大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
現在の魔法が人類の技術として確立されたのはダンジョン黎明期。ウィルカインストという出自不明の男が開発、発展させた技術であると認識されている。
では、このウィルカインストという男はいったい誰だったのか。魔法を開発したという情報以外何も残っておらず、その功績以外は全て消えている。
【この世界の魔法は龍玉座の欲龍との契約で成り立っている。つまりは最初から異次元との繋がりがあったわけだ】
欲龍の権能をウィルカインストは契約というかたちでこの世界へ持ち込んだという。
【ウィルカインストとかいう男の素性は知らんし興味もない。欲龍は自身の欲のみを追い求める存在だ。たとえば俺は物品の蒐集だ。あらゆるものをコレクションしたい。その為に異次元を練り歩いているんだよ。まだ見ぬ逸品を求めてな】
グリム・グリムはそう言いながら新品のプレートアーマーを一式取り出す。所々に赤い稲妻のような装飾が施され、檀司郎が今装備している寄せ集めの鎧と比べると明らかに洗練されている。
ファンタジー作品の騎士のような、魅せるデザインであり無骨な印象を感じさせない。
【檀司郎、これは俺からの報酬だ。遠い異次元でかつて最も人々から称賛を浴びた騎士の甲冑……そのレプリカだが、性能は保証するぜ】
「ずいぶんとスマートなデザインだな……」
身長二百を超える体躯を持つ檀司郎にとって、目の前のプレートアーマーは細い。そもそもサイズが違うだろうという檀司郎に対し、グリム・グリムは笑いながら答えた。
【サイズは自動的に調整されるし、着続けてりゃあ慣れるってもんだぜ。今の檀司郎の鎧とはデザインの方向性が違うから戸惑う気持ちは分かるがな】
「……なら、ありがたく受け取ろう」
【そうしてくれ。何せこの世界の魔法──欲龍の権能も付与してあるからな。ヘルムには檀司郎が使っていた
魔法式が刻まれた装備一式。その価値は檀司郎をして顔が青ざめて引きつるほどのものだ。グレートヘルムで顔が隠れていなかったらグリム・グリムは首を傾げていただろう。
「本当に受け取って良かったのか?」
絞り出した檀司郎の声は震えていた。確かに死にかけたし、グリム・グリムも報酬は約束すると言っていた。そして約束通りのプレートアーマー。
そこまでは何も問題はない。問題はむしろプレートアーマーの性能だ。
魔法式の刻まれた装具は高価だ。ましてや防具としての性能を担保した装具の価値など青天井だ。檀司郎が愛用するグレートヘルムも、防具としての性能を極限にまで落とした上で魔法式が刻まれている。
ゆえに当時の檀司郎の全財産にプラスして、借金を背負う程度の金額で入手できている。
【ここじゃ高級品だろうが、既に檀司郎用にカスタマイズしてるしな。まぁ命の金額と思えばいいだろう】
「俺の命を随分と高く見積もったな」
【それだけ助かったって事だ。このまま放置してたら大惨事だったからなぁ】
異次元の物品が多少流れる程度であれば許容できる。そうでなければウィルカインストとグリム・グリムは契約などしていない。
だが、異次元の生命は別だ。事故であれば多少は寛容に処理するが故意は粛清するしかない。魔石を食べていた
禁術こそが欲龍の規約違反のラインなのだ。これを踏み躙って死ぬだけで済むならば御の字だろう。しかも一度目は見逃している。
明らかに甘い裁定だったが、それでも尚、異次元の──明らかに規格が違う人類を呼び出したのだから、グリム・グリムからすれば消すしかない。
【それに、ウィザラヴァニエは自身が抱く想いに殉じた騎士だ。己が目的のために進み続ける檀司郎との相性もいいから、魔法効果が多少変わっても不利益になる効果にはならないだろう】
「俺はそこまで高潔で在れないが」
【高潔で在る必要なんざねぇさ。ウィザラヴァニエも結局は欲龍として龍玉座に君臨したんだ。つまりは自身の正義に則る事は、ヤツにとって何よりも優先したい欲望でしかなかったって事だしな。その辺り、二人は良く似ていると思うぜ?】
魔法というかたちで以て権能を齎す欲龍との相性という新たな視点に、檀司郎はただ頷くしかできなかった。
グリム・グリムの尋常ならざる力を散々見せ付けられたので、その言葉に異を唱えるだけの根拠を檀司郎は提示できなかったのだ。
【それじゃ、俺はそろそろお暇させてもらおうか。こいつの後処理もしなくちゃならんからな】
「帰してやる、と言っていたな。どうするんだ?」
【心配すんなよ。ちょいと人類のかたちにして、元の世界に放流するだけだ】
異次元に無理矢理連れてこられた存在ゆえに、不安定になっている部分を修正して元の世界に適応できるように手を加える。記憶や人格などはそのままで過ごす事になるだろう。
グリム・グリムの答えに檀司郎はそうかと呟く。
「少し安心した。殺し合いをした仲だが、無事に故郷へ戻れるにこした事はない」
【檀司郎は結構お人好しなところがあるな。さすがに恩人の顔は立てるさ。さすがにもう一度会うってのは無理だろうがな】
「今回が例外だったという事だろう? 別に構わないし、もう一度殺し合いなんてごめんだ」
肩をすくめる檀司郎の冗談にグリム・グリムは噴き出す。そりゃそうだろうな、俺もごめんだと檀司郎に同調して、この世界から消えていった。
夢のような、悪夢のような。何でもありのダンジョンにおいても、今日のような出来事はそうそう無い。檀司郎は受け取ったプレートアーマーを探索用の鞄にしまい込み、ネエクと共に転移ポータルから帰還した。