カヤさんで海賊女王を目指してもいいんでしょうか?   作:信濃信濃川

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第6話 仲間集め -ギンー

 赤く塗った羊頭を船首に(かたど)る『レッドメリー』号から空に飛び出した後、月歩(ゲッポウ)で海を眼下に眺めながら空中を走るように飛んで海軍船のメインマストにある帆桁(ヤード)に降り立った。

 

 積み込み作業を行う海兵さんたちに直ぐに気付かれてしまい、驚きの表情と共に「君、危ないから降りなさい」と至極真っ当な指摘をされて、私は即座に喧嘩を売った。

 

「私の名はカヤ。未来の海賊女王になる者だッ!!」

 

 それに対して、

 

「カヤ? 聞かない名だ」

「海賊女王だと、バカなッ!!」

「海賊だーッ!! 相手はひとり、すぐに捕まえろッ!!」

 

口々に海兵さんたちからの叫び声が飛び交い、鬱陶しい限りだが、まずは少女らしく可愛く振舞ってみる。

 

「旗揚げしたばかりなの」

 

 ハートマークでも飛ばす様な勢いで口にして、舌を出して見せた後には、

 

「海兵どもッ!! 潰されたくなければ、さっさと降伏しろッ!!」

 

火に油を注ぐようにして倍増しに喧嘩を売っていく。とびっきりの笑顔を添えて。火薬の海賊団船長としては当然のことだ。世界の火種になろうと言うのだから。

 

「「「「「断るッ!!!!!」」」」」

 

 ただそうなると、もちろん海賊から売られた喧嘩を買わない海兵など居ないわけで、次々と武器を手に取る音が聞こえてくる。相手もやる気は十分。私自身の中にも暴れるような闘志が漲ってくるのが感じられる。

 

 それでも冷静を保とうとする、心の中にあるもう一方の私自身は周囲で係留されている数多の海軍船の中に、中将旗を掲げる一際大きな(ふね)の存在を確認した。すぐにもジャケットの胸ポケットに忍ばせておいた貴重な小電伝虫を取り出す。

 

「メリー、聞こえてる?」

 

 事前の打ち合わせにはないタイミングでの連絡なので直ぐに応答してくれるか心配が過ったが、

 

~「ええ、お嬢様。どうされました?」~

 

小電伝虫の顔が羊に変化して、メリーからはほぼタイムラグなしで返事が返ってきた。

 

「中将旗を掲げた軍艦を見つけたわ。偉大なる航路に直接行ける軍艦がここにいる。これは又とないチャンスよ。作戦を変更する。ギャバンにスタンバイと伝えて」

~「承知しました。その軍艦を拿捕(だほ)するということですね」~

「ええ、そういうこと。ギャバンにはあくまでも待機だと伝えて。行けるところまで行くから」

~「承知です。ご武運を」~

 

 メリーは余計な口は挟まずにいてくれる。それが実に有難い。作戦は完全に当初の想定とは違ったものになっているが、まあいいだろう。

 

 クロネコ海賊団が海賊をやらずに陸に上がってゴア王国に入り、陰謀疑わしき状況になっていることを確認した後、仲間集めの優先順位を変更した。最初にキャッチした有力情報が“鬼人のギン”の足取りだった。海賊団が壊滅して海軍に捕縛された。しかもクリークに出会う前に。

 

 ギンを仲間にするに当たっての最大の問題はクリークとの関係だった。原作の流れを考慮するとギンにとってのクリークというのはアヒルの子にとっての親のようなものだ。クリークに出会ってしまったが最後、ギンは一番最初に目の前に現れた親アヒルのように心酔してしまい、その関係性は揺るぎないものとなってしまうだろう。

 

 よって、絶対にクリークと出会う前にギンに接触する必要があった。私がギンにとっての親アヒルになる必要があるのだ。クリークの行動も常に確認して、側にいないこともキャッチ。あとは私が海兵千人斬りを全うして、ギンを解放してあげればいい。

 

 ただそこに海軍本部中将が居るとなれば話は変わってくるわけで。私で中将まで相手できるのかという問題ではあるが、行けるところまで行ってみようと。ギャバンが骨は拾ってくれるって言っていたし。骨になるつもりも当然ないけれど。

 

 それに、このタイミングで偉大なる航路仕様の軍艦に巡り合えるというのは運がいいのだ。当初の想定ではかなり後に海軍の英雄さまを相手にして何とかするつもりだったのだから。少なくとも遠目に見える中将旗を掲げた軍艦は船首象が骨を咥えた巨大な犬の顔にはなってはいない。ならば勝機はあると見ていいだろう。

 

 考え事をしていると、眼下はもう盛大に盛り上がっていた。「ウオォォーッ」の掛け声と共に私のところまで登ってきそうな勢いである。

 

 とりあえず、やってやろうかしら。

 

 瞬間、私は飛んでそのまま甲板に降り立った。海兵が密集しているど真ん中に。

 

 それでも、私は間髪入れずに動く。海兵さんたちがギョッとした表情から戦闘態勢に入る前に。

 

 その場で跳んで、手近にいた筋骨(たくま)しい海兵さんの頭の上に叩き潰すようにして乗ってやる。真っ赤な編み上げブーツで。

 

 ぐはッと身体から漏れ出るような嗚咽を海兵は吐き出している。周囲の時が一瞬止まったような感覚。私自身の中にゾクゾクするようなアドレナリンが湧き出てきているのを感じてしまう。

 

 一瞬にして注目を集めてしまった私に対して、体勢を立て直し剣を振り上げて攻めかかろうとする周りの海兵さんたち。そこで私は背中に負った斧を取り出して、頭から崩れ落ちようとしているブーツ下の海兵さんにはおさらば。

 

威斧(ルルド・アッシュ)!!」

 

 隣にいた海兵さんの肩目掛けて重さを一点集中させるように斧を振り下ろす。先端に重心が集まることで生み出される角運動エネルギーを質量そのまま乗せるようにして。

 

 瞬間で血を噴き出して崩れ落ちる海兵さんを前にして私が思うことは、技名を口にすることの意義についてだ。修行時にギャバンに「意味あるのか?」と聞いてみれば、野暮なことを聞くなと言わんばかりに「かっこいいだろうがッ」と怒鳴り散らされた。

 

 まあ確かに口にした方が私の気分も上がるのかもしれない。そんなものかな。

 

 旗揚げしたばかりの海賊だという少女が斧を片手に海兵を一撃で葬ったものだから、明らかに他の海兵さんたちの表情が強張っている。

 

 さあ、やってやろうじゃないの。

 

 私は再び斧を振り上げて動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは一言で表現するなら蹂躙(じゅうりん)そのものだった。

 

 深紅に身を纏う海賊少女は海軍船の甲板に降り立ってから5分も経たぬうちにその場を阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄絵図に変えようとしていた。のたうち回る海兵は既に50に達しようかという数。

 

 彼女の動きはしなやかにて素早くも獲物たる海兵を仕留めてゆく。剣を振り(かざ)されようとも、斧の刃で的確に受け止め、逆に反動から渾身の一撃にて斧を振り翳していった。

 

 ひとりの少女によって軍艦1隻が瞬く間に制圧されようとしている状況の中で、海兵側も事の認識を改めざるを得なくなる。この女は危険すぎると。

 

 

 混乱広がる第3補給ベースであるが、それでも海軍としての矜持を示さなくてはならないはずである。それは海軍本部中将かはたまた……。否、つい先ほど係留を許可された海軍船は第16支部所属。近くの別の軍艦上で繰り広げられる大混乱の様子を見て取り、苦虫を嚙み潰したような表情を見せている第16支部大佐。彼こそが海軍としての威厳を体現するべく立ち上がる存在か。

 

「モモンガ中将が直々に来ているというのに、この体たらく。くそッ、あの小娘めッ!! このままでは海賊鬼人のギン捕縛による私の出世街道驀進(ばくしん)計画が水の泡となってしまうではないかッ!! 弱点だッ!! あの小娘の弱点を探せッ!! どんな手を使おうとも私の計画を邪魔させはしないぞッ!!」

 

 否、威厳もくそもない、クズであった。

 

「ですが大佐、我々があの海賊を制圧することができれば、本部栄転は間違いないのでは。そうすれば我々は更なる賄賂を手にしてウハウハ人生を」

「そんなことは分かっているッ!! それに賄賂じゃねェ、言葉には気を付けろと言っているだろうがッ!! 相談料と言えッ!!」

 

 部下との会話を聞く限りにおいても、ろくでなし野郎だと言える。

 

「大佐、海賊が次艦に移りそうですが、どうも背後からの攻撃に苦戦しているようには見受けられます」

「ようし、ならば囲い込みだッ!! ひとりで当たるな、徹底して複数で相手をするように伝えろッ!! とにかく数をぶつけての人海戦術だッ!! 犠牲はいくら出しても構わねェ、あの小娘を捕まえることさえ出来ればいいのだッ!!」

 

 彼は海軍第16支部大佐ねずみ。威厳もくそもないクズであり、ろくでなし野郎ではあるが、狡すっからいことにかけては取引業者から絶大なる評判を得ている狡猾な男でもあった。

 

 

 真っ赤なジャケットを(ひるがえ)して戦う海賊少女の歩みは止まらない。最初の軍艦は軽々と制圧を終え、次艦に飛び移り新たな蹂躙を始めようとしていた。

 

 確かに第16支部の海兵が見立てたように、背後からの攻撃に対しては脆さがあるのかもしれない。見聞色の覇気に弱さを抱えているのかもしれない。ただそんな懸念をものともしない様子であり、海賊少女は止まりはしない。

 

 次艦にて第16支部からの信号が効いたのか、海兵たちはひとりで立ち向かおうとせずに、集団で取り囲んで輪を徐々に狭めていくようにして海賊少女へと迫ってゆく。

 

 それでも彼女の攻撃は滑らかそのもの。正面の相手に対しては相変わらずたっぷりと質量を乗せた斧の振り下ろし一撃を見舞って次々と海兵たちを脱落させてゆく。

 

 ただ、海兵たちも犠牲は百も承知と言わんばかりに立ち向かう。彼女の背後に徹底して回り込み銃撃を加えていくのだ。そこに対して彼女は何とかして避けていくが弾が腕を掠めることもちらほら。先ほどまでの動きに制限が掛けられるようにして、動きのキレが失われていくがはたして……

 

「いけるぞッ!! 一斉に取り囲めッ!! 一気に圧し潰せーーーッ!!!」

 

 海兵たちはここが正念場とばかりに気勢を上げた。

 

 だがその瞬間、海賊少女の姿が消えた。否、消えたのではない、それは目にも止まらぬスピードで動き始めたということであり、すなわち(ソル)で動き始めたということであろう。

 

 消える直前の少女は存分に口角を上げていた。それは不敵と言ってもよい笑み。

 

速斧(ラピデ・アッシュ)!!!」

 

 剃という人外の速度で甲板を縦横無尽に移動しながら斧を振るえばどうなるのかと言えば、それは(たちま)ちのうちに甲板上が阿鼻叫喚地獄へと突き落とされていくということである。

 

 どうやら少女的にはここまでただのウォーミングアップに過ぎないのかもしれない。次艦もあっという間に海兵立ち並ぶ平和の砦たる海軍船から地獄の成れの果てへと陥れて見せた。

 

 そしてまた海賊少女は飛ぶ。目にも止まらぬ速さのままに。つまりは剃の速度で月歩にて空中を飛んでいるわけで、六式でいう剃刀(カミソリ)と化していた。

 

 剃刀少女の次の矛先、更なる軍艦に対して空中にて一旦静止すると少女はその場で片足を振り上げてゆく。

 

嵐脚(ランキャク) “赤雷(ルージュ・トルネール)”!!!」

 

 振り上げた足から放たれたのは斬撃にも等しい蹴りの鎌風。深紅のボトムスに身を包む足から放たれるその斬撃は赤い雷かと見紛うほどに軍艦へと降り注ぎ、人も船も関係なく切り刻んでいった。

 

 ウォーミングアップが完了した様子の鎌風少女はそれだけでは終わらない。赤い雷を落とされて死屍累々同然の軍艦にそのまま降り立ち、間髪入れずに足を振り上げた上で回し蹴りよろしく身体を回転させる。

 

嵐脚(ランキャク) “賽の目斬り(ブリュノワーズ)”!!!」

 

 回し蹴りの鎌風が生み出すのは四方を制圧してサイコロ同然でズタズタに切り裂いてゆく容赦の無い斬撃。それは浮桟橋に密集するように係留されていた軍艦4隻分を一瞬にしてダイス状でいることしか存在を許されない世界へと変えていった。

 

 深紅を纏って(ほとばし)る切断少女はものの20分足らずで軍艦6隻の存在を完全否定し、海兵600人斬りに迫ろうとしていた。どう控えめに見たところで存在自体がヤバかった。

 

 儚くは、ねずみ大佐の一計か。彼の邪な野望溢れる戦術は真っ赤な少女のヤバさ加減の前に一瞬で崩れ去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれって多分、ねずみ大佐よね。

 

 あのねずみ男同然の顔つきは見逃しようもなかった。8隻目の軍艦を塵芥(ちりあくた)の状態にしたところで、中将座乗艦を除く残り1隻へ向ける私の視線は獲物を見つめる猫の目になっていた自信がある。

 

 8隻目に至るまでギンの姿を捉えることは無かった。どちらかの艦にギンはいる。私の勘はクズ野郎大佐の所だと告げていた。

 

 ベジタブルファーストで野菜から食べることが淑女(レディー)の嗜みだとメリーには教わったことがある。実際のところ肉を食べた記憶しか残っていないが。ただ、ベジタブルファーストがそうだと言うのなら、パンケーキファーストにて一番好きなものから食べるというのも淑女の嗜みではないかとも思うのだ。しかし私はそんな信念を捻じ曲げようとも思っている次第。パンケーキラスト、とっておきの大好物、最高の獲物は一番最後に残しておくべきではないかと。そんな私は舌なめずりをしている自信が多分にあった。

 

 というわけで私が相対するのはもうひとつの軍艦、海軍本部中将が座乗する艦である。月歩で空中に静止しながら眺めるその艦に海兵の姿はただひとり。馬のしっぽよろしく後ろに束ね下ろす長髪。前の世界の英国老紳士にいそうなピンと左右に伸びた口髭。甲板にてドカッと胡坐をかき、横には一振りの刀。

 

 海軍本部中将モモンガ、その人だ。

 

 私に対して数は意味の無いことだと悟った上での、甲板にてひとり佇むということなのだろう。モモンガ中将さんは見上げるようにして眼光鋭くも私を睨みつけてくる。

 

「貴様の船はアレだな。髑髏から延びる2つの導火線は火花を散らす。先ほど本部には一報を入れておいた。火薬のカヤと呼ばせてもらおうか。貴様、世界に導火線を延ばして花火でも打ち上げるつもりかッ!!」

 

 ひとつひとつに質量を伴わせるようにしてモモンガ中将さんの言葉は淀みなく放たれてくるが、最後の一言に入る前に区切り、一際鋭い眼光で問い掛けてきた。

 

「何を望む?」

 

 その問いに真っ向勝負で答えてやるべく私の口角も一際上げてゆく。一点の曇り無く邪悪に。

 

「海賊女王ッ!!!!!!」

 

 私がもし覇王色の覇気まで持つというのなら、今この時こそがぶつける瞬間なのだろう。残念ながらまだそんな域にまで私は達していないけれど。

 

「随分と兵士たちを痛みつけてくれたものだ。1000人斬りでもやるつもりかッ!! 貴様は今ここで確実に摘んでおかなければならない相手」

 

 その言葉を合図にしたかのようにモモンガ中将さんは立ち上がる。刀を片手に握って。

 

 武装色の覇気は扱えても見聞色の覇気については未だ感覚を掴みかねている私では相当に分が悪い相手なのかもしれない。

 

 でも、それでも退けない。退くわけにはいかない。相手が上だと言うのならば、そこへただ登るのみ。登るのならまずは懐に飛び込んでやろう。

 

 私は静かに私自身の中にあるゴングの鐘を鳴らした。

 

 空中で瞬間的に空にある気を叩き付けるようにして動き出して入れるのは剃刀へのスイッチ。猛烈なる速度で急降下をかますようにして振り下ろす斧を一気に黒斧へと変化させる。

 

武威斧(ノワール・アッシュ)!!!!」

 

 上空からの高さ分、そして私自身の気を一点集中させて乗せた質量の重み。それを容赦なく頭上へと叩き下ろした。

 

 だが渾身の振り下ろしによって得た感触は頭蓋の硬さではなく、甲板の脆さ。モモンガ中将さんの姿は既に無くて、

 

「遅いなッ!! 剃刀に武装色、脅威であるのは確かだが、鍛錬の重さが足りぬッ!!」

 

冷静に返された言葉の後に感じるのは悪寒。左へ顔を動かせば、ほぼゼロ距離にて刀を抜いたモモンガ中将さん。上段から斜めに振り下ろされてくる剣閃。間に合うかどうか分からないままに全身の力を一息に抜き、空気の流れに身を任せて躱そうとする。

 

「私の愛の重さを測れないなんて、鍛錬のしすぎね」

 

 内心に焦りがあろうとも減らず口だけは止めるわけにはいかない。はったりをかませなければ上には登れない。

 

 そんな虚勢を嘲笑うが如く剣閃は私のお腹を掠めゆく。武装色が纏われた刀による剣閃では掠りが無事で済むわけはなく、瞬間で感じる痛み。それでも抗い、私の足に無理矢理言い聞かせて、甲板に突き刺さったままの斧を甲板ごと踏み抜いて宙へと飛ばす。

 

 ダメ、来る。

 

「この先の未来に海賊の王を誕生させてはならぬのだッ!! 金輪際なッ!!」

 

 剣閃がひとつで終わることは無く、畳みかけるようにしての容赦無い連撃。二閃、三閃。そのすべてを紙絵にて辛うじて躱そうとするも、叶わずお腹を掠れてゆき、蓄積して増幅される痛み。

 

 でも、めげない。止まらないし、退かない。

 

「つまらないわねッ!! 正しさが……過ぎるわよッ!!」

 

 私の身体を横にしたまま気を叩き付けるように足を蹴って宙に飛び、回転運動のままに嵐脚のかまいたち。

 

「正しさこそすべて。世の(ことわり)だッ!!」

 

 モモンガ中将さんは、いいえピン髭野郎はかまいたちの斬撃を自らの剣で捌ききっている。

 

 今この時必要なのは怒り。私自身の中にある有象無象、すべてを()しだした強烈なる怒り。

 

「正論ふりかざしてんじゃねェぞッ!! ピンヒゲ野郎がーーーッ!!」

 

 蹴りそのままに足には剃へのスイッチを入れて、一気に間合いを詰めてゆく。

 

靭速斧(ラピデレル・アッシュ)!!!!」

 

 体現するのは質量ではなく、しなやかさ。フットワーク軽くどこまでも斧で踏み込んでゆく。

 

「貴様こそ、言葉が過ぎるぞッ!! くッ、しぶとさで来るかッ!!」

 

 武装色を纏った2つの武器、刀と斧。それらがかち合って、本来ならば奏でるであろう金属音にあるまじき音色を弾きだす。

 

 その音色を鳴り止ませはしない。どこまでも、どこまでも踏み込んでゆく。

 

 踏み込み切ったところで、ジャケットの背を叩いて取り出すはもうひとつの斧。コンパクトを地で行く手斧。間合いを瞬間離して繰り出すのは斧の横回転運動。

 

「しぶとさの先まで延びる一本道。てめェの正論吹き飛ばしてやるからなッ!!」

 

 

竜巻斧砲(トルネール・アッシュ・カノン)!!!!!」

 

 

 横回転から生み出される2つの渦は飛ぶ斬撃となり、相手を寸分違わず撃ち抜く精度で、通りゆくすべてを残骸にする一本道を切り開く。

 

 ギャバンに言われたこと。それは強者に対して必要なのは必殺技一本であること。それをとにかく磨けということ。

 

 父親に言われたこと。それは斧でも狙撃は可能だということ。

 

 私の今最大限放てる渾身の必殺技。これでダメならダメだ。

 

 斬撃は一瞬にして軍艦の甲板上にあるマスト、構造物のすべてを大音量とともに塵芥にして見せた。

 

 でも、ピンヒゲ野郎は立っていた。甲板の上に立っていた。

 

「吹き飛ばされようともそこにただ在るのが正しさだ」

 

 静謐(せいひつ)という表現がぴったりとも言える声音にて、穏やかにも真一文字に突き刺さるような言葉にて。

 

 

伽藍(がらん)(ことわり)!!!!!!」

 

 

 抜き放たれた刀から迸る剣閃は揺らぎひとつない真一文字。正しさの権化。

 

 回避は出来そうもない。諦めはしないけれど、武装色を私自身に纏わせて、黒斧2つを目の前でクロスさせてみるけれど。

 

 正しさなんてくそ喰らえという思いの行き場も逃げ場もありそうにはなかった。正しさの報いは私自身の防御を突き破り、私自身の身も心も容赦なくズタズタに切り裂いてゆく。

 

 私はその真正暴力にただただ身を委ねるしかできはしなかった。

 

 それでも倒れはしない。諦めもしない。退かない。負けない。

 

「正しさ……が、すべて……じゃない。道を……踏み外した……その先にも……正義はある」

 

 畳みかける連撃は来るだろう。私が倒れない限りにおいては。

 

「正してやるッ!!」

 

 来い。来い。来い。来いッッッ!!!!!!

 

 私は逃げも隠れもしない。海賊女王への道には一片の曇りも無い。

 

 怒りを燃やせ。火薬に、導火線に、火花を散らせッ!!!!!

 

 今ここでッ!!!!!!!!!!

 

 

 

「よくやった。お前は間違っちゃいねェ。オレもその道を共に歩んでやるッ!!」

 

 

 

 霞む視界の中で、ギャバンが甲板に降り立ち、振り返って親指を上げていた。

 

「まさか、“山喰らい”! あなたが……」

「ガハハハ、久しぶりにその名を聞いたなッ!! 小僧ッ!! 愛を語ったことはあるのかッ?!!」

 

 ギャバンがモモンガ中将さんの剣閃を受け止めた上で押し返す様子をぼやける視界の中で眺めて。

 

 あ、私もう倒れちゃうな……

 

「カヤッ!! しっかりしろッ!!」

 

 後ろから支えてくれたのはウソップさんだった。

 

「「カヤさんッ!!」」

 

 たまねぎ君とピーマン君の声もする。

 

「火薬の海賊団ッ!! 腹を括れッ!! ここが正念場だッ!! 30秒でいいッ!! カヤを守るッ!! 時間を稼ぐぞッ!!」

 

 船に乗り込んではいけない病だったはずのウソップさんが必死の形相で叫んでいるのが分かる。

 

「はいッ!! カヤさん、にんじんがパンケーキ作って待ってますよッ!!」

 

 ピーマン君が満面の笑みで私を勇気づけてくれる。

 

「はいッ!! カヤさん、メリーさんが私も行くって聞かないのを止めるの、めちゃくちゃ大変だったんですよーッ!!」

 

 たまねぎ君が口を尖らせながら言う文句に思わず笑いだしそうになる。

 

 うん。私、大丈夫だ。

 

 まだ終わっていない。あいつが逃げていく、気がする。

 

「ウソップさん。もう一隻の軍艦は?」

「おい、無理に話そうとするなよ。もう一隻? ああ、あ、逃げようとしてやがるな」

 

 やっぱり。

 

「ウソップさん、みんな、私、大丈夫だから。最後の締めまで全うさせてッ!」

 

 そう言葉を残し、私は最後の力を振り絞って空へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輪斧砲(セルクル・アッシュ・カノン)!!!!」

 

 第3補給ベースの惨状から逃げの一択を導き出したらしい第16支部の艦にはお仕置きが必要である。それは飛ぶ斬撃の縦回転。

 

 放った一撃は軍艦のほぼ真ん中に大穴を貫き通す。

 

 降り立ってみれば、いる、いる。ねずみ大佐が恐怖に(まみ)れたような表情で。

 

 そんな人には精一杯の平手打ちを。愛を込めて。

 

「キモイッ!!」

 

 掌はもちろん黒色に硬化させてね。

 

 

 

 そして、念願の思い人のような相手かもしれない、ギンが甲板下から這い出るように現れた。トンファーを両手にしっかり持って。

 

「すげェな、あんた。まあ助かった。めちゃくちゃだがよ」

 

 苦笑するような表情は紛れもなくギンだった。もう、ここは正直に、包み隠さずに押そう。押しの一手あるのみ。

 

「私はカヤ。海賊女王になるの。あなたがギンでしょう? 私、あなたに仲間になって欲しくてここまでやって来たの。ねェ、私を海賊女王にしてみる気はな~~い?」

 

「あんた、マジでめちゃくちゃだな。だがいい! その話乗ったぜッ!」

 

 にッ! と笑って見せてくれたギンの笑顔は控えめに言っても素敵だった。よく見ると彼はトンファーだけでなく小さな鉄片も手に持っていた。

 

「うん? これが気になるかい。これはな、オレをあんたのとんでもねェ一撃から身を守ってくれた形見みてェなもんだ。オレはあの瞬間、こいつに手を伸ばしたお陰でぴんぴんしてるってわけだな。多分、海兵の認識票だろう。名はクリークって入ってる。上等兵だったらしいな。まあ達者でいるといいんだがよ」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 この世は巡り巡りゆくものらしい。ごめんね、クリークさん。あなたに恨みは無いの。好きか嫌いかで言えば好きにはなれないけれど。

 

 でもとにかくやったー! 私たちの本格的な仲間集めの1人目。ギンさんだーッ!!

 

 東の海(イーストブルー)のメンバーを偉大なる航路に引き連れていって海賊女王目指すなんて、ロマンよね。

 

 私、間違ってないよね。

 

 

 

 

 

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