ハートキャッチされた男の子の物語   作:ぶーく・ぶくぶく

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花咲く日常(祈りの終着点)

 

春。

風に桜の花びらが舞っていた。

 

エンディングのような穏やかな風景――

だけど、ここまで来るのに、いくつもの“戦い”を越えてきた。

 

病弱だった身体はまだ完全ではない。

それでも、明堂院さつきは今日も笑っている。

道場の裏庭で、ゆりと並んで掃き掃除をしていた。

 

 

 

「……静かね」

 

「うん。でも、それが一番いい。

 “平和”って、こういう退屈のことを言うんだろうね」

 

「あなたらしいわ」

 

ゆりは柔らかく微笑んだ。

あの頃の、どこか張り詰めていた瞳はもうない。

代わりに、ほんの少しの“寂しさ”と“温かさ”が同居している。

 

 

 

「……あの人、どうしてると思う?」

 

ゆりの視線が、空の向こうを見つめた。

その先にあるのは、ラビリンス。

冷たい機械の世界――けれど、そこにも“春”を届けに行った男がいる。

 

「ウエスターは……いや、隼人はきっと、頑張ってるさ。

 イースやサウラーを、俺たちと同じように“救ってる”と思う」

 

「ええ。きっとそうね」

 

二人の間に、風が通り抜ける。

花びらが一枚、さつきの肩に落ちた。

 

彼はそれを指先で掬い、そっと空へ放つ。

 

「――また、会えるかな」

 

「ええ。きっと」

 

ゆりは微笑んだ。

その笑みはどこまでも優しく、光のように柔らかかった。

 

 

 

/*/

 

 

 

そのころ、ラビリンスの空。

赤い砂漠の上に立つ影が一つ。

ウエスター――かつて西隼人と呼ばれた男は、

蒼い風を感じながら、遠い地球を見上げていた。

 

「……お前たちは、どうしてる?」

 

彼の背後に、二つの人影。

黒いコートの青年、そして銀髪の少女。

 

「ウエスター、また空を見てるの?」

 

「サウラー、イース……ああ、少しな」

 

彼は笑った。

その笑みは、以前のようにぎこちなくはなかった。

彼らを導く“心”が、もう彼の中にある。

 

「……助けが必要なら、俺を呼べ。

 俺とお前は友だ。必ず助けに駆け付ける」

 

かつて交わした、さつきとの言葉が風の中で蘇る。

 

「俺も駆けつけるよ」

 

――その声は、まるで今も届いているようだった。

 

 

 

「……あいつら、ちゃんと笑ってるか?」

 

「ええ。あなたと同じ顔でね」

 

イースの言葉に、ウエスターは頷いた。

風が吹く。

ラビリンスの空にも、かすかに桜色の光が滲んでいた。

 

 

 

/*/

 

 

 

地球の夜。

明堂院家の庭に、一輪の桜が咲く。

その下で、さつきとゆりが並んで空を見上げていた。

 

「この光……」

 

ゆりが呟く。

夜空の中に、淡く揺れる蒼の筋が見える。

まるで誰かが“見守っている”ように。

 

「きっと、隼人だよ」

 

「ええ。……私たちの友達」

 

二人は静かに頷き合い、目を閉じた。

風が頬を撫でる。

遠くで花が散る音がする。

 

――悲しみは消えない。

 けれど、それを抱えながらも、人は歩いていける。

 過程を楽しむこと。

 それこそが、生きるということ。

 

 

 

明堂院さつきは微笑んだ。

「今日も、生きてるなぁ……」

 

その言葉に、ゆりが笑う。

二人の笑い声が春風に溶け、夜の空へと消えていった。

 

 

 

──そして世界は、静かに回り続ける。

 悲しみも希望も、人の歩みの中で花のように咲いていく。

 

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