大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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24.魔法使いの生態

「貴様は阿呆かね? イレギュラー」

 

 桃華の到達階層である百十三層からダンジョン内を爆走していた檀司郎に対し、アルベルトは困惑を隠せなかった。

 右手に鉄槌、左手に桃華、背中にはネエクともう一本の鉄槌を抱え、目の前の敵を殴殺しながら突き進む。殺し損ねたモンスターは背中のネエクが魔法できっちり消し飛ばし、通った道には消し炭しか残っていない。

 

 そんな檀司郎にアルベルトが襲撃を賭けたのはダンジョン第四百八十七層での事だった。

 一層当たりおよそ二分足らずで攻略というバグのようなスピードにようやくアルベルトが追いついたのだ。

 

「ようやく現れたか。随分と遅い登場だな」

「ならば少しは足を止めたまえよ。魔王の配下としてダンジョンの階層を自由に動けるとはいえ、移動には時間がかかるのだよ」

 

 檀司郎の言葉にアルベルトは呆れながら返答する。しかしその内心は困惑に満ちていた。

 アルベルトと檀司郎がアラクネの巣で戦った時より一年近い時間が経っている。少しは腕を上げたのだろうとアルベルトは踏んでいたが、その実力はアルベルトの予想を遥かに超えていた。

 

 身に纏う鎧は寄せ集めの鎧から一級品のプレートアーマーへと変わり、檀司郎から発せられる殺気も出会った頃から比較にならぬほど澄んでいる。

 いったいどれほどの修羅場を潜り抜けたのか。アルベルトは檀司郎に気付かれぬよう、大仰に動くついでに冷や汗を拭う。

 

「こちらの目的はただ一つ。姫君を最下層へ連れて行く事だ。こちらへ渡すと言うのであれば、これ以上貴様の邪魔はせんよ。姫君は強く、そして彼女の味方に邪魔をされて散々逃げられているのでね。こちらとしても手を焼いているのだよ。……個人的には実に。そう、実に業腹な提案だが! 貴様の命と引き換えにしても構わない。姫君さえ手に入るのであれば貴様にはこれ以上干渉しないと、魔王の御名において宣言しよう。気の済むまでダンジョンを探索していればいい。さて、返答や如何に?」

 

 アルベルトは譲歩する。しかし檀司郎からしてみれば譲歩ですらなかった。

 

「断る。お前に渡すくらいなら、俺が桃華を最下層までエスコートしてやる。それで文句はないだろう?」

「ふざけろイレギュラー。ならば貴様は害悪だ。ここで消しておかねばならない」

 

 左右の手には銀の指輪。アラクネの巣では左の指輪が支配法律制定(ナザレ=タスクラム)の装具となっていた。

 しかし、今ここに他のモンスターはいない。檀司郎の鉄槌とネエクの超顕示破砕大砲オルディナフ・マキシマ(オルディナフ)によって予め消し飛ばされ、リスポーン待ちの状態になっているからだ。

 

「分かっていたとも。貴様が支配法律制定(ナザレ=タスクラム)を警戒し、モンスターを根こそぎ狩っていれば馬鹿でも気付くというものだ。しかし。しかしだね。まさかこの私が支配法律制定(ナザレ=タスクラム)しか能がないと、本気で思っていたのならば後悔するがいい!」

 

 左の指輪に魔力が集い、魔法式がセットアップされる。火属性の魔力を示す赤い魔力光が煌々と照らし、新たな魔法を顕現させる。

 

「【其は愛を以て血肉を変じる生死(しょうじ)の螺旋──愛欲転生(フィゾロア)】!」

 

 自身の肉体を一時的に変化させる変身魔法、愛欲転生(フィゾロア)。使用者は少なく、檀司郎も呪文を聞いてそんな魔法もあったなと思い出す。その程度の知名度しかない魔法である。

 

 変身後の確固たるイメージや、頭のネジが外れていると評されるほどの変身願望がなければロクに使えない。

 思えばそれが欲龍としての、魔法を悪用されない為のセキュリティなのだろう。

 

「私の場合は変身とは言えないがね。何せ(わたし)()()事こそが私の願望なのだから」

 

 愛欲転生(フィゾロア)は正常に発動したが、アルベルトの身体に変化は見られない。だがこれでいいのだとアルベルトは満足気に笑うのだ。

 

『このアルフレイドっていう王子の方が、あの破落戸(ローグ)に似てるよなぁ』

 

 ふと檀司郎は思い出す。アラクネの巣でアルベルトと遭遇し、アルティソール王国の歴史書を読んだ自分が、いったいどういう感想を抱いたのか。

 

「その顔、もしや心当たりがあるのかね? であるならば貴様は勤勉だなイレギュラー。この身体が我が愚息、アルフレイドのものだという事に辿り着いたか」

 

 アルベルト・アルティソーラーはアルティソール王国第四代国王である。そしてアルフレイドは彼の息子である。

 

『アルフレイド・アルティソーラーは廃嫡されましたね。当時は色々とありましたから』

 

 檀司郎はかつてのレドラの言葉を反芻する。そして新たな疑問が浮かんでくる。

 なぜ目の前の破落戸(ローグ)は廃嫡された自分の息子の身体を使っているのだろうか。

 

「では一つ、先達から教授しようか。アルフレイド・アルティソーラーは魔法使いなのだよ。愛欲転生(フィゾロア)によってこの身体の性能を引き出したのさ。何せ魔法使いの身体など、人類である私には小細工抜きでは到底扱えるものではないのでね」

 

 その言葉を発した直後、アルベルトは咄嗟に自身の口を押さえる。言うつもりの無かった情報を渡してしまったと言わんばかりの反応だが、アルベルトの口は更に開き続ける。

 

「ク、クヒ……魔法使い。人類の進化形、即ち生命の頂点。あらゆる幻想を己が身一つで引き起こす超常生物。ぅぐ、……そして、あらゆる下等生物に害されぬ神秘的防御を備える、くふ、まさに無敵の、自己完結生命体。生命維持に食事も睡眠も呼吸さえも必要ない。寿命だけは元となった人種を参照するが、まぁ些事であろうさ。そんなものはな」

 

 止まらぬ解説にアルベルトは混乱している。これ以上の情報を渡すまいと言う抵抗すら貫通し、魔法使いの生態を暴露している。

 

「ぐ、うぅ……! なるほど、なるほど。あぁ、ようやく理解した。魔法使い。そうか。他者を見下し、自身の中で下等生物と定義せねば神秘的防御が崩される……実に難儀だよ。ゆえに、情報の秘匿はできない。秘匿とは弱者の戦略。魔法使いの傲慢は、神秘的防御を維持するためのセーフティ、か……ッ!」

 

 頭を掻き毟りながら、血を吐くように続けるアルベルト。アラクネの巣の時も魔法の解説こそ行っていたが、曖昧な言葉や態度で攪乱していた。

 しかし、愛欲転生(フィゾロア)によって魔法使いとして疑似覚醒を果たした彼は、魔法使い特有の傲慢により、情報の秘匿という手札が切れなくなった。

 

 情報を隠し、怯えるのは魔法使いではない。己こそが最強なのだから、堂々と正面から圧し潰せばいい。なぜなら弱者がいくら抵抗しようと、最強たる己には何の痛打にもならぬのだから。

 

「まぁいい。魔法使いの身体はこれで機能する事が分かった。さぁ、始めるとしようかイレギュラー。ここを貴様の墓場とし、姫君を我が手に」

「色々喋っていたが、ご自慢のペラ回しにキレが無くなったな。魔法使って耄碌して、結局お前は何がしたいんだ?」

 

 檀司郎の侮辱をアルベルトは鼻で嗤い、堂々と宣言する。

 

「もはや私は、紛いものの魔法を操るアルベルトではなくなった。この身は『六法愚者』第三法【世界火】アルフレイド・アルティソーラー! 世界を焦がす再誕の火。その灼熱を貴様の身を以て思い知るがいい!!」

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