違いだ。頼りになりすぎ、ん?
『マキア、大丈夫かい?』
『あ、あっ、主よぉ、申し訳ぇありませんっ!!!』
苦しんでいるマキアの顔に、AFOにそっと手を触れている。
『AFO!何をする気だ!?』
『いや、その、』
『まさかっ、マキアから“犬”の個性を一時的に奪う事で、爆音のダメージを和らげる気か!?』
『え、え、えぇ!?』
『そうはさせんぞ!!!!』
AFOは白々しくすっとぼけているが、狙いは明白だ。マキアが再び動けるようになれば、戦況はひっくり返る。
今すぐにでも止めに行かないと、アレぇ!?身体が全く動かない。あ、コレはギックリ腰だ。立ったまま一歩も動けないぞ!
『えっと、じゃあ相澤く、』
『分かってますよ!』
私が声をかける前から、相澤くんは動き出していた。その赤目でAFOを射抜きながら、捕縛布を巻き付ける。
『俺の力が必要になる時が来る。確かそう言ってましたね。今で合ってますか?オールマイト。』
『さあ、どうだろうね。』
知らないよそんなの!確かに私もそんな事言っちゃったけど、全部テキトーだから!
でも、グッジョブだ。これでAFOの個性と動きを封じられた!
『さあ、雄英教師諸君!魔王とやらに見せてやろうぜ!俺たちの底力をYO!!』
プレゼントマイクの掛け声と同時に、AFOの周りには無数の人影が現れる。
本校舎に辿り着いた生徒達の救援によって、居合わせていた残りのプロヒーロー達も現場へと到着したらしい。
セメントス、スナイプ、エクトプラズム、ハウンドドッグ。ブラドキング。その中でも直接戦闘に特化した者達の攻撃が、一斉にAFOへと襲いかかる。
私は、特にする事もなくなってしまったな。もう私にできる事はプロの邪魔をしない事だけ。
というわけで。痛めた腰をさすりながら、私はヒーロー達の勇姿をぼんやりと眺めていた。
◆
『一体、君はどこまで読んでいたんだ、オールマイトっ!』
流石はNo.1ヒーローというべきか。彼の立ち回りは余りにも神がかっていた。未来でも見えているんじゃないかと思ってしまうほどに。
『どうやらゲームオーバーのようだな。』
マキアの攻撃に晒されながらも、オールマイトは巨大化を解き、不敵な笑みを浮かべながら目を閉じたのだ。
まるで避ける必要などないと分かっていたかのように。
彼の予測通り、マキアの手が届くギリギリでヒーロー達の救援が駆けつけた。しかもその1人は、マキアへの特効である個性とサポートアイテム持ちだ。
ひょっとしたらオールマイトは、マキアの襲撃すら予測していたのかもしれない。
僕でさえマキア登場はサプライズ案件だったのに、どうして分かったんだか。
やっぱりオールマイトは未来予知的な個性があるとしか思えない。
『アンタからのプレゼント、ハッキリ言って最高だ!早速使わせて貰ってるぜ!HEYAAHH!!』
『何だこれはぁ、ぐおおおおお!!』
マキアがめっちゃ辛そうだ。攻撃の対象から少し外れた僕ですら耳鳴りがする程の轟音だ。それに直接耳を狙われているマキアの苦痛は想像を絶する。
『マキア、大丈夫かい?』
居た堪れなくなって、マキアの顔にそっと手で触れる。特に何かできるわけでもないが、せめて彼のそばにいてやりたい。
『あ、あっ、主よぉ、申し訳ぇありませんっ!!!』
どうして謝っているんだか。むしろ謝るのは僕の方だ。君ほど優秀でガッツのある人間なら、もっと活躍できる環境もあっただろうに。
僕というヘッポコ魔王に付き合わせたせいで、随分とそんな役回りをさせてしまった。
『AFO!何をする気だ!?』
ん、オールマイト?
何だか険しい目で此方を睨んでるぞ?どうしてだ?
『いや、その、』
『まさかっ、マキアから“犬”の個性を一時的に奪う事で、爆音のダメージを和らげる気か!?』
『え、え、えぇ!?』
そんな手があったなんて、まるで考えもしなかった。流石はオールマイト。個性の扱いに関しての発想が柔軟だ。
そういえば与一も、個性の扱い方に対するアイディアが豊富だったな。AFOを得る前から、僕に色々必殺技のアドバイスをくれたものだ。不器用な僕はできなかったけど。
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『なるほどなるほど。こんなアイディア、僕は思いつきもしなかったよ。与一。お前は本当に天才だな〜。』
『本当の天才は兄さんだよ!僕は、兄さんみたいな異能がないし。でも、だからこそね、自由に思い描けるんだ!個性を上手に使って、人をカッコよく助けちゃう兄さんを!』
『人をカッコよく助けちゃうって、よしてくれよ。そんなの僕のガラじゃ、』
『そんな事ないよ。兄さんは、生まれた時からずっと、僕のヒーローだもん!』
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あの時の与一の笑顔は、本当に可愛くて、眩しくて。僕は思わず目を逸らしてしまったっけ。
って、長い回想に浸ってる場合じゃない!
『そうはさせんぞ!!!!』
何かを勘違いしたオールマイトがこっちに来る!あれ、いや来ないな。
彼はどういうわけか、その場に立ったまま動かない。
ん?なに?今何の時間?
そんな事を考えているうちに、僕の身体には相澤先生の捕縛布が巻き付いていた。
しまった。オールマイトは自ら囮になって僕の注意を引きつけ、相澤先生をサポートしたのか!
『さあ、雄英教師諸君!魔王とやらに見せてやろうぜ!俺たちの底力をYO!!』
僕たちの周りに無数の人影が現れる。雄英に在籍する教師にして、現役のプロヒーロー達だろう。心なしか強面が多い。
生徒に危害を加えようとした(してない)僕への静かな怒りで、皆さま燃えていらっしゃるご様子だ。
その攻撃が一斉に僕へと襲いかかってくる。
あ、コレは終わったな。
防御しようにも、相澤先生のせいで個性は使えない。僕のクソ雑魚フィジカルであんなのを喰らえば、身体中にモザイクがかかるようなグロ死体の出来上がりだ。
視界の端に呑気に腰をさすっているオールマイトが映った。
彼は、僕と同僚達の戦い(リンチとも言う)の様子を、子供の喧嘩のような低次元の争いでも見るかのように、冷めた目で眺めていた。
そういえば当初の宣言通り、オールマイト自身は攻撃すらしていない。それどころかその場から一歩たりとも動いていない。
きっと全てはオールマイトの掌の上だったんだろう。彼は自らの手を汚す事なく、復讐を完遂させ、
『我が主にぃ、手出しはさせんぞぉ!!』
あれ、マキア!?
すっかり弱って地面に膝をついていた彼が、最後の力を振り絞って、腕を振り上げる。
その衝撃で巻き起こった砂埃が、相澤先生の視界を遮ったらしい。身体の違和感が消えて、瞬間的に個性の使用が可能になった。
間に合うか!?
個性によって、身体中から“硬質のイボ”を生やしていく。見る見るうちに広がっていくソレは、要塞のような形状となって、僕を包んだ。
『ウォーツ・シェル!!!』
他人から奪った個性因子と仲が悪いせいで、僕は自分以外の個性を上手く扱えない。いやまあ、自分の個性も上手く扱えていないのはさておく。
だが、一つだけ例外はある。それは血を分けた家族である母の個性だ。彼女が死に際に託してくれたこの個性だけは、僕でも上手く扱える。
これこそが僕の最終手段だ。今回も、雄英の誇るプロヒーロー達の攻撃を何とか凌いでくれた。
『また助けられたね、母さん。』