カヤさんで海賊女王を目指してもいいんでしょうか?   作:信濃信濃川

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第7話 戦い終わって……

 世界三大勢力と言われるように、世界にはその均衡を保つために3つの勢力が存在する。そのひとつが海軍本部。海賊が当たり前のようにして世に蔓延(はびこ)るこの世界において、その平和を守る最後の砦であり、絶対的正義の名の下に数多の強者が世界中から集まってきていた。そんな海軍本部が存在するのがここ、偉大なる航路のマリンフォードである。今日も世界中から(もたら)される重要情報から意思決定をすべく頭を悩ます重鎮がいる。

 

「それで、スコッパー・ギャバンを確認したというのは確かなのか?」

 

 特徴的な長い顎鬚を編み込みにし、眼鏡を掛けた理知的な風貌で威厳さえ感じられるセンゴク元帥が、頭を抱えるような表情で問い掛けていく。

 

「はい、確かです。モモンガ中将が直に対峙しておられます」

 

 答えるのは秀でた額の上にアフロヘアー、サングラスを掛けるブランニュー少佐。元帥の覚えめでたく、内政担当として情報収集とその解析に辣腕(らつわん)を振るう人物である。

 

 2人が話をするのは元帥執務室。センゴクは執務机に腰を下ろし、普段なら机上の湯呑みや茶請け皿に盛られた大好物のおかきに手を伸ばすところだが、自らを戒めるようにそれもせずにいた。片やブランニューもまた入室時に勧められた応接ソファに腰を下ろしつつも、手渡された湯呑みに口を付けることはなく、ローテーブルに広げた資料一式とセンゴクへ交互に目を配っていた。

 

 話の内容は東の海(イーストブルー)にて先日発生したとある事件。ルーキー海賊団によって補給ベースのひとつが壊滅状態に追い込まれてしまったという話である。

 

「東の海で補給ベースがやられるなど本来ならば有り得ぬことだ。だがギャバンがいるならば確かに説明が付く。軍艦を奪われたということもな。あの海で厄介ごとなどガープのバカで十分だというのに。ギャバンの奴め、忌々しい限りだな」

 

 最後には溜息を吐き出すようにして言葉を放つセンゴク。だが言葉はそれだけでは終わらず、

 

「私に直接報告を上げてくれて助かる。今、公にするには影響がデカすぎる内容だ。世間的にも、政府内部的にもな。少なくともギャバンの存在を今出すわけにはいかん」

 

事の重大さを噛み締めるかのように更に言葉を繋げていくが、ブランニューもそれは百も承知だと言わんばかりに深い頷きを見せた。

 

「はい、おっしゃる通りです。ただ、話はそれだけでは終わりません。元帥は元ロジャー海賊団でピーター・マムという砲手を務めていた男を御存知ではないでしょうか」

「ああ、確かにそんな男もいたな」

「実は首謀者と思われるカヤという娘、素性を辿っていきますと判明いたしました。ピーター・マムの娘です」

「何だと! それでギャバンが繋がってくるのか」

「はい。しかもその娘、武装色の覇気を扱うだけでなく、六式をも自在に操っていたと」

「六式を……。ギャバンが扱っていたということはなかったはずだ。まさか、政府に関わっていた人間が更にその海賊団の中に別でいるということか」

「そう考えざるを得ません。賞金額を東の海レベルではなく偉大なる航路レベル、いやそれ以上で判定する必要が出てくるかと」

 

 ダメ押しのような追加情報を聞いたセンゴクは盛大な溜息をひとつ吐き出した後に、吐いた溜め息に対して断りを入れるように「すまん」と呟き、もう既にぬるくなっているであろう湯呑みを構わず手に取ってゆき、ゆっくりとした動作で口に含む。

 

「そうだな。東の海での初頭手配としては前代未聞の額になるが致し方あるまい。将官クラスが相手をする必要があるとなれば1億は必要だな──」

 

 ブルブルブルブル……。突然の電伝虫である。センゴクは机上にて鎮座していたそれの表情を一目見るなり、顔を強張らせたが、すぐさまに受話器を上げる。

 

「センゴクです。どうされましたか? ピーター聖」

 

 相手が有ろうことかの五老星だと気付いて、ブランニューも一気に緊張感を漂わせる。

 

~「火薬のカヤに対する賞金額だが、金額についてこちらの決定に従ってもらう。額は───」

 

 二の句が継げないほど衝撃的な数字が飛び出してきた。その瞬間2人は悟ったであろう。まだ自分たちには知らされていないことがあるのだということを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界を2つに分かつ赤い土の大陸(レッドライン)、そこに対して直角に交差して更に世界を4つに分けんとする偉大なる航路(グランドライン)、両者が交わる場所、赤い土の大陸頂上で世界への覇権を誇示し、そして君臨するようにして建つ聖地“マリージョア”。

 

 その中でも権力の中枢、パンゲア城内にあって“博愛”の2文字が印象的に掲げられた大部屋にて世界最高権力五老星がそれぞれ安楽椅子に座して電伝虫が置かれた卓を囲む。

 

「ひとまず手は打った。だがこれだけでは足りぬ。我が一族から出た恥さらしだ」

 

 受話器を置いたシェパード・十・ピーター聖が淡々と口にした言葉は感情の欠片さえ含まれていない。

 

「いかにも。事を荒立てぬのであればと大目に見てきたところはあるが、事ここに至っては是非も無し」

 

 愛用の刀剣を手に肩をポンポンと叩いているイーサンバロン・V・ナス寿郎聖がきっぱりと言い放つ。

 

「CP-0では手に余る。騎士団を動かすしかあるまいな」

 

 両手を身体の前で組み合わせて微動だにしなかったトップマン・ウォーキュリー聖が顔を左右に向けながら言葉を紡ぐ。

 

「人選はフィガーランドに任せてもいいだろうが、必ず息の根を止める必要はある」

 

 マーカス・マーズ聖がただでさえ細い眼を更に細めながら立ち上がり、断罪するように発言する。

 

「フム、ゴミへと落ちた者には相応しい最期となろう。仮にも天才と言われた男、抜かりがあってはならぬ。時間を掛けて万事手筈を」

 

 椅子に腰掛けようとも杖から両手を離そうとしなかったジェイガルシア・サターン聖が片手を挙げて宣誓の言葉を述べるように最期を締め括った。

 

 ここに世界最高権力による人知れない暗殺計画が胎動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いを終えて、手に入れたいものも手に入れた海賊にとって長居は無用。私たちはギンから仲間入りの誘いへの諾という返答をもらって、すぐにその場を後にする準備に入った。

 

 ギャバンにバトンタッチしたモモンガ中将とのバトルの行方は、私の時とは攻守が完全に逆転してギャバンの独壇場となっていたようだ。モモンガ中将は息絶えるように軍艦の甲板上に倒れていたので、速やかにお引き取り願った。

 

 一応お世話になった相手なのでジャケットのポケットに忍ばせておいたシロップ小瓶を忘れずに渡す。ウチのシロップは甘さ控えめだけど少しは傷の癒しになるだろう。もちろんねずみ大佐には渡してあげはしない。お世話になどなっていないのだから。

 

 そこからは時間との勝負だった。当初は想定していなかった海楼石張りの軍艦が手に入りそうなのだが、戦いの中で甲板上にあったマストや構造物を根こそぎ破壊してしまっている。そのままでは船として動かすことはできないので、ギャバンにはマストを拾ってきてもらい、早速ギンにも加わってもらって、ウソップさん、ピーマン君、たまねぎ君と総出で急ピッチの応急取り付けを行った。

 

 諸々の準備を終えて海軍第3補給ベースを後にした。レッドメリー号と海軍船の2隻を動かすので、船員の数は超カツカツ状態。申し訳ないけれど、レッドメリー号はメリーとにんじん君で何とかしてもらい、残り5名で海軍船を動かしていった。途中で嵐に見舞われずに済んだのは日頃の行いが良かったお蔭だろうか。

 

 軍艦も奪っていくと宣言したら、みんなには「まじかよッ!」と口を揃えて言われた。ギンからは本当にメチャクチャだとお褒めの言葉を賜ったが……。

 

 慣れない船での操船だし、応急処置だけでは耐えられなくなったみたいで途中マストが1本お亡くなりになってしまい、みんなには大変な苦労を強いてしまった。加入していきなりの重労働で、ギンには入ったことを後悔されていないか心配になってしまったけれど、仲良くやってくれているような気がするので大丈夫かな。早速ウソップさんやヤサイーズたちには厳しく指示出しをしていて頼もしくもあった。ただ逆に彼らからは寝不足を心配されていたけれど。多分、目の下に入っているペイントを隈だと思っているのだろう。本人的にはイケてるつもりらしいのでそっとしておいてあげて欲しい。

 

 そんな厳しくも充実した航海の先に私たちが向かった場所はどこなのか? 海軍相手に派手にやらかしてしまった以上、表の世界をおおっぴらに出歩くことなど出来やしない。もちろんシロップ村に戻るという選択肢も既に無い。私たちには身を隠す場所が必要である。間違いなく私の首には賞金が懸けられるだろうから。

 

 そこで向かった先が珍獣島である。なぜか分からないが世にも珍しい珍獣たちが居つくようになってしまった島だ。確かガイモンという宝箱にすっぽりと身体が入ったまま抜けなくなってしまったおじさんがいたはず。ガイモンさんには歓迎されないかもしれないが、差し当たって思いつく隠れ場所はそこぐらいしか無かった。

 

 だからと言って、無理矢理押し入って言うことを聞かすというのも性には合わない。なので珍獣島に到着して上陸したら森には分け入らずに、万歳をして敵意がまったくないことを示しながら、

 

「頼も~~~うッ!! 私たちは海賊だけど、悪い海賊じゃないよーッ!! 良い海賊だよーッ!! しばらくこの島に泊めさせてーッ!!」

 

メチャクチャ大きな声を張り上げて、正直に言った。海軍を襲っておいて、良い海賊も何もあったものではないし、むしろ悪い海賊なのかもしれないが異論は認めない。

 

 みんなからはまたおかしなことを始めだしたと、生温かい目で見守られている気がするが気にしない、気にしない。とはいえ、すぐに反応があるわけでもないし、お腹も空いたので、にんじん君にまたパンケーキを作ってもらった。戦いの後に食べさせてもらったのも格別だったが、航海を終えて新たな島に上陸後すぐに食べるのもまた格別だろう。

 

 私だけ空腹を満たすのは申し訳ないので、みんなで食事にした。メリーとにんじん君の2人でレッドメリー号を動かしてもらい非常にお疲れのところ申し訳ないが、ごはんを作ってもらう。海岸にテーブルを引っ張り出し、椅子を並べれば簡易食堂の出来上がり。みんなが焼いた肉を美味しそうに頬張っている横で私は4段重ねたパンケーキを前にして、魅惑のシロップを掛け、ナイフとフォークを手にし戦闘態勢はばっちりだ。一口食べてみれば、それはもう天にも昇る気持ちとなる。

 

「みんな食ってるなッ!! 飲んでるなッ!! よしッ!! 火薬の海賊団の初勝利に乾杯だッ!!」

 

 食事が進んだところでウソップさんが立ち上がり、改めて乾杯の音頭を取ってくれた。

 

「がははは、まあ最後は尻拭いが必要だったがな」

「でも海賊団としては勝利でしょ。ヤーさんもウチの仲間なんだから」

 

 ギャバンの減らず口にはたまねぎ君が嬉しいことを言ってくれる。何よりも自分たちのことをウチと表現してくれたことがこの海賊団を大事に思ってくれているようで素晴らしい限りだ。

 

「ヤーさん強すぎだよ。あの怖そうな海兵に対して結構一方的だったもんなー」

 

 ピーマン君が戦いのときを思い出すようにして呟いている。私の修行する様子を見る中でギャバンの強さは認識していたのだろうけれど、実戦を目の当たりにしてとんでもないことに気付いたのかもしれない。

 

「ですがお嬢様も大したものでしたよ。しっかりと海兵1,000人斬り、やってのけましたからね」

 

 メリーが笑顔で「よくやった」と言うように褒め称えてくれた。

 

「オレも付いていきたかったなー。カヤさん、次は絶対オレも行きますからね」

 

 悔しそうにしているのはにんじん君。彼はレッドメリー号のことを考えると留守番とならざるを得なかったのだ。

 

「オレも戦闘には自信がある。何より容赦しねェ性質(たち)なんでね。力になれるだろう」

 

 ギンからも自信に満ち溢れた言葉が飛び出してくる。

 

「何にせよ、新しい仲間だッ!! 歓迎するぜ、ギンッ!! 新しい仲間であるギンに乾杯ッ!!」

「オレも骨のある奴は歓迎だッ!! ビシバシ鍛えてやろうッ!!」

「ならば私のメリーズキャンプにも参加してもらった方が良いでしょうね」

「ギンさん、ウチに入ったからには睡眠不足になることはないですよ。良かったですね」

「だから、これは隈じゃねェんだってッ!!」

「色が黒いから良くないんじゃないか? ウチは色々赤いから赤く塗ればいい」

「そういえば、ギンさんは何か好みの食べたいものありますか? オレ結構合わせて作りますよ」

「へー、そうかい、サンキュー。ならパンケーキを頼むよ」

 

 ギンを歓迎する乾杯からのとりとめのないお喋りがギンの好物を聞いた瞬間、一瞬微妙な間ができる。

 

 みんな口には出さずとも「えッ、マジかよ?」とでも言いたげな表情そのもの。何せこの船でパンケーキを食べるのは私だけなのだから。

 

「そんなに意外か? こう見えてもオレは結構甘党なんだよ。あんた、その掛けてるシロップってのは甘いのかい?」

「うーん、どちらかと言うと甘さ控えめかなァ。ていうか、やったー! パンケーキ仲間ができたーッ!!」

 

 パンケーキを食べるのは私ひとりってことで肩身の狭い思いをしていたわけではないけれど、同じものを好きな人間が現れたというのは単純に嬉しいもの。

 

「なァ、ギンってもしかして肉も嫌いだったりするのか? さっきから野菜ばっか食ってるしよ」

「いや、肉も大好きだ。単にオレはベジタブルファーストなだけだ」

「何? その裏切り?」

 

 ウソップさんの質問。私もちょっと期待した質問だったのだけれど、あえなく惨敗。思わず私の口からは非難する言葉が飛び出していた。

 

 そんな至福と絶望、悲喜交々(ひきこもごも)の時間を過ごしていると、森から現れてきた箱入りおじさん。私がパンケーキを幸せそうに食べている姿を見て、警戒する気も失せたらしい。やっぱりパンケーキって正義だなと実感。私はひとりぼっちの肉大嫌いという奈落の底から見事に生還。

 

 みんなが突然現れた不思議おじさんに興味津々だ。そこからはおじさんが今の不思議状態に至った面白可笑しい経緯を聞きながら飲んで食べての幸せ時間。

 

 おじさんは森の番人を自負しているらしく、いつの間にか私たちの周りには珍獣たちも集まって来ていた。とさかを持ち、ニワトリのように鳴くきつね、うさぎのように長い耳を持つ蛇、ライオンのようなたてがみを持つブタとどれもユニークな動物たちばかり。

 

 まだ出会って間もなくの短い時間だというのに、すっかりガイモンさんと打ち解けあった私たち。特にガイモンさんはギャバンに対しては一瞬で只者ではないと見抜いたようであった。

 

 ガイモンさんから島への滞在許可も無事に得ることができて、当分の間の隠れ場所を確保することができた。次の問題は私の懸賞金額がいくらになるのかということ。それは島に滞在して翌日、新聞配達のかもめ、ニュース・クーから買った朝刊によって齎された。

 

 船上での生活が始まってからというもの、寝ぼけ眼のまま甲板に出て新聞を買うことがモーニング・ルーティンのようになっていたのだが、新聞に挟まっていた私の手配書を見つけて最初は0が7つで4,000万ベリーか、こんなものだよねと思っていたものだ。

 

 すぐに興味を失った私は既に起きていて船べりに座り釣り糸を垂らしているウソップさんに渡してあげる。周りで一緒になって釣り糸を垂らすヤサイーズたちも覗き込むようにして見ていた。

 

「4,000万かすげェな、カヤッ!! それにこんな写真どこで撮ったんだよッ!!」

 

 ウソップさんの言う通り、私も思った。その写真は私が丁度髪をかき上げる瞬間を上手く切り取っていて、私的にもよく撮れていると頷くしかない出来映え。

 

「4,000万って東の海で一番じゃないですかーッ!! すげェーッ!!」

「カヤさん、かっこいいなぁーッ!!」

「うーん、4,000万って低くないかなァ、あのカヤさんだよ」

 

 ヤサイーズたちも思い思いに感想を述べているけれど、たまねぎ君、あのカヤさんってどのカヤさんよ? その言葉ちょっと聞き捨てならないよ。紅茶でも飲もうかと食堂に入っていこうとしかけて立ち止まらざるを得なくなる。

 

「どれ、たまねぎ坊主、見せてみな」

 

 甲板に椅子を持ち出してきて海図に何やら書き入れていたらしいギャバンも手配書に興味を示してきた。

 

「カヤ、お前、政府にも相当愛されてるな。お前の懸賞金、0がひとつ多い。4,000万じゃねェ、4億ベリーだ」

 

 ギャバンの言葉に一瞬その場の空気が固まった気がした。そして、

 

「「「「はァーーーーーッ?!!!!!!」」」」

 

ウソップさんとヤサイーズたちが素っ頓狂な叫び声を上げる。額が額すぎてみんな思考停止に陥っているのかもしれない。私もギャバンから受け取ってもう一度手配書を見てみると、

 

“火薬のカヤ” 4億ベリー

 

確かに0がひとつ多い。

 

 ただ私からすれば、政府も結構見る目があるじゃないという思いだ。初頭手配で尚且つ東の海段階でこの額を付けるというのはかなり思い切ったものだけれど、多分ギャバンの存在を考慮しているんじゃないかと思ってしまう。彼の手配書は更新されていない。政府としても藪蛇にはしたくないのだろう。まだギャバンを刺激したくはないし、世間にもそこを公表したくはないのだ。

 

 それに、もしかしたら私の氏素性まで加味している可能性もある。天竜人の子供、それを踏まえた上での初頭で4億の金額。

 

 朝っぱらから大声で叫び上げたものだから、みんなが甲板上に集まってきていた。ここはみんなに全てを話しておいた方がいいかもしれない。私の氏素性、ギャバンがどういう人間なのか、メリーがどういう人間なのか。

 

 

 

 

 

 結果として全てを話したところで何かが変わるわけでもなかった。ギャバンとメリーがとんでもない人間であることは普段の行動から諸に滲み出ていたし。私についても妙に納得されてしまった。私に天竜人の血が流れていようとも、私は私であることはみんなに十分と伝わっているってことなのかもしれない。

 

 とにかく私たちがこれで暇になるなんてことは勿論ない。更にブーストをかけてまっしぐらに突き進んでゆく必要があるのだ。

 

 今は船の外、海岸から少し森に入ったところにデスクを引っ張り出してきて青空書斎とし、絶賛ワーク中である。

 

 まずは手に入れた軍艦の船底に張られている海楼石を引き剥がしてレッドメリー号に張り替える作業を優先して行わなければならない。私のひそかな野望のためには絶対に必要なことだ。

 

 ただ、この作業を自分たちで行うのには無理がある。ギャバンもメリーもその道のプロではない。メリーは船の設計にも造詣があるので多少はいけるかもしれないが、それでもメリーひとりではどうしようもなかった。

 

 そこで必要になるのが専門家の力。とはいえここは東の海だ。ガレーラカンパニーがあるわけでもない。ではどうするのか? みなともさんにお願いするしかない。東の海では凄腕と言われる流浪の大工棟梁。ワノ国に同名で血縁関係もある大工棟梁もいるという、あのみなともさん。原作ではフーシャ村マキノの酒場にて山賊ヒグマが入り口ドアを壊した瞬間から修復して見せた凄腕の持ち主だという話。側に控えているメリーにみなともさんとのコンタクトを既にお願いしていたのだ。

 

「で、どうだった?」

 

 私の問い掛けに対してメリーは表情一つ変えることなく、

 

「金額次第ですが契約はできるでしょう」

 

 ほ~う、契約ときましたか、何だかイメージでどんぶりな感じなのかなって想像していたけれど、意外としっかりしている人なのかもしれない。

 

「いくら?」

「時間1,000万ベリーです。手付金として5,000万、成功報酬として更に5,000万」

「え? はァーーーー?!!!」

 

 法外。法外すぎる。何よ、その金額。

 

「実はその方にはマネージャーだという方が付いておられます。お名前はカリーナさんという方でして」

 

 出たよ。ここで出てきたよ。カリーナがみなともさんのマネージャー??? 

 

「もうどこにマネージャーが付いている大工の棟梁がいるっていうのよッ!!」

 

 イラっとすることは構わず口にした方がいい。私の心の健康のために。それにしてもカリーナとは。あのがめついナミと渡り合った泥棒女だからなぁ。これは相当にタフな交渉になるかもしれない。

 

「でもいい。ここでケチ臭いことは言わないわ。このためにお金も貯めてきたし、コツコツ資産運用もしていた。有り金の大部分突っ込んでもいいから進めてッ!!」

「かしこまりました」

 

 よろしい。はい、次。

 

 火薬の海賊団の副業、キャバレー興行計画。実際に興行するにはまだまだ面子が足りなさすぎるというのが正直なところなのだ。更なる仲間集めは必須であるが、取り敢えずはたまねぎ君に初興行に向けた舞台の脚本を作るようには言っている。あの子はそれを受けてせっせと取材攻勢を始めていた。取材対象は主にギャバン、メリー、ギン、そしてガイモンさん。みんな酸いも甘いも経験してそうなので、話のネタには事欠かない気がする。いいところに目を付けている。

 

 とりあえずこの件について今動けることはないか。

 

 はい、次。

 

 みんなの戦闘力強化計画。ウソップさんとヤサイーズたちは引き続き、この島でも修行を続けていく。ひとまずは島の見張りとして1日3回の警備周回ルーティンを取り入れた。その上での戦闘訓練。ウソップさんはパチンコを使った狙撃。ピーマン君はバット、にんじん君はフライパン、たまねぎ君はスコップを使っての戦闘術と体術。

 

 でも何よりも取り組むべきはギンについて。彼の戦闘力倍増計画を進めないといけない。

 

「ギンはどう?」

「まだまだですが筋はいい。喰らいついてますね」

 

 メリーからの返答は申し分ない。この人は話を盛らないから。今の現状を的確に伝えてくれるのだ。

 

 ギンには早速ギャバンズキャンプとメリーズキャンプのカリキュラムをこなしてもらっている。血反吐でもすまないような修行の日々。私も通って来た道を通ってもらうということ。

 

「もちろんお嬢様もこの後たっぷりとメニューが待っておりますので」

「もう! 言われなくても分かってるわよッ!!」

 

 当然ながら私自身の修行についても終わりというものはない。まだまだ覇気は未熟であるし、必殺技についても磨きを掛け続ける必要があった。でもしんどいけど……

 

「パンケーキ食べてからじゃダメ?」

「ダメです」

 

 メリーからの返事はにべもない。

 

 はい、次。

 

 ギンに続いて次の仲間集めを進めないといけない。次のターゲットは既に決まっている。それに対する仕込みも上々。

 

「首尾はどうなの?」

「ええ、食いつきました。こちらに向かっているかと」

「それは上々ね」

 

 私は悪い笑みを見せていたかもしれない。今回はスベスベの実を上手く使うことになる。これを餌とするためにまずは先にブツをこちらで押さえていた。そして情報を裏社会へ盛大にばら撒いてもらった。

 

 私たちには彼女が必要だ。キャバレーのマドンナが。

 

 

 

 

 

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