時にィ! 皆さんは武器や防具を買い替えたとき、忘れずにちゃんと装備していますか?
作者は初めてドラクエをプレイしたとき、全裸にいばらのむちを持ってやくそうをアイテム欄いっぱいに抱えた王宮戦士が誕生しました。
【▶つづきからはじめる】
吾輩はスライムである。
雷撃呪文【デイン】の練習をしているところだ。
冒険のためには準備が必要である。
当然だ。
人間も、モンスターも、空腹にもなれば渇きもするのだから。
食料と水、これだけでも荷物になろう。
現地調達もできないことはない、が……河川や湖畔での水分補給はともかく、肉や魚、果実などの食事を期待するのは褒められた判断ではあるまい。
特にキノコ。
あれは危険だ。
吾輩や仲間たちが止めるのも聞かずに鮮やかな色彩のキノコを食したスライムが「フハハハハ! 我こそが世界で最も至高なる存在! 貴様ら! そこに並んでお辞儀をするがよい!」と高らかに宣言したあとパタリと倒れて数日間寝込んでしまったからな。
スライムを相手にお辞儀をしろ、などと無理難題は混乱呪文【メダパニ】を受けたとしても思い付くモノではなかろうに。
ともかく。
食事の用意は特に気を付けねばならん。
贅沢など言わない。
干し肉、ナッツ類、乾燥させた果実。
充分だ。
だが、それらよりマスターを悩ませる、ある意味では最も重要な物品の取り扱いがなかなか定まらない様子。
そう、スカウト用の肉である。
「冒険とスカウトは別枠で考えるべき……いや、でも、学園で使える旅の扉から外れた遺跡なんかを調べるなら、出会ったことのないモンスターだっているかもしれないし……ナンバリング時代を思えば一期一会って言葉もあるけど、起き上がりを期待するよりはスカウトしてぇよなぁ〜」
冒険に持ち出すべき物品について紙に書き出しながらマスターが唸っている。
それにしても実に楽気である。
ならば余計な気遣いは無用というもの。
しかし、スカウト。
吾輩とてしもふりにくに釣られた身の上である。
肉を与えられれば気を許してしまうのも事実。
なれど、やはり我等はモンスター。
強き者に従うのは自然の摂理。
それは大地の掟といっても過言ではない。
然るに、マスターは強者としてはどうか?
吾輩は決して悪くないと思う。
確かに、この学園とやらではマスターよりレベルの高そうな人間は大勢いる。
モンスターじいさんもそうだ。
現在、牧場にいるモンスターのほぼ全てはあの老人がスカウトした者たち。
ならばその実力は推して知るべし。
と、いうか上級閃光呪文【ベギラゴン】を片手で放てる時点で相当な実力者であろう。
なにせ魔法使い学科や賢者学科の人間でも両手に魔法力を集中させて使用しているのを見掛けたからな。
それで本人が得意気になり、周囲が持て囃すということは、つまりはそういうことなのだろう。
モンスターじいさん、侮れぬ。
……それを見てマスターが「もう片方の手でキアリーとか同時に使えたりすんの?」と質問してモンスターじいさんから「そんなことしたら頭の血管ブチ切れて死ぬわアホかお前」と呆れられていた。
これに関してはマスターが悪いと認めざるを得ない。
別々の呪文を同時に唱えるなど不可能に決まっているだろうに。
時折見せるアホ……もとい、茶目っ気のある部分はともかくとして。
そういう意味ではマスターの実力は低い方なのかもしれない。
だが、汎用性という視点で見れば間違いなく強い。
それは如何なる状況でも対応できるという意味での強さ。
魔法使いや賢者であれば、封印呪文【マホトーン】で呪文を封じられたり、反射呪文【マホカンタ】を使われれば行動が大きく制限されてしまうだろう。
マスターはそうではない。
呪文が使えなくても【まわしげり】や【とびひざげり】といった格闘術で戦える。
本職の武闘家のように【かまいたち】を放ったり【ばくれつけん】のような強力な連撃までは使えないが。
もちろん呪文が使える場面であれば中級呪文を唱えることができる。
こちらも僧侶や魔法使いに比べれば未熟なのかもしれない。
それでも、確かに使える。
ほかにも盗賊のように【しのびあし】で潜伏しながら移動したり。
旅芸人のように【ふしぎなおどり】で集中力を乱し呪文を妨害したり。
どのような状況でも対応できるのは、吾輩のように野生の世界を知る者から見れば実に頼もしい。
マスターはあくまで魔物マスターである。
ほかの人間たちのような戦い方を求められる立場ではない。
群を統率する者に求められるのは純粋な戦闘力ではないのだから。
判断力。
適応力。
そして、生存能力。
マスターは鋭い爪も、大きな翼も、靭やかな尻尾も持っていない。
必要ないのだ。
それらの代わりに、我等が戦えば良いのだから。
それはそれとして装備にもう少し気を遣えば戦士としての評価も上がるだろうとは思う。
しかし。
しかし、だ。
マスターが手にした【ゴールド】を肉や菓子などに使うのは、そう、それは仕方ないことであろう。
何故なら、マスターはあくまで魔物マスターなのだから。
だから仕方ないことなのだ、うむ、肉を買うことを優先したとしても。
そのぶん、我等が奮起すれば良いだけの話なのだから。
「荷物を減らすとして……でも、水は絶対に外せないよな……荒地とか、砂漠とか、岩山とか、海辺だって海水じゃあなぁ……そういうの、あんまり描写されないのが……強いて言うなら不思議のダンジョンで■■■■がパンを拾って食うぐらいか? あとは……そうだな、砂漠といえば■■■が主人公のアニメで■■■■のおっさんが氷を出してくれって言われて【
ふむ。
どうやら問題は解決しそうな様子。
流石はマスター、やはり群の長としての適性は高いようだ。
▼▼▼
吾輩はスライムである。
荷物持ちでは役立てないのが悔やまれる。
強くなるため、生活の糧を得るために。
普段は各地の村や町を巡ることが多いマスターだが、いまは人間の気配が無い森の中を歩いている。
と、いっても完全なる未開の地というワケではない。
道なりに迂回すれば安全であるところを、敢えて直進しているのだ。
もちろん意味も目的もある。
それは移動距離の短縮ではない。
これは、鍛錬だ。
いままでは人間の出入りがあるような場所、言ってしまえば生活圏の延長線で活動していた。
しかしマスターの冒険はその先に向かうことを是としている。
数多の人間が往復し踏み固められた道などない、誰も知らない地図にも正確な情報が載っていないような領域へ。
いわゆる“けもの道”すら存在するか怪しい自然の中へ。
ならば、備えなければならない。
これから我々が挑む相手はモンスターでもなければ野盗の類でもない、自然の脅威そのものなのだから。
ふむ。
良い。
とても、良い。
これが“ロマン”というものか……ッ!
生きるために強くなるのではなく、挑むために強くなる。
この感覚、野生のスライムのままであれば知ることは無かったであろう。
吾輩はいま、ただ生きることを目的とする存在から確実に一歩、進化しているのだ。
まぁ、大自然の脅威に抗いながら生きているモンスターなどいくらでもいるのだろうが。
なんならモンスターですらない野生動物とて同じ。
が、それはそれ。
大事なのは吾輩が高みを目指して進み始めたという事実。
とはいえ。
今回はあくまで鍛錬である。
森を抜けた先には町があると知っているし、いざとなれば移動呪文【ルーラ】を使用することで各地のルーラストーンが設置された場所へ簡単に避難することが可能だ。
課題は、じっくりクリアしていけばよい。
今日のところは悪路を歩くことによる影響を知ることができれば良いとマスターは言っている。
普段はなるべく少なく軽くを意識している荷物も、いまはキャンプ用具も含めタップリと背負っている。
残念ながら吾輩はそれを手伝うことができない。
というか、現状、眷属にてそれが可能なのはいたずらもぐらのもっくん殿だけだ。
ならば我等は我等の役目を果たすのみ。
ドラきち殿はもっくん殿の背負う荷物の上で待機である。
これはいざというとき、何度も上空へと飛び立って周囲の把握をしてもらうために体力を温存するのが目的だ。
やはりドラキーの翼では高度限界というものが問題になるようで、少しでも高く、長くと飛行を維持しようとして息切れを起こしている。
未開の土地で方向を見失えば、それは死に直結する。
己に課せられた役目の重要性を理解しているが故に、気まぐれと言われるドラキーとは思えぬほどの意気込みを感じるのかもしれない。
空を飛ぶ、という意味ではメーダも同じように活躍できそうだが、メタメタ嬢が言うには“飛行”と“浮遊”は違うのだそうだ。
高所から安全にゆっくりと落下することはできる。
だが地表から高所へと上昇することはできない。
つまりメーダという種族は、地面や水面といった浮遊するための起点を必要とするのだろう。
ふむ。
言われてみればホイミスライムなども“浮かんでいる”とは思うが“飛んでいる”という印象は無いな。
実に興味深い。
もちろん空を飛べずとも仕事はある。
マスターが地形の把握などに集中できるように、周囲を警戒して敵対存在の襲撃に備えるのは吾輩とメタメタ嬢の役目なのだ。
『マスター、そろそろ頃合いではないかしら?』
「ん、そうか。それじゃあ……この木が丁度いいかな」
これからマスターが行うのは道標の作成である。
まずは手頃な木を探し、ナイフで枝をひとつ切り落とす。
それを地面に突き刺して、教会で購入した魔物避けの効果がある【せいすい】に、マスター特製のパデキアの煮汁を加えたものを振りかける。
う〜む、相変わらず、なんというか……。
『うへぇ。オイラ、このニオイ、どうやっても慣れそうにないや。別に鼻が曲がるほど臭いとは言わないけれどさぁ……そりゃ、目印にもなるのはわかるけどさぁ……』
刺激臭ではない。
悪臭でもない。
しかし、決して愉快なニオイではない。
人間にはこれがわからないそうだ。
マスターやモンスターじいさんだけでなく、牧場の手伝いに来ているほかの人間も同じなので間違いないだろう。
効果の程を実験したときなど、骨身しか無い【しりょうのきし】や【しのどれい】でさえも近寄ろうとはしなかったというのに。
一応、聖水としての効力は通常通り1日ほどで切れるらしい。
しかしこのニオイである。
3日は残り続けることは確認しているので、普通の聖水よりは何倍も効果的なのではなかろうか?
そんな我等のことなどお構い無しに、マスターが魔法力を集中させて小さな火を灯す。
それで加熱したナイフを使い、枝を落とした木の幹に帰り道の方向を示す矢印を焼き焦がすように刻んだ。
ここまですれば、仮に誰かがこの道標を発見したとしても、何者かが意図的に拵えた物だと伝わるだろう。
もちろん、悪意のある者に破壊される可能性はあるのだが。
そのときは、そのときだ。
道標として用意した手段はこれだけではない。
様々な方法を試してみるだけのこと。
そもそも地形が変われば使える手段も変わるからな。
これはあくまで森だからこそ。
砂漠や雪原ではまた別の手段を考えねばなるまい。
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吾輩はスライムである。
肌荒れなど知らぬと話したら、学園の人間のメスからものごっつ睨まれた。
吾輩の自慢のぷるぷるボディは一晩の徹夜如きではビクともしない。
ならば、夜の見張りを吾輩が引き受けるのは当然のこと。
ドラきち殿と協力し、マスターたちの安眠を見事に守り切ってみせようではないか!
……と、張り切ったところでモンスターに襲われる可能性はかなり低いのだが。
なにせ、我等が寝床として選んだのは岩壁の途中である。
サイクロプスの身長を3体分ほど重ねたぐらいの高さに、もっくん殿が手早く横穴をくり抜いた即席の洞窟だ。
半円形の筒状に、入口を離してふたつ確保して落石による閉じ込め対策も万全である。
それでもぐんたいアリなどであれば余裕綽々で登攀してくるかもしれないが。
単なる休息であればここまでする必要はない。
しかし我等は未知なる領域への探索を求める者。
如何にして安全に睡眠を確保するか? について考えるのは当然のこと。
宿屋のある村や町を拠点に日帰りの冒険で終わるとは限らない。
いや、そうではないな。
そのような足跡だらけの道を辿り手垢だらけの宝箱にマスターは興味を持っておらぬのだから、そのような誰もが知っている冒険など始めから眼中に無いのだ。
つまり、今後も野宿の手段について様々な手札を用意しなければならない。
ふむ。
森の中での生活から温かく柔らかいベッドで眠るようになったときは、なんとも快適な眠りがあるものだと感動したものだが。
また、野生の時代に逆戻りするような真似をせねばならぬというのに、吾輩の心は不思議な喜びが確かにある。
実に、面白い。
それにしても、夜の番を遂行する為にとマスターが用意してくれた夜食はなかなかに美味である。
コーヒーなる人間が好んで飲む苦い液体の粉を、甘い砂糖と一緒にドロドロに練って、それを軽く火で炙ったパンに塗布して食す。
苦みはあるものの香りも良く、眠気も覚める一品だ。
我輩としては果実を砂糖で煮込んだ物を使ったサンドウィッチのほうが好みだが、これはこれで良いものだ。
時折、眠気に瞼が敗北しそうになるのを堪えながら迎える朝日は眩しかった。いや、本当に……。
「さて、降りるのは登るより慎重にやらんと大怪我するな。こういうときに■■ルーラが使えりゃ便利なんだが……まぁ、魔法使いや賢者を名乗ってる人たちも使えないってことは、よほど難しいか、そもそもこの世界には存在しないってことか。アプデで対応してくんないかな〜、なんつって」
いつものように謎めいた独り言を零しつつ、マスターが手早く荷物をまとめて移動の準備を済ませた。
まずは中継点となる足場まで荷物だけをロープでゆっくりとおろす。
これに我輩も便乗し、メタメタ嬢も一緒に足場まで移動する。
次に移動するマスターが足を踏み外したときに受け止めるためだ。
そしてもっくん殿の移動も完了すれば、最後に支柱として利用したスコップをドラきち殿が回収して降りてくる。
これをもう一度繰り返すことで、ようやく大地へと戻って来ることができた。
タダの野宿と比べて手間ではあるが、こうした地道な積み重ねがきっと役に立つのだろう。
『ここは人里からも大きく離れていないから襲われる心配もありませんでしたが、空を飛べるモンスターから襲われる可能性も考えると、この方法も決して安全とは言えませんね?』
「悩ましいところだな。崖に張り付いた状態での戦闘は危険が大き過ぎる。今回はお試しってことで高さを優先したけど、もう少し低い位置で……運悪く落下しても、骨折ぐらいまでならホイミやベホイミで対応できるし、その辺りの妥協ラインも探さないとダメかも」
『ケケケッ! こういうとき、ニンゲンってのは不便だなァ? しかしよう、オレたちドラキーだって空中での戦いは別に得意ってワケじゃねぇんだ。適材適所って言葉もあるんだろ? コイツは空に強いモンスターのスカウトも真面目に考えなきゃなんねぇんじゃねぇ〜の?』
空中戦。
空中戦か。
吾輩であればもっくん殿やマスターに打ち上げて貰えば戦えないこともない、か?
いや、それなら素直に中級火炎呪文【メラミ】などを習得できるよう努力するほうが現実的か。
レベルが上がり、最大MPと賢さも鍛えられれば与えられるダメージも増えて丁度よい。
あるいは、既に習得したデインによる迎撃の技術を磨くという手段もある。
魔法力にて雷球を生成し、そこから雷撃を飛ばすことで対象を切り裂くという性質は案外こういう場面に適しているかもしれぬ。
直接炎や氷を飛ばす呪文と違い発動まで時間のズレが生じるが、だからこそ動きの素早い相手でも狙いを定め直すことができるのだ。
マスター曰く“隙を生じぬ二段構えの呪文”とのことだが、残念ながら吾輩ではマスターのように自由自在とはいかぬのが悩ましい。
それでも、空間が制限される洞窟のような屋内での戦闘よりは戦いやすいだろう。
ふむ。
空を飛ぶ相手を意識したデインの使い方。
これは特訓の価値アリだな。
どうしても荷運びや野営の準備では吾輩は役に立てぬ。
スライムだから。
はねスライムやホイミスライムなどのように触手でも生えていれば、もう少し手伝えることもあるのだろうが。
まぁ、無い物ねだりをしても仕方ない。
だからこそ、気持ちを切り替えて戦闘面で己の役割りを果たすことに尽力するのだ。
もっとも……吾輩とて身の程を弁えている。
スライムは、所詮スライム。
いまはまだ、マスターが未熟であるが故に戦力として重用されているというだけのこと。
いつの日かより強靭なモンスターを眷属に加えることになれば、吾輩は大人しく第一線を退くことになるだろう。
それでよい。
それでも、よいのだ。
タダのスライムとして無意味に生きて無意味に死ぬのではなく、吾輩は、いま、こうして冒険の旅の中にある。
これ以上の贅沢を望む必要はない。
それに、例え冒険に参加できなくなっても牧場でいくらでも仕事はあるのだ。
マスターが研究中のパデキアの世話も手伝っているからな。
うむ。
畑仕事をしながらのんびりと余生を過ごす。
スライムとしては勝ち組といっても過言ではない。
そのためにも強くならねば。
マスターが魔物マスターとして成長してくれなければ、そんな素晴らしき隠居生活も夢のままで終わってしまう。
いつまでもスライムを頼りにしなければならんようでは困る。
…………。
一瞬、何故か「メラミまで覚えたん? じゃあそのまま勢いで【
▼▼▼
吾輩はスライムである。
バブルスライムのような滑る移動に憧れる日もあっていい。
危険区域を踏破するための訓練を繰り返すことしばらく。
マスターも、我々も、相応にレベルアップしたと自負している。
特に野営の準備はかなり手早く済ませられるようになった。
これは冒険をする上で大きなアドバンテージとなるだろう。
準備が早く終わる。
つまり休息に使える時間が増える。
そして翌日まで回復できる体力も増える。
大変結構。
強いて不満を探すのであれば食事だろうか?
荷物の軽量化のために簡単な保存食ばかり。
干し肉と乾燥させた果実。
不味くはない。
食に拘るマスターのおかげで不味くはない。
が……やはり物足りない。
状況の悪化を想定して食料を切り詰める訓練もしているが、まぁとにかく食事の事情とは冒険において大きな課題となるのだと思い知らされた。
とはいえ。
環境次第では補充もできる。
流石に、マスターが木の根を掘り返して水に浸し柔らかくしたモノで空腹を誤魔化し始めたときはそこまでしなくても……と焦ったが。
それだけ本気で未踏の領域に挑もうという、その、アレだ。
気概は感じたな、うむ。
しかし。
食事よりどうにもならぬこともある。
「……足のほうは普段から鍛えてたおかげで大丈夫だけど、まさか靴のほうが耐えられないとはなぁ。ただの石ころでも踏めば痛いし、熱で焼けるのも困るし、寒さで凍傷とかも嫌だし……。いやぁ、服や装備のほうばっかり気にかけて大事なところ忘れてたわ。わっはっは! ま〜じでど〜すんべ? 冒険者が普通にいるから、基本的に靴しっかりした作りがデフォつって安心してたわ……」
吾輩はスライムなので足はない。
だがマスターは人間なので足がある。
メタメタ嬢のように浮遊することはできないし、ドラきち殿のように空を飛ぶこともできない。
ちなみにもっくん殿は流石はいたずらもぐらだけあって足の表皮はとても頑丈なようだ。
それでもマスターの独り言のように、人間たちの使う靴は我等モンスターが間に合わせで作成するものより耐久性に優れているようなのだが。
それだけマスターの冒険は険しい道程ということか。
まぁ、わざわざ安全で歩きやすい道から外れているのだから当然と言えば当然かもしれないが。
「ほっほう? 随分と勇ましいことになっとるの〜。魔物マスターとしては野山を掻き分けてなんぼじゃからな、靴がボロボロになるほど歩いたのは努力の証と言えるじゃろ」
「じいさん。ま、スカウトとかは全然だけどね。移動の鍛錬ってことでモンスターとの戦闘も極力避けてるし」
「目的が違うのだからそれもよかろう。しかし、そうなると並みの素材で作られた靴ではお前さんの冒険には耐えられまい。丁度いい、ダースドラゴンのダージリンちゃんが脱皮したばかりじゃからな。そいつを素材にすれば市販の物より頑丈な靴が作れるかもしれんぞ」
「本当かじいさん! ありが────え? ダージリンちゃん脱皮とかすんの?」
「そりゃするじゃろ。ドラゴン属なんだから。ドラゴンたちが脱皮を繰り返してより頑丈な鱗となって……あぁ、もしかしてアレかの? 確かにワシは見ての通りすっかりジジィじゃし、最近は耳のほうも、ちと遠くなってきたがな。だがドラゴン属は寿命がそもそも違う。ダージリンちゃんはまだピチピチのセクシーギャルじゃぞ?」
「いや、そこじゃなくて……いや、セクシーギャルってのもアレだけど……そうなんだ、ドラゴンそんな感じで脱皮するんだ……でもキングコブラの世話してるときとか、うん、あいつもドラゴン属だもんな……この世界の理科、というか生物の教科書があるなら■■の教科書より数倍分厚くなりそうだなこりゃ」
と。
いうことで。
「えー、ダージリンちゃんから快く脱皮したヤツを譲って貰うことに成功しました。これで靴を作ればきっと冒険もより快適になることでしょう。いやぁ、モンスターじいさんにもダージリンちゃんにも感謝感激アメアラレってヤツですわ! ありがてぇありがてぇ」
「快くって言うわりには尻尾でふっ飛ばされてたがな」
「ダージリンちゃんも女の子ですからね〜、スベスベお肌で美人になったって褒められちゃったから、ちょっと照れちゃったんですよ〜。カワイイですね〜」
「その照れ隠しが即死級なんよ。ダースドラゴンの尻尾ビンタとか下手すりゃ普通に棺桶直行なんよ」
「流石は学園で唯一の現役魔物マスター、頑丈だね!」
「思っクソぶっ飛んで木ィ7本ぐらいブチ抜いたけどな。そりゃ人間の体重じゃ踏ん張れねぇわ」
ダージリンちゃん殿も乙女だからな。
マスターも罪なオスだ。
「ところで、そのダージリンちゃんの皮なのですけれど。もしよろしければ、ですが〜、わたくしに任せてはいただけないでしょうか〜?」
「うん? あぁ、そう言えば商人学科の」
「はい〜。わたくし、これでも大きな商会の娘として防具製作コースで一生懸命お勉強しておりますので〜。普段からこちらの牧場でお世話のお手伝いもしていますし、魔物素材の取り扱いなら自信がありますよ〜?」
「それは……正直、かなり助かるけど。いいのか?」
「もちろんですよ〜! ダースドラゴンの皮や鱗の加工なんて、滅多にできるモノではありませんから。そもそもモンスターおじい様がいらっしゃらなければ、触れる機会すらありませんので〜。あ、もちろんお代は結構ですよ? むしろ、希少素材を使わせていただけるわたくしが支払う側ですからね〜」
「ん〜、だけど、学生相手とはいえ職人仕事を安売りさせるワケには……よし! そういうことなら返礼品として伝説の【鉄の金庫】を探してきてプレゼントしよう!」
「まぁ♪」
「鉄の金庫って、勇者の伝説とかに出てくるアレか?」
「そう! その鉄の金庫。やっぱ商人にプレゼントすんならコイツしかねぇべよ」
鉄の金庫。
物を保管するための金属の箱ならばいくらでもありそうなものだが、どうやら吾輩が想像した物とは別物らしい。
曰く、勇者の冒険譚に登場するそれはとても頑丈な金庫で、魔界のモンスターですら破壊できぬ代物らしい。
また、神の祝福を受けた勇者の不思議な棺桶のように、全滅しても一緒に天空神の像まで戻って来るのだとか。
なるほど。
吾輩とて商人とやらの生態系を完全に理解しているワケではないが、贈り物としては良さそうに思える。
「だがよ、所詮、伝説は伝説だろう? 世界中にいろんな神話や伝承があるが、それらしいアイテムなんてほとんど残ってないじゃないか。各地の城にある【天空の武具】だってレプリカだろって言ってる連中もいるんだぜ?」
「まぁね。伝説なんて大半が眉唾物ってのは同意だよ。でも、本物だって証明できないなら、そいつは偽物だって証明できないことでもある。おとぎ話なんてのは、案外ゼロから産まれるんじゃなくて元ネタとなるような“なにか”はあるものさ」
「言われてみれば……可能性だけなら別にあり得ないとも言い切れないのか。誰でも魔法力を使わず
「そういうこと。いまの人間の技術じゃ作れないモノは確かに存在するんだ、だったら伝説の武器や防具、それに便利だったりヘンテコなアイテムだったりも実在したって不思議じゃない。それこそ雷の杖に使われてるオーブだって、効果がベギラマだから騒がれないだけで充分ヤベェ代物だよ」
「なるほどね〜、言われてみればそこまで無謀って感じでもないし、結構ロマンとかあるかも! で、探すのはいいけど心当たりとかあんの?」
「こういうのは、まずは情報が集まりそうなところに足を運ぶところから地道に始めるものだよ。武器のことは武器屋に、道具のことは道具屋に、そして商人に関わる噂話は商人の集まるところに。伝説を求める冒険の記念すべき最初の目的地は────灼熱の砂の海を越えて【砂漠のバザー】に決まりだな!」
【▶ここまでのぼうけんをきろくしますか?】
※『みんな、高評価に応援のコメント、嬉しいんだナ』
※『でもこの小説は読み切りだから連載されることはないんだナ……』
※『この作品は作者が頭の中でグルグルしていたネタを整理してスッキリさせるついでに、誰かが似たような作品を執筆してくれることを期待して投稿しただけなんだ』
※『だから、これを読んでいるキミが執筆してくれないと物語は続かないよ。残念だけどね。さぁ、キミもオリジナルのドラクエ作品を執筆して投稿しようか!』