世界が、音を失っていった。
空が四角く歪み、幾何学模様が走る。
現実が、静かに“管理コード”へと変わっていく。
「……ここが、ラビリンスの中枢世界」
さつきが呟いた。
目の前に広がるのは無限に続く白の回廊。
空も地も存在せず、ただ直線だけが延びている。
中心に座するは、巨大な“目”。
ラビリンス総統――メビウス。
冷たい金属光を放つその存在は、
感情の一切を削ぎ落とした「完璧な秩序」そのものだった。
『観測個体No.07、西隼人。
貴様は感情というバグを発生させた。修正を開始する』
メビウスの声は、世界そのものの声。
絶対的な命令。逃れようのない現実。
隼人の身体が震え、コードの光が脈打つ。
その姿を見て、さつきが一歩前に出る。
「待て! 隼人はもう、管理装置じゃない!
彼は“人”だ!」
『“人”とは非効率の集合体。感情はシステムの腐敗要因。』
「違う! 感情は破壊じゃない、創造の始まりだ!」
メビウスの瞳が、彼を映す。
冷たい光が降り注ぐ。
「……さつき」
隼人が静かに口を開く。
その瞳は、もう迷っていなかった。
「メビウスのコードが……俺の中にある。
でも、俺は“お前”と出会って知ったんだ。
過程を楽しむこと、人を思うこと――
それが、俺に欠けていた“心”だ」
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雷鳴のようなノイズが走る。
隼人の身体から、紅と蒼の光が噴き上がる。
ラビリンスの紋章が砕け、別の紋が浮かび上がった。
――W。
彼の名を告げる、新たなコード。
「ウエスター……これが、俺の“名”か」
『覚醒を確認。No.07、分類変更:自由意思個体。抹消対象に移行』
メビウスの声が轟く。
だがウエスターは笑った。
その笑顔には、かつての“冷たい無表情”はもうなかった。
「上等だよ、メビウス。
俺はお前の完璧な檻を壊してみせる。
ここに、“人間の欠陥”がある限りな!」
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メビウスの光線が空間を裂く。
だが、その間にムーンライトが舞い降りる。
月光が白刃のように走り、光線を切り裂く。
「行って、隼人! あなたが信じる“仲間”のもとへ!」
ウエスターは頷き、さつきを見た。
――その視線は、友情の色を帯びていた。
「さつき。助けが必要なら、俺を呼べ。
俺とお前は、友だ。必ず助けに駆け付ける」
「……僕も駆けつけるよ」
二人は拳を合わせ、固く握手を交わした。
その瞬間、精霊手の光とラビリンスのコードが共鳴し、
白い閃光が世界を満たした。
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ノイズが消えたとき、
ウエスターの姿は、すでに光の向こうに消えていた。
彼の残した足跡は、データの海へと還っていく。
ムーンライトが静かに呟く。
「……行ったのね」
「うん。でも、きっとまた会える。
――彼はもう、“人”として生きてるから」
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OVERSの声が、遠くから届く。
[新観測ライン確立]
[未来座標:ラビリンス内・個体群:イース、サウラー検知]
[ウエスター、対象保護プロトコル開始]
さつきはその報告を聞きながら、
ゆりの方へ振り返る。
「ゆり。俺たちも、自分の世界を守ろう」
「ええ。彼が戻れる場所を……私たちが守るの」
二人の影が重なる。
その後ろで、月が静かに輝いた。
遠い未来、ウエスターがイースとサウラーを救い出すその日まで――
彼の背中を照らす光は、確かにここから始まっていた。
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──それは、“友”という名の奇跡。
心と心を繋ぐ、もう一つのプリキュアの物語だった。