時にィ! 皆さんはドラゴンクエストで砂漠と言えばどんなイメージがありますか?
作者はクソみてぇにカチカチの蟹野郎に苦戦したり上方修正された燃え盛る火炎に消し炭にされたりした思い出ばかりが強いですね。
【▶つづきからはじめる】
吾輩はスライムである。
馬車に揺られるのも悪くない。
次の目的地である砂漠のバザーなる場所へは
それはマスターがその場所を知らぬからではなく、そもそもルーラストーンそのものが設置されていないらしい。
大勢が集まる集落とのことだが、ルーラでの移動ができぬようでは不便ではないのか?
そんな疑問も説明を聞けば納得できる。
ひとつ。
荷運びにルーラは不向きであること。
もしも馬車ごと移動できるのであれば別だったかもしれんが、いちいち小分けにした物品を抱えて飛ぶのは効率が悪いのだそうだ。
1度の魔法力の消費は決して多くないが、連続で使用すると体力の消耗も無視できんのだとか。
それならばと大勢の魔法使いを眷属にすれば、今度はそれらを養わねばならぬ。
大きな群で飢えぬためにはより多くの餌を必要とする。
多くの餌を集めるためにはより大勢の働き手が必要に。
もしかしたら、その辺りも適度な具合というものがあるのかもしれない。
吾輩はスライムなのでわからぬが。
しかし、馬車を使っての荷運びが最も効率的なのだろうということだけは理解した。
だとしても、道中の護衛に対価を支払うのであれば、ルーラでの荷運びを仕事としても良さそうなものだが……まぁ、色々あるのだろう。
ふたつ。
人間の群のボス、つまりは“王”の支配を受けず自由に活動するため。
そもそもの話、砂漠という人間が活動するには不向きな場所にわざわざ集まることも不思議であった。
人間は“国”という名の群を作り生活をしている。
ならば、その群の中で活動するほうが安全だと吾輩も最初は思っていた。
だが、よくよく考えれば我々スライムの世界でも稀にだがあるのだ。
群の掟に馴染めぬ“はぐれ”が出ることが。
調和を乱す者は残念だが群から歓迎されない。
ボスの座を奪い新たな掟と共に君臨する者がいないワケではないが、大抵の場合は群から出ていくことになる。
そして、同じような境遇の者が集い新たな群を作る。
本当に稀にだが……確かにあるのだ。
つまり砂漠のバザーなる群もまた、国という群からはぐれた人間たちが独自の掟で集い生活するための場所なのだろう。
そうなると、ルーラで簡単に移動できるのは困るワケだ。
自分たちの群の掟に余所者から口出しされるのは愉快ではあるまい。
ならば多少の不便もまた、自分たちの秩序を守るために役立つのだろう。
もしかしたら砂漠のバザーなる集団に参加して物品のやり取りをする資格があるか試している、という側面もあるかもしれん。
我等が移動している道も砂漠の一部ではあるが、周囲の巨岩が砂嵐の勢いを和らげてくれているし、そもそも馬車が問題なく走れる程度には足場も確りと踏み固められている。
この程度の旅路ですら苦労するような軟弱者は不要。
強き商人のみが集うことを許す。
ふむ。
そうやって選別された人間と物品が集まる群であれば、希少価値のある宝の情報なども手に入る可能性があるか。
そういえば牧場の手伝いに来る人間が読書に興味のあるモンスターのために絵本なるモノを持ち込んでいたな。
もちろん吾輩もそれを読ませてもらった。
賢さが成長した、というよりも魔物マスターの眷属になった影響のほうが強いように感じるが……どちらにせよ、せっかく人間の文化を理解できるようになったのだから、知的好奇心を満たさぬようでは勿体ない。
そのときに読んだ幾つかの物語に、此度の目的地である砂漠のバザーと似たような環境を題材にしたモノがあった。
人間が言うには、それらもまた実在する集落らしい。
船でしか辿り着けぬ孤島であったり、氷雪の山脈を越えた先にある王を担がぬ国であったり。
自分に適した環境ではなく、自分を環境に適応させる。
人間の生存能力とは天晴なモノだ。
ちなみにマスターは絵本はあまり読まなかったらしい。
なんでも幼い頃から呪文の練習に夢中だったとか。
必要になったとき、必要な知識を得るために本を読む。
娯楽としてのんびり読書の時間を、ということは殆ど無かったという。
マスターの多彩な手札は努力の証。
しかし、それはそれで勿体ないな。
吾輩以上に好奇心旺盛なマスターであれば、それこそ絵本を読むべきだと思うのだが。
ここはひとつ、吾輩のほうから“こういう面白そうな話があった”と語ってみるのも悪くない。
ちょうど興味を惹かれた場所もあるからな。
それは、地下の大空洞に築かれた大きな町だという。
空想の産物ではなく、実在して大勢の人間たちが生活している。
もちろん場所が珍しいだけでは物語にならぬ。
その大空洞が作られるまでの過程が伝説として語り継がれているからこそ面白いのだ。
それは、大邪神ルビスの忠実なる2体の下僕【巨人】と【魔人】を天空人に導かれし3人の勇者が討伐する英雄譚であった。
曰く、その巨人はサイクロプスよりも巨大な体躯を持つ【ギガンテス】すらも見下すほどで、人間など片手で数人まとめて握り潰してしまうという巨人の名に恥じぬ存在であったという。
そして魔人のほうだが、こちらは巨人と違いその風貌は伝承により差異があるようだ。
吾輩が読んだ絵本だけでも【アークデーモン】の上位種だとするモノもあれば【シルバーデビル】の上位種だとするモノもある。
あるいは、実は大邪神ルビスの下僕は2体ではなく3体いたとする物語もあった。
なんというか、巨人と比較して魔人のほうは実にあやふやである。
しかし人間によれば神話や伝説などそんなモノなのだとか。
物語に登場する呪文についても……上級爆発呪文【イオナズン】をも凌駕する破壊力を持つとされている失われし禁術、極大爆発呪文【イオグランデ】とてそうだ。
現代では再現できないだけで実在した、いや勇者にしか使えない特別な呪文だ、いや伝説を誇張するための創作でしかない、など。
まぁ、議論が絶えぬのだそうだ。
ともかく。
件の大空洞は天空人に導かれし3人の勇者が、その巨人と魔人を討伐するときの戦いで作られたものらしいのだ。
その規模は吾輩の知る洞窟とは比べ物にならぬほどであり、そこに至るまでの抜け穴も馬車の集団が余裕ですれ違えるほど広いのだとか。
しかも、それは確かに存在するので機会さえあれば実際に目にすることが可能である。
実に興味深いではないか。
砂漠のバザーでの用向きが終われば、大空洞の町とやらにも足を運ぶようマスターに進言してみよう。
吾輩と同じように大邪神ルビスの存在を知らなかったというならば、こうした絵本から得られる知識とてマスターにとっては新鮮なことだろう。
▼▼▼
吾輩はスライムである。
基本的にはなんでもモリモリ食べる健啖家だ。
最寄りの町から徒歩で出発し。
途中、キャラバンなる商人の群と合流し。
あれこれ手伝いながら、岩と砂の道を歩き。
2回ほど野宿で夜を越して。
ついに3日目の昼間。
砂漠のバザー、到着である!
ほぅ……巨大な水溜りを水源として作られた集落か。
やはり水、最も優先して確保するべき資源。
モンスターも人間も水がなければ生きていられぬのだ。
それに意外と緑地が多い。
本で得た知識から想像するに、どこまでも砂らしく乾燥しているものとばかり思っていたが。
しかしサボテンなるトゲまみれの植物は近くになさそうだ。
モンスターじいさんの牧場にも【サボテンボール】というモンスターがいたが、アレほど丸くなく【どろにんぎょう】のように細身であるという話は聞いていたのだが。
なんでも雨の少ない砂漠地帯にあって、その体内に豊富に水分を含んでいるのだとか。
但し、味は決して良くはないらしいが。
もちろん探索の最中で見掛ける機会もあるだろう。
そのときを楽しみにしておこう。
そして……ふむ、壁だな。
バザーなる集落を囲う大きな壁。
岩と樹木、そして木材とレンガ。
様々な素材を組み合わせて集落を護る盾としているのか。
これまでの町や村にも似たようなモノはあった。
マスターの生活する学園や、遠目に見た“城”という人間の王が住まう特別な建物がある地域にもあった。
それらに比べると隙間が多いようにも見えるな。
まぁ、風通しは良さそうではある。
砂漠は暑いからな。
多少隙間だらけでも、樹木と壁が複数の層になっているなら砂嵐とてそれなりに防げるのだろう。
恐らくは、だが。
こうして集落が機能しているのだから大丈夫なはず。
……宿屋で寝泊まりしているときに建物ごと吹き飛ばされるようなことにはならないと信じよう。
さて、そんなことよりも商人たちの荷運びを手伝わなければ。
そういう約束で同行し馬車に便乗させて貰ったのだから。
吾輩は手足の無いスライムだが、マスターの眷属として人間社会で生きるスライムなのだ。
軽い荷物程度、頭の上に乗せて運ぶ程度であれば容易いこと。
なにより労のあとの食事はまた格別なのだ。
それは鍛錬後とも違う。
不思議なモノで、戦いを終えたときよりも牧場の畑仕事を終えてからの食事のほうが不思議な充実感があるのだ。
「いらっしゃいませ〜! おひとり様ですか?」
「魔物マスターなのでひとりと4匹ですが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ! ただ、本日は“祈りの日”なので素手で食べられるお食事のみをお出しすることになってしまいますが」
「あぁ、そうか。祈りの日。この辺りではそういう感じの文化なんですね」
「えぇ。と、言ってもお昼だけですが。それで、どうなさいますか? もっとも、お客様は他所の地域の方のようですし、ご希望であれば食器をご用意もできますが」
「いえ、せっかくですのでこの土地の文化を体験させてもらえればと思います。それに、私だけ特別扱いされてしまったのでは、ほかのお客さんのお祈りを邪魔するようなモノですから」
「フフッ♪ 申し訳ありませんお客様、逆にお気遣いいただいてしまって。それでは空いてるテーブルへどうぞ!」
ほぅ。
なかなか趣深い店内ではないか。
テーブル、なるほど。
人間が立ったまま食事をするのに適した高さ。
これは理解できる。
しかし壁際のテーブルで人間が“テーブル”に座っているのは面白い光景だ。
食事を置く場所には白い布を。
人間が座る場所には鮮やかな布を。
明確に区別されているということは、そういう文化なのだろう。
同じ人間の文化圏でありながら全く異なる食事風景とはな。
「よし、じゃあスラぼうともっくんはテーブルに乗る前にちゃんと足を拭いて……あ〜、どうすっかな……いや、今回は普通に立ち食いでいいや。よし、そっちの壁際んトコにしよう」
『ケケケッ! なんかピリッとした美味そうなニオイすんじゃね〜の! おっとジイさん、ドラキーだが隣、失礼するぜぃ?』
「フェッフェッフェッ! こちらこそ。ワシも長いこと生きとるがモンスターと一緒にメシを食うなど初めての経験じゃからな。そうそう、この店は骨付きの羊肉がンマイぞい」
「では、せっかくなのでオススメの一品を。あとは……あ、普通に牛肉とか豚肉の料理もあんのね。そりゃそうか。んー、豆と牛の内臓の煮込みとかも美味そうだな……」
『マスター、どうやら汁物などは短冊状にカチカチに焼き上げたパンなどと一緒にいただくようですよ? これも手だけで食べられるようにという工夫なのですね』
祈りの日。
人間たちが、天空神マスタードラゴンへの感謝を忘れぬために設けられた特別な祭日。
話は聞いた。
だが詳しくは知らぬ。
吾輩はスライムなので、祈りを捧げるべきは大邪神ルビスなのだろう。
モンスターから祈りを捧げられても天空神マスタードラゴンとて何故かと困るのではなかろうか?
しかし、手掴みでの食事か。
人間の肉体は天空神マスタードラゴンに与えられたもの。
その恵みに敬意と感謝を。
まぁ、わからぬこともない。
神に与えられた神聖なる肉体なのだから、その両手で食事をするのは恥などではないという言い分も納得できそうな気はする。
ただ。
人間はモンスターとは違う知能と文化を得て繁栄してきたはず。
それらを投げ捨てて急に原始的な手法で食事をしながら感謝を捧げられても天空神マスタードラゴンとて何故だ? と困惑するのではなかろうか。
いや、感謝の祈りそのものを否定はせんのだが。
祈り方の是非はともかく、出された料理は美味であるな。
学園で食すモノと比べて刺激的な香りがする。
少々、驚きもしたが。
砂漠の無味乾燥とした空気感とは真逆だ。
これが“スパイス”というものか。
学園を含む他の地域では高級品として扱われているらしいが、この砂漠のバザーでは比較的手頃に獲得できるとのこと。
牧場の友人知人に土産として持ち帰れぬものだろうか?
マスターに提案してみよう。
もっとも、好みに合うかどうかは別の話だが。
「……メーダって、口、ちゃんとあるんだな」
「そりゃあるだろ。生きてんだから。……いや、オレもメシ食ってるトコなんて初めて見たけど」
「いたずらもぐらなんかは人間の子どもと大して変わんねーな。やっぱ魔物マスターに従うぐらいだから賢いんだな」
「ちょっとご覧なさいよ! あのテーブル! スライムもドラキーも器用にこぼさないで食べてるわよ!」
「あらホント。ウチの旦那や子どもたちよりもお行儀がいいかも」
「いいわね、今度からテーブル汚されたら言ってやろうかしら。モンスターだってちゃんと綺麗に食べられるのに〜、って」
▼▼▼
吾輩はスライムである。
刺激的な食事のデザートに果実入りのヨーグルトが至高であることを知る者だ。
空腹を満たして改めて砂漠のバザーとやらを散策することになった。
とはいえ、目的はある。
それは伝承にある鉄の金庫に繋がる情報を探すこと……ではない。
本日の寝床。
つまりは宿屋を探さねばならぬ。
ここにはルーラで気軽に移動できないのだから、まとめて数日は滞在する必要がある。
日帰りなど論外だ。
どのみち帰りは学園までルーラで飛んでいくだけなのだから問題ない。
帰り道が楽だと知っているだけでも気分は違う。
焦ることはないだろう。
幸いにして砂漠のバザーでも魔物マスターに対する反応は悪くない。
そうでなければ、そもそも食事の時点で追い返されていたのかもしれないが。
ともかく。
多少、物珍しさから視線が集中することはある。
しかしそれは、歓迎されていないソレとは明確に違う。
これなら我等モンスターでも受け入れてくれる宿屋のひとつやふたつ、そう苦労せず見つけることもできるはずだ。
最悪でもバザーを囲む防風林の中にテントを設営するだけだ。
野宿であっても集落の隣。
なにも不便は無かろう。
……などと安心していたら。
「モンスターが出たぞー! サンドマスターの群れだー!」
危険を知らせる大声。
鳴り響く警鐘。
どうやら【サンドマスター】なるモンスターの襲撃のようだが。
「ほぅ、サンドマスターか。砂漠らしいモンスターの名前が出ていたじゃあないか。いつかは必ず戦うことになるだろうし、バザーの自警団の皆さんを邪魔しない程度にチョロっと野次馬でもしておこうじゃねぇ〜の!」
我が主ながら物好きなことだ。
自ら危険に近付くとは。
しかし冒険とはそういうもの、安全が第一であるなら不用意に縄張りから出るべきではない。
なにより我等の主は魔物マスター、珍しいモンスターが出たと聞かされれば好奇心など抑制できぬ、いや、する必要が無いのだろう。
それでも群の守り手の邪魔だけはしないようにと優先順位を間違えないだけの冷静さがあるのは良いことだ。
と、いうことで。
実際に様子見のため防壁の近くまでやってきたのだが。
「……想像より大きいな。いや、個体差か? デカいのとちっさいのじゃあ頭の高さ3倍ぐらいあるし。近くの岩山は……基準にはならないな。色違いのおおみみずのこと考えるなら、大型の個体は人間なんて丸呑みにできるサイズかも。そりゃ自警団も大声で仲間を呼ぶわ」
うーむ、デカい。
モンスターじいさんの牧場にいるおおみみずより確実に。
それを遠目にて一瞬で判別できるのだから、その大きさはどれ程のものか。
あれでは体当たりひとつでも脅威となる。
それが群をなして襲撃してくるというのだから、全力で迎撃せねばと焦るのも当然か。
それに連中、どうにも普通の様子ではない。
メダパニを受けて混乱しているのとも違う。
怒りでもない。
しかし正気でもない。
あのような状態では、追い払うにしても難儀するだろう。
普通のモンスターであれば命を惜しんで逃げることもある。
だが連中の様子からしてそうなる可能性は低そうだ。
砂漠のモンスターとはああいうものなのか?
いや、違う。
どうにも上手く表現できぬが、恐らくは違う。
ふーむ。
少なくとも野生のスライムであったころにも、このようなザワザワとする感覚を味わったことはない。
マスターの眷属として各地を巡っているときも、サイクロプスとの戦闘でもだ。
『ケケッ! こりゃ巻き込まれちまう前に大人しく引っ込んだほうが良さそうだな? 砂漠のモンスター相手ならほかのニンゲンたちのが慣れてるだろうし、ここは安全なとっから勉強させてもらうって方向でよぉ……あん? 連中、なにするつもりだ?』
「突撃してくる、って感じでは無いな。一斉に上体を起こして……もしかして【ひのいき】でも吐き出す気か? スライムだってメラ使えんだ、砂漠のモンスターならそれぐらいしてきても不思議じゃないが────いや、違う。自警団の様子がおかしい」
砂漠のモンスターとの戦いに慣れているはずの自警団なる守り手たちが動揺している。
つまりは彼らにとっても、アレは見知らぬ動作。
だがサンドマスターたちは一斉に同じ行動をしている。
つまりは、そこには偶発的なモノではない明確な目的があるということだが……さて、連中、なにをするつもりだ?
「────ッ!? 風向きッ! それにアレは……ッ! 気をつけろーッ!! 奴らは【やけつくいき】を吐いてくるぞーッ!! 風に乗せて飛ばしてくるつもりだーッ!!」
「なにィ?! 焼け付く息だとォ!? バカ言え、サンドマスターがそんな物騒なモン吐き出すなんて見たことも聞いたことも」
「団長ッ! そのボウヤは学園の魔物マスターだよッ!」
「ッ!? モンスターじいさんのところかッ!! ────野郎どもッ! 壁際の住人を避難させろォッ! 体力の無ェガキやジジババども、動けねェ病人や怪我人も風の通らねェ安全な場所に担いででも運べェッ! 急げッ! 死人が出るぞォッ!!」
「「「「へいッ!! 団長ッ!!!!」」」」
「櫓の上の奴らも下がらせろォッ! 少しでも身を隠せッ! 肌を出すなッ! いつでも目ェ閉じて息を止められるようにしなァッ!!」
焼け付く息と聞いて場の緊張感が跳ね上がる。
当然だな。
アレほど厄介で恐ろしい攻撃はそうあるまい。
これが眠りを誘う【あまいいき】であれば息を止めるだけでも多少はやり過ごすこともできた。
あるいは【どくのいき】で毒に蝕まれることになったとしても即座に命を落とすようなことはない。
だが、焼け付く息はだめだ。
麻痺というものは厄介極まりない。
身体の自由が奪われる、だけでは終わらないのだ。
吾輩は幸運にも耐性らしきモノが僅かながら備わっていたらしく、幾らかの不自由であれば許容できる。
だが耐性の無い者にとっては死に至る病も同然。
手足が動かない。
身体が動かない。
ならば、どうして呼吸だけは保証されると安心できる?
吾輩のようなスライムとて水に落ちたり土に埋もれれば息が詰まって息絶えるのだ。
ほかのモンスターとて、動物とて、もちろん人間とて……呼吸もできぬほど全身が麻痺すればどうなるか、など。
幸いにしてサンドマスターと我等の間には充分な空間がある。
風向きによる後押しがあったとして、辿り着くまでには拡散されるかもしれない。
数による一斉攻撃でも、飽和されるのであれば致命的な被害とはならぬかもしれんが……。
「赤黒い霧……ッ! マジで吐きやがったッ!」
「急げ急げッ! 距離があるからって油断するなッ!」
「露天商も避難させなさいッ! 逃げないヤツは自己責任よッ!」
「クソッ、こうも広くばら撒かれたんじゃ【おいかぜ】でも対応できないぞ……ッ!」
「あ〜あ、モンスターじいさんの授業を真面目に受けてた成果が出ちまったかなぁッ! 素直に【ふしぎなおどり】でも踊っててくれたほうが嬉しかったなぁッ!」
「良かったなボウズッ! これでテメェが嘘つき呼ばわりされるような心配は無くなったぜェッ!」
「正直者の証明には割に合わない被害になりますよッ! だったら外れてくれても良かったと思いますがねッ!」
「そりゃ仕方ねェこったなッ! 外れて欲しい予想ほど当たっちまうのが人生ってモンだ、諦めるんだなボウズッ!」
「参考になりますッ! ……用意しといてよかった麻痺対策、この【まんげつそう】とパデキアを混ぜた特性の丸薬を一粒飲めば短時間でも麻痺を防いでくれヴォエッ! まっずッ!!」
『ホゲェ〜、マスター、こりゃダメダメだぜぇ……』
『苦味をごまかすためのハチミツが完全に悪さしてるヤツだコレ』
『良薬、口にマズし……ですわね……』
うーむ、不味いッ!!
麻痺で身動き取れぬまま息の根が止まるよりは何倍も良いが、それにしても不味い。
それでも麻痺を治すのではなく、麻痺を防ぐという効果は偉大であろう。
牧場の手伝いに来ていた人間たちからも評判は悪くなかったようであるし。
まぁ、本当に……味だけが問題か。
普通に考えるなら治療薬に期待されるのは効き目であって旨味ではない。
タダの我が儘、過ぎたる贅沢な要望であるとは自覚している。
しかしメタメタ嬢の言葉通り、これは良薬であるのだ。
効果の程はマスター自身が身を持って検証し、改良を重ねたのだから。
一応、マスターは麻痺を治療する治癒呪文【キアリク】も使える。
それでも呪文が使用できぬ状況を想定して備えるのであるから、流石は我等の主。
おかげで焼け付く息を簡単にやり過ごせるというもの。
マスターのマントの中に避難してはいるものの、普通の雨風と違い周囲を漂うのだけはどうにもならん。
やはり拡散して濃度は薄まっているようだが、それでも吾輩のぷるぷるボディが針を刺すようなチクチクとした、あるいはデイン系のようなビリビリとした感覚に覆われている。
そして自警団なる者たちは……ふむ、流石といったところか。
学びの途上である学生とは違うのだろう。
それぞれ身を隠して見事に焼け付く息を回避している。
なにやら口元をモゴモゴしているのは満月草を食んでいるらしい。
これが、これこそが、場馴れだと。
砂漠の戦士たち。
その経験値は、いまの我等では届かぬ高みに。
当たり前だな。
マスターとて人間の中ではまだ若い。
様々な年齢らしき学生たちの中でもやはり若い。
そして我等も眷属として日が浅い。
戦闘能力に大きな差があるのは当然のこと。
だからこそマスターも自惚れることなく、邪魔にならぬ位置で砂漠の戦士たちの戦い方を学ぼうとしているのだから。
それにしても……自警団なる者たちの落ち着いた対応と違い、後方より聞こえてくる音のなんと賑やかなことよ。
それも、あまり好ましくない方向性の賑やかさだ。
避難が間に合わなかった人間たちか。
あるいは、ほんの僅かな時間だけ焼け付く息に触れたところで問題ないと油断した人間たちか。
身に覚えがある。
吾輩とて麻痺など知らずに生きていた。
そも、我等スライムが住処と定めるような場所にはモンスターも含め強く危険な動植物など見当たらない。
そのような場所では繁殖できぬからだ。
故に、知らぬのであれば仕方ないのだろう。
恐ろしさを理解できぬのだから。
知識だけでは足りぬ、経験がなければ備えることは不可能。
愚かとは思わぬ。
が……なんと言ったものか。
確かに治療そのものは容易い。
マスターのようにキアリクを使える者もいるだろうし、天空神マスタードラゴンの石像ぐらい設置してあるだろう。
神の祝福とやらを受けた僧侶であれば祈りによる解毒や麻痺の治療も可能らしいからな。
なにより商人が集う町ならば、満月草とていくらでも備えがあるだろう。
しかし、だ。
治療できることと、麻痺で苦しむことは別なのだ。
我等のマスターのようにわざわざ【へびこうもり】に頼んで自ら焼け付く息を浴びるような酔狂な者でもなければ満足に動けまい。
まぁ、動けなくとも問題はなかろう。
頼れる砂漠の戦士たちの邪魔にさえならなければ、モンスターの襲撃そのものは手慣れているだろうからな。
……と、思っていたが。
「ほほー、こりゃスゲェや。■■■■風に表現するなら【サンドマスターはなかまをよんだ!】ってところか? ……大丈夫、じゃなさそうな雰囲気になってきたな。モンスターズかと思ったらヒーローズだったでござる、なんつって」
増えた。
それもサンドマスターだけではない。
砂漠の戦士たちも動揺しているということは、つまりこれは想定外の出来事とである。
これは不味いな。
サンドマスターだけでも40から50匹はいる。
先程と同じように喉の辺りが膨らんだということは、より密度を高めた焼け付く息を吐き出してくるということ。
風向きは変わらない。
1度、届いているのだから2度目だけ届かぬということはあり得まい。
ふむ。
どうやら吾輩は少し勘違いをしていたようだ。
マスターと出会い多少は行動範囲が広がった。
サイクロプスを含む格上のモンスターとも戦った。
時には人間の山賊などを退治することもあった。
しかし、それらは全て人間の王が統治する箱庭の中で起きた出来事でしかなかった。
吾輩が野生の世界だと信じていた領域でさえ、人間によって安全に管理されていたに過ぎないのだ。
つまりは。
「自警団の動きが少し鈍い気がする……この規模の襲撃は経験に無いって、想定外ってことか。■■■■4なら■■■の
そういうことだ。
この砂漠のバザーは人間の王が支配する群からはぐれた者たちの集落。
ならば、それより更に外側より来るモンスターとは、つまり。
自警団なる砂漠の戦士たちが敗北すれば、次は我等が戦わねばならぬ。
生き延びるために。
そう考えると、神の祝福を受け自動的に天空神マスタードラゴンの石像まで不思議な棺桶が運ばれる【勇者】とは本当に特別な存在なのだと理解できる。
もっとも、神話や伝承など真実が何処までなのかはわからぬと人間たちでさえ考えているらしいが。
まぁいい。
存在しない勇者のことなど知らぬ。
重要なのは我等のマスターが前を向いていること。
この局面にあって尚のこと、不適に微笑んでおられること。
眷属としてはそれで充分。
集団を率いる者に求められるのは単純な強さではない。
このリーダーに続けばどのような困難でも乗り越えられると信じさせてくれることだ。
さて。
これからようやく始まる本物の戦い。
タダのスライムでどの程度抵抗できるのか、試させて貰おう。
まずは、先程とは比較にならぬ厚みで迫ってくる焼け付く息の赤黒い霧をどうにかするのが先決だな。
【▶まもののむれがあらわれた!】
※「ブウウーイッ、また投稿してしまったわい」
※「さて……こういった雰囲気の設定でドラクエ小説を執筆してくれる投稿者はどこだ。隠すとためにならんぞ」
※「……まぁ、よいわ。まずはコレを読んでいる読者に執筆を促してくれるわ!」