大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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23.魔王陣営

 檀司郎は桃華を説得して左手で抱え上げ、ネエクを背負いながら意気揚々とダンジョンへ潜っていった。

 そんな彼を見送ってヴァルトは満足気に頷く。

 

 うむ、あれぞまさしく益荒男よ。檀司郎に期待を寄せるヴァルトにとって、今回の件は苦々しく思っていたのだ。

 光属性が希少であるのは認めよう。だが、手に負えない状況になったからさっさと卒業資格を授与して追放しようなどと、軟弱にもほどがある。

 

 檀司郎に頼まれた通りにダンジョン学園へ証言すれば、彼は二度と学園の敷居を跨げまい。

 それは惜しい。あれほどの益荒男、そういるものではない。

 

「檀司郎君が学園に戻って来れるよう、手を打っておくとしよう」

 

 ゆえにヴァルトは行動に移す。ものの数分ほどでダンジョン学園の職員室を制圧し、一人の女性を招いた。

 職員室にいた、あるいはヴァルトによって連れてこられた教師は全て床に倒れ伏している。

 

「アスカ。これらの処理をよろしく頼む」

「うーわ、めんどー」

 

 ヴァルトがアスカと呼ぶ女性。それは桃色の翼を持ち、着物を雑に羽織ったハーピーだった。いくら着物が有名な大和とはいえ、この現代において着物を着用する者は少ない。

 そういう意味ではアスカの姿は浮いている。ノリと頭が非常に軽い彼女は気にもしていないが。

 

「こっちにも予定があるのに、急に呼び出すのはやめてくれない?」

「心配無用。その予定は白紙だ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 文句を垂れるアスカに対してヴァルトが告げたのは彼女の役目が終わった事実。その言葉にアスカの口が文句を止める。

 

「へー。色んなところを周ってたけど、ボクは結局見つけられなかったんだよね。ねぇ、いったいどこにいたの?」

「さて、な」

「うぉーい! その反応は知ってるだろー!?」

 

 ヴァルトの反応に納得がいかないアスカは再び文句のエンジンが唸り始める。

 暖機運転とばかりに口が回り始めたところで、ヴァルトは両義手を挙げる。賑やかになり過ぎるアスカに対して降参の構えであった。

 

「この学園に在籍していた。聞いた話ではほぼ確定……我輩もようやくお役御免というわけだ」

「学園辞めるからこんな滅茶苦茶してんの? 無敵の人じゃん。こわー」

「どうせ二年足らずで世界が消えるのだから問題あるまい。それに膿を一掃するのは実に気持ちがいい。我輩は悔いを残さず去りたいだけだ」

「死人がよく言うよ。ボクもだけどさー」

 

 不穏な言葉の応酬を聞いている者は誰もいない。

 アスカの身体がパチパチと帯電し始める。制圧されて意識を失っている教師達へ、そして職員室内のコンピュータへ稲妻が奔る。

 

 殺す為ではない。書き換えるのだ。肉体の電気信号にて記憶を上書きし、コンピュータへのハッキングにより記録を改竄し、百瀬桃華に対するダンジョン探索禁止通告の事実を丁寧に消していく。

 

「書類はどうすんの?」

「当然、破棄だ」

 

 学園長の机より通告関連の書類を見つけたヴァルトは吐き捨てるように返答する。

 ゴボリとヴァルトの義手から水の泡が出現し、呑み込んだ書類を溶かしていく。これでよい。百瀬桃華に対する通告が無くなれば、檀司郎が桃華を伴ってダンジョンに入った事に対する罰則も無くなる。

 

「後は通告を知る生徒たちだが……放置で良いだろう。そもそもやつらは檀司郎君が桃華君を攫ってダンジョンに入った事を知らないからな」

「もしかしてさー。前に聞いた統か……じゃなくて、魔王サマに目を付けられちゃってる人ってその檀司郎君って男の子だったりする?」

「その通り。そして既に警告済みだ。これ以上ダンジョンに潜ればどうなるか分からんとな。……その上で探索しているのだから、それは彼自身の選択だよ。うむ。実に気持ちの良い男よな。()()()()()()()()()()でもあれほどの者はそういない」

「へー。じゃあじゃあ、その檀司郎君が魔境に入ったらちょっかいかけてもいい?」

 

 アスカの無邪気な要望にヴァルトは義手を組んでううむと唸る。

 いいか悪いかで言えば悪いとしか言えない。順当にいけば為す術なく檀司郎が殺されて終わりだろう。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「遊ぶ程度であれば問題ないだろう。その場のノリで殺してくれるなよ? あの男が怒っても我輩は擁護せんからな」

「分かってるってー」

 

 本当だろうか。ヴァルトはアスカとの付き合いは長い。いわゆる腐れ縁というやつだ。

 だからこそ彼女のノリの軽さを知っている。ついやり過ぎたなど日常茶飯事。つまるところ、全くもって信用ならないという事だ。

 

「それじゃ、口うるさい人にバレる前にとんずらしちゃおっ!」

「彼女はこの時間、保健室で待機だからな。それにダンジョン学園の職員室など、生徒がそう寄り付く場所ではない。皆、進級の為のダンジョン探索に忙しいからな。この事態が発覚するのは相当後になるだろう」

 

 アスカとヴァルトは堂々と職員室から出て、そのままダンジョンの入り口の方向へ足を進める。

 魔境に籠らずとも問題ないと、檀司郎へ伝えなければならない。そしてアスカが約束を破らぬよう見張る必要がある。

 

「アスカももう少し彼女のように落ち着いてくれればと思ったが、我輩も含めて性根は死んでも同じらしいな」

「えぇ、そうでしょうとも。何せあなた方はレズヴェルによって受肉した過去の残滓。性根が変わる筈もありません」

 

 聞こえる筈の無い声に二人は瞬時に逃走する。ケンタウロスとハーピーの全力疾走に追いつける者などいない。

 否。そも、追いつく必要がない。

 

「逃がすとお思いですか。劣化コピーごときが、随分と図に乗っているようですね」

 

 逃げ出した二人は無数の手に囚われた。こんな芸当ができる者などダンジョン学園においては一人しかいない。

 保健医のレドラが白衣の下から手の洪水を流しながら二人を締め上げている。

 

「ちょっと! もうバレてるじゃん!!」

「なぜだ。なぜ、こうも早く……! 我輩の知るお前は──」

「あなたの知るわたくしはあくまでも()()わたくしでしょう? ひどいですね。学園で一緒に働いていたというのに、あなたは昔の事ばかり。あれからどれだけの時間が経ったと……あぁ、そもそもヴァルト先生。ダンジョン学園の潜入に協力したわたくしの顔に泥を撥ねておいて、けじめも無しに帰るつもりだったのですか?」

「証拠は残しておらぬ。アスカの魔法で──」

()()()()()()

 

 ヴァルト──ヴァルハイトの言い訳をレドラは冷たく叩き落とす。

 

「わたくしに偽名の戸籍を用意させて、学園教師の席に座っておきながらこの騒ぎ。このまま粛清して差し上げましょうか?」

「……」

「命乞いが聞こえきませんね。観念したと判断してよろしいですか? 『六法愚者』第五法【屍山血河】ヴァルハイト。今はレズヴェルの百鬼夜行(負け犬)に成り下がっているようですが」

 

 レドラの侮蔑にヴァルハイトは眉一つ動かさない。しかし赫怒までは隠しきれていない。

 

「負け犬、だと? 我輩は負けておらぬ」

「そうですか。では今から敗北を与えましょう。たかだか数百年生きただけの稚児が、わたくしに歯向かうなど片腹痛い」

 

 レドラの言葉に呼応するかのように、手の濁流は止まらない。そのままヴァルハイトとアスカを呑み込み、容赦なく握りつぶした。

 グジュリと粘性を帯びた水音を立てて、赤い血が学園の廊下を染める。

 

「いよいよ、あの男に直接文句を言わねばなりませんか。……はぁ、気が進みませんね」

 

 ◆

 

「ククク、ハハハハハハハハハハッ!!! マジか! おいおい随分手酷く殺されたなぁ!!?」

 

 ダンジョン第九百九十九層。魔王の玉座にして第千層への入り口で、リスポーンされた己の配下に対して爆笑するのは魔王レズヴェル。

 

「うぅむ。やはりこの感触は何度味わおうと慣れぬな」

「ねー! ボクとばっちりじゃない!?」

「ククククク……。一先ずはお帰りと言っておこうか。誰に殺された、は聞くまでもないか。どうせ学園にいたあいつの逆鱗を撫でまわしたんだろ?」

 

 ヴァルハイトとアスカが新たに受肉し、レズヴェルは呆れたように告げる。主にダンジョン外で活動する二人は、これまで何度かリスポーンを経験している。

 リスポーン前の記憶は消していないのだから、いい加減人の機微を学習しろよとレズヴェルは注意を促すが二人の心には響かない。

 

 だから無駄に敵を作って殺されるのだ。外で活動する二人の強さなどたかが知れている。魔法使いとして十全に戦えない以上、慎重に行動しろとレズヴェルは何度も言っているが本当に学ばない。

 

 しかしこんな有様でも魔法使いからすれば勤勉な部類に入るのだから笑えない。

 魔法使いは驕り高ぶり、己が頂点だと疑わない。その特性が魔法使いの強さの源なのだから肥大化したプライドを隠しもしない。

 それは大きく魔法の使用が制限されているダンジョンの外においても変わらない。だからこうして地を這う事になるのだが。

 

「それで、また外に出るのか? アルベルトからは資格者を見つけたと報告があったが」

「アルベルトは檀司郎君と接触しているか?」

「……二人は四百八十七層にいるようだが、何だ? 妙に気に掛けるじゃねえか」

「仮にも教え子なのでな。さて、我輩も行くとしようか」

 

 そのまま玉座から立ち去ろうとするヴァルハイトにレズヴェルは忠告する。

 

「ダンジョン内で死ねばリスポーンはなしだぜ。ダンジョンの外で活動する肉襦袢ならともかく、ガチ仕様の魔法使いを復活させるリソースなんざねえからな」

「分かっている。少なくとも自刃するような真似はせん。我輩はただ看取りに行くのみだ。【屍山血河】の名の通りに、な」

 

 檀司郎とアルベルト。どちらが生き、どちらが死ぬにせよヴァルハイトに介入する気はない。ただ死に逝く者に寄り添うのだ。それがヴァルハイトに刻まれた魔法ゆえに。

 

 死を恐れぬ勇者こそヴァルハイトが看取るに相応しい。彼自身の口癖である益荒男とは、慈悲を以て安寧へと導くに値する魂の資格。六法愚者の第五法は水と死の属性を司るのだ。

 

「どいつもこいつも好き勝手しやがって。……ッハ、精々今の内に楽しんでおけよ」

 

 ヴァルハイトが立ち去り、アスカはいつの間にか消えている。生前と変わらずマイペースな二人に対し、レズヴェルは苦笑を零すしかなかった。

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