春。
風に桜の花びらが舞っていた。
エンディングのような穏やかな風景――
だけど、ここまで来るのに、いくつもの“戦い”を越えてきた。
病弱だった身体はまだ完全ではない。
それでも、明堂院さつきは今日も笑っている。
道場の裏庭で、ゆりと並んで掃き掃除をしていた。
「……静かね」
「うん。でも、それが一番いい。
“平和”って、こういう退屈のことを言うんだろうね」
「あなたらしいわ」
ゆりは柔らかく微笑んだ。
あの頃の、どこか張り詰めていた瞳はもうない。
代わりに、ほんの少しの“寂しさ”と“温かさ”が同居している。
「……あの人、どうしてると思う?」
ゆりの視線が、空の向こうを見つめた。
その先にあるのは、ラビリンス。
冷たい機械の世界――けれど、そこにも“春”を届けに行った男がいる。
「ウエスターは……いや、隼人はきっと、頑張ってるさ。
イースやサウラーを、俺たちと同じように“救ってる”と思う」
「ええ。きっとそうね」
二人の間に、風が通り抜ける。
花びらが一枚、さつきの肩に落ちた。
彼はそれを指先で掬い、そっと空へ放つ。
「――また、会えるかな」
「ええ。きっと」
ゆりは微笑んだ。
その笑みはどこまでも優しく、光のように柔らかかった。
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そのころ、ラビリンスの空。
赤い砂漠の上に立つ影が一つ。
ウエスター――かつて西隼人と呼ばれた男は、
蒼い風を感じながら、遠い地球を見上げていた。
「……お前たちは、どうしてる?」
彼の背後に、二つの人影。
黒いコートの青年、そして銀髪の少女。
「ウエスター、また空を見てるの?」
「サウラー、イース……ああ、少しな」
彼は笑った。
その笑みは、以前のようにぎこちなくはなかった。
彼らを導く“心”が、もう彼の中にある。
「……助けが必要なら、俺を呼べ。
俺とお前は友だ。必ず助けに駆け付ける」
かつて交わした、さつきとの言葉が風の中で蘇る。
「俺も駆けつけるよ」
――その声は、まるで今も届いているようだった。
「……あいつら、ちゃんと笑ってるか?」
「ええ。あなたと同じ顔でね」
イースの言葉に、ウエスターは頷いた。
風が吹く。
ラビリンスの空にも、かすかに桜色の光が滲んでいた。
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地球の夜。
明堂院家の庭に、一輪の桜が咲く。
その下で、さつきとゆりが並んで空を見上げていた。
「この光……」
ゆりが呟く。
夜空の中に、淡く揺れる蒼の筋が見える。
まるで誰かが“見守っている”ように。
「きっと、隼人だよ」
「ええ。……私たちの友達」
二人は静かに頷き合い、目を閉じた。
風が頬を撫でる。
遠くで花が散る音がする。
――悲しみは消えない。
けれど、それを抱えながらも、人は歩いていける。
過程を楽しむこと。
それこそが、生きるということ。
明堂院さつきは微笑んだ。
「今日も、生きてるなぁ……」
その言葉に、ゆりが笑う。
二人の笑い声が春風に溶け、夜の空へと消えていった。
──そして世界は、静かに回り続ける。
悲しみも希望も、人の歩みの中で花のように咲いていく。