ダークライ「まことに遺憾」
いっけな〜い、遅刻遅刻☆彡
わたしはエトワール校に通う12歳のごく普通の女の子!
エトワール校がルージュ地区にあって家が反対側のブルー地区にあるせいで、寄り道で遅くなると帰路がバトルゾーンになっちゃうの!
バトルゾーンを通ると問答無用でバトル挑まれちゃうしもう大変!
回り道すると門限すぎちゃうし、一体どうなっちゃうの〜!?
A.強行突破しかなくなります。
「間に合わなかったッ…!!」
「クウ」
時刻は夜。もうすぐ門限というタイミングで、近道を塞ぐ赤いホログラムを前に、私は項垂れていた。呆れたように相棒のクチートが見上げてくる。
私の通うエトワール校はミアレシティ北東部、ルージュ地区にある。一方、我が家はミアレシティ南西部のブルー地区である。真反対なので、必然的に帰るのに時間がかかる。
普段の帰り道なら門限に間に合うのだ。友人と寄り道したのがいけなかった。ルージュ地区はアカデミーの周りなだけあって、若者向けのおしゃれなお店が点在しているのだ。寄り道したくなるのが若者の定めというもの。
Q.門限を破るとどうなる?
A.知らんのか。オコリザルがふんどのこぶしを解き放つ(隠喩)
「クウ」
自業自得だと言わんばかりのクチート。遺憾の意を表したいが、寄り道のせいで遅れたのでぐうの音もでない。ここで取れる手段はひとつ。
「強行突破をします(ジョ◯ョ顔)」
「クウ」
覚悟を決めてバトルゾーンに突入する。相棒のクチートは「仕方ないな」と言わんばかりに首を振った。
◆
「こんばんは◯ね! でんこうせっか!」
入った途端にこれである。横合いから飛び出したピジョンがでんこうせっかで突撃してきた。だがクチートはノーマル技を軽減するはがねタイプ。悠々と受け止める。
「うわっはがねタイプ!? ズルいぞ!」
「不意打ちした側が言うなアイアンヘッド!」
「うわー!? ピジョンー!」
返しのアイアンヘッド。クチートは後頭部に伸びたテールを思い切り振ってピジョンを吹き飛ばす。格下だったようで、一撃で叩き落としたようだ。ポイントを確認しないまま通り過ぎてダッシュする。
「行くよクチート!」
「クウ」
そのまま路地を走り抜ける。このエリアは細い路地が多く、死角ばかりだ。故に角待ちアサシンキルが横行するエリアでもある。普段なら死角を警戒しながらこっそり進むだろうが、そんなことしてたら門限過ぎてふんどのこぶしが解き放たれる。問答無用でダッシュする。
「「あっ」」
そんなことすれば、当然のように角で出会ってしまう。対面にいたのはユンゲラーを連れたトレーナーだった。
「いっけなーい遅刻遅刻☆彡 かみくだく!」
「ゆ、ユンゲラー! サイケこうせ……あーっ!!」
クチートは邪魔だと言わんばかりにテールを振りかざし、テール先にあった口がユンゲラーを頭から丸かじりする。こうなればユンゲラーから何も対抗できない。そのままクチートがテールを振り回して、遠くに投げ飛ばした。
「まだだ! 行け、アサナン!」
気絶したユンゲラーを戻し、続けて出したのはアサナン。エスパーとかくとうの複合タイプのポケモンで、中々鍛えられているように見える。好戦的なのかシャドウボクシングでこちらを威嚇してくる。それを見た私はクチートに指示を出した。
「まもる!」
「うん? 一体何を…」
「オンバーン、ぼうふう!!」
突如、クチートとアサナンを巻き込んで巻き上がる嵐。防御体制に入っていたクチートは無傷だが、こちらに注視していたアサナンが軽々と吹き飛ばされた。
「あ、アサナーン!?」
「へへ、漁夫の利をいただいたぜ!」
物陰から帽子を被った少年がひょっこり現れる。よく見たら同級生である。しかも同学年で一番強いと噂の子だ。すごくヤバい。具体的には時間的な意味で。
「そこのクチート使い! オレのポイントになれ!」
「キミは門限どうなってるの!?」
「オレんちはZAロワイヤルのために、あと2時間遊べるんだ!」
「えっズルい! ズールーいー!」
「クウ…」
クチートがまたしても呆れた表情をしてくる。わ、わかってるって。よそはよそ、うちはうち。うちだって寄り道できる程度には許してくれているのだ。
「先手必殺! オンバーン、ねっぷうだ!」
「よけて!」
巻き起こった炎の旋風。クチートは大きくバックステップして回避した。同級生の少年は一度舌打ちすると、もう一度オンバーンに指示を出す。
「クチートは近寄らなきゃ何もできないだろ! ぼうふうで追撃だ!」
「よけて!」
再び放たれた暴風をまたしてもバックステップで回避。焦れたように追撃の指示が出されるが、こちらもバックステップで回避する。
「逃げてばかりじゃ何もできないぞ!」
「よし、クチート!」
「来るか!」
私とクチートは視線を合わせて頷く。2人は一心同体、言葉を交わさなくてもわかる。次にやることのため、私達は逆方向に回れ右をした。
「逃げるよ!」
「クウ!」
「……あ?」
そう、私達の目的はZAロワイヤルのポイントを稼ぐことではない。帰宅することである。わざわざ強いトレーナーの相手をする必要はない。回れ右をした私達は、回避のために取った距離を利用してスタコラサッサと逃げ出した。
「に……逃げられたああああ!?」
「いたぞドラゴンタイプだ! バイバニラ、れいとうビーム!」
「へっへ、カモがネギしょってら。サナギラス、ロックブラスト!」
「ヒャッハァー!! ファイアロー、ブレイブバード!!」
「うわあああーー!?」
◆
一度あそこで戦ったのは理由がある。
このバトルゾーンは死角が多いが故に、アサシンキルが多い。それは皆、息を潜めて隠れていると言うことで、他のバトルゾーンに比べて静かである。
つまり、騒ぎが起きてうるさくなったところでは、漁夫の利が狙えるということ。今頃あの同級生のもとには大勢の漁夫狙いトレーナーがこぞって集まっているだろう。悪いけど足止めの餌食となってもらう。南無三。
あの子に恨みはない。門限を守るために必要な犠牲だった。犠牲は犠牲となったのだ、犠牲の犠牲にな……
「とうちゃーく!」
「クウ」
なんとかバトルゾーンを突破した私は、我が家にたどり着いた。門限を守って凱旋である。もう恐れるものは何もない。もう何も怖くない。
「ただいまー! 今日のご飯なーに!」
門限を守り遂げた私は達成感の中、胸を張って家の扉を開いた。
「5分過ぎてるわよ」
「ッスゥー……」
「今日はアンタの嫌いなピーマンの肉詰めね」
この後めちゃくちゃ土下座した。
●主人公ちゃん
ミアレシティのブルー地区在住、エトワール校に通う12歳。
主にはがねタイプのポケモンを愛用する。相棒はクチート。
遊びたい盛りで門限ギリギリを責めてしまうお年頃。