大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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16.旧き王(前編)

 機体の上で剣を構え続ける異形にとって、物理攻撃は避けるに値しないものである。なぜならそれではダメージを負わないからだ。

 異形にとって最も警戒すべきは旧い人類には無い力。己の魂を顕現させる新しい人類に他ならない。

 

 しかしこの世界には異形が警戒すべき新しい人類はいない。世界の法則すら異なるこの場所には敵になり得る存在などいない。──本当に、そうだろうか。

 

『■■■■■──ッ!』

「避けるか。勘の鋭いやつめ」

 

 檀司郎が振り抜いた鉄槌を異形は剣の構えを解いて大きく退く。その瞬間、構えていた剣が根本からバキリと折れて霧散する。

 

 人型部分が動かなかったのは、剣が衝撃に耐えられないと判断したからだろう。あらゆるエネルギーの吸収という法外な能力の代償とした、度を越えた脆さ。一度抜けば一歩でも動く事すら許さぬそれは、常人には扱えぬ難物であろう。

 

 しかし油断はしない。檀司郎の視界の端で、霧散した剣が機体に突き刺さるのが見えた。一度無効化しても再使用できるのだろう。

 

「だが、避けたという事は効くんだろう?」

『m■、sr■aな……』

 

 渦巻く呪詛は異形の防護を貫通するには充分の毒性を秘めていた。人類に分類されるゆえに、そして魂の力によって打倒されるという元の世界の特性が残っているゆえに。魂を浸食する力そのものである呪詛はこの世界における異形の天敵と言っていい。

 

 振り回される二つの鉄槌が問答無用で人型の異形に襲い掛かる。機体に刺さった剣を抜かせてなるものか。その一心で檀司郎は目の前の異形に鉄槌を振りかざす。

 

『あぁーはいはい。大体分かった。こういう感じなら通じるか?』

「な──ッ!?」

 

 目の前の異形から、聞き馴染みのある言葉が発せられた。それはこの世界の言語であり、檀司郎たちが話しているものと同じである。

 識別不能の発音からノイズ混じりの発声に切り替わり、ついには檀司郎が聞き取れる域にまで到達したのだ。

 

『ようやくチャンネルの調整が終わったぜ。それで? いきなりこんなアホみてぇな世界に飛ばされたと思ったら、次は命まで狙われんのかよ。やってらんねえぜ』

「言葉を学習できるのか」

『学習っつーよりも適応だな。意思伝達機能をある程度弄れるのさ。そうじゃなきゃ旧人類なんざとっくに絶滅してる』

 

 檀司郎はただ黙って話を聞く。この異形、思っていたよりも言葉が軽い。物々しい姿をしておいて、言動はまるでチンピラだ。

 それに旧人類という単語。それが目の前の異形が本来住んでいた世界の常識的な言葉なのだろう。

 

「人間味があるのは、擬態か?」

『いや、こんな姿(ナリ)だが俺も人類だっての。新人類から旧人類に逆戻りってヤツだ。──っつったところで分かんねえよな? この世界に新人類と旧人類の区分なんざねえだろうし』

 

 それはともかく、と異形は続ける。

 

『せっかくの異次元旅行だ。俺もこのまま大人しく帰る気はねえ。となれば、なぁ。後は言わなくても分かるだろう?』

「俺のやる事は変わらない。お前を元の世界に叩き返すだけだ」

『いいねぇ。元新人類の血が騒ぐ。そのバカみてぇなハンマーも気になるが……お前の我号はなんだ?』

 

 異形の質問に檀司郎は首を傾げる。

 

「……それは、お前の世界の言葉か?」

『あーっと、悪ぃ悪ぃ。そうだな……名前ってのが近いか』

「俺の名前か。……檀司郎。雄々敷檀司郎だ」

『なるほどねぇ、随分と男らしい名前じゃねえか。俺は■■──あー、クソ。旧人類に堕ちたから我号が消えてんのか。それなら、俺の事はセンリとでも呼んでくれ』

 

 センリが不意に指を鳴らせば足元の機体に刺さっていた五本の星剣が宙に浮かぶ。砕けて再設置された土星剣含め、残る四本の星剣は機体に突き刺さったまま微動だにしていない。

 その様子を見た檀司郎は、ただごとではないと咄嗟に片方の鉄槌をセンリ目掛けて投擲するが、彼の呪文の方が早かった。

 

『こいつは挨拶代わりだ。お前たちの力を存分に魅せてやれ。【天王星剣・久遠劫映(PAST OF THE URANUS)】!』

 

 宙に浮かんだ星剣の内、虹色のオーラが立ち上る柄を掴んだセンリが叫ぶ。滲んだ虹が周囲を包み、宙に浮かぶ四本の星剣の下に首の無い人型の影法師が出現する。

 

『これは過去を現在に映し出す星剣だ。かつての俺の仲間たち、その幻影でしかないが……数の暴力としては悪くない』

「全員ぶん殴れば関係ない」

『いいねぇ。これを見てやる気が萎えねぇってのは高評価だぜ。俺としちゃあ足元で踏ん張ってるあいつの事も気になるが……』

 

 足元の機体をがっちり掴んで離さないグリム・グリムを睨む。俺よりもあっちの方が化物だろというぼやきと共に三本の星剣が自らその力を解放する。

 

『【海王星剣・溟海波濤(TIDE OF THE NEPTUNE)】』

『【木星剣・聖樹万雷(THUNDERBOLT OF THE JUPITER)】』

『【太陽剣・天焼大神(ANNIHILATE OF THE SUN)】』

 

 影法師が呪文を唱えた瞬間、振動と共に天変地異が巻き起こる。

 空に巨大な太陽が現出して闇を掻き消し、周囲に雷が列を成して落ち続ける。

 更には足元の機体から膨大な水が噴き出して止まらない。グリム・グリムやネエクを溺死させかねないほどに。

 

「これは……ッ!?」

『他人を心配してる場合かよ』

「グ、ゥ……!!」

 

 太陽の灼熱と稲妻が容赦なく檀司郎を焼いていく。力が解放された剣を潰そうと動いても、影法師は檀司郎から距離をとり続ける上に、センリが横やりを入れて妨害する。

 ならばと投擲した鉄槌を拾い、影法師へと狙いをつけるが──。

 

『【水星剣・風来征旅(SWIFT OF THE MERCURY)】』

 

 ──更にもう一本、力を解放した星剣によって影法師の移動速度が強化される。これにより狙いをつける前に影法師が縦横無尽に動き回る。

 

『もっと本気で遊んでくれや。じゃないとこのまま殺しちまうぜ?』

「好き勝手言いやがって」

 

 影法師の移動速度だけでなく、センリの攻撃速度すら増している。彼が握る天王星剣による剣撃と幾条もの雷を、二本の鉄槌で何とか捌く檀司郎。無茶も無茶だが、こんな無茶は先の老いた破落戸(ローグ)で押し通してきた。

 

 問題は、逃げ回る星剣を追いかけながらセンリの相手をしなければならないこの状況だ。このままだと遠からず檀司郎は死ぬ。灼熱に稲妻。そしてセンリの剣撃によって殺される。

 

 それに加えて先程の戦闘によるダメージが抜けきっていない。刀と手数比べをしたと思えば、今度は異次元から来た化物と手数比べだ。檀司郎からすればたまったものではない。

 

「こっちはそもそも! 手数で攻める戦術(ビルド)じゃねえんだよ!」

 

 巨大な二本の鉄槌による強力な物理ダメージと、魔剣や妖刀に宿って淀んだ呪詛による生命浸食。これらを速やかに叩き込む事こそが檀司郎の基本戦術だ。檀司郎の剛腕により、目にも止まらぬ速さで鉄槌を振るう事はできるが、あくまでもこれは余技の類。

 

 防御を担う飢餓満たし(アンダバエ)は老兵の破落戸(ローグ)との戦いが終わった後、魔法式への魔力供給が止まっており沈黙したままだ。再度セットアップさせるにはグレートヘルムへ魔力を流すしかないが、そんな隙などありはしない。

 

 センリと周囲の星剣が攻撃を止めない限り、檀司郎は飢餓満たし(アンダバエ)を使えない。

 

『それにしては随分と粘るなぁ、オイ! 俺が言うのもアレだがよ、本当に人類か?』

「この程度で疑問が浮かぶなら、お前は人類を舐め過ぎだ!」

『いやー、そんな事ないんじゃねえかぁ?』

 

 呆れた声を出すセンリだが、一切手は緩めない。緩める事ができない。

 既に十回以上は落雷を喰らっている上に、未だ空には灼熱の太陽は健在。だというのに檀司郎の戦意は揺るがない。

 

「オオオオォォォォ、ラァ!!」

『──づぁ!? こ、いつ……ッ!!』

 

 センリの速度は水星剣の力によって上がり続けている。しかしそれでも檀司郎はまったく崩れない。冗談では済まないほどズタズタに身体を斬り裂かれた直後だというのに、それを感じさせない程に動きのキレは衰えない。

 もはや狂気的な根性だ。意地でも喰らいつくという檀司郎の意志が、センリへ鉄槌を掠らせる。

 

 センリにとって鉄槌の呪詛は猛毒に等しい。掠った瞬間、ジュウジュウと音を立てて溶け落ちている。こんなものを喰らい続ければ遠からず死ぬ。

 

『マジでシャレにならねえ毒だなこれ!? 土星剣で吸収しようものなら内部から溶かされるだろうし、早めに決着を──』

特殊顕示兵装群(オルディナート)解放! 龍権誇示式独立稼働要塞オルディナフ・フォートレス】

 

 海王星剣、木星剣、太陽剣の出力を上げようと手元の天王星剣を通して影法師に力を注ぎ込もうとした瞬間、水に沈んだ機体の下からグリム・グリムの声が響いた。

 オルディナフより一時的に許された顕示欲龍の権能。オルディナフ自身が保有する、彼の名を冠した兵器の利用許可証。

 

 水の下から現れたのは、鋼鉄の巨人ともいうべきものだった。機体を片手で包み込めるほどの巨大な手が無差別に力を振り撒いていた三つの星剣を握り潰す。

 現出していた太陽は沈み、雷は止まり、水は一瞬で枯れ果てた。呆気なく砕け散った星剣の様子にセンリは絶句するしかなかった。

 

「……最初からこれ出しておけば良かっただろうが」

【譲り受けた権能だとこいつに能動的な攻撃命令が出せないんだよ。さっきの自己防衛目的以外じゃあ、基本的に身を守る為の置物でしかない。そして何よりここに持ってくるまで時間がかかる。スペースシャトルを掴んだ時に申請を出して、ようやく今届いた代物だぜ?】

 

 その上で、これの申請が通った瞬間に顕示欲龍の権能が剥がれたとグリム・グリムは告げる。

 

【こいつはオルディナフのお気に入りだからな。これ貸したからもういいよなって権能付与が終わっちまった】

 

 まぁ、つまりだ。檀司郎とグリム・グリム、そしてセンリの言葉が重なる。

 

「【『ここからは、小細工なしの殴り合いってわけだ』】」

 

 機体に刺さって再生成された海王星剣、木星剣、太陽剣はもう使えない。水星剣は既に力を解放した上で、センリはその恩恵を受けている。

 

『一応こっちには金星剣と火星剣、冥王星剣が残っちゃあいるんだが……こいつらは今の俺じゃ使えねえし。ま、しょうがねえか』

 

 センリの視界の先にある三本の星剣は機体に刺さったまま沈黙している。影法師がいないのだ。

 それはつまり、それらの星剣には振るわれた過去がないという事に等しい。数の暴力は失われたが、ダメージの総量で見ればセンリの方が有利ではある。

 

 それでもセンリは檀司郎を油断なく見据える。あれやこれやと理由を付けて有利だ不利だと、馬鹿馬鹿しい。最後に立っていれば勝ちなのだ。ならば、全力で殴り倒してやればいい。

 そう考えているのは檀司郎も同じであろう。お互いに得物を握り直し、叫びと共に走り出す。

 

 ──それが二回戦開始の合図となった。

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