大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
ダンジョン学園には訓練場という施設が存在する。探索者を育成するにあたって、戦闘技術の習得は避けては通れない。対モンスターだけではなく、対人の技術も仕込まれる。
ダンジョンの敵はモンスターだけではない。
「やっ! はっ!」
「うむ。いいぞ! 実に筋がいい!!」
その訓練場の一角で女の子とケンタウロスが共に汗を流す光景を、檀司郎は何とも言えぬ顔で眺めていた。先日学園に連れて来たネエクと生活指導教諭のヴァルトである。
両腕を失っているヴァルトは、自身の魔力で義手を動かしてネエクの攻撃を受け止めている。
「檀司郎君がダンジョンで子供を拾ったと聞いて何事かと思えば……まさかまさか、探索者の原石とはな」
「えへへ。もっともっと頑張ります!」
「いい心がけだ! これほど動けるのであればダンジョンに入っても問題ないだろう! 魔法式が刻まれた装具も我輩が特別にプレゼントしよう!」
「ありがとうございます!」
「いやちょっと、それはさすがに……」
無邪気に喜ぶネエクとは反対に、ヴァルトの言葉に待ったをかける檀司郎。入り口の出現に巻き込まれたのならともかく、探索目的でダンジョンに入る事を勧めるのはいかがなものか。しかも高価な装具を贈る事にも躊躇いがないあたり、本気でネエクをダンジョンに入れるつもりだ。
ダンジョン探索前提でネエクへ訓練を施すヴァルトの正気を疑い始める檀司郎。しかしネエクから離れて近くに来たヴァルトの言葉に言葉を失う事になる。
「見た目や言動こそ幼いが、おそらく年齢は檀司郎君の一つ下くらいだろう。ほぼ同年代だ」
ネエクの見た目からして十二か十三程度の年齢だろうとふんでいた檀司郎は押し黙る。まだ幼い子供だろうと言う文句が封殺されたのだ。
その後、辛うじて嘘だろうという声だけが絞り出された。
「もっと詳しく言えば、檀司郎君の一つ下くらいの状態で
ネエクに聞こえぬよう、囁く声量でとんでもない話をヴァルトから聞かされた檀司郎。今度こそ檀司郎の思考は白く染まる。
人造人間? 誰が? 何のために? 次から次へと浮かぶ疑問は言葉にする前に消えていく。
「ダンジョン外の記憶が無いというのも当然の話だ。元々存在しないのだから。……彼女の事実を踏まえた上で、君に警告しよう」
「……警告。それほどまでに、危険な状態ですか?」
「うむ。彼女を作った存在はおそらく魔王側の者だ。人類かモンスターかは分からないが、なぜか君を狙い撃ちにしてきた。これ以上ダンジョンに潜ればどうなるか分からん。……魔王に狙われているのであれば、遠からず死ぬぞ」
ヴァルトの言葉は決して冗談ではないのだろう。図書室で出会ったレドラも言っていた。
魔王レズヴェルは、檀司郎が考えている以上に危険な生物であると。
「普通の者がダンジョンの力を借りて生命を作ったのならば、それはダンジョンの外に出る事はできない。ダンジョンの力は地上では失活するゆえ、一度外に出てしまえば存在自体が消滅する。ダンジョンに汚染され、その力によって生きるように上書きされた
つまりは、ダンジョン外で活動できる生命を創造できるほどの何かが檀司郎に興味を示しているということだ。そしてそんな力を持つとなれば、魔王かその勢力に属する者である可能性が非常に高い。
そしてダンジョンの力によって創造された生命体はもちろんとして、
呪詛が体内を浸食し、その有様はモンスターと大して変わらない。ゆえにやつらは人類ではありえない。
「ネエクが魔王に協力しているという可能性は?」
「ゼロとは言わんが、それならばある程度の情報を彼女の中に残すだろう。魔法で調べたが記憶がない事は嘘ではない。精々が疑似餌のようなものだろう」
「……学園にネエクを置いていけば、標的が学園になりますか?」
「さて、な。ネエクを作った者の素性が分からない以上、憶測もままならん」
じわじわと首を絞めつけられるような不快感。檀司郎は考える。ネエクとの出会いは本当に仕組まれたものだったのかと。
──仮に仕組まれたとして、俺に注目するのはなぜだ。ただの探索者に固執する理由。それも魔王の仲間が。
幼い頃、レズヴェルとダンジョンで一ヶ月もの間一緒にいた。そして世間には知られていない魔王の名前を知っている。心当たりはあるものの、それだけで本当に命を狙う価値が生まれるのか。
「……イレギュラー」
「うん? どうした檀司郎君」
「あぁいや、何でもないです」
首を傾げながらネエクの元へ戻るヴァルトを眺めながら、アラクネの巣にいた
──あの
狙われる理由としては妥当なところだろう。アルベルトを名乗る
最後には桃華を姫君と呼び、また会おうと言い残していた。その傍にいる檀司郎を殺すべく、今回のネエクを作ったのだとしたら。
──学園に置いておくのは逆に危険か? ネエクがダンジョン内で戦える実力があるとヴァルト先生が言っているのなら、彼女と一緒にダンジョンを探索する事が前提となっている筈だ。
普通であればそんな怪しい者と一緒に探索などしない。けれど学園内に待機させて、ネエクでは仕事をこなせないと判断されれば、今度こそ何を仕掛けられるか分かったものではない。
ならばネエクと共にダンジョンに潜り、彼女やその周辺を警戒していた方が幾分かマシのように思える。
常に不確定要素に怯えるか、ネエクを警戒するか。この状況に落とし込まれた以上、リスクを負わないという選択肢は既にない。
「せいっ! せいっ!」
「よし! いいぞネエク!! その調子だ!!」
再び汗を流し始めた二人を見て、檀司郎は決意する。逃げも隠れもするものか。必ず最下層に到達するのだと。
檀司郎はダンジョンに挑み続けなければならない。その果てに栄光を掴み、名家の一族である桃華と一緒に生きていく為に。それこそが檀司郎が求める未来なのだから。