ハートキャッチされた男の子の物語   作:ぶーく・ぶくぶく

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再収束命令(データの涙)

 

夜、街の明かりが遠く滲んでいた。

雨は上がり、アスファルトに映る月が歪んで揺れる。

その光の中に、西隼人の影が立っていた。

 

胸の奥が痛い。

理由はわかっている。

“再収束命令”が――来たのだ。

 

[No.07 Observation Unit/Status:Emotion Error]

[Return to the System for Data Re-synchronization]

[If refused:Memory Reclamation/Total Reset]

 

電子音が頭の中で鳴り続ける。

声ではない。コードの命令。

「帰還せよ」――その一行に、全ての感情が否定されていた。

 

 

/*/

 

 

「……そんな顔、似合わないね」

 

背後から声がした。

明堂院さつき。

制服の上に道着の上着を羽織り、掌に淡い光を宿している。

 

「再収束……来たんだね」

 

「感情を持った俺は、システムにとっては“欠陥”だ」

 

「欠陥じゃない。進化だよ」

 

さつきの声は穏やかだった。

けれどその奥には、怒りと悲しみが入り混じっていた。

 

「ラビリンスは間違ってる。

 人は苦しみも喜びも、全部“過程”にして生きる。

 お前が笑えたこと、それが証拠だ」

 

隼人は視線を落とした。

手のひらに、青い線が走る。

データの脈動。命令の再起動。

体が勝手に動こうとする。

 

「駄目だ……制御が……」

 

「制御しなくていい。感じろ、隼人!」

 

 

/*/

 

 

空気が震えた。

光の粒が風のように降り注ぐ。

空から、金属質な“目”――監視衛星の残滓が降りてくる。

歪んだデータの雨が地面に触れ、ノイズの波を起こす。

 

そこに立っていたのは――

月影ゆり。

白いワンピース姿のまま、静かに目を閉じていた。

 

「システムに逆らえば、存在が消えるわよ。

 それでも……彼を救いたいの?」

 

「もちろんだ。だって、あいつはもう人間だ」

 

ゆりの瞳に光が宿る。

銀の髪が揺れ、背に月の紋が浮かぶ。

 

「じゃあ――守りましょう。人の心を」

 

 

/*/

 

 

ムーンライトが変身する。

蒼白の光が夜空を裂く。

その光の中で、隼人の身体が軋む。

データの枷が、彼の中で千切れ、断線していく。

 

「制御コード削除開始――No.07を消去せよ」

 

空中に浮かぶ赤い円環が、冷たい光を放つ。

数百のコードが彼を囲む。

ラビリンスの執行命令。

 

だが、その間に、さつきが割り込む。

 

「誰も消させない!」

掌を掲げ、詠唱を紡ぐ。

 

 

 

七度七度(ななどななたび)生まれても 終(つい)に見る夢は同じなり。

愛してる。愛してる。愛してる。

この光は何も殺さない。ただ心を打つのみ。

完成せよ――精霊手!

 

 

 

光が爆ぜ、青い波動が夜を包む。

データの環が崩壊し、ノイズが散る。

その光に包まれて、隼人の体内のプログラムが揺れる。

 

「な……何を……している……!」

 

「お前の心を、世界の“一部”にする!」

 

さつきが掌を突き出す。

その光が、隼人の胸に触れた瞬間、

金属の心が鼓動を取り戻した。

 

データが涙になり、頬を伝う。

それは、最初で最後の――“心の涙”。

 

「俺……泣いてる……のか……」

 

「そうだよ。

 その涙こそ、お前が生きてる証だ」

 

ムーンライトがそっと隼人の肩に触れた。

「ようこそ、現実へ」

 

その言葉に、隼人は初めて微笑んだ。

 

 

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衛星の目が閉じる。

ラビリンスの監視は一時的に遮断された。

OVERSシステムの声が遠くで響く。

 

《観測値更新。情動感染、確定。No.07を人間登録》

 

世界のコードが、静かに書き換わっていった。

 

 

/*/

 

 

夜明け。

隼人は崩れ落ちたデータの残滓の上で、

ただひとり、泣きながら笑っていた。

 

「生きるって……痛いな」

 

「うん。でも、それでいいんだ」

 

さつきは彼の隣に座り、同じ空を見上げた。

その青は、もうプログラムの色ではなかった。

 

それは確かに――“人間の空”だった。

 

 

/*/ 

 

 

──そして、物語は次の段階へ進む。

“システムの干渉”を超えた者たちが、今度は“神の領域”へと歩み始める。

 

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