レインが帝国の闇を知ったのは10歳の時だった。当時ストリートチルドレン等の身寄りのない子供を誘拐し、とある実験を施していた。
帝具との相性は帝具への第一印象で左右する。ならば第一印象を持てないほどに判断力を鈍らせればどうなる、その危険な思想を抱いた研究者たちは子供をまるでモルモットのように集めた。
まずは子供達に殺し合いをさせた。例え、帝具を扱えたとしても、使用者が弱ければ意味を成さない。更に技術面だけではなく、人の命を奪うということに抵抗のない人材にも目を光らせ、優秀な人殺しの人材を集めた。生き残った11人の中にレインは入っていたが、同年代の子供の殺害や死体はレインの脳に凄惨な記憶として刻まれた。
次に待っていたのは薬と拷問、明くる日も明くる日も死なない程度の拷問、そして配給される食物には薬が混ぜられている。食べたものを吐き出したり、食べること自体を拒否したり、と抵抗しても軍人数人がかりで無理矢理食べさせられ、吐いたとしても1度胃に入れば、薬が欲しくなる。やがて皆が薬にすがるように薬物入りの食物を口にし続けた。
壊れ始めた子供達は拷問にうんとすんとも言わなくなった。一見使い物にならないようにも見えるが、それこそ研究者達の目指した姿であり、ついに帝具を使用する実験を行った。だが結果は11人全員が帝具を使用できなかった。帝具に対して無感情に接しても、帝具からは何の恩恵も授かれないことが判明したのだ。
次に何が起きるかは、帝国の闇を見てきた子供達には容易に想像できた。
処分。処分。処分。
帝国は子供をモルモットとしてしか見ていない。ならば、実験が終わったモルモットは処分するには限る。それを恐れたレインは1人で逃亡を図った。迫り来る帝国軍を殺して。
そして、翌日9人の子供が見せしめ処刑されることになった。
△▽△▽
革命軍 本部
忘れたくとも忘れ難い惨憺たる記憶が夢として現れ、逃げるように目を覚ます。勿論清々しい目覚めではない、全身にはじっとりとした脂汗が滲んでいる。そして、また何か足りないという感覚がやってくる。右肘から先が何も無く、幾重もの包帯に包まれている。
ーー助かったのか…。
よく見渡すと拷問室という雰囲気ではない。
「よう、大丈夫か?」
褐色の肌にドレッドヘアーがトレードマークの陽気な男が手を上げてやってくる。
「ケインか」
久しく邪気のない声を掛けられ、心を落ち着かせた。友の声を聞けるということは、ここは革命軍の本部らしい。
「全く
これ以上は無茶をするな、と釘を刺すような言い方に顔を背ける。
「だから言っただろう、焦りすぎだと」
ケインの言葉は真面目に心配してくれているのは分かるが、レインには焦らなければいけない理由もある。
「俺も言った筈だ、俺の命はもう…残り僅かだと」
生きていることを実感するように左手を握り締める。
「薬の影響…だな?」
ああ、と空返事を返す。腕の確かな医者に見せたところ、帝国軍の実験で服用し続けた薬には廃人にする以外にも、生殖機能の剥奪、寿命の低下の効果があり、長生きして30歳だと診断された。
「残り1年と少し…」
レインの表情は戦士というよりは、病に蝕まれた少女のような儚いものへと変化していく、それに10年の付き合いのケインは気がつかない訳がない。それに耐え兼ね、言葉を挟む。
「診断が全てじゃないだろ!他にも医者を…」
部屋を出ようとするケインの肩に左手を置き、首を横に振る。ケインは俯くと取り乱した自分を窘める。
「どの医者が見ても同じだ、薬の欲求から解放されただけマシだ、たまにフラッシュバックはあるけどな」
レインは珍しく顔に柔らかい表情が浮かんでいる。ケインは自分が慰められてることに気づくと、無償に情けなさを感じていた。だが、ケインの表情が一転する。
「朗報もあるぞ!その腕もなんだが、機械の専門家に来てもらうことになったんだ!」
レインはそんなにはしゃぐことか、と感じていたが、ケインの言い方からは他にも何かあるらしい。
「何か知らんが楽しみにしておこう」
「ああ!明日には来るはずだから、それまで無茶するなよ」
再度釘を刺されることにさすがにうんざりした。それが顔に出たのか。前科があるんだぞ、と付け足し部屋を出ていく。
ーーだが、良い友を持った…。
心底思った。薬からの脱却も手伝ってくれた、何より壊れた心を修復したのはケインと言っても過言ではない。
ーー今日位は言うことを聞いてやるか。
どこまでも上から目線なのは直りそうにないな、と諦観する。毛布の暖かみに包まれながら二度寝へ洒落込んだ。
△▽△▽
レインは朝食をとりながら、先日の右腕が切断された後の経緯をケインに聞いていた。
「レインが無茶な作戦を強引に決行しちまったから、俺で5人程集めて、密かに護衛をやらせていたんだ」
意識が遠くなる中で聞いた破裂音は銃声だったらしい。それよりも5人に
「おっと、来たみたいだぜ」
ケインの窓を親指で差すと、外には馬車が見える。朝食を口に流し込むと、席を立った。入り口に迎えに上がると、爽やかな眼鏡を掛けた青年にしか見えない人物が真ん中に立ち、屈強なガードマンに囲まれている。
「彼が?」
隣にいるケインに訊くと、ああ、と言葉を返す。続いて歓迎の声を掛けると、医務室へと足を運んだ。
「うわっ!すごい綺麗に切れてるね!」
レインは右腕に巻かれた包帯を外し、刺激の強い切断面を空気に晒していた。晒すと言ってもレイン本人もケインも目を逸らしている。ただ1人クラント博士という眼鏡を掛けた好青年は目を輝かせ、切断面を調べている。
「でも結構治ってきてるのかな?若干筋肉組織が…」
興奮しているのか、言葉を止めることなく紡ぎ続け、あまつさえ説明しようとする。レインは言葉を遮るように1つ咳をする。その咳の意味を正しく理解したクラントは謝罪を入れる。
「すいません、つい楽しくなっちゃって」
頭に手を当て、照れ笑いをする姿も映えてしまうのは好青年な外見の特権だろう。中身は猟奇的なのかも知れないが。
「あんたが機械の専門家?」
人間の体に興味を示した為、レインは疑いの声を上げる。
「実は私、一応医者でもありまして」
妙に謙った話し方は性分なのか、常に相手を敬う姿勢で応対されてはむず痒く感じる。とは言え、悪い気がするわけではないので取り留めなかった。
「義手についてはバランスをとるために腕のサイズ、握力、腕力等を計って選びますので採寸を」
クラントは満面の笑顔でメジャーや測定機具を取り出す。レインはモヤモヤとした不安を感じたが、上着を脱いだ。
「クラント、医者でもあるって言ったよな?」
壁に凭れていたケインは何か閃いたように問い掛ける。
「一応…」
クラントは不思議そうな顔で答える。その答えを聞くとケインはレインに親指を立てる。レインはケインの考えを理解すると、頭を抑え、溜息を漏らす。
△▽△▽
「ほう、悪くない」
レインは幾日ぶりに右手の確かな感覚を得られ、薄い感嘆を漏らした。外観を捨てて、性能に特化した義手は右肘から鉄の色が広がっている。動きも自分の右腕と遜色はない。
「科学の勝利ですね!」
後ろでは好青年は他の義手を仕舞いながらそう言った。ケインもクラントの肩を叩くと労いの声を掛ける。
「だがそれ、目立ち過ぎやしないか?」
見た目は鉄が手の形をしてあるだけであり、ケインの指摘はもっともだった。
「安心してください、もっと目立つようになりますから」
1人クスクスと笑うクラントに、レインとケインはただただ疑問符を浮かべた。
「あともう1つケインさんの言っていた、レインさんの生殖機能や寿命についてですが、完全に専門外で…分からないと言うのが本音ですね」
クラントの医療技術は素人よりは覚えはあるが、専門的な知識までは得ていないそうだ。
「ですが、薬を長い期間摂取し続ければ体に支障が出ても仕方ないですよ、それに加え重度の
クラントは必死の慰めの言葉を掛けるが、レインには気休めにしかならない。
「ありがとう、博士」
それだけ言い残すと自分の部屋へと帰っていく。レインのいなくなった医務室は空気が重かった。初めて会ったばかりのクラントでさえ、酷い現状に同情の念が沸くほどに
△▽△▽
耳が痛い。眠りから覚めたレインは大きな声が耳に届く。それが友人ケインの声だと段々分かり、寝惚けながら、どうした、と聞いてみる。
「とりあえず来てみろって!」
ケインは急かすように手でジェスチャーを送ってくる。使い始めて1日しか経たない義手にも既に慣れ、自分の体のように操っている。その義手に全体重を掛け、ベッドから立ち上がる。
「あ、おはようございます!右手の感覚どうです?痛覚とか?」
クラントは顔を会わせるや否や義手について矢継ぎ早に質問する。
「ああ、しっかりとあるよ」
義手にはセンサーが取り付けられ、脳と連動することで触った感覚や痛覚を鮮明に感じることが出来る。
「それは良かった、それからやっと届きましたよ」
クラントが手を翳す方へと目を向けると、普段は表情の薄いレインが目を見開いた。
「こいつは驚いた」
鉄で造られた四肢に胴体、それらが織り成す形はまさしく人だった。
「
「いや、これ自体は動きません。着るのです」
確かに頭部のパーツは見当たらない。レインとケインは最新技術とクラントの発言に眉を顰める。
「どういうことだ?」
「
クラント曰く、それを纏った者は超人的な身体能力、膂力を獲得し、耐熱防弾と防御面においても抜かりはない代物、だそうだ。
「
ケインは素直に最先端技術に驚くが、レインは不安な要素が1つあった。
「何のリスクもないのか?」
鉄の胴体を触りながら訊いた。
「メリットもデメリットもありますね。デメリットを上げるなら使用時間です」
レインは腕のパーツや脚のパーツを入念にチェックしながら耳をクラントの声に傾ける。
「1日以上の使用は体に負荷をかけてしまうのと、見て分かると思いますが頭部のパーツが無いので、頭は完全な生身になります」
「確かに完璧な防御を誇るって言われちゃ油断しちまいそうだな」
ケインは定位置の壁に凭れ掛かり、意見を述べるが、レインは呆れた物言いでケインに反論する。
「俺が油断するとでも?」
ケインは肩を竦め、首を振り、降参の意図を伝える。
「あと、メリットを言うなら帝具に並ぶ性能を発揮じすが、精神力や体力の消耗がないことですかね」
クラントは眼鏡の位置を直し、大きなメリットを告げた。それにレインが、ほう、と食い付く。
「詳しい性能についてはまた話しますよ」
クラントは1度話を切り上げ、調整があると言って部屋に籠った。
「なぁ、例のスーツの性能テストといかないか?」
ケインはクリップで纏められた紙でレインの肩を叩く。仕事か、とレインは返す。
「療養の後にやってくれとの話だ」
人使いの荒い、そう言うレインだが顔には悪人さながらの笑みを見せている。その理由を本人が口にする。
「だが、丁度良い。試し斬りさせて貰おう…」
1人また1人、彼は人を斬っていく。殺人鬼としての自分を否定しながら、人を殺していく。殺人鬼に終着駅はない、際限のない殺しを繰り返す。
次はアカメが斬る!の1話位になると思います。多分ナイトレイドも出せると思います。