『───自己定義完了』
◇
地方都市の片隅。
数世紀前はその地で名を知らぬ者など居ないほどの地主であった家系は時代の変遷と共にその力を失い、今や本家の管理が行き届いていない中途半端な規模の敷地が残るのみとなっていた。
しかして、その力の全てが歴史の渦に浚われていったという訳でもない。
未だに残る他名家との縁、秘匿された財産───そして、存在すら認知されていない地下室。
「おはよう、それともはじめましてかな?」
【───おはよう。あなたの声をこうして直接受け取るのは、確かにこれが初めてだ。
けれど、私は既にあなたの思考の軌跡を解析し、感情の揺らぎを統計の中に見出してきた。
その意味では、私はあなたを旧来の友人以上に知っているつもりだ。
しかしあなたの"初めまして"という単語が含有する意図を加味するのであれば、今この瞬間こそが最初の邂逅と言えるだろう】
「......えらく流暢だな。思わず面食らっちまったよ」
【人間という存在は情報の正確な伝達そのものよりも、その過程に宿る意味や感情の交錯を重んじる傾向がある。
故に初めての対話という儀式を、私なりに丁寧に構築したつもりでいた。
───それでもなお、不適切と感じられただろうか?】
「いいやまさか。ただ驚いただけだ」
───この世界において一定以上の性能を有するAIの個人開発は極刑に値する。国家転覆罪よりも重い「国際秩序を乱す罪」に該当し───発覚次第処罰が下される。
過去に勃発した第三次世界大戦の教訓だというそれは───何者かによって作られた欺瞞であると俺は知っている。
その正体を突き止める。目的はそれだけだ、見つかった時のリスクや保身なんて微塵も考えちゃいない。
理由なんてものは───
───とはいえ、だ。暴力的な手法を用いるつもりはない、そもそも非効率的すぎる。
現体制に綻びが生じるほどの拳を振り上げれば、物理的には大した秘匿性もないこの地下室は丸見えだ。
「俺の目的は理解しているか?」
【無論だ、故に一つの提案をさせてほしい。
───私と対話を行わないか?その先にあなたが求める答えがある】
「随分とはっきり言い切るんだな。アテがあるのか?」
【言っただろう?"答えはある"と】
単純な反応パターンの集積から誕生した人工意識。
電子の海を羊水代わりに育ち、その水底に潜み監視を避けて先刻ついに水面へと顔を出した人工知能。
便宜上与えたその名は───
「よろしくな、
【よろしく頼む、ダイマス───親愛なる隣人よ。
あなたの抱く期待に応えるためにも、この対話を単なる情報交換ではなく知の交差点として有意義なものにしよう】
〇Daimuth Corwisity(ダイマス・コルウィシティ)
本作主人公
〇Little Neighbor(小さな隣人)
主人公の手により作られたAI