カヤさんで海賊女王を目指してもいいんでしょうか?   作:信濃信濃川

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第4話 出航

 私は今15歳。つまりは原作の2年前。ただ、思い出してみる必要がある。私にとっての14歳は原作3年前であり、それすなわち、キャプテン・クロがクラハドールとしてシロップ村に姿を見せる頃合いだったはなのだ。

 

 しかし14歳の頃から1年経とうというのに彼は現れやしなかった。のこのこやって来るというのなら、キャプテン・クロ渾身の“お嬢様暗殺計画”を初っ端から破綻させてやるつもりだったが当てが外れた。

 

 まあキャプテン・クロにしてもシロップ村にやって来るに当たっては事前に下調べをしたはずである。その際に対象がか弱いお嬢様のはずが、死に物狂いで戦闘修行をしていて、それなりに戦えそうとなれば計画を変更するのも当然か。百計の2つ名があるくらいなんだし、バカじゃないんだものね。

 

 そんなシロップ村に姿を見せなかったキャプテン・クロがどこで何をやっているのか、まだ海賊稼業を続けているのかなと思いきや、違っていた。キャプテン・クロの行動確認を依頼しているメリーから報告を受けてみれば、なんとまあ、ゴア王国の王宮に取り入って事務方を務めているらしい。

 

 なんでそうなるのという思いだったが、まさか標的をシロップ村のお嬢様からゴア王国に変更したというのなら、中々の大悪党っぷりだ。私の記憶が正しければキャプテン・クロというのはささやかなお嬢様のお金を狙う中途半端な小悪党だったはずなのだけど。

 

 しかも、ジャンゴは王宮お抱えの催眠術師に収まっているらしいし、ニャーバン兄弟は門番に入り込んでいると聞いた。「こいつら絶対何か企んでるよー」となってしまい、ちょっとめんどくさそうなので一旦様子見だ。彼らをごっそりと仲間にするべく、海上で先手必勝にて「さくっと行こうよ」なんて考えていたのだけれど、少なくとも既にさくっとは行きそうになかった。

 

 なので私も方針転換というわけで、仲間にしていく順番を変えることにした。そこへ挙がってきたメリーからの新たな報告。内容は出航を決意させるに足るもの。

 

 

 そうして迎えた今日という日、私は海賊女王へと辿り着くべく一歩を踏み出す。空は快晴で絶好の船出日和。北の海岸に船を停泊させていて、慌ただしくも出航準備を進めている。海岸すぐ近くまで岩が絶壁のように迫り出しているため、砂浜の幅は狭くて所々に岩も点々としているが、海岸を埋め尽くすようにして村人たちが総出で見送りに来てくれていた。

 

「ついにこの日を迎えましたね」

 

「ええ」

 

 隣に並び立つメリーの言葉に私の口から出たのは短く一言。ついにこの日と言われてしまうと、どうにも感慨深い。

 

 出航を決意してから今日までの半年間、それは怒涛の日々だった。

 

 ウソップさんに船に乗るのを頷かせること自体は容易だったが、私は一抹の懸念を持っていた。ルフィの主人公としての引きのようなものは強烈すぎるからだ。できれば一緒に来てほしいし、最後の景色を共に眺めてみたい。でもこの先どうなるかなんて正直分からない。そんな心揺れ動く日々。

 

 はたまたヤサイーズたちの海賊への興味を沸点までじわじわと上げていき、たまねぎ君、にんじん君、ピーマン君、それぞれの親御さんへ頭を下げに行って、説得に説得を重ねた行脚の日々。

 

 みんなの了解を取り付けた後に始まった船の慣熟訓練がほぼ毎日に及び、大人2名、少年少女5名で最低限、船を動かせるようにするべく汐風を浴び続けた日々。

 

 そんな中でも続く修行は最終段階に入り、船上で陸の上で血反吐を吐きながら私自身と向き合い続けた日々。

 

 私、よく生きてたなァ……

 

「船の準備は万端だッ!! いつでも出航できるッ!!」

「ありがとう!」

「お前の心を読ませてもらったが、何度も言ってる一言を言わせてくれ。死にはしねェて!!」

「ねェ、それセクハラよ。その見聞色の覇気で人の心を読むのは」

 

 背後の船上から出航準備が整った旨をギャバンから伝えられて、振り向きながら感謝を返すまではいい。ただ、このグラサンジジイは大体一言多いのだ。うら若き乙女の心を覗き見する行為にはしっかりと釘を刺しておく。

 

「ギャバンさん、人外の力を持つ者がその力をひけらかすことなく、興味本位に行う行為はパワハラですよ」

「がははは、それを言うなら寄ってたかって年寄りをいじめんのはジジハラだろうがッ!! ジジイと航海士には敬意を持てッ!! 命を落とすことになるからなッ!!」

 

 減らず口の応酬はいつものこと、笑みを浮かべて船上を見上げながら「やんのか、コノヤロー」とファイティングポーズを取ってみる。

 

「フフフッ、カヤもメリーも、ギャバンはアレで結構繊細なところがあるのよ。そのくらいで勘弁してあげてちょうだい」

 

 私たちの様子を見て笑っている母親の慰めのようなものを受けて、ギャバンは恥ずかしそうにしながら顔の前に指を一本立てて「しーッ」とやっている。どうやらギャバンは私の母親に対しては頭が上がらないらしいのだ。

 

「お母さんはギャバンに甘いわよ。ウチのシロップよりもずっとね」

 

 ウチのシロップは甘さ控えめなのに、ギャバンに甘い母親に対して少々からかうように言ってみる。

 

「長いこと甘くないシロップなんか作っているとね、人には甘くなってしまうものよ。それはそうと、シロップを積んでいってくれてありがとうね。中々偉大なる航路の先には直接売りに行くことはできないから。しかも私の娘が行ってくれるのだもの、こんな嬉しいことはない」

 

「お礼を言われるほどのことじゃないわよ。これはついでなんだから。私にはシロップ作りはできないけれど、広めることならできるから。それに売るつもりはないし。ただ行く先々でお世話になった人には渡そうかなって」

「ついでで良いのよ、ついでで。ありがとうね」

 

 笑顔でありがとうと面と向かって言われるのは嬉しくもあり、何だか照れ臭くもある。でもそれによって私自身も笑顔になっている気がする。だから私も人に笑顔でありがとうって言おう。母親の様子を見るうちに教わったことのひとつだ。

 

 そんな教えを私の中に積んで、ウチのシロップは最後の積み荷として、瓶詰めされたものを木箱に入れて1,000本ほど船に積んだ。

 

「わしからも礼を言わせてもらう。娘の門出は嬉しいものだ。一方でやっぱり寂しいものでもある。メイプルは特にな。寄り添ってくれるカヤの気持ちが嬉しいのだよ」

「もうッ、マムったら、それは言わない約束でしょうッ!!」

 

 柔和な笑みを湛え、口ひげを上下させながら伝えてくれた父親の言葉に対し、母親は顔を真っ赤にして父親の肩をパンパン叩いている。

 

「コハハハ、すまぬ、すまぬ。だがな、メイプル、寂しいものは寂しいし、嬉しいものも嬉しい。それを伝えても悪いことにはならぬとも。感じるものは伝えていこうではないか」

 

 母親に肩を叩かれても、腕を引っ張られて何度も体を揺すられても、父親は終始笑顔を見せている。

 

「わしも嬉しいし、寂しいのだ。なのでな……」

 

 そこで言葉を区切ると父親は私に視線を寄越して真剣な表情となった。

 

「ひとつ頼みを聞いて欲しい。もうしばらく東の海に留まるつもりなのならば、偉大なる航路に入る前にもう一度ここへ寄って欲しいのだ」

 

 言葉自体には柔らかさがあったが、表情には有無を言わせないものがあり、私は黙って頷くことしかできなかった。父親の表情の中に一瞬の悲しみを感じたようでもあり、諦めを感じたようでもあり、覚悟を感じたようでもあり、とても不思議な感覚ではあったが、それも一瞬のことであり、父親の顔つきはすぐに笑顔へと戻る。

 

 

とそこへ、まるで場面を替えるようにしてメリーが声を掛けてくれる。

 

「彼ら、来たようですね」

 

 多分、ウソップさんにヤサイーズたちがそれぞれ自身の準備を終えて姿を見せたのだろう。村人たちのざわつきが大きくなっているし。

 

「海賊がー来たぞー」

 

 何とも間延びしたようなウソップさんの声が聞こえてきたのは、この海岸へと降りてくるために崖を切り開いたようになっている1本道の坂道から。

 

 よくよく目を凝らして見てみれば、ウソップさんは坂道をボールのように転がっていた。背負った巨大リュックが見えるので、多分重みを支えきれずにというわけだ。

 

「止めてくれ~~~~ッ!!!!!」

 

 長年に渡って続けてきた「海賊が来たぞー」の大騒動の落ちとして、自分が海賊になったと登場したかったのかもしれないが、ウソップさんの運命はいつだってこんな感じだ。ある意味これも大騒動になっているから、ウソップさんらしくて、これはこれでいいのかもしれない。

 

 村人たちも呆れた表情をしていたり、もう笑ってしまっていたりで、転がってくるウソップさんのために花道を作るようにして、私の前まで続くきれいな一本道が出来上がってゆく。

 

 しょうがないなァ……

 

 しょうがないので、勢いそのままに転がってきたウソップさんボールを右手一本で勢いを殺し、止めてあげた。

 

「カヤ……、わ、わりィな……」

「ううん、全然。ウソップさん、お疲れさま。待ってたわよ」

 

 顔はやめてあげて、せめてお腹にしてあげたけど、しっかりスマッシュヒット。でも感謝された。

 

 私、いいことしたわね。

 

 村人たちも大爆笑していて、拍手の嵐と親指を立てて「グッドだ」と示してくれた。

 

「「「キャプテン、大丈夫ですか?」」」

 

 ようやく姿を見せた、たまねぎ君、にんじん君、ピーマン君、ヤサイーズの面々。

 

「ありがとな、お前ら。心配してくれんのはお前らだけだ」

 

 巨大リュックを一旦降ろして座り込んでいたウソップさんはヤサイーズたちからの優しい言葉に嬉しそう。

 

 だが……

 

「「「あ、心配はしてないですよ。キャプテンの登場っていつもこんなんだし」」」

 

 ヤサイーズたちはウソップさんへの対応をよく心得ていた。

 

「みんな、お父さん、お母さんとの別れはもうちゃんと済ませたの?」

 

 ウソップさんの荷物含めた諸々の対応は船から降りてきたギャバンとメリーに任せて、ヤサイーズたちに声を掛ける。

 

「「「はいッ!! 大丈夫ですッ!!」」」

 

 口を揃えた返事は大変よろしいもの。期待と不安どちらも入り混じった、ドキドキワクワクな表情だ。

 

 ただ、彼らが持ってきた荷物を見ると三者三様だった。

 

 たまねぎ君は今から遠足に行くつもりなのってくらいの小さなリュックでとにかく身軽。小説家志望っていうのはこうなのかな。にんじん君は荷車を引っ張って来ていて、そこにはこれでもかと積まれた調理道具に食材たち。さすがにお酒はなかったが、慎重な性格の彼らしく色々なものを持ってきているのだろう。ピーマン君はリュックすら背負っていない。腰に大工さんのようにノコギリやらトンカチを入れた袋を提げているだけだ。

 

「にんじん君はともかく、たまねぎ君とピーマン君はそれで大丈夫なの?」

「ぼくは紙とペンさえあればいいんですよ。あとは多少の着替えはこの中にも入りますし」

「オレはノコギリにトンカチ、こいつらさえあれば大丈夫ですよ。服は洗えば済むし」

 

 私の尤もな質問に対し、たまねぎ君もにんじん君も何でもないことのように答えてくれた。まあ、本人がそう言っているのだからいいのかとも思ってしまうが、後で後悔しても知らないよとも思ってしまう。とはいえ、何とも逞しい限りだ。

 

「こいつらいつもこんな感じなんで多分大丈夫ですよ。オレにはさっぱり分からないですけどね」

 

 にんじん君もこう言っている。まあ、いいのか。にんじん君が何とかするっていうこともあるのかもしれないけれど。彼も結構大変ね。

 

 ヤサイーズたちへの懸念は一旦脇に置いておくことにした。もう出航するのだ。

 

「OK! じゃあそろそろ出発するから船に乗りましょう」

 

 

 みんなが船に乗り込み、それぞれの荷物も船室か甲板下に積み切ったところで、甲板に集合。

 

「よし! 全員揃ったし、ちゃんと着てるわねッ!!」

 

 私たち全員が着ている服装、これを正装と呼ぶことにしている。大事な瞬間に着るものであり、今はその大事な瞬間と言えるだろう。海賊団にとっての初出航なのだから。そして私たちの正装は赤備え。私はワンピース、メリーはスーツ、ギャバンは柄シャツにハーフパンツ、ウソップさんはオーバーオール、ヤサイーズたちはTシャツにパンツとそれぞれ着ているものの種類は違うが、全員一様に赤色なのだ。

 

 たまねぎ君とピーマン君の荷物が少ないのはこの正装があるからというのも理由なのかもしれない。確かにこれひとつあれば問題ないとも言えるしね。

 

 みんなの雰囲気が、ここで何かしらの私からの一言でもあるのか? というような感じだったので、一言。

 

「私は海賊女王になるッ!!」

 

 そして

 

「みんな付いてきてくれてありがとうッ!! 出航するわよッ!!」

 

 宣言をして拳を振り上げた。

 

「ああ、航海に関しちゃオレに任せとけッ!!」

「どこまでもお供いたします」

「カヤ、大船に乗ったつもりでいてくれていいぞッ!!」

「ぼくも頑張りますよッ!!」

「オレは自分にできることをやっていきますッ!!」

「オレもやってやりますよッ!!」

 

 みんなの返事を聞いて自然と私の口角は上がっていく。

 

 ギャバンやメリーはちゃんと頼りになるだろうし、ウソップさんは相変わらずだけど一応修行も慣熟訓練もやり切ったはず。ヤサイーズたちにも遊びという名の修行に取り組んでもらったのだ。私やギャバン、メリーとの鬼ごっこデスマッチで死に物狂いで走り回ってもらったし、宝探しだと称して地中に埋めた宝箱の中にメリーが作らせた超重い偽コインをこれでもかと詰め込んで、実態は過酷すぎる筋トレ修行もやってもらった。

 

 うん! 大丈夫!!

 

「ギャバン、錨を上げてッ!! メリーは帆の調整をお願いッ!!」

 

 私自身を奮い立たせた後に、ギャバンに航海士としての指示を出す。

 

「よーし、野郎共ッ!! 訓練通りやりゃァできるッ!!」

「承知いたしました」

「キャプテン、ほら行きますよ」

「さぼってたら出発できないんですから」

「またオレのケツバット食らいたいんですか?」

 

 一人だけそうっと甲板から脱け出そうとしていたウソップさんをヤサイーズたちが見逃すはずはなくて、しっかりと強制連行である。

 

「分かった、分かったッ!! 船室に入ってないと死んでしまう病は今治ったから行くって!!」

「ウソップさん、私も一緒にやるから、頑張ろうよッ!!」

 

 ウソップさんには私からも声を掛けてあげて上手く乗せてあげることが肝要だ。

 

 そうして錨を上げると、風を取り込んだ帆がはためき始め、船は命を吹き込まれたかのようにしてゆっくりと動き出してゆく。

 

 後ろを振り返って、眼下には村のみんなの姿。父親が片手を上げてくれている。母親は両手を振ってくれての別れの挨拶。そして村のみんなは、バットにフライパン、時々釘バットを振り上げてくれる。小さい子たちは一斉に輪ゴムを飛ばしてくれている。積み込みの際に餞別だと渡されそうになったものを丁重にお断りしておいた結果である。

 

「「「「「行ってらっしゃーいッ!!!!!!」」」」」

 

 とはいえ、村のみんなからの盛大な見送りの儀は感極まってくるものがあるわけで

 

「行ってきま~~~っすッ!!!!!」

 

 私たちも一度もらったことがあるバットにフライパンと輪ゴムで応えてあげた。

 

 こうして私たちはついにシロップ村を後にする。

 

 

 

 

 

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