大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
「は……?」
アルベルトの口からありえないという感情が零れ落ちた。
斬りたいものだけを斬る都合の良い虐欲の斬撃にて、アルベルトはネエクの首を狙ったはずだった。
しかし、その結果断たれたのは桃華の首。一拍おいてアルベルトは原因に気が付いた。
「
分からない。理解できない。己の身を顧みず、
「桃華お姉さん!?」
ネエクは動揺し、アルベルトを串刺しにして拘束していた土の槍が崩れ落ちた。精神が乱れ、幻想の維持が困難となった。
檀司郎も思わず桃華に駆け寄ろうとして、少し様子がおかしい事に気付く。
「出血が、ない?」
断たれた首の断面からは一滴たりとも血が流れていない。しかし、桃華の首は確かに斬られてダンジョンの床を転がっている。これはいったいどういう現象か。
「しかしこれで
「ネエクちゃん! 魔法を解いちゃだめ!!」
多少予定が違おうとも問題ない。状況を確認したアルベルトは今度こそネエクを狙って虐の刃を振り抜く。しかし咄嗟に桃華からの言葉を聞いて、すぐに味方の身を隠す無数の土塊を出現させた。
ネエクの姿が隠れ、アルベルトの刃は空振った。空気を斬る音すらせず、ネエクの土塊はもちろんダンジョンの床にも斬撃痕が一つも見当たらない。
あらゆる生命を断ち斬るが、それ以外は全て斬撃の対象外。まさに虐欲を満たす為の
「桃華。大丈夫、なのか?」
「はい。話すだけなら問題ありませんが、魔法式へ魔力が供給できませんね」
急ぎ桃華の元へ辿り着き、断たれた首を持って話しかける檀司郎。話せるし、特に痛みも感じていないようだ。
そこから
断ち斬りはするが、ただそれだけ。斬られた箇所は欠損するが痛みを伴うわけではない。ただ生きたまま、苦痛なく膾にする。それだけの魔法なのだろう。無機物が魔法の対象外という事も相俟って対人にしか使えないのが救いか。
魔力の供給ができないのは、欠損により体の構造が変化して魔力の流れが阻害されているのだろう。そこまで考えて、檀司郎は決断する。
「全員この魔法を喰らってしまえば終わりか。そういう事であれば……」
「隠れながら接近してどうにかしようと? 貴様の攻撃は何一つ通らんと学んだのではなかったか? その若さで健忘症かね?」
ネエクが出現させた土塊を利用できるのは何も檀司郎達だけではない。先に隠れながら接近してきたアルベルトが
「させない!」
「ッチィ、厄介な」
攻撃の起こりを妨害すべく、ネエクが土塊の一部を浮遊させてアルベルトへぶつける。音速を超えて飛来する幻想の土塊は、神秘的防御を突破する事を考えれば回避するしかない。
アルベルトは瞬時に
決して逃がさないと言うネエクの意志が反映された幻想は、まさに勅命の如く物理法則を捻じ曲げる。魔法使いとしての進化が進み、魔法の精度が秒速で熟達していく。
砕けた礫にもネエクの意が反映され、縦横無尽に飛び掛かりアルベルトの身体を確実に削っていく。
「この程度ォ!!」
アルベルトの傷口から黒い炎が噴き出し、ミキサーの刃と化した礫を根こそぎ溶かし落としていく。アルベルトの精神が持ち直した結果、再びネエクの幻想を溶かすまでに魔法の効果が揺り戻っている。
口からも火を吹き、邪魔な障害物となっている土塊を手当たり次第に溶かしていく。鬼気迫る表情を浮かべるアルベルトに対して、思わず心底邪魔であったのだろうという感想が頭を過ぎる檀司郎。
「カ、ハハハハハハハッッ!! あぁ、何という爽快感だ。そうだ、これだ。魔法使いとはこれほどまでに馬鹿なのか──ッ!!」
恍惚に脳髄が蕩けたアルベルトの言葉と共に、黒い炎の出力が上昇する。ネエクが有利だった魔法合戦が、小賢しさを捨てたアルベルトに天秤が傾いていく。
強い。強い。強いのだ。そうとも、己こそが世界最強の存在なのだ。自負とも驕りともとれる絶頂がアルベルトを立派な愚者へと押し上げる。
「厄介な魔法使いは、これでご退場願おうか!!」
アルベルトの右手に付けられた銀の指輪から赤い魔力光が絶えず輝いている。魔法使いとして黒い炎の幻想を展開しながら
それは魔法の両立という未知を突き進むという魔法使いとしての矜持か、絶対にイレギュラーをここで仕留めるというアルベルトの赫怒か。
「もう一度ォ! 【瓦礫落とし】!」
「一手遅いぞ!
土塊を展開。その次の瞬間にはネエクの首が断ち斬れた。ネエクは魔法が維持できなくなる前に土塊をアルベルトへ飛ばす。
そのいくつかが、アルベルトの身体を纏う黒い炎を貫通していくらかの手傷を負わせた。
「ふん。この程度の傷など何も問題ない。さて、残るは貴様だけだぞイレギュラー」
「そうだな。まだ終わっていない」
「何を言っている……。貴様は! もう! 詰んでいるのだよッ!!」
熱なき炎を吐きながら、忌々しく吐き捨てるアルベルト。その怨嗟に対し、檀司郎はただ軽口で返すのみだった。