殺人鬼は何を斬るのか   作:勇者あああああ

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かなり遅れましたね。それこれもテストのせいだ…。新しい小説の構想なんかもしてましたが、とりあえずはこの作品を完成させてからのことです。

では本編


激動の邂逅

木々に囲まれた寂れた土地は誰に使われることなく、危険種達の食物連鎖が日々行われている。その危険種も今日ばかりは顔を見せていなかった。今宵、危険種よりもよっぽど危険な人物達の交渉の舞台となるからだ。

 

その中でも比較的拓けた空間は人の集団二つが陣取っていた。帝国の内部を嗅ぎ回る脅威査定委員会、それにシャドー将軍率いる私兵部隊、それらが誰一人乱すことなく隊列を組んでいる。その枠組みから外れている者が数人いる。一人はシャドー将軍、とその隣に二人、そして脅威査定委員会のクラウ=リッチウェイ、ソラの二名だ。

 

それを遠巻きから二人の男女が監視していた。その片割れのレインは染色された黒い髪を冷たい風に踊らせながら単眼鏡を覗き込んでいる。綺麗に並んだ兵達の先頭には旧友の姿があった。レンズに写し出される旧友を見ると複雑な気持ちが湧いてくる。討たなければならないのは理解していても、戦場で非情になりきれるのかが不安だった。自分の中に眠るあいつなら問答無用で叩っ斬れるのだろうか、レインは心の中の靄が払えないでいた。また、頼ろうとしている自分が居る。あの凄惨を極めた己の姿、殺しを厭わない非道な精神、何より恐ろしいのはそれを放任している自分なのかもしれない。だが、殺し合いにおいてあれ以上の存在はないのもまた事実だ。

 

ーーん?

 

思い耽るレインの意識が再び視界に戻った。三つ目の勢力であるバードイーターの影を捉えたからだ。

 

「来た」

 

合図代わりに小さく呟き、共に監視していたチェルシーとギリギリまで接近した。単眼鏡が無くても姿を捉えることが出来る程に近距離な為、息を殺し続ける必要がある。二人は気配を断つことに集中しながら交渉現場の盗み聞きを続けた。

 

視界を確保することの出来ない男はやって来る一群に真っ先に気が付いていた。

 

ーー数は……約四十といったところか。

 

土を踏み締める足音から大方の人数を割り出すことが出来る男の技は常人の成せるものではない。失ったものを他の部分で補おうとする人間の機能と視覚を除く感覚を研ぎ澄まし続けることでやっとの思いで体得し、全感覚で視覚をカバーしているのだ。

 

男も歩み寄るように足を運び、並んでいる者も隊列から外れている者もその背中に視線を送るのみで付いて行こうとすらしない。バードイーターのメンバーは予想を遥かに越える人数と威圧感に面喰らっていた。

 

「では、交渉を始めようではないか」

 

その男が話の出来る距離まで来たときにはバードイーターは完全に尻込みし、ここに来るまでの軽い調子は消えていた。

 

「子供二十人に対しての対価は帝国での地位の確保、だったかな?」

 

手紙でのやり取りをそのまま口にしていき、バードイーター達の顔に生気が戻っていく。

 

ーーあれ?もしかして真面目に交渉してくれるのか!

 

帝国の腐敗具合を知らない田舎者の集まりであるバードイーター達はそう思い胸を撫で下ろしたが、次にその男が吐き出した言葉に困惑した。

 

「我々は実に運が良い。“六十人を越える実験体を確保出来るのだから”」

 

ーーガキなんて二十人しか連れて来てないぞ……。

 

またしても、シンクロするように皆がそう思った。ここで不思議だったのは自分達を計算に入れなかったことだ。実際には理解できない者が半数、残り半数は納得出来ない者だ。証拠に納得出来なくとも理解出来た者はその顔を青ざめさせていく。そして、何かの合図なのか、男はその手を軽く上げる。すると、バードイーター達は首に強い衝撃を受け、地に伏せていく。男の優秀な私兵部隊が周囲の森から跳び出し、気絶させていったのだ。理解出来ない者も納得出来ない者も皆平等に。

 

その一連の動きを見ていたレインは指揮官らしき合図を送った人物を単眼鏡で確認してみた。どこか見覚えがあったのだ。その不確定要素を確認しようと単眼鏡を覗きその顔を拝むことに成功したが、それはレインから冷静というものを急速に失わせた。殺し続けた息は途端に激しくなる。理性はなんとか保ったが、それもいつまで続くかレインにも分からない。レインをそれほどに動揺させる相手は一人しか居なかった。レインから過去と未来を奪い、殺人鬼(スレイヤー)という人格を植え付けた張本人。レインが人生を捧げてでも殺すと決めた人物が今、目の前に平然と立っている。

 

レインは抑えがきかなくなり、全身が小刻みに震える。チェルシーがレインの異変に気が付いた時には既に震えではなくなっていた。それは胎動だった。その身に宿す膿のような負の感情がレインの理性という鎖を破壊しようとのたうち回っているのだ。そして、限界を迎えたのか、レインは立ち上がってしまう。復讐に燃える瞳はレインの心の禍を忠実に再現していた。

 

「レイン!待って!」

 

レインが何を見たかは分からないが、今のレインは冷静ではない。チェルシーは小声ながらその声を確実にレインの耳に届けた。だが、その程度の制止の声は届くことはない。ずかずか、と怒りの化身と化したレインは森を這い出た。

 

バードイーターを捕らえることに成功したシャドー将軍だが、浮き足立つこともなく、センサーのような正確性の高い聴覚が物音を聞きつけた。森から細かな枝をへし折る音も聞こえてくる。周りへの配慮を怠っている所を考えるとプロではない。以外にも、その正体は簡単に姿を見せた。病かと疑ってしまう程に白い肌、コントラストをつけるように黒い髪。それらの特徴を目視することは叶わないシャドーだが、その殺気はシャドーが若かりし頃に出会った少年の名残を感じ、すぐに誰か分かった。同時に、この出会いは好都合だと笑った。

 

「久しいな……レイン」

 

その名を聞いた途端に皆がたじろぎ、得物を向けた。クラウもその存在を確認すると目を細めた。

 

「どうするの?」

 

「様子見だ」

 

委員会のトップである二人は妥当な判断を下し、部下もそれに異論はなく、冷静に状況の把握に努めた。レインの脳にはクラウの存在は片隅にも残っておらず、憎しみに埋め尽くされた思考回路はまともな判断が出来なくなっている。

 

「ずっとあんたを探し続けてきた」

 

レインの瞳は直視するだけでそのグロテスクな運命の一端を感じさせる。私兵部隊の何人かはその瞳に圧されて、戦意を損失させている者も居た。

 

それは目の見えないシャドーにも殺気として伝わったが、心地良いとばかりに受け流す。昔と変わらんな、とシャドーは心の底から喜んだ。

 

「ずっと殺したくて殺したくて堪らなかった。あんたを殺せば俺は解放される」

 

シャドーに対する言葉を恨み綴っていく。レインの惆悵するさまは実に滑稽だった。憎しみを宿す瞳から、盲信する信者のように疑うことを知らぬ瞳へと変貌していく。極端に狭まった視野では目の前を見ることは出来たとしても、未来を見据えることは出来ない。信じるということを誤って解釈した哀れな男だが、殺しても何も変わらないと理解していた。“レイン”では人を殺せない。ただ、相応の“理由付け”はもう完了していた

 

「レイン……お前では無理だ」

 

その言葉はレインの闘志に油を注ぎ、単純な挑発でレインはアクセルを全開にした。地を蹴る音を聞いて、レインが跳び掛かってくることを予知し、手を軽く上げて呟いた。

 

「……その刃では……」

 

シャドーの私兵達は戦闘態勢を解いていく。その不可思議な光景にレインは現実へと一気に引き戻され、上空から飛来する存在に気付いたがもう手遅れだった。前傾姿勢を取っていたレインの背中を踏み潰すように着地した男、その隣にゆったりと着地する男。シャドーはその後に言葉の続きを口にした。

 

「届かない」

 

強烈な衝撃にレインは体を循環する酸素を全て奪われたように感じ、言葉を聞き取る余裕など無かった。

 

「ボス、こいつはどうします?捻っちゃいましょうか?」

 

「貴方はまた、血の入った水風船が破裂したような現場を目撃したいのですか?汚いので止めてください」

 

「ギンは気にしすぎなんだよ。血の一リットルや二リットル」

 

「血の一リットルや二リットルが流れるような酷い現場を処理する方々の気持ちを考えたことがありますか?」

 

その異常な会話をさも日常のように話す二人組は、周囲の怪奇の目を終始気にすることは無かった。だが、目のない男の目は気にしていた。

 

「キン、ギン。その男が例の男だ。間違っても殺すな」

 

キンと呼ばれる筋肉質に恵まれた男らしさの塊の様な人物は片手で総重量が百キロは越えるレインを軽々持ち上げる。それも、

 

ーーパワー勝負で勝てない!?

 

抵抗するレインを封じ込めた上でだった。それを見て、溜息を漏らすのはギンと呼ばれた知的な紳士といった様相の男で、服に付いた埃を払っていた。直後、砂の粉塵が舞い上がり、服へと砂が付着していく。静かな怒りがギンの肌身を纏っていき、キンを睨み付ける。そこには地面に埋まるレインと押さえつけるキン、分かりやすい敗者と勝者の図が完成していた。

 

「彼、死んでいませんよね?死んでいるなら貴方が責任を取って『ハラキリ』なるものを試してみてはいかがですか?」

 

「なんだハラキリって?」

 

「文献によれば異国の地では失態や不始末は腹を切って責任を取ってたようです」

 

「へぇーよくわかんねぇけど、それって痛くね?」

「安心しなさい、苦しかったら『カイシャク』は私がしましょう」

 

「おお!そいつは頼もしい!」

 

血生臭く、酷く非常識な会話はレインの朦朧とする意識の最後に耳にしたものだった。聴覚をはじめとする様々な感覚器官はシャットダウンしていき、意識も消えていく。志半ばではあったが、その瞳は最後まで殺意にまみれていた。

 

その瞳をじっと見つめる別の瞳が一つ。それはシャドーの私兵部隊の一人だったが、もう一つの身分を持っている。

 

ーーまた勝手な行動してるし。今度は問い詰めてやるんだから。

 

革命軍に所属するチェルシーと呼ばれる暗殺者、それが本当の素性だった。自慢の変化により、潜入に成功していたのだ。隊員が一人増えたことには気が付く事もないまま帰還していく帝国の大部隊。チェルシーにとっては少々横暴な潜入となった。

 

△▽△▽

 

「意外とあっさり捕まったわね」

 

「仕方ない話だ。レインにとっちゃ刺し違えてでも殺したい相手だ。冷静じゃなかっただけさ」

 

「あなたも彼と同じ実験を受けたんでしょう?何とも思わないの?」

 

「なんとも。寧ろ、目の前で宙吊りにされてるこいつに用がある」

 

「じゃあ残念ね。それともあなたが止めを刺す?」

 

「こんなとこで死ぬようならそれまでって話だな。どうやらお目覚めみたいだな。」

 

意識を取り戻したレインは鈍器で殴られたような頭痛と血の臭いのお陰で最悪の目覚めとなった。更には頭には被せ物がされていて、視界が悪い。それから他にも浮遊感、手を縛り上げられている感覚、これ以上にない位の状況の悪さだが、経験が無いわけではない。幼少の頃の血生臭い日常が頭に蘇る。勢いよく被せ物を外され、一斉に光を取り込んだ目は反射的に瞼を閉じた。そして、旧友の姿が視界に映る。これもまた反射的に目付きが悪くなる。

 

「体調悪そうだな」

 

「おかげさまでな」

 

鋭い視線が交わる。互いに憎しみ合っている訳ではない。敵対する組織に属している、それだけでここまで剣呑とした雰囲気を醸し出すことが出来るのか、第三者であるソラは唯ならぬ因縁があるのだろうと思った。

 

その空気を何の躊躇もなしに断ち切った人物はその場を無意識に悪化させていった。

 

「クッ……!」

 

レインは歯を軋ませ、腹の空いた肉食獣のように今にも飛び掛かろうと全身の筋肉を強張らせる。レインの怨敵であるシャドーは声音を上擦らせる。

 

「レイン……懐かしいシチュエーションだろう?」

 

血の色で赤みの強くなった天井に仰々しく両手を翳す。どうにか冷静さを引き戻したレインは状況どころか、この空間さえレインにとって馴染みのある場所だった。思い出したくない記憶が頭の中を駆け巡り、取り戻したばかりの冷静は過去の記憶によって一切合切流されていった。自身の叫び声、仲間の叫び声、それを嬉々として見る軍人達。全ての罵詈雑言が頭に雪崩れ込む。耳を閉じようにも手首は縛られ、吊るされている身。その体を捩らせ、自分の唸り声で掻き消していくしかなかった。壊れていくレインを見つめながらシャドーは義理の息子に指示を出す。

 

「どうやらネズミが入り込んだ。処理は任せる」

 

「……了解。親父殿」

 

皮肉混じりに答えたつもりだったのだが、レインの事で頭が一杯なのだろう、特に気にする気配はない。例え、まともに取り合っていたとしても皮肉とは受け取らないのがシャドーという男だ。やれやれ、そんな風に思う気持ちを腹の中へと押し返して、相棒であるリベンジを軽く撫でる。血の充満した不愉快きわまりない拷問室を出ると、たった壁一つでここまで空気が違うものか、そう痛感させられるほどに空気が滑らかに喉を通っていく。先刻の拷問室が異常なだけなのだが、それすら慣れたクラウにとってはどちらが異常なのか判別がつかない。ただ、一仕事する前に新鮮な空気を吸えたことに感謝し、新しい心持ちで調査へと出向いた。




長い期間書いておらず、ただでさえ低い文章力が落ちた気が……。それに良い機会だと一話から見直すと、これまた黒歴史になりそうな予感がしますが、処女作ならこんなところでしょうか。

ではまた次の話で!
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