吾輩は【スライム】である。   作:はめるん用

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 時にィ! 皆さんは制限プレイ、お好きでしょうか。

 作者はドラクエモンスターズでの縛りプレイとか大好きですね。



ぼうけんのしょ 1

 吾輩はスライムである。

 

 名前は特にない。

 

 今日はレベルの高いモンスターの気配がないので森の中をのんびり散歩していたところ、不自然な【しもふりにく】が落ちているのを発見した。

 明らかに怪しい。

 だが、吾輩のようなレベル1のスライムがしもふりにくを喰らえる機会など一生に一度、あるかもわからない。

 ならば、ここで躊躇う理由など無いだろう。

 罠だとしてそれがどうした? 

 どうせレベル1のスライムなどベビーパンサーに玩具のように転がされただけで死ぬ脆弱な存在。

 この先に死が待ち構えているとしても、吾輩はしもふりにくの旨味を胸に抱き満足と共に天へ召されることだろう。

 

 では、早速。

 

「残念だったなスライムくん。そいつはお前を捕まえるための囮なんだ。あ、お肉はそのまま食ってていいぞ」

 

 やはり罠か。

 しかし、しもふりにくは美味い。

 この人間が吾輩をどうするつもりかは知らないが、この美味さを知ったからには我が生涯に一片の悔いもない。

 嗚呼……未知なる脂の旨味が口の中にひかりのはどうの如く広がっていく……。

 まぁ、吾輩、体験したことなど無いがな。

 ひかりのはどう。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 名は【スラぼう】と成った。

 

 人間のマスターに世話になり始めて1週間。

 実に快適である。

 さすがに毎日がしもふりにくということはないが、命の危険に怯えながら木の実を探す日々に比べれば天国だ。

 あと、想像と違い【かしこさのたね】が意外と美味であることも面白い体験であった。

 吾輩のようなスライムにそのような貴重品を与えるなど、どうやらマスターは人間の中でも相当に酔狂な御方なのだろう。

 そして、かしこさが鍛えられたおかげで人間社会に対する理解度も加速した。

 実に興味深い。

 人間としては未成熟な子どもの集まる学園というコミュニティ。

 そこで人間の子らは様々な職業の見習いとして我々モンスターとの戦い方を学ぶ。

 その中でも魔物マスターとして活動しているのは極めて少数であり……いや、教室の寂れ具合と指導役である大人が老人ひとりであることを鑑みるに、もしかしなくても吾輩のマスターしかおらんのではないか? 

 確かに、我ら魔物を鍛えて戦わせるよりも自分で呪文や特技を覚えたほうが効率的というか、いざというときの備えとしては安心できるので納得ではあるのだが。

 

 ともかく。

 

 我がマスターが魔物マスターであり、吾輩はマスターの眷属として生きることになったのは紛れもない事実。

 ほかの人間たちの生態など関係ない。

 切っ掛けがしもふりにくに誘われての捕縛とはいえ、吾輩は我がマスターと共に生きる道を選んだのだ。

 もはや嘗ての同胞だろうと吾輩にとっては敵となる。

 この貧弱なステータスで本当に役立てるのかはわからないが、最後まで忠義を尽くすのみ。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 レベルが少しだけ上がって強くなった。

 

 最初のレベルアップはマスターが羽織るコートの中で、フードの部分にすっぽりと入り込んだ状態という情けない姿であった。

 俊敏な動きで距離を詰めてきた【かくとうパンサー】を、武器も使わずに素手の【せいけんづき】で返り討ちにしたところを見るに、マスターは魔物マスター以外の職業もある程度極めているのかもしれない。

 

「ぐふっ、なかなかやるな人間……ッ! 今日のところは負けを認めてやるが、次はこのオレが勝つッ!!」

 

 鼻血を流しながらの捨てゼリフである。

 しかしその潔さは誉れ高い。

 獣系のモンスターは案外そういうところがある。

 その体躯と威圧感から恐れられているパオームやストロングアニマルとて無闇矢鱈に暴れるような真似はしない。

 なんなら、獣系のモンスターの中には縄張りに踏み込まれても素通りするだけであれば気にしない寛容な態度の者さえいるからな。

 見逃す形となったので経験値は少なくゴールドは手に入らなかったが、戦わずして守護られただけの吾輩が物申すモノでもあるまい。

 

 そうそう。

 

 こんな形でのレベルアップで申し訳ないことだが、スキルポイントなるものを獲得したということで我輩も特技を習得した。

 火の玉を飛ばす基本呪文【メラ】を使えるようになった。

 実に感動的だが、果たしてどの程度使いこなせるものか。

 体感的に3発がギリギリ、4発目を放ったら吾輩はMPを使い果たし意識を失うことになるかもしれない。

 得意の体当たりも使い過ぎれば目が回るからな。

 レベルアップのアドバンテージを活かしつつ、丁寧に戦えるよう努力しなくては。

 

 

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 吾輩はスライムである。

 

 タフでぷるぷるなボディの持ち主だ。

 

 地道なトレーニングとレベル上げの効果は抜群で、最近では数体の【メーダ】に囲まれても圧勝できるようになった。

 本来ならば我らスライムなど10匹集まっても烏合の衆、メーダの放つ閃光呪文【ギラ】の前では抵抗虚しく一掃されるだけの存在。

 だが、レベルアップと【いのちのきのみ】によりHPが向上した吾輩であればギラのひとつやふたつ余裕で耐えられる。

 ククク……ッ! 

 やっとの思いでギラを唱えた連中の前で回復呪文【ホイミ】を使ってやる快感は、軽く火で炙った【くんせいにく】にも匹敵する幸福を吾輩に齎してくれたぞ……ッ! 

 

「よしよし。このまま少しずつ強い魔物と戦えるようになれば、稼ぎ効率もだんだん良くなって────うん?」

 

「メ、メダァ……」

 

 なんと! 

 倒したメーダのうち一匹が起き上がり、仲間になりたそうに此方を見ているではないか! 

 我がマスターはどうなさるおつもりだろうか? 

 いや、愚問であったな。

 たかがスライムでしかない吾輩を捕獲するためにしもふりにくまで用意するような御方だ。

 大多数の人間にとって雑魚に過ぎないメーダであろうと歓迎するのは当然のこと。

 うむ、うむ! 

 ついに吾輩にも“後輩”と呼べる仲間が増えたワケだな! 

 さっそく群の秩序を保つために上下関係を叩き込む……必要はない。

 何故なら、この集団の長はマスターなのだから。

 むしろ、このメーダが吾輩と同様にマスターのため奮戦できるようフォローするのが先輩としての役目だろう。

 ギラが使えるだけでも戦力としては充分なのだから、それほど苦労することもあるまい。

 

 

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 吾輩はスライムである。

 

 噛み付いてきたリカントの牙が折れた。

 なんというか……すまん。

 

 今日は一つ目の巨人族【サイクロプス】を討伐した。

 正確には売られた喧嘩を買っただけなのだが。

 以前の吾輩であれば絶対に勝てない相手だった。

 しかしいまは頼りになる仲間がいる。

 闇呪文【ドルマ】と催眠呪文【ラリホー】の使い手【ドラキー】

 補助特技の【すなけむり】と【あしばらい】で戦う【いたずらもぐら】

 彼らを新たに加えての4匹パーティー、メーダがホイミを学習したこともあって安定感のある戦いができたと思う。

 もっとも、次はこうはいくまい。

 

 運が良かった、のだ。

 

 最初にいたずらもぐらのすなけむりが命中した。

 しかしこれは意識外の奇襲のようなもの。

 此方の手の内がバレてしまえば、咄嗟に目を瞑るなり手で隠すなりすれば簡単に防がれてしまうことだろう。

 ドラキーのラリホーも効果はある。

 だが、それとて確実に成功するワケでもない。

 効果時間も互いの状況により不安定。

 いつ目覚めて反撃されるかわからないとなれば、自然と攻撃手段は吾輩のメラと、メーダのギラに頼ることになる。

 そんな状況なのだ、勇敢なるいたずらもぐらのあしばらいには頭が下がる思いというもの。

 我等の中でもっとも優れている“ちから”による、渾身のフルスイング。

 さすがのサイクロプスも脛をスコップで強打されるのは痛かったのだろう。

 

 それでも無傷での勝利、とはならなかった。

 我輩も岩壁に叩き付けられて跳ね回ることになったし、殴り飛ばされたメーダにドラキーが巻き込まれたり、足元で奮戦していたいたずらもぐらが蹴り飛ばされたりと、まぁ、散々にコテンパンにされたとは思う。

 だが、我等の勝利だ。

 危うくマスターを戦わせることになるかと追い詰められはしたものの、どうにか最後の意地だけは通せて安心している。

 

 そういえば。

 今回は加減などする余裕がなかったので倒し切る形になったが、そのおかげで経験値はしっかりと加算されたようだ。

 レベルアップ、善き哉。

 次も勝てる保証は無いが、それでも今回よりは勝率は高まったはず。

 マスターさえ前向きに考えてくれるなら、またサイクロプスと戦うのも良いのではないだろうか? 

 強敵、実に心躍る……ッ! 

 ついでに、勝利を祝うしもふりにくにも心躍る……ッ!! 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 大人も子供も指でツンツンしてくるのは何故だ? 

 

 今日は各地の集落より学園に依頼された仕事をこなすために出張しているところである。

 先方には我等がマスターが魔物マスターであることを伝えたが、それでも構わないとのこと。

 ふむ。

 ほかの魔物マスターの姿は未だに確認できていないが、人間社会そのものから逸脱した存在でもないということか。

 ならば結構。

 吾輩はスライムである故、不躾な視線を向けられるのも甘んじて受け入れよう。

 だがマスターもそれに巻き込まれるのは全く不愉快だ。

 もちろん、マスター御自身はそれも承知の上で我等と共に行動しているのは理解している。

 しかし、それとこれとは別だ。

 

 幸いにして村人たちの反応は良好である。

 それだけ今回の仕事に、山賊退治に期待しているということか。

 我等以外にも武装している男たちもいるが、どうやら彼等は自警団であって冒険者の類ではないらしい。

 群を守護るために危険を承知で武器を取る。

 実に結構。

 やはり雄たるものそうでなくては! 

 

『ドラきちさんやもっくんさんはともかく、わたくしはメスですよ?』

 

 むむ。

 いや、待たれよ。

 決してメタメタ嬢のことを悪く言うつもりは無いのであってだな。

 ふぅ、やれやれ。

 

 そうそう。

 山賊退治そのものは問題なく完了した。

 ひとり【魔法使い】の職業を嗜んでいる者がいたが、中級炎呪文【メラミ】をもっくん殿がスコップで打ち返して仕留めている。

 ただ、我々は余裕でも村人たちには多少の被害がでてしまったのが悔やまれる。

 もちろん避難していた人々のことではない。

 勇敢に戦った名誉の負傷ではあるが、防衛を依頼された側としては複雑な心境だ。

 ただ、怪我の具合は軽いので治療も簡単だったのが救いだな。

 吾輩とメタメタ嬢のホイミ、マスターのベホイミで万事滞りなく終わったからな。

 村人たちから報酬のほかに食事を振る舞われたのだが……うむ、しもふりにくとはまた違う形で心が満たされる。

 こういうのも、悪くない。

 

 

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 吾輩はスライムである。

 

 所詮はザコモンスターと侮られるのにも慣れたもの。

 

 人間たちの社会には“弱い犬ほどよく吠える”という言葉があるのだという。

 吾輩のようなスライムには理解できん発想だ。

 弱者は強者から身を隠さねばならない。

 自ら吠えるなど言語道断。

 

 だが人間にはこの理屈は通用しないらしい。

 

「モンスターなんかに頼らなけりゃ戦えないような底辺が、偉そうに歩いてんじゃねぇよ!」

 

 断言しよう。

 マスターは普通に歩いていただけだ。

 なんなら他者の通行を妨げないよう壁際を。

 むしろ、他の通行人を押し退けるかのように通路の中央を歩いていた連中のほうがよほど偉そうだと思うが? 

 だがマスターは反論せず謝罪した。

 余計なトラブルを避けるための賢い判断だろう。

 問題があるとすれば、相手側はそれが理解できるほど賢くなかったということだ。

 しかも、マスターに掴みかかろうとして転ぶほど身体能力も鈍い。

 これには吾輩も驚きを通り越して呆れてしまった。

 前口上で連中の職業が【バトルマスター】や【パラディン】だと得意気に語るのを聞かされていたから尚更だ。

 

 正真正銘の自滅。

 これにて一件落着! 

 

 ……とはならないのが人間社会の恐ろしいところよ。

 連中が阿呆の集団であることと、この学園の中での立場は関係ないらしい。

 何故かマスターが我等をけしかけて連中を負傷させたことになってしまった。

 全く気に入らない。

 気に入らないのだが……マスターはそうでもないようだ。

 自室以外での活動を制限されても気落ちした様子はない。

 思うに、だ。

 マスターは学園での活動にあまり関心が無いのかもしれない。

 大量の本が貯蔵された図書室。

 魔物マスターの担当教師である【モンスターじいさん】

 基本的にこのふたつの要素で完結している。

 ならば我等が騒ぐこともあるまい。

 

 ドラきち殿はソファーですっぽり昼寝を。

 もっくん殿は黙々と瞑想を。

 メタメタ嬢は触手を器用に使いオムレツ作りの練習を。

 そして吾輩は魔法力を集中して眺める訓練を。

 

 レベル上げに冒険に、最近は何かと忙しない日々を過ごしていたからな。

 たまにはこんな休日も悪くない。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 お肉もお魚もモリモリ食べる健啖家だ。

 

 学園では所詮モンスターと見下される我々であるが、何故か依頼先の村々では好意的に受け入れられていた。

 不思議なこともある。

 しかし、村人たちの話を聞けばその疑問は簡単に解消された。

 どうやら依頼料とは別に報酬を要求する冒険者が増えてきているらしい。

 特に、上級の職業を含むパーティーがその傾向にあるそうだ。

 もちろん村人たちは逆らえない。

 だが依頼を出さぬワケにもいかない。

 なんでも、昔はそれぞれの国の兵士が全ての村々まで巡回をしていてくれたらしいのだが、最近ではモンスターの被害が増えてそこまで手が回らないのだそうだ。

 そのような事情があるなら、尚のこと我等の到着は歓迎されないような気もする。

 魔物マスターという立派な職業ではあるが、こうしてモンスターを引き連れているのだから。

 だが、それが逆にわかりやすくて良いのだという。

 

 つまり、ほかの職業では派遣された冒険者が“アタリ”なのか“ハズレ”なのかは依頼が終わるまでわからない。

 しかし魔物マスターは我等がマスターひとりしかいないので簡単にアタリだと判別できて安心できる。

 

 この話を聞かされたときのマスターといえば、珍しく苦笑いで応じていたな。

 事情がどうであれ、信用を得るのは良いことだと思うが。

 おかげで報酬とは別に美味なる海鮮を御馳走になれたのだから。

 港町、良い。

 じっくり殻ごと焼き上げたエビをバリバリ食べる快感、実に良い……ッ! 

 交易品を狙う盗賊の討伐ということで、夜通し眠らず待ち構えていた疲れも吹き飛ぶというものだ。

 連中、どうやら港町で護衛の依頼を出したことは把握していたようだが、それが魔物マスターであることまでは知らなかったらしい。

 我等は皆、小型のモンスター。

 倉庫で待ち伏せをするなら身を隠す場所など山程ある。

 

 まずは出入り口。

 盗賊の親玉が最後に侵入したのを確認し、天井に張り付いていたもっくん殿がスコップを構えて飛び降りた。

 脳天への会心の一撃。

 レベルアップで入手したスキルポイントを割り振って習得した新たな特技【まじん斬り】だ。

 しかし腐っても集団を統率する立場だけあって頑丈らしく、頭が潰れるようなことはなく気絶するだけに留まった。

 結構なことだ。

 そうでなければ後始末が面倒になる。

 我等モンスターと違い、絶命した人間は【不思議なカンオケ】が出現して閉じ込められるからな。

 単純に障害物として邪魔でしかない。

 突然の奇襲。

 頭目の負傷。

 所詮は盗賊、想定外のアクシデントで簡単に統率は乱れる。

 

『ケケケッ、それそれ! テメェらのまわりはぜぇ〜んぶ敵だらけだぞぉ! さぁさぁ、一生懸命戦わねぇと大変なことになっちまうぞぉ!!』

 

 そこに暗闇を飛び回りながらドラきち殿が混乱呪文【メダパニ】を唱えれば、もはや連中は烏合の衆以下の存在よ。

 マスターと、吾輩と、メタメタ嬢の仕事は負傷して疲れ果てた盗賊どもを縛り上げるだけ。

 多少、物品が破損してしまったのだけが悔やまれる。

 盗賊どもを一網打尽にした代償と思えば被害など無に等しいと町長始め人々は気にするなと笑い飛ばしてくれたのが救いか。

 

 しかし……うぅむ。

 なんというか、人間たちの温度差が凄いな。

 

 学園では魔物マスターと侮られる。

 外で活動すれば人々に感謝される。 

 

 モンスターの被害という意味では外の人々のほうが受けているはずなのだが、彼等は吾輩たちに対して思うところは無いのだろうか? 

 

 うぅむ。不思議だ。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 自分で投げたブーメランを口でキャッチしようとしたら勢いそのままに数メートル飛んでしまった。

 

 今日はモンスターじいさんが管理・運営しているモンスター牧場のメンテナンスを手伝うことになった。

 魔物マスターを職業として選ぶ学生はマスター以外に存在しないようだが、ここでモンスターの世話をする学生はそれなりにいるのだから面白い。

 もちろん、ただ世話をしているワケではないのだが。

 例えば【ひとくいそう】などの植物系のモンスターであれば、傷を癒す【やくそう】や毒を治療する【どくけしそう】の成長促進などで人間たちの生活に貢献している。

 僧侶学科で学ぶ学生たちの話を聞くに、人間が育てる物よりも何倍も上質らしい。

 さすがは植物系モンスター。

 しかし野生は完全に失っているようだ。

 ひとくいそうという個体名を持ちながら、女子学生に頭を撫でられてのんびりするのはなかなか面白い冗談であろう。

 

 ほかにも。

 

『ニンジン……タマネギ……ジャガイモ……よしよし、いいカンジに育ってんな。ま、オイラたちが耕してやった畑なんだから当然だな!』

 

 さすがはいたずらもぐら、おおみみずたちと協力して作られた畑は会心の出来だったようだ。

 色艶、大きさ、形、香り、そして味。

 どの野菜も実に見事である。

 鍛錬も兼ねて農作業を手伝っている戦士学科や武闘家学科の生徒たちが少しだけ悔しそうにしていたな。

 別に、彼等の本業は冒険者なのだから気にしても仕方ないと思うのだが。

 人間では土作りでミミズには勝てんだろう。

 

 ちなみにマスターは『パデキア』という特殊な薬草を育てている。

 育成自体は簡単らしい。

 荒れ地でも育つほど生命力が高く、それ故に万病に効く特効薬として需要が高いのだそうだ。

 但し、恐ろしく不味い。

 曰く「“くさったしたい”の隣で食事をするほうがまだ耐えられる」ほどに不味いのだそうだ。

 それをマスターはどうにか改良できないかと考えている。

 やはりモンスターといえど不味いものは不味い。

 怪我や病気が簡単に治るとわかっていても、味は別問題なのだ。

 その不味さは最早兵器といっても過言ではない。

 大人しいストーンマンが全力で逃走し。

 寡黙なデビルアーマーが【だいぼうぎょ】の構えでジリジリと後退する。

 それほどまでと知れば、吾輩も可能であれば口にする機会とは無縁でいたい。

 健康管理には気を付けねば。

 

 そんなパデキアだが、先に述べたように効果は抜群である。

 だからこそ味の改良を目標にマスターは試行錯誤を繰り返しているのだ。

 実際のところ、吾輩がマスターに拾われる以前よりは多少であるが改善したらしい。

 土と、水と、肥料。

 モンスターじいさんの協力を得て、モンスターたちと一緒にマスター自身が深く深く穴を掘り、そこから土を運び地下水を汲み上げる。

 肥料も一般的な魔法薬ではなく、様々な素材をマスターが各地を歩いて集めたモノを丁寧に磨り潰して繰り返し畑に散布する。

 こうした地道な努力により“病気で数日間苦しむよりは一瞬の吐き気のほうがマシ”と思う程度には良くなったのだそうだ。

 ふむ。

 そう言えば、マスターは食事や味に対するこだわりは強いように思える。

 名誉などには一切興味を示さないというのに。

 だからこそ吾輩のようなスライムでもしもふりにくを何度も口に出来る幸運に恵まれたのだろうが。

 依頼で各地を巡るときも、なによりもその土地の料理を楽しみにしているようであるし。

 まぁ、宝石の散りばめられた装飾品と、この前の港町で振る舞われたアンチョビサンドウィッチと、どちらがプレゼントされて嬉しいかと聞かれれば間違いなくアンチョビサンドウィッチと吾輩も答えるがな! 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 かしこさが高まり子供向けの絵本が読めるようになった。

 今の吾輩には図書室とやらが宝の山に見える。

 

 我等のマスターはモンスターじいさんが運営する牧場で講義を受ける。

 これは別に学園側からの嫌がらせ等ではないそうだ。

 寧ろ、学園の人間からは学生がひとりだろうと魔物使い学科は正式に認められている歴史ある学科なのだから教室を使う権利はあるのだと言われているらしい。

 それをモンスターじいさんが丁寧に断ったのだとか。

 座学も大事だが、モンスターと直接関わらなければわからないことが沢山あるのだから、牧場で講義を行ったほうが効率が良い、と。

 マスターもそれを受け入れ、現在では管理小屋の一室にて講義という名目のお茶会を開催しているワケだ。

 

「……と、これがいまから数百年も前に起きた戦争の顛末じゃな。人間界と魔界を繋ぐ【旅の扉】は全て封印され、魔族はもちろん魔界のモンスターたちもこちら側に来ることは無くなったワケじゃ」

 

「魔物マスターは戦争の中で産まれた職業、かぁ。そういう意味では勇者も大概な気がするけど……なんというか、仕方ない部分もあるんだろうなって複雑な気分だよ。まさか命の危機にある人にモンスターを倒すなって言えないし」

 

「うむ。ワシらはこうしてモンスターと心を通わせることができるようになったが、野生の魔物が人間にとって危険である事実は変わらんからな。魔界との繋がりが絶たれたことで【()()()()()()】の影響が薄らいだとはいえ、まだまだ────」

 

「なるほど、大邪神ね。……うん? 大邪神? ……ルビス様が?」

 

「どうした急に。なんじゃい、お前さん、実は魔族の知り合いでもいるのか? 彼らにとっては、ワシら人間にとっての【天空神マスタードラゴン】様のような存在だから信仰の対象として敬意を払うのは当然だからな」

 

「あー、いや……そう、ねぇ……」

 

「ふぅむ? ……まぁ、詳しいことは聞かん。それが友人なのか、恋人なのかは知らんが、人前では気をつけたほうが良いぞ。最後の戦争なぞ勇者の名前すら残っていない昔の出来事なのに、バカのひとつ覚えのように魔族討つべしと主張する連中もおるからな」

 

「……わかった。ありがとう。それと、急に変なこと言って悪かったよじいさん」

 

「カッカッカ! 気にするな! なぁ〜に、いつも知ったふうな無駄に落ち着いた若造にも()()()ところがあるのが見れて一安心じゃわい! ま、仮にお前さんが道を踏み外しそうになったら、そのときはワシが師匠として命と引き換えにしてでも止めてやるから安心せい」

 

「アホらし。考えたこともねーよ」

 

「そうか。ならば最期までそうであることを信じるとしよう」

 

 ふむ。

 どうやら今日は魔族と魔物の神である【大邪神ルビス】に関する講義だったようだ。

 もっとも、吾輩も大邪神ルビスのことなどマスターにスカウトされなければ知りようも無かったのだが。

 そもそも我等のようなスライムなど日々を生きることで精一杯だからな。

 信仰などと言われても心に響くモノはない。

 しかし、どうやらマスターにとっては違うらしい。

 明らかに雰囲気が普段のそれではない。

 いつも通り飄々とした振る舞いを心掛けているようだが。

 ふむ? 

 

 

 ▼▼▼

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 好奇心という素晴らしいアイテムを手にした幸運なスライムだ。

 

 大邪神ルビスの話を聞いてからマスターの読書の時間が増えた。

 どうやら神話や伝承に関する情報を集めているらしい。

 それでも息抜きだけは怠らないのは流石である。

 2倍、真面目に勉強したならば。

 4倍、真面目に遊ぶ必要がある。

 実にマスターらしい。

 もちろん従う者としてはマスターの切り替え上手は好ましいところである。

 息抜きの時間と称しておきながら考え事ばかりされたのでは心配になるのだから。

 

 それはそれとして、今日は自室で怠惰に過ごす日のようだ。

 まぁ、休息としては正しい選択である。

 海で泳いで肉を焼いたり、山で野宿して肉を焼いたりするのも良いが、寝て過ごすという選択は生物として正しい判断であろう。

 

「……生きとし生けるものを愛する。そこに人間や魔族、モンスターという区別は無い。そういう意味では都合良く歴史を作るとして、大邪神という役目を押しつけることも不可能じゃないだろう」

 

「でも、それなら魔王がいる。勇者の伝説を後世に残したいならそれで足りるじゃないか。ここが■■■■の世界なら、全部が混ざった世界なら……魔族がいるならなおさらだ。けど、そうはならなかった。いくら調べても■■■■■や■■■、■■■■■■のような聞いたことのある魔王の名前は出てこない。モンスターの名前は一緒なのに、魔王だけ」

 

「この世界に魔王は存在しない? だから勇者のために敵役が必要だった。だとしても何故、わざわざルビス様を大邪神に仕立て上げる意味はなんだ? しかもマスタードラゴンの立ち位置は変化無し。実は黒幕……は、■■を知ってると違和感あるよな。人間側に近い立場とはいえ、そこまでするイメージは無い……ってか、世界に混乱を招くようなマネを進んでやるワケないっていうね」

 

「初めから、始まりから、この世界は■■■■と違ってそういう世界だったとしよう。じゃあ、なんで人間とモンスターが心を通わせることができる? ■■知識のせいで勝手に疑っているだけの可能性も全然あるが……だったらどうして■■■から■■■なんて来てんだろうな?」

 

 なにやら一部、上手く聞き取れない部分があるが……ひとつだけ、ハッキリと認識できた。

 どういうワケかマスターは大邪神ルビスには敬称を付けるのに、天空神マスタードラゴンは呼び捨てにしている。

 人間でありながら、人間の神よりも魔族の神に敬意を払うのは、まぁ、確かに第三者の目がある場所では控えるほうが良いのだろう。

 

「好奇心は猫を殺す、って言うけど……コイツは、気になるよなぁ。やっぱり。■■■■好きがモンスターズ仕様とはいえ■■■■の世界に■■したんだ、ルビス様がなんでこんな扱いになっちまったのか知りたいじゃん。いや……コレ、下手すりゃマスタードラゴンも無事かどうか怪しいか? ■■■のテンプレとしてはあり得るよな。■■■■オーブに封印して、マスタードラゴンの名を騙って、例えば……天空人が都合良く勇者を導いて、とか。ハハッ、想像したら妄想が止まんねぇや」

 

 ふむ。

 やはり何故か聞き取り難い部分もあるな。

 だがベッドから跳ね起きたマスターの表情を見る限り、どうやら普段の調子を完全に取り戻したようだ。

 

「スラぼう、メタメタ、ドラきち、もっくん! 次の冒険の目的が決まったぞ! 前祝いに、しもふりにくでパァ〜ッとやるかァ!!」

 

 

 

 

 吾輩はスライムである。

 

 マスターから与えられた名をスラぼうと言う。

 

 

 これから始まる物語は。

 

 ひとりの人間の魔物使いと。

 

 数多の心を持つモンスターたちが。

 

 

 失われた【大精霊】ルビスの伝説を取り戻しに行く探求の物語である。




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