大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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22.魔境直前

 アルベルト・アルティソーラーによる襲撃がない。ダンジョン第四百九十九層での事である。

 

「さて、本格的に対策を考えないとまずいな」

「このまま魔境に入るのはだめなの?」

「だめだ。あの破落戸(ローグ)と魔境内で交戦すればそれだけで命取りになる」

 

 ネエクの言葉を檀司郎は否定する。檀司郎自身、ネエクを巻き込んでも良かったのかという葛藤はあったが、ネエクは既に巻き込まれる覚悟を決めていた。

 

『ヴァルト先生から、お兄さんが悪い人に狙われてるって聞いてたから』

 

 檀司郎がアルベルトとの因縁を打ち明けた際に、ネエクから聞いたセリフである。それもあってか、彼女は積極的に自分の考えを檀司郎に告げていた。

 

「こうなれば桃華さんをダンジョンに連れて行き、破落戸(ローグ)をおびき寄せるしかないか。あの男の狙いが桃華さんであれば、食いついてくると思うが……」

 

 確実に襲撃してくるかどうかは分からない。しかしこれ以外に有効な手も思いつかない。桃華に協力を願い出るべきだろうと檀司郎は決断する。

 

 しかし桃華をダンジョンに連れて行くにはクリアするべき課題がある。ダンジョン学園からの探索禁止の通告だ。

 これを無視すれば桃華はダンジョン学園に居られなくなる。さすがに退学ともなれば桃華の人生に悪影響が出かねない。強引に連れ込むのは難しいだろう。

 

 しかし、なぜかアルベルトに怯えている学園側がすんなりと桃華のダンジョン探索に許可を出すとも思えない。となると方法は一つだ。檀司郎は以前から温めていた最後の手段を取る事を決意する。

 

「アルベルトを名乗る破落戸(ローグ)をおびき寄せる為に、少々茶番を演じてもらえませんか?」

 

 ダンジョンから帰還した檀司郎は先ず、レドラとヴァルトへ根回しを行う。全ては桃華をダンジョンへと連れて行く為に。

 

「いやはや、まさかこういう手段を取るとは。ううむ、学園側の教師としては否と言いたいところ……しかし、桃華君の件もこのまま進展が見込めない以上は……」

「ヴァルト先生?」

 

 檀司郎の案を聞いてどうするべきかを真剣に悩むヴァルトを諌めるレドラ。このような案など論ずるに値しないと切って捨てる。

 

「檀司郎君。あなたは死ぬつもりですか?」

「死ぬ前にあの男の息の根を止めますよ」

「うむ。その意気や良し! まさに益荒男と……」

「ヴァルト先生???」

 

 レドラの問いに即答する檀司郎。その返事に感じ入るものがあったのか、ヴァルトはテンションを上げるが直後にレドラから冷や水をかぶせられた。

 生徒を死地に追いやるつもりか。レドラの副音声が聞こえてくる。

 

 そも、異次元開拓による人口爆発の影響で人類の命の価値は低い。ダンジョン学園で死人が出るなど日常茶飯事で、生徒の火葬業務を担当している二人もそこは弁えている。

 しかしだからと言って死体を増やす真似を率先してやろうとは、少なくともレドラは思わない。

 

 逆にヴァルトは生徒の選択を重んじるがあまり、その結果生徒が死のうとも構わないタイプだ。命を賭ける覚悟があるならば喜んで死地へと背中を押す。昔の武人のような価値観で生きている。

 本人が納得しているのであれば、たとえ死のうとも問題ないという事なのだろう。学園の教師として考えれば問題でしかないが。

 

「我輩も桃華君の事は気の毒に思っている。破落戸(ローグ)の頭がおかしいのは語るまでもないが、こうまで執拗に狙われるとあっては駆除する他あるまい。しかし、学園側としては破落戸(ローグ)に狙われる事は自己責任であるという建前を押し通すしかない。生徒が破落戸(ローグ)に困っているなど、それこそありふれた話でしかないのだから」

「探索禁止の通告は?」

「貴重な光属性の魔力持ちをみすみす死なせるわけにはいかない。言ってしまえば、命の価値が違うのだよ。学園の生徒として十把一絡げにしていい存在ではない。まぁこれは学園上層部の考えだが。職員会議でも桃華君へ特例で卒業資格を授与しようなどという話も上がったくらいだ」

「ヴァルト先生? いい加減にしないとわたくし、手が出ますよ???」

 

 一瞬で無数の拳を展開するレドラに対し、ヴァルトは潔く頭を下げてお口にチャックを付け始めた。職員会議の内容を生徒に暴露するのは明らかにやり過ぎである。

 

「卒業資格の授与ですか。……体のいい退学措置では?」

「……はい、まぁ……そうですね」

 

 ヴァルトの言葉にあった卒業資格について檀司郎が問うと、レドラは言葉を選ぶ。しかし適切な言葉が見つからず、最終的には頷くしかなかった。卒業という名の退学。ダンジョンで勝手に死なれる前に華々しく追放し、かつて光属性の生徒が在籍していたという事実を掲げて生徒を募る餌とする。

 

 概ね、檀司郎が予想していた通りであった。光属性という箔にダンジョン学園として欲をかいたかたちだ。とはいえ、特例で卒業資格を授与するという動きがここまで早い事は予想外ではあった。

 

「桃華さんに卒業資格を渡される準備がされているなら、ノーリスクでダンジョン探索に連れ出せるか……?」

「その場合、檀司郎君は卒業資格剥奪の上で退学措置となりかねませんが」

「アルベルトを殺した後はそのまま魔境に潜るので、帰ってくるにしても最下層まで進んでからですね」

 

 魔境からは転移ポータルでの帰還ができない。しかし帰還スクロールは問題なく機能するので、ダンジョン学園に戻る事は可能だ。

 だが檀司郎は魔境を一気に突き進むために、最初から帰還という選択肢を外している。明らかな自殺行為だ。普通であれば呪詛によるダンジョン汚染によって破落戸(ローグ)化する前に探索を切り上げるのが常識だ。

 

 しかし檀司郎は呪詛を完全に無効化する体質を持っている。ダンジョン汚染など考慮しなくとも問題ない。この体質があったからこそ長時間のタンジョン攻略を行い、ダンジョン学園史上最年少の卒業資格持ちという実績を得たのだ。

 

「ダンジョン学園の退学など珍しくもない。今活躍している上位探索者にも退学者が居ますしね。最下層攻略という実績さえ手に入ればそれでいいと考えています」

 

 桃華を攫い、アルベルトを誘い出す。攫われた桃華をダンジョン学園は罰しはしないだろう。攫った犯人は檀司郎であると、レドラとヴァルトに証言して貰えば罰の矛先は檀司郎に向く。

 それでいい。桃華の人生に影響が出ないのであれば、檀司郎に躊躇う理由など存在しない。

 

 アルベルトを殺し、堂々と魔境へ足を踏み入れる。そこでようやく檀司郎の挑戦が始まるのだ。

 今までの遠足とは違う。最下層攻略という命を懸けた挑戦が。

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