殺人鬼は何を斬るのか   作:勇者あああああ

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やっぱり亀更新になっちゃいました。


新装備とトラウマ

「スッゲーッ!これが帝都か!」

 

そう誰かが叫んだ。聞いた者は皆一概に同じことを思う。帝都に魅せられ、ロマンを抱いた田舎者だ、と。それに目を付けた者や無視した者、哀れむ者まで様々いるが、その声を聞いたレインはその叫び声よりも目立っている。燦々と照りつける日射しにも関わらず、肌を一切見せないロングコートに黒革の手袋、深々としたブーツはどう考えても変な格好と言わざるを得ない。極めつけは胸元から黒色のメタリックなカラーがこちらを覗く。ブーツの中からはカツカツ、と人体では発生しないだろう音を鳴らしながら踵を浮かしては地面に下ろす。

 

ーー……落ち着かない…。

 

色の抜けたような白髪はすっかり黒色に染色され、サングラスを掛けている姿は全くの別人である。前は手配書に似ていると言う理由で視線を集めていたが、今は季節感のない変人として視線を集めていた。前者の理由ならば、視線を送ると言っても一瞬で逸らすが、相手が害のない変人と知れば視線を向け続けられることもある。

 

慣れない自分に、慣れない環境。はぁ、と今日何度目か分からない溜息を吐いた。待ち人が来てくれるまでは人の視線が集まる大通りを離れることは出来ない。

 

何か別のことを考えようと、先刻の叫び声を上げた少年を人盛りの中から探す。少年は帝都の全てが、新鮮で、魅力的で、好奇心をそそられるものなのだろう、目を忙しなく動かし続けている。視界から外れていくと、追うのを止め、自分の置かれた環境を再確認させられた。

 

肩を軽く叩かれる。さすがに変人と言うだけの理由で喧嘩は売られないだろう。後ろを振り向くと、手入れが行き渡ったドレッドヘアーという、こちらも視線を集めるだろう人物だ。

 

「遅いぞ、ケイン」

 

これでも急いだんだ、そう言って悪びれない友人を咎めるのも筋違いに感じ、場所を変えることをケインに促すと了承を得て、人目の少ない場所へと移動を始めた。

 

△▽△▽

 

路地裏にまで街の賑やかさは伝わってくる。しかし、人目は皆無に等しい。

 

「これが仕事内容だ」

 

とある富裕層の人物の情報が羅列した紙に目を通していく、文字を読むに連れてレインの周囲の温度が低下していく。

 

「裏付けは取れてるんだな?」

 

その目には怒りが充填され、どこか威圧的に感じる。その威圧にも負けることなく、ケインは自然体で返した。

 

「それをさっき取ってきたんだ、やっぱり気に食わないか?」

 

紙に書かれている情報を見れば、レインでなくとも、まともな神経の持ち主なら本能的に嫌悪感を覚えてしまうだろう。

 

「表では気の良い商人として通ってるが、裏では子供を拉致、もしくは買い取っては死ぬまで暴行し、死体を愛する」

 

死体を愛するという妙な表現にレインは更に目を細めていく。

 

死体性愛(ネクロフィリア)か…他人の癖に文句を付ける気は無いが、さすがに共感は出来ないな」

 

「確かに性癖なんて人それぞれだが、社会的に認められないだろうな。それに犠牲になってるのが子供って所だろ?レインが気に食わないのは」

 

ああ、と小さな怒気が含まれた声音で答える。ケインはその重い雰囲気を壊すように、手を頭の後ろに組みながら軽口を口にする。

 

「俺の仕事は終わったし、久々の帝都だ、ビールを片手にキレイな女の子に声でも掛けさせてもらうよ」

 

懲りない奴だ、内心はそう思ったが、適当に応援の声を掛ける。

 

「俺はこいつを休ませないといけないからな」

 

人工の右腕が人工のパワードスーツをコート越しに撫でる。適当な宿を取る必要が出てきて、脳には周辺に宿があったか記憶の引き出しを開け続けていく。

 

適当に宿を取ることに成功し、ベッドに体を預ける。

 

ーー予習でもしてみるか。

 

クラントがパワードスーツについて説明していたことを思い出す。

 

△▽△▽

 

6時間前

 

「調整とやらは終ったのか?」

 

クラントを見掛けたレインは尋ねる。眼窩には僅かな隈を作っている。ええ、と笑って答えを返すが、疲れているのか弱い笑い声になっている。

 

「俺もあとちょっとで仕事になる、出来ればあのスーツについての説明が欲しいんだが」

 

自分の装備する品の性能も分からないんでは話にならない。

 

「朝食摂りながらにしません?」

 

それなら、と了承の旨を伝え、食堂へと向かう。

 

「それでスーツについてだけど……とりあえず…運動能力と防御面の向上については……話しましたよね?」

 

「とりあえず食べ終えてから喋ってくれ」

 

食べながら喋るという器用な行為を窘め、レイン自身も目の前に広がる料理を平らげていく。

 

「さて、じゃあ話していくよ」

 

お互いに腹の虫を黙らせ、話が出来る環境を作る。

 

「前に言っていた帝具ではないが帝具に近いってのはどういうことだ?」

 

レインはまず気になったところを摘んでおこうと説明が始まる前に口にする。

 

「あのスーツには奥の手になるものは無いんです」

 

レインはそれだけのことか、そう思ったが、付け足す形でクラントは言葉を紡ぐ。

 

「帝具には運動能力や技術だけではどうにもならない物もあります。それは分かりますよね?」

 

帝具には超級危険種等が素材として使われ、その超級危険種の力を引き継いだ帝具も存在する。

 

「ああ……分かってる」

 

渋々と吐き出すように答える。

 

「だから、くれぐれも帝具持ちとの戦闘は避けてもらいたいんです」

ーー全く…。

 

レインは周りの人間が心配性しか居ないことに疲れ始めていた。

 

「スーツについては人間工学に基づいて製作し、人間の柔軟な動きに対応出来るようになっています。イメージとしては柔軟で硬い皮膚と言ったところでしょう」

 

そこで区切り、コーヒーカップを口許へ傾ける。レインは不意に仕組みについて気になった。まどろっこしいことが苦手なレインは直接訊いてみる。

 

「仕組みですか?専門的な事になりますので分かりやすく説明すると、人間の脳から命令として流す電気的刺激を受けることでスーツが連動する仕組みです、これでいいですかね?」

 

説明の不備を気にするクラントに大丈夫と伝えると、クラントは安堵の表情を浮かべていた。

 

「ありがとう、博士」

感情の籠らない声は礼を告げ、過ぎ去っていく。

 

△▽△▽

 

宿にて

 

小さいとも広いとも言えないサイズの部屋では風を切る小気味の良い音が鳴っていた。レインが刀の素振りに蹴りや突きを放っていた音だ。

 

クラントの柔軟で硬い皮膚、という喩えはあながち間違ってもいなかった。スーツを着る前と動きに変わりはなく、スーツから軋むような音もなく隠密行動にも問題は生じない。

 

地を照らしていた太陽も仕事を終え、傾いていき徐々に夜の帳が降りていく。それを確認し、手袋とブーツを外す。

 

指先から伸びる鉄の爪は肉食獣を連想させる鋭いデザインとなっており、人の皮膚程度ならば裂いてしまうだろう。背中には通常の刀よりも短く、短刀よりも長い、定義の曖昧な刀を背負っている。その凶悪な外観を隠すようにコートを羽織る。勿論、手足までは隠せないが、夜の闇に溶けられるように胴体同様黒色で仕上げられている。

 

そして獣は夜の帝都で狩りを行う。

 

△▽△▽

 

ターゲットの商人の家は豪邸と言うに相応しいサイズを誇っていて、入り口の門には2人の雇われ兵が立っているが、主人を守ろうと必死な様子はない。まさに雇われ兵で、金だけの主従関係は警備も雑になっている。片や目を擦り、睡魔に襲われている。片や酒が入っているのか、壁を頼りに立っている。

 

これならば多少派手に襲っても問題はない、そう判断し、コートの首もとから出ている刀の柄を握り、人外の脚力で空高く飛び上がる。警備の2人はそれが人だと思うこともなく、鳥か何かだと思っていた。

 

そして、その鳥が2人の間に着地する。そこで異変を感じたが、既に遅い。睡魔に襲われていた警備の男はレインの刀により永遠の眠りへと就いた。その光景に酔いから完全に覚めた警備兵は、声を出す間もなく首根っこを掴み上げられる。反撃とばかりに足をばたつかせ、腹部へ何度も蹴りを入れるが、ダメージを受けてるとは思えない。レインは顔めがけて刀を真横に振ると、下顎と上顎が別れる。その様子を一瞥すると、高い塀を1度のジャンプで登り、庭にあたる場所には警備が1人も居ないことを目視すると、敵地への侵入を成功させる。

 

広い豪邸には地下室が設けられており、そこに子供達を収容すると同時に拷問室も併設されている。屋敷内に居た警備の兵士達を静かに殺していくと、地下に続くと思われる階段を発見した。中からは鞭が皮膚を叩く音と下卑た叫び声が聞こえる。

 

△▽△▽

 

「ヒヒヒ!この時が至福よ!!」

 

そんな叫び声は血飛沫の音と共に拷問室から聞こえてくる。地下室に足を付けた瞬間、怒りを爆発させようとしたが、子供を人質に取られては敵わない。

 

部屋の入り口の影に身を潜める。拷問室からは咽せ返すような血の匂いが充満しているが、商人はそれを気にすることもなく、己の趣味に没頭し、こちらには背中を向けている。最早怒りを抑える必要はない、背後までゆっくりと近付き、腰の入った蹴りを脇腹に叩き込む。数倍へと跳ね上がった力から繰り出される蹴りは骨をいとも簡単に砕く。拷問器具をばらまきながら飛んでいき、壁に激突する。拷問を受けていた少年は鎖で無理矢理立たされている。鎖を刀で断ち切り、受け止めると、身体中にみみず腫が走っていて、顔は殴られた形跡がある。息をするのがやっとのようで、喋ることは出来なさそうに見える。

 

商人の方へと振り向くと、逃げようと体を這わせている。その商人の肩を軽く蹴り、仰向けにさせる。肩を踏み、怒りをその瞳に宿し、問い掛ける。

 

「子供を殺したのは…お前か?」

 

顔は情報と一致している。後は本人に聞くのみだ。この状況でNOと言わせるつもりもないが、

 

「だ、だったら何なんだよぉぉぉ!ああぁぁぁ!」

 

肋骨が折れていることを忘れて叫んだことにより、痛みが走ったのか、悲痛の叫び声を上げる。それでもなお罵声を上げる。

 

「あ、あいつら全員す、ストリートキッズなんだよ!行く宛もなく路頭に迷って、社会にも貢献できないゴミなんだよ!俺に拾ってもらっただけありがたく思ってほしいぜ!ハャハハハッ!アァァァ!」

 

狂気的な叫びと痛みによる叫びが混ざる。だが、肝心なのはこの商人がクズであることを確信したこと。これで殺す大義名分が得られた。相手がクズならば殺すのに躊躇しなくて済む。ある種、危険な思想を持っているレインは笑うでもなく、怒るでもない、ただただ、無。己の中にある全てを空にした。そうして別の問い掛けを始めた。

 

「子供達はどこから買った?」

 

無の問い掛け。目の前に居るのは人なのか、そんな疑問を商人は浮かべていた。コートの隙間からは確かに機械のようなものが見えるが、それは装備だろう。そんな話ではない。目の前の男はあまりに無機質だった。これならば鬼の形相で問い詰められた方がまだマシだった。

 

等間隔でひたすら問い続けられ、答えなければ体に刀傷が追加されていく。

 

数分後、目の前には切り刻まれた男が横たわっている。レインは自身でやったことも覚えている。だが、罪悪感はさほど感じていない。それよりも根絶すべき悪が草の根程存在する盗賊だったことに頭を悩ませていた。これでは見つかってないのと同じだ。

 

他に情報を得ようとしたが、先程解放した少年や収容された子供達は全員等しく死体となっていた。

 

△▽△▽

 

レインは止まない頭痛に右手を頭に当て、左手は壁を頼りにしている。そんな状態で敵地とも言える帝都を歩くのは危険だが、子供の死屍累々はレインのトラウマを容赦なく呼び起こし、歩調を下げる一方だった。

 

息遣いも荒くなり、頭痛も一層酷くなっていく。その頭痛の痛みを加速させるように悲鳴が頭の中に響き渡る。小さい女の子位の声だ、それが更にレインを煽った。

 

ーー次は…次は…!

 

先程までよろよろと歩くのが精一杯だったレインはパワードスーツの性能を最大限に発揮し、超人的な速度で動いた。

△▽△▽

 

「俺が斬る!」

 

帝都の表面上に魅せられていた少年は今、帝都の闇を見せつけられ、躊躇することもせず友人の仇を討った。

 

そばに居た金髪の野性的な美女も感嘆の声を上げていた。更に隣には手配書にも名を連ねている黒髪赤眼の女性、アカメ。

 

幼い女の子を斬った少年、タツミの眼は後悔にも腐敗にも汚染されてはいない。斬り伏せた少女に救われ、友人の探索も申し出てくれ、一時は心の底から感謝していた。だが、友人はその少女の趣味である拷問に掛けられ、今まさに目の前で死んだ。タツミは腐りきった帝都の現状に嘆く中、何かが着地する。

 

アカメと金髪の女性、レオーネ達はその何かに警戒レベルを上げる。それに対し、手足で見事な四点着地を成功させた男は頭をゆっくりと上げる。所々に血で彩られたコートを着用し、肌が見える筈の部位からは暗闇と同じ黒色の鉄で覆われている。それが見えるとアカメとレオーネは更に警戒レベルを上げ、各々の帝具の準備を整える。

 

△▽△▽

 

レインは高いジャンプで声の元へと辿り着く。既に事切れていた。声の主は腰を境に分断されていた。金髪の癖っ毛が目立つ少女だ。

 

見渡すと昼に叫んでいた少年、そして2人の女性、その内1人は悪名高いアカメ。

 

つまりはナイトレイドに、“革命軍に殺されなければならない理由”があったと言うことだ。どちらが正しいかを求めるのはナンセンスだ。レインの戦意も失せ、この場を去ろうとした時、

 

「くっ…!」

 

頭には電気のように瞬間的な痛みが襲う。次は足にも力が入らず、幻聴や幻覚がレインの正気を揺らがせる。薬物のフラッシュバックには長年苦しまされ、最近では頻度が落ちてきていたのだが、タイミング悪く再発症する。

 

「どうして?どうして殺したの?」

 

目の前の真っ二つと化した金髪の少女はそう問い掛けてくる。違う、そう反論するがあまりに弱々しい声だった。異変を感じ取ったレオーネは近付こうとするが、身を凍らせるように止まった。喉を抑え、息はヒューヒュー、と酸素を求めるように必死だが、その目はどこか虚ろで常態でないことを物語っている。

 

「どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?………殺したの?」

 

幻に体を乗っ取られ、周囲の状況など知る由もないレインは唯、違う、と否定し続けた。認めてしまえば心身共にスレイヤー(殺人鬼)へと変貌してしまうからだ。いずれ気は遠くなっていく、幻の終焉だ。それだけを願い、拒む。声にならない声で。

 

 




やっぱりロボットとかサイボーグとかは良いですね。ちなみにレインはナイトレイドには入りません。
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