大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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13.異次元の殺人刀

 真正蒐集・■■■■(グリム・グリム)。それは魔法式が刻まれた装具と異次元の品を交換する物質交換魔法。この異次元というのは百相院財閥が牛耳る異次元開拓の場所とは別の次元だと言うが、真相は定かではない。

 

 この魔法式を剣に刻めば異次元の剣を。弓に刻めば異次元の弓を。交換する異次元の品によって魔法の名も変わると言う珍しい特性を有する。

 余談だが魔法式を人体に刻めば異次元の住人をも呼び込む事が可能であるが、この手法は禁術とされている。

 

 破落戸(ローグ)により使用された真正蒐集・零閃摂華(グリム・グリム)は、彼の手に一振りの刀を与えた。

 メタリックな鞘と、近代的な滑り止めが施された柄。装飾は一切ない。無機質な金属に覆われているのみである。

 

「分かる。分かるぞ。これはワシじゃ。ワシの人生の縮図そのものじゃ」

 

 ただ敵を斬る。シンプルに突き詰めた執念に共鳴する破落戸(ローグ)は、この刀の特性を手に取った瞬間に理解したのだ。

 これはこの世界ではない場所で、人類を殺すべく顕現した魂の力だ。それはどれほどの殺意なのだろう。それはどれほどの狂気なのだろう。

 刀を通して感じるままに、破落戸(ローグ)は刃を鞘から解き放つ。

 

「本当に刀かよ、それ」

 

 檀司郎はその刃を見て瞠目する。そこにあるのはただ殺すという淡々とした機能のみ。そこに美しさなど微塵もなく、また必要もない。

 刃の形も螺旋状に捻じくれている。その様は刀と言う呼称が本当に正しいのか首を傾げたくなるほどに。

 

「思うた通りよ。この刀の持ち主は、よほど人を殺したいようじゃな」

 

 破落戸(ローグ)は嬉々として斬殺丸を振るう。先程のような斬撃が檀司郎を襲うが、その威力は比較にならない。鉄槌の一部が削られ、檀司郎の肉体を鎧の金属ごと抉り取る。

 

「グゥ!?」

 

 速さも鋭さも桁違い。刀が変わるだけでこうも容易く傷をつけられるのか。

 檀司郎は思考を回す。膠着状態を維持する事は不可能に近い。長引けば肉を削られて消耗する。ならば短期で決着をつける必要がある。

 

 檀司郎は決断する。防御は飢餓満たし(アンダバエ)による跳ね返しで対処する。反射効率は悪いが、肉が削られれば破落戸(ローグ)の痛覚を刺激する事くらいはできる。

 

「【其は奪い貪る暴食の(あぎと)──飢餓満たし(アンダバエ)】」

 

 グレートヘルムの魔法式へ魔力を流し、檀司郎は自らの切り札を発動させた。アラクネの巣の時のような致死量の呪詛を受けたのであれば反射効率が悪くとも問題なく殺せただろうが、今回はあくまでも斬撃によるダメージでしかない。

 たとえ肉を抉られようと、命に関わるようなものではない限り手傷は負わせられないだろう。

 

「……ふむ」

 

 再び檀司郎の肉が削られる。それに伴う出血と苦痛に顔を歪めながら、グレートヘルムから覗く目の光はギラついたままだ。

 そして破落戸(ローグ)の一瞬奔った痛みによって、斬撃の軌道が僅かにブレた。その僅かな隙さえできれば問題ない。

 

「オオオオォォォッ!!」

 

 その隙を咎めるように檀司郎は破落戸(ローグ)に向かって爆走する。全身鎧とは思えない速度で肉薄し、鉄槌を叩きつける。

 多少削られようと鉄槌に宿る呪詛に衰えはない。呪詛を受け付けない檀司郎以外が触れるだけで命を失いかねないほどの危険物が、破落戸(ローグ)の身体へ吸い込まれるように突き進む。

 

「くはッ」

 

 心地良い笑みを吐き出しながら、斬殺丸で襲い来る鉄槌を弾く破落戸(ローグ)。たとえ弾かれようとこれ以上自由に刀を振るう事を許すつもりがない檀司郎。

 刀と鉄槌のインファイトで再び拮抗状態に押し込んだといえば、そうではない。

 

「ぐ、ぅ──ッ!!」

「呵呵呵。そうじゃのう。そうじゃのう。やはり戦場(いくさば)とはこうでなくてはなぁ!」

 

 たとえ刀を鉄槌で受け止めようと、それで斬撃の嵐が止むわけではない。粘つくほどに絡みつく刃の風に晒されながら鎧がすり減り、舞い飛ぶ金属片に血が混ざる。

 檀司郎の背後からネエクが魔力弾をばら撒いて援護を行うが、破落戸(ローグ)の刀捌きでそれらも全て斬り落とされる。

 

 飢餓満たし(アンダバエ)の発動は止めていない。檀司郎が流血するたび、破落戸(ローグ)にも激痛が奔っている筈だが、刀を振るう破落戸(ローグ)の腕に乱れはない。

 もう二度と、痛みによる斬撃の揺らぎは起こらない。

 

「多少驚いたが、それだけよ。そういうものだと思えば腕が鈍るはずもあるまい」

 

 むしろ、何も知らずにたかだた痛み程度で刀の切っ先が鈍った事こそが恥であると破落戸(ローグ)は告げる。

 檀司郎の魔法は自身がダメージを受けると、一部跳ね返ってくる状態を付与するものだ。そういった情報がない状況で、不意の激痛で殺しの手を緩めてしまった。それこそが己の一生の不覚であるのだと。

 

「それはつまり、ワシにもまだ伸び代があるという事。感謝するぞ探索者よ。ワシはまだまだ強くなれる。三千世界の一切合切を斬り伏せる可能性が残されていると、そう教えてくれた事に」

 

 ゆえに死ね。感謝と賛美を手向けとして殺されろ。破落戸(ローグ)は檀司郎の鎧を、その肉体ごとガリガリと削っていく。しかし鉄槌だけは傷つけない。

 

「臭う。その槌から吐き気がするほどの悪しき気配が感じられる。いったい何を封じておるやら」

「……ッチ」

 

 老兵の勘か。最初に防御に徹した際に少し欠けた程度の傷しかない鉄槌を、自身の血で濡れた両手で握り直す。

 欠けた鉄槌の欠片に破落戸(ローグ)が触れさえすれば、その呪詛で優位に立てただろう。死ぬ事はなくとも刀を振るう事を封じる程度に弱体化はできる筈だ。

 

 しかしその目論見は破落戸(ローグ)に看破されてしまった。知られてしまった以上は他の勝ち筋を探すしかない。ないが、檀司郎自身の手札はおそろしく少ない。アルベルトとの再戦に備えて別の手段を模索している最中なのだ。それだけ魔法式が刻まれた装具というのは高価であり、易々と手に入れる事など叶わない。

 

 魔石で限界まで強化を施した全身鎧による防御を前面に押し出し、二つの鉄槌で敵をぶん殴る。モンスター相手ならばそれで事足りるが、上澄みの探索者すら喰い散らかす破落戸(ローグ)と対峙するには不安が残る構成といえる。

 

 そもアラクネの巣のアルベルトや、目の前の破落戸(ローグ)のような者とかち会う機会の方が珍しいのだ。大多数の破落戸(ローグ)は探索者に何もできずに殺される程度の実力しかないのだから。

 

「実に楽しめたぞ探索者。良き戦であったわ」

 

 斬殺丸の刀身が血を求めてカタカタと嗤う。血を流し、膝から崩れ落ちた檀司郎の首に捻じくれた刃が落ちてくる。

 しかし、その檀司郎の前に小さな影が躍り出て斬殺丸を遮った。

 

「お兄さんは殺させないッ!!」

「なッ!? よせ、ネエク!」

「うむ! その意気やよし!」

 

 檀司郎が止めるがもう間に合わない。魔力弾の射撃を止めて前に出てきたネエクに、破落戸(ローグ)のは躊躇わず斬殺丸を振るった。

 ネエクの身体が斬り裂かれ──ずにキィン、と甲高い音と共に斬殺丸が止まった。これは斬るべき人類に(あら)ず。そう斬殺丸が告げるが如く。

 

 この異常事態に対し、二人の反応は正反対であった。そしてその反応が後の運命を決定付ける事となる。

 

「──は?」

 

 破落戸(ローグ)は頭に疑問を浮かべたが、檀司郎は迷わなかった。崩れ落ちた膝を根性で奮い立たせ、硬直した破落戸(ローグ)へ呪詛に満ちた鉄槌を叩き込む。

 

「ごはぁッ!!?」

 

 斬殺丸が零れ落ち、身体をくの字に曲げながら魔石を食べる仲間の方へ吹き飛んだ。

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