殺人鬼は何を斬るのか   作:勇者あああああ

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今回はちょっと短めです。


首斬りザンク

久しく優しい世界を覗いたレインは現実へと目を向ける。武器を失い、防具は損壊、傷まで負って帰ってきた。まずは装備品の調達から始めた。

 

「ケイン、革命軍の備品に銃ってあるか?」

 

レインが普段は使わない武器の名前を出したことに首を捻るが、武器庫を漁れば出てくることには出てくる筈だ。レインに了承の旨を伝える。

 

「刀は爺さんの所で仕入れてくる」

 

「はいはーい!買い物なら私も行くよ」

 

チェルシーは既に準備万端のお陰で非常に暇だった。そうとは言え、刀を新調するをどう聞けば買い物になるのか、チェルシーの発想に頭を悩ませる。

 

「でも、装備なしで大丈夫なの?」

 

「仕事で助けた事のある村だから問題ない」

 

納得するチェルシーを尻目に必要な資金等の準備を終え、

 

「……行くぞ」

 

ローブを羽織るレインの後をチェルシーが追い掛ける。

 

「ありゃエスコートとは言わないな。まだまだだなレイン」

 

書類を両手に持ったケインは親友を見送ったが、ぶっきら棒な所はいつになれば直るのだろうか。友の背を見つめ、溜息を吐き出した。

 

△▽△▽

 

緑が広がるその村は農作で自給自足を行っている。とは言え、天候によって左右される農作では安定は難しい。この村も飢饉に襲われるのは時間の問題だ、レインは最初見たときからそう思っていたが、それに反して村人は活気を保ち続けている。

 

「良い村だね」

 

チェルシーは村の現状をその瞳に写し、健やかな笑みを浮かべる。

 

「だが、この村も帝国の重税に苦しんでいる。他の村と同じだ」

 

帝国の影がこの村を覆い、取り込んでしまうのはそう遠くない。罪の無い人々を“守れる”人が守らないと、チェルシーは再度決意を改めた。

 

小さい村ながら様々な住人に出会い、煙突から黒煙が漏れ出す大きな鍛造場を見つける。村でも一際大きな施設だ。

 

「爺さん!爺さん!」

 

場内では鉄を叩く音が一定のリズムを刻んでいる。それに負けじとレインは珍しく声を張り上げ、鍛造場の主に呼び掛ける。

 

「お?おお!坊主か」

 

「三十手前を坊主って呼ぶな」

 

好々爺といった男は鍛造用のハンマーを片手に汗を拭う。

 

「この前来たばかりだろう?」

 

布に包まれている折れた刀を見せる。それだけで事態を理解する。刀を受け取り、切断面などを一頻り観察し終え、

 

「随分スパッとやられてるな、相手は帝具か?」

 

まぁな、と返すと、

 

「無茶する奴じゃのう」

 

呆れたように言い、鍛冶屋の主人は暫し考え込む。無言のまま、店の奥へと戻っていく。そして、一本の刀を手渡された。刀を抜くと刀身全てが白く彩られた、異色の刀。

 

「これは?」

 

「危険種の牙や爪やらを素材に使った刀だ。耐久性や切れ味なら前の刀より優れてる筈だ」

 

レインは片手で刀を素振りする。しっくりと来たのか一つ頷く。

 

「綺麗な刀ね」

 

磨きあげられた白い刃は振る度に輝きを見せる。デザインが見事なのは事実だが鑑賞用ではない。レインが確かめているのは刀のスペックだった。

 

「重過ぎず軽過ぎない、重さも丁度良い」

 

白刃を鞘に戻していく。懐から袋を一つ取り出し、

 

「爺さん、これで足りるか?」

 

袋からは金貨が姿を見せている。レインは仕事をするが、無趣味な男故に金の使い道がない。その為、金が貯まるのだ。

 

「十分だ、あとこれはサービス」

 

ナイフが二本差し出される。受け取り、

 

「ありがとう」

 

懐にしまう。鉄の協奏曲が響く鍛造場を出ると、

 

「次はどこに行くの?」

 

チェルシーは次の目的を問う。

 

「何を言ってる?もう用は無いぞ?」

 

それを聞くとありえない、とでも言いたげに声を上げる。

 

「折角の休日なのに商売道具を買うだけって」

 

「変か?俺はいつもそんな感じだけどな」

 

チェルシーは深い溜息を零す。

 

「ちょっと付いてきて!」

 

「待て、俺は――」

 

「いいから!」

 

チェルシーの迫力に気圧され、半ば強引に手を引かれた。

 

高齢者が半数を占める村では男女が手を繋ぐ光景は珍しく、その姿は目立つことこの上ない。

 

「どこに行くんだ?」

 

諦めたレインはチェルシーへ目的地を問うが、答えは返ってこない。恐らく機嫌を損ねたようだ。金が残ってる事を確認すると少しホッとする。見えてきたのは青い暖簾が掛かった木造の建物。

 

「茶屋か」

 

「そう、しかもここグルメ雑誌にも載ってるの!知らない?」

 

レインには理解できない話だが、どうにも機嫌は良くなったようだ。

 

「知らないな。で、着いたわけだがまだ手は繋ぐのか?」

 

義手ならば鉄の冷たさで気付くだろうが、生身の左手を取ったために気付かなかったのだろう。手を弾くように離すと頬を紅潮させる。

 

「い、いいから行くの!」

 

「はいはい」

 

そっぽ向くと茶屋へと入っていく。それに続く形でレインも入っていく。

 

「ん~!おいしい!」

 

チェルシーは今までの事をすべて忘れて、団子を食べていた。女性は甘いものが好きと言うが、チェルシーはそれの典型らしい。

 

「雑誌に載るだけはあるな」

 

甘さ控えめの売り文句で販売されてる団子とお茶は抜群の相性を見せた。団子に舌鼓を打っていると背後から声が掛かる。

 

「あの~、レインさんですよね?」

 

服装から見るに、茶屋で働く若い娘だろう。黒髪を布で纏めたその女性は質問の答えを待っている。

 

「そうだが」

 

「ちょ、レイン?」

 

手配書の人物か真偽を問われ、あっさりと認めてしまった。 レインの常人ならざる感覚にチェルシーは口を挟むが、

 

「やっぱり!じゃあ村を救って下さった英雄様ですよね!」

 

最初の奥手な質問からは感じられない天真爛漫さが見受けられた。こちらが本性なのだろう。チェルシーは頭に疑問符を浮かべ、レインはレインでばつが悪そうにしている。

 

「英雄か……殺人鬼よりは響きが良いな」

 

実際は英雄を名乗れるほどの事はしていないが、少なくとも村の人々はそう思ってるらしい。

 

レインの自嘲の言葉に少女は顔を暗くし、

 

「あの手配書って帝国が嘘書いてるんですよね?レインさんは殺人鬼なんかじゃないですね?」

 

少女の無垢な瞳がレインを射抜いた。真っ当な人間と話すたびにレインは自身の異常性を目の当たりにしてきた。それがこれほどに直球で聞かれ、苦笑してしまう。その瞳が自分を見抜いてしまうのでは、と恐怖したからだ。

 

「そうだな……君が信じたい方を信じれば良い」

 

あまりに曖昧な答えに少女は数瞬、困惑する様子を見せるが、すぐに元来持っている明るさを取り戻す。

 

「そうですよね、レインさんは何の理由も無く人を殺すような人じゃないですよね!あ、団子サービスしますね!」

 

ーー理由も無く……か。

 

ーー理由があれば人を殺せる俺は……。

 

レインの葛藤を知る由もなく、少女はスキップしながら裏の厨房へと戻っていく。

 

「よかったの?」

 

チェルシーが心配そうに覗き込んでくる。

 

「俺を歓迎する場所なんてこの村ぐらいなものだ。ここでの俺は殺人鬼じゃないんだろうな」

 

サービスの団子を食し、代金は当たり前のようにレイン持ちだったのは言うまでもない。

 

△▽△▽

 

その夜、帝都は獣の狩場と化していた。それは何かに取り憑かれたように、人の首を執拗に切断していった。あまつさえ、斬り落とした首に話し掛ける。その常軌を逸した行為もそれの中では当たり前だった。なんせ、それは既に人として壊れてしまったからだ。

 

「んー、愉快愉快」

 

切断した首から流れ出す悪臭を肺一杯に吸い込み、一人の男はワインの香りを楽しむように呟いた。背丈があり、鍛えられた体は軍人崩れと推測できる。元は刑場の処刑人を勤めていたのだが、国が腐っていくに連れ、処刑する人数も膨らんでいった。そして、いつか声が聞こえるようになった。この時、男はその声に気付かされた。

 

ーー自分は罪の無い人間を処刑してきたのか……。

 

男に罪悪感という波が押し寄せた。それは津波と言っても言い程に大きく、耐え難いものだった。薬物を使用した時期もあったが声が止む気配はない。男はとうとう自我の崩壊を招いた。抗うことを止め、獣になった。人間だった頃によく斬った首を斬る獣に。

 

△▽△▽

 

「首斬りザンク、それが連続通り魔の犯人だとよ」

 

ケインは資料に目を通し、鬱陶しげにそれだけ口にした。それもその筈、ザンクは帝具を所持してるとの情報も入ってるからだ。

 

「帝具使いか」

 

レインは普段以上に食い付いた。クラウも帝具使いなのだ、嫌でも帝具使いとは戦うことになる。ならばここで腕試しでも、そんな考えはケインに容易く見破られ、

 

「もしかして、行くつもりか?」

 

「ああ、これから先に備えてな」

 

新調した刀を手に取り、椅子から腰を上げる。

 

「もう止めねぇよ。あとナイトレイドもザンクを仕留めようとしてる。競争になるぞ」

 

ナイトレイドの名を聞き、思い出したのはレオーネと呼ばれる女性、それ以外の戦力は手配書に載ってる人物しか知らない。

 

「会ったなら会ったで話すこともあるだろう。チェルシーは?」

 

「彼女なら仕事だよ。随分張り切ってたけどな」

 

思い当たる節はないが、

 

「死ななければそれでいいさ」

 

ケインは目を点にすると大きく笑い始めた。レインは意味も分からず、頭を捻る。

 

「変わったな、レイン」

 

「そうか?」

 

自身では大した変化は感じないが、周囲は変化を感じ取っているようだ。

 

「とりあえず出てくる」

 

ブーツの底で床を鳴らしながら、革命軍本部を出た。

 

△▽△▽

 

帝都の検問は人の往来が激しい為、思いの外警備は緩かったりする。その代わりに帝都の警備体制は厳しい。更に首斬りザンクの件が警備体制の厳しさに拍車を掛けている。帝都ではまともに顔を出すことさえ出来ない。

 

比較的盛んな帝都の夜も今日ばかりはその喧騒を消している。首斬りが街を徘徊しているのだ、誰も首を失いたくはない。その首斬り職人も今夜は極上の首を求めて選定していた。距離で言えば、人間の視力では到底見えない場所でも男には関係ない。

 

額に光る翡翠色の宝玉は五つの能力が備わっている。その一つに遠視と呼ばれる能力により、どれだけ離れていても姿を捉えることが出来る。

 

「ナイトレイドに……殺人鬼。帝都は随分と危険な所になったな」

 

楽しそうに顔を歪め、一人一人品定めしていく。そして、二人に絞った。

 

「正義感の強そうな少年、それから俺の同類。ん~悩むね。……よし決めた!まずは同類の首から刈り取ることにしよう」

 

翡翠色の帝具は月明かりを反射させ、街を駆け出した。首を求める獣となって。




次回はナイトレイドと絡ませられる……はず。全員は無理だと思いますが、タツミ、アカメ、レオーネ位はいけると思います。あと、日常とか甘い感じは書くの難しいですね。また勉強しておきます。

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