大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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19.雄々敷檀司郎は思い出す

 雄々敷檀司郎の起床は、ベッド横のカーテンを開けて太陽の光を浴びる事から始まる。六時の事である。生徒寮で割り振られた部屋には最低限の家具しか設置されておらず、目立つものと言えばベッドの傍に立て掛けられた二振りの鉄槌くらいであろう。

 

 時は流れて既に十二月。装備更新の後、ネエクと共に三百層を踏破してダンジョン学園の卒業資格を手に入れた。しかし、だからといって檀司郎にはダンジョン学園から離れるつもりなど毛頭ない。

 

 檀司郎は百瀬桃華とお付き合いをしたいのだ。ゆえに彼女の傍から離れるという選択肢など、檀司郎には存在しない。卒業してどこかの探索者のチームに入るのかと、さほど親しくない教師陣から聞かれる事があったが、それはいわゆる愚問というものであった。

 

「お兄さん、起きてる?」

 

 部屋の扉を叩きながらネエクの声が聞こえる。ここ最近、彼女は少しでも檀司郎と一緒に居ようとこうして食事に誘ってくる。それは先のセンリとの一戦で何もできなかった事に対する不安の裏返しである事に檀司郎は気付いていた。

 

置いていかれるのでは。そんな漠然とした不安がネエクにはあるのだろう、と。

 

「あぁ。今行く」

 

 檀司郎はネエクの誘いを受け入れる事を選んだ。一緒に居たいという彼女の願いを拒む事など、檀司郎にはできなかった。

 それに三百層を超えてからはネエクの動きも良くなった。ヴァルトとの訓練も欠かさず行っているようで、既に並みの探索者では相手にならない程の実力を備えている。

 

 部屋を出てネエクと共に食堂へ移動する。この生徒寮には六時から十八時まで開いている食堂があり、学園関係者であれば無料で利用できる。ネエクも学園に保護された子供として無料の恩恵を受けている。

 

 寝起きの栄養補給は非常に重要だ。注文した焼き魚定食を持って檀司郎が席に座ると、同じく注文したうどんを持って隣に座ったネエクが質問する。

 

「お兄さんは、どうしてダンジョンに潜り続けるの?」

「そういえば話していなかったか」

 

 箸を動かす檀司郎。特に隠す事でもないので、ネエクへ理由を伝える。

 

「俺には好きな女性がいる」

「……うん?」

「その女性は良家のお嬢様だ。俺のような平凡な庶民では到底相手になどされない」

 

 ネエクの頭に疑問符がフヨフヨ浮かぶ。檀司郎が庶民であるというのは事実なのだろう。しかし相手にされないほど平凡な存在であるかといわれれば、答えはノーだ。

 檀司郎はダンジョン学園史上最年少でダンジョン第三百層を踏破して卒業資格を得た。魔境を目指す檀司郎自身は通過点としか見ていないが、ダンジョン学園関係者からすれば前代未聞の偉業だ。

 

 ダンジョンの攻略情報は九百九十九層を含め、全ての階層分が不足なく揃っている。その上で三百層を突破できる探索者は六割程度。魔境の突破に至っては一割を下回る。

 四割の探索者が一生かかっても到達できない三百層を、一年にも満たぬ期間で突破してみせた異端児。魔力測定不可判定持ちの落伍者にして先駆者。

 

 良くも悪くも檀司郎は注目されている。ネエクはその事を良く知っている。知らぬは自身の評価に無頓着な檀司郎のみだ。

 

「だから俺は名誉を求めて潜るんだ。魔境を踏破し、最下層へ。誰も俺を無視できないように。世界に俺の──雄々敷檀司郎という男の名前を刻む為に。全ては俺が彼女の隣に、堂々と並び立つ為の準備だ」

「その人に名前とか、覚えてもらってるの?」

「そこは抜かりない。毎日話しているし、一緒にダンジョンに潜った経験もある」

「告白はしたの?」

「まだだ」

 

 告白か、と檀司郎は過去を振り返る。檀司郎が桃華へ恋をしたのはいつだろうか。決まっている、あの時だ。

 雄々敷檀司郎は幼い頃、二回ほどダンジョンに迷い込んだ事がある。雄々敷檀司郎という男が百瀬桃華というお姫様に出会ったのはその内の二回目だ。

 

 多くの言葉を交わしたわけではない。結局は桃華と協力してダンジョンから外に出ただけだ。しかし、檀司郎は彼女との出会いがあったからこそ今の生き方に繋がったのだ。

 

 あの頃、幼い檀司郎は破落戸(ローグ)の協力者に意識を落とされ拉致された。目が覚めた時には既にダンジョンの中だった。

 霞がかった意識の中で檀司郎は見たのだ。自分と同じ年頃の女の子が意識を失っていた自分を庇うように立ち、大人の破落戸(ローグ)の殴打を何度も受け止める光景を。

 

 血が滲み、苦痛に声を漏らしながらも決して檀司郎に危害を加えさせまいと守るその姿に、檀司郎は魅了されたのだ。これだ。この記憶こそが雄々敷檀司郎が真に生まれた瞬間なのだ。

 

『おい、何してんだよオッサン』

 

 これ以上彼女を傷つけさせない為に、雄々敷檀司郎は動き出す。蹴りだけでは飽き足らず、殴り飛ばそうとする破落戸(ローグ)の太い腕を掴み取る。

 魔境のモンスターと比べてなんと弱い事か。魔王レズヴェルと共に過ごした一ヶ月は確かに檀司郎の血肉となっていたのだ。

 

『あ? ……あ? あぁ? あああぁぁ?????』

 

 理解できない。破落戸(ローグ)の小さい脳では処理しきれぬ異常事態に隙が発生する。檀司郎は自分を守ってくれた女の子を安心させるように微笑んだ。

 

『守ってくれてありがとう。後は任せてくれ』

 

 そのまま破落戸(ローグ)の巨体をぶん投げて、ダンジョンの壁に激突させる。破落戸(ローグ)が完全に沈黙した事を確認し、そのまま二人でダンジョンを出たのだ。

 雄々敷檀司郎は思い出す。自身の想いの根源を。自分を守ってくれた、優しくも力強いあの姿に恋焦がれたのだ。

 

 ならば次は自分の番だ。彼女の隣に立ち、万難を排し、己の愛を捧げたい。これこそが檀司郎の動力源。雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたい。そこに嘘など一つもない、純粋な渇望であった。

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