殺人鬼は何を斬るのか   作:勇者あああああ

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再会

目の前には軍服に身を包み、特殊な機巧を持つ刀を腰に差している男は、確かな殺気を漂わせたクラウだ

 

「知り合い?」

 

「ちょっとした縁があってな、チェルシーこいつを任せる」

 

担いでいた男をチェルシーへと預ける。

 

「あいつのご指名はどうせ俺だ。そいつを連れて、先に行け」

 

チェルシーは一つ頷くと、下水道を進んでいく。見送ると刀を構え、鋭い視線がぶつかり合う。

 

「やる気満々だな」

 

「右腕の借りは返す……!」

 

互いの刀が交錯する。火花を散らし、尖った音が下水道内を響かせ、更に高い音へと昇華していく。相互ともに弾くと、一歩二歩と間合いを作る。

 

「それ、帝具じゃないだろ?」

 

クラウはレインの装備を品定めでもするかのように眺めるが、帝具ではないと絶対の自信を持っていた。

 

「帝具は大きく精神力を削る。だが、お前は既に“別”に精神力を使ってる。そのお陰で帝具は使えないんだろ?」

 

レイン自身しか知らない弱味を淡々と述べていく。それも不気味なのだが、それより数段増した膂力に互角と言うのが腑に落ちない。

 

「お前こそ、何か妙なものを使ってるな?」

 

クラウはよくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに豪快に笑う。

 

「まぁ、ちょっとしたマジックをな」

 

そう言って、手を柄に掛ける。すぐさま脳内に警鐘を鳴らす。注意はしていたが、その注意深さを凌駕する事態が発生する。

 

「くっ!」

 

刀の柄頭がレインの腹部へと一直線に飛んできた。しかも速度は弾丸と然程変わらない。生身にダメージは無いといえ、衝撃が半端なものではない。倒れそうになるところで片膝を突くが、クラウは休ませる気はない。距離を詰めると顔面への容赦ない蹴りを繰り出す。寸でのところで顔を反らし、流れるように後方へ回転することで、距離を取る。

 

「驚いたか?」

 

クラウの鞘からは薄く煙が立ち上っている。見た目通り、拳銃のように刀を射出しているようだ。

 

「こいつには耐火性能の高い素材が使われてる」

 

クラウは刀を拾うと、付着した水滴を振り払う。

 

「そして、こいつには危険種の爆発を引き起こす器官が使われてる」

 

愛でるように鞘に触れると、刀身をしまっていく。右腕を斬られた時も弾丸と同じ速度の居合いが飛んできた訳だ。だが、常人の腕力で制御出来るものではない。やはり、何か良からぬものを使用してるに違いない。

 

レインは腰を低くし、一気に仕掛ける。ただ、策も無く突っ込めば、右腕の二の舞になる。刀を抜かせた後に接近する必要がある。レインは懐からナイフをクラウに目掛けて、素早く投擲する。

 

クラウは引き金を引くこと無く、刀でナイフを弾き返す。既にお互いの間合いに入り込んでいる、ならば必然的に起こるのは常識はずれの斬り合い。火花を散らし、何十、何百という鉄のぶつかり合いにレインの刀は赤く熱されていく。

 

斬り合いの最中、一瞬の鍔迫り合いが起きる。そこでレインは膝に強い衝撃が走り、膝を折るように怯む。クラウが隙を作る為に蹴りを入れたのだ。

 

クラウはその瞬きすら許さない状況の中、絶対的な勝機を掴んでいた。納刀する、それこそがクラウの放つ不可避の一撃へと繋がる。

 

ーーまずいッ!

 

そう思った時には引き金が引かれている。咄嗟に胴体を守るように刀を構えた。

 

引き金が引かれたことにより、文字通り、爆発的な推進力で刀が押し出される。その限界を越えた速度に切れ味も増していき、刃はレインを捉える。

 

そして、避けられぬ必殺がレインに訪れる。

 

構えていた刀は叩き折られ、レインを守る最後の砦であるパワードスーツごと、レインの胴体を斬っていく。

 

「ッ……!」

 

吹き飛ばされ、鮮血が辺り一帯に噴出する。血が流れ、水に溶け出していく。

 

「致命傷は逃れたか……」

 

クラウの呟き通り、致命傷は避けているが、それでも大怪我に違いはない。クラウは止めを刺そうと、歩み寄る。たが、突如として下水道内が大きく揺れる。それは倒れ伏すレインにも伝わった。

 

「なん……だ?」

 

「チッ、連中ここを埋める気か?」

 

クラウは馬鹿げた作戦に辟易とする。そして、隠密に動いているのが裏目に出たことにも、溜息を吐き出した。

 

「悪いが俺は埋められたくないんでね」

 

クラウは刀を納め、退いていく。待て、と手を伸ばすが、クラウに言葉も腕も届くことはない。薄れていく意識の中、死ぬわけにはいかない、という生存本能により、体に生気が戻る。そして、チェルシーを追うように動いた。

 

△▽△▽

 

クラウは地下から地上に戻ると、一人の女性が出迎える。上質な絹糸のような金髪を持つ女性、ソラだ。

 

「どうだった?彼は死んだ?」

 

自身の副官に当たる人物の筈だが、委員会の殆どを彼女に任せているので立場の強弱はほぼ無いと言える。

 

「ソラか?珍しいな迎えに来るなんて」

 

大型の狙撃銃を所持し、吊り上がった目は軟弱な男に比べれば、強い恐怖を覚える。クラウはそれらを気にすること無く、不敵に笑いながら問いに答えた。

 

「奴はそう簡単に死なんだろうな」

 

それを聞くとソラは地図を広げる。それも“レジスタンスがレインに渡した物と同じ物を”

 

全ての情報は脅威査定委員に筒抜けだったのでレインを追うことも出来たが、帝国が人間一人の命の為に街一つを崩壊させるとまで予想していなかった。

 

ソラは地図から最適な逃走ルートを割り出し、地図をしまう。

 

「追いかけるなら止めとけ」

 

「手負いでしょ?討つなら今を置いて他にないわ」

 

ソラは至極真っ当な意見を言ったつもりだが、クラウもふざけて言っている訳ではない。

 

「俺達はとりあえず撤退だ、ここには非公式で来てる。見つかっても問題にはならないだろうが、面倒になるのに違いはない」

 

「分かったわ」

 

仕方ない、と言いたげに頷いた。

 

△▽△▽

 

チェルシーは大人を一人抱えたままの所為もあって、逃走ルートを思うように進めていなかった。それに先程から揺れて、更に進まない。

 

自分の心配もあるが、レインはどうなったのか、それも頭の半分を埋めている。あの男と一瞬対峙しただけで実力の差を感じた。

 

揺れが一層激しくなり、レインの事を心配してる余裕が無くなり出した。歩行速度を上げようとするが揺れの激しさに耐えられなくなった天井が崩れ、自身に降り掛かる。

 

「嘘……」

 

言葉を吐いたときには、眼前に壁の塊がやって来る。だが、それは鉄の腕により止まる。人が造った筋肉が自分よりも一回りも二回りも大きな塊を持ち上げる。それを出来る人間は、

 

「はぁ……無事か?」

 

「レイン!」

 

レインは持ち上げた壁を投げ飛ばすと、体に付いた埃を手で払っていく。だが、チェルシーが喜びを感じられたのは、ほんの一瞬だった。

 

「その傷……」

 

普段から来ているコートは真っ赤に染め上げられ、鉄のスーツからは中身が見えていた。

 

「痛手を受けてな。安心しろまだ動ける。それよりここを埋めるつもりらしい」

 

チェルシーから預けた男を回収すると、チェルシーは驚きながら走った。

 

「埋めるって……街ごと?」

 

「それだけの犠牲を支払ってでも俺を殺したいらしい」

 

走る内に揺れは無くなり、脅威は去った。ここから先は街の外に繋がってるお陰で追跡は及ばなかった。入るときにも使いたかったが、不審者扱いを受けるのは目に見えてる。

 

「上手く逃げれたかな?」

 

チェルシーは不安げに崩れた瓦礫の山を見つめる。

 

「俺達の死体でも探すんだろう、速く離れた方がいい……ッ!」

 

傷の痛みを軽口で誤魔化すが、傷が焼かれてるように熱い。そんな強がりに、チェルシーは気付かぬまま進んだ。

 

△▽△▽

 

レイン達が逃げ果せた頃、黒幕達は会合にて顔を合わせていた。

 

「また派手にやらかしたそうじゃないか?大臣よ」

 

壮年の男性が二人、他にも同席する者が数名いるが、二人に圧倒されて口は開かない。

 

「あなたが手を打たないからでしょう?影の将軍さん」

 

将軍と呼ばれた男は老いから生まれた白髪に、両目は不自然に閉じられている。

 

「あの男はもう少し泳がせておく。それにいずれは私を殺しに来る、その時は私が相手する。それで問題はないだろう?」

 

「いずれでは遅いのですよ、いずれでは」

 

大臣の不穏な因子を速めに片付けたい思いとは裏腹に、その因子を生んだ張本人は呑気に構えている。彼に実力が無ければ、即刻抹殺を命じているところだ。

 

「それにあなたが養子に迎えた……確かクラウでしたか?勝手に部隊を編成して…… 」

 

「部隊については私から言っておいた、兵も私が貸し出した。それにクラウもあの男には多少因縁がある、クラウが始末してくれるかも知れんぞ?」

 

将軍は腕を組み、高らかに笑う。それは父か祖父のように見えるが、殺しの技術で親族を誇る人間はまともな家系ではないだろう。

 

「それについてはもういいです。それより、あなたは地下に籠って何をやってるんです? 」

 

その言葉を聞くなり、掌を顔の前まで持っていき、

 

「過去の栄光を取り戻す!……それだけだ」

 

力を込める。そして強く握られた拳を払うと、老体とは思えない程に力強い歩みで部屋を出ていく。

 

「過去の栄光ですか、確かに“両目を失わなければ”今頃はブドー大将軍と同格か……それ以上だったかもしれませんね。ですが、まさかそんなものに未練があったとは……」

 

大臣は顎髭を整えながら背中を見送り、何か目的が別にあると予想した。彼すら不穏な影が見え隠れし、

 

「全く敵も味方もあったもんじゃないですね……」

 

大臣は今日も悩む。

 

△▽△▽

 

「これで大丈夫ですかね」

 

クラントは帰還したレインの傷の現状を把握して、最良の手を尽くした。麻酔があるだけ幸いだが、麻酔も医療用だからこそ合法であり、一歩間違えれば麻薬指定を受ける。それがレインの嫌悪感を煽った。痛みに耐え続ける事も考えたが、それこそ拷問になり、昔を思い出して暴れ出すという最悪の結末になりかねない。

 

「無茶すると傷が開きますから二日は安静ですよ。スーツについても修復に時間掛かりますから」

 

報告を終えると自分の作業へと戻っていく。縫合された傷に手を当て、仕事の一部を思い出していた。助けに入るなんてことをしなければ、余計な傷を負うこともなかったかも知れない。

 

それにクラウがなぜ逃走ルートを知っていたのか、やはり情報が漏れているとしか考えられない。委員会は殺しだけではなく、泳がせてレジスタンスと接触を図る者を炙り出している。頭の良いやり方だ。

 

麻酔が切れると激しい痛みに襲われたが、なんとか落ち着きを取り戻した。

 

「はぁ……」

 

息をゆっくりと吐き出すと、ドレッドヘアーがトレードマークの友人がカップを二つ持ち、どこか楽しそうに部屋に入ってくる。

 

「仕事はどうだった?」

 

一つカップを渡され、いつも通りの事務的な会話から始まる。

 

「問題は……多少あったが傷一つで解決した」

 

腹部を見せると、驚きの声を上げている。

 

「珍しいな?」

 

「クラウだ」

 

ケインも納得したように頷く。すると、ケインは楽しそうな表情を戻す。

「で、チェルシーちゃんとはどうなった?」

 

ケインは一体何を期待してるのか、ある程度は分かる。彼女の事は気に入ってるのは事実だが、それが恋愛的な意味を含んでいるのだろうか、レインには解けない謎だ。

 

「多分、お前の期待してる展開はないと思うぞ?」

 

ケインはコーヒーを一口啜り、

「そうか?……あ、そう言えば、チェルシーちゃんぶつぶつ言ってたな」

 

レインには心当たりがあった。

 

「それは後が怖そうだ」

 

意味が分からないケインは頭を捻った。コーヒーカップを机に置くと立ち上がる。

 

「どうした?」

 

「文句を聞いてくる」

 

△▽△▽

 

気分を変えようと外に出ると、燦々と降り注ぐ太陽光を手で遮り、ベンチに腰を掛ける。

 

ーー……恋愛か。

 

恋愛の経験どころか、人に対して好意を向けることすら珍しいレインにとっては思春期男子のような思いに更けていた。

 

「やっと見つけた」

 

声の主は鬱憤の溜まってるだろうチェルシーだ。それは既に声音に表れていた。

 

「こんなところで何やってるの?反省?」

 

遠回しに反省しろと言ってるようだ。うんざりする心境を悟られないように言葉を返す。

 

「俺がミスして、俺が怪我をした。そのくせ君が一番拘るのはなぜだ?」

 

「それは私も巻き込まれたし、次は両方死ぬかも知れないじゃない?」

 

一人での仕事が多い所為で、迷惑を掛けるという意識が薄いレインは自分に非があるのを認めた。それでもまだ質問が続く。

 

「何であんなことを?とても冷静な判断だとは思えない」

 

プロの暗殺者であるチェルシーは仕事に私情を持ち込むことはNGだと考えている。それは長い間生き残ってきたレインにも理解出来てるものだと思っていたが、

 

「俺は……もう嫌なんだよ。弱者が権力や暴力で歪められる世界を見てるのは」

 

革命軍らしい大義を語り、虚空を見つめるその瞳には最大限の嘲りが込められ、飽々としている。それを見て、チェルシーはどこかホッとしていた。

 

「呆れた人……でも、あなたはやっぱり快楽の為に人を殺すような人じゃない」

 

チェルシーは呆れたことも事実だが、それ以上に彼への信頼を確信できた。彼には無闇に人を殺すような狂気的な面は見えない。

 

「人を殺した事には変わりない」

 

口ではそう言ったが、悪意ある罵詈雑言を浴びて生きてきたレインにとっては励まされる言葉である。

 

「でも、次から勝手な行動はやめてね。……もう仲間を失うのはごめんだから」

 

初めて会ったときは頼むから死なないでくれ、そんな懇願のようなものすら感じたが、今はそんな感じは一切ない。レインの実力を知り、簡単に死ぬ男ではないと理解したのだ。努めるまでもなく、自然と笑顔を浮かべている。

 

「善処させてもらう」

 

二人の会話を遠くから見ていたケインは、

 

「あれって、いい感じ……なんだよな?」

 

一人自問自答していた。会話の内容を聞いたわけではないが、互いに優しい笑みを浮かべている。クラントに意見を仰ごうとも思ったが、彼もどちらかと言えばレイン寄りの人間だ。

 

「何で俺の周りには朴念仁しかいないんだ……」

 

男として異性を求める自分が間違ってるのか、そんな思いに駆られていた。




次回は日常回やりつつザンクの話に入れるかと…。オリジナルが長引いたのでかなり遅れました。遅れを取り戻せるよう執筆速度を上げます。
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