大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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29.全ては奈落

 もはやこの手に手段はない。魔法使いは魔法使いでしか殺せない。そしてここには魔法使いと人類が一人ずつ。

 既に勝敗は決したと言えよう。魔法使いが勝ち、人類が負ける。神秘的防御を突破できぬ以上、檀司郎は敗北する。

 

「まぁ、詰んでいるといえばそうだよな」

 

 しかし檀司郎は諦めない。諦めるわけにはいかないから。

 ここで諦めてしまえば桃華の、そしてネエクの頑張りが無駄に終わってしまうから。

 

 飢餓満たし(アンダバエ)は効かぬ。未だ溶け落ちたままの籠手と、激痛のはしる肉体。それでも尚、アルベルトに不調の兆候はあらわれない。

 勝負は一瞬。斬虐(ザンクード)を放たれて四肢を欠損させて、黒い炎で骨まで溶かす。アルベルトにとっては勝負ではなく、ただの作業だ。

 

「最後に言い遺す事があれば聞いてやってもいいぞ?」

「聞くだけだろ? テンションの上げ下げが激しいやつだな」

「では死ね。姫君以外はここで死ね」

 

 檀司郎はふと最後にネエクが付けた傷を見る。相変わらずアルベルトは黒い炎をその身に巻いているが、ネエクの幻想が一瞬だけ上回ったのだろうか。

 あの一瞬だけ? アルベルトの黒い炎がネエクの土塊の出力を下回った?

 その直前にネエクの土塊を黒い炎で溶かしておいて、なぜ出力が下がったのか。

 

「処刑の時間だ。イレギュラー!」

 

 アルベルトの銀の指輪は未だに赤く輝いている。虐欲の刃を具現させるその瞬間。

 檀司郎は溶け落ちた鉄槌の一部をアルベルトへ投擲する。アルベルトはその欠片を避ける事は無かった。

 鉄槌の欠片は直撃し、()()()()()()()()()。それを見た檀司郎は鉄槌を握り直してアルベルトへ突進する。

 

「何だ? 潔く死ねないのか貴様は。実に醜いぞ!」

「言ってろ」

 

 新たに傷が付いた事など、アルベルトは気にしてもいない。そも、傷が付いた事にすら気付いていないのか。

 いずれにせよ、アルベルトは斬虐(ザンクード)の魔法の発動を止めなかった。突進を続ける檀司郎に向けて、虐の斬撃が放たれる。

 

「【其は正義を成す至高の一撃──】」

 

 同時に、檀司郎はグリーヴに刻まれた魔法式へ魔力を流す。セットアップさせる魔法は、このプレートアーマーのオリジナルの使用者。

 遠い異次元にて最も人々から称賛を浴びたという騎士の名を檀司郎は叫ぶ。

 

「【正裁(ウィザラヴァニエ)】!」

 

 正義欲龍の名の下に、魔法式が権能を駆動させる。その恩恵は次の自身の攻撃を数倍以上に増幅させる事だ。

 しかしそれは本来の正裁(ウィザラヴァニエ)の魔法だ。規格から外れた魔力を持つ檀司郎は、魔法の効果を正しく引き出す事ができない。

 

 では、檀司郎が唱えた正裁(ウィザラヴァニエ)は果たしてどのような恩恵が顕れているのか。

 

「今更貴様が魔法を使ったところで、私の身体に傷一つ付かぬわ!!」

「なら確かめてみようか」

 

 虐の刃が檀司郎に届く。距離も関係ない無慈悲な刃が、そのまま檀司郎の首を断ち斬ろうとした瞬間、刃は檀司郎の首を断たずにすり抜けるだけだった。

 

「なッ!?」

「化けの皮が剥がれているぞ。間抜け面め」

 

 アルベルトの斬虐(ザンクード)が無力化されたわけではない。虐の刃は確りと檀司郎の首を断っている。しかし、その結果が先送りにされているのだ。

 檀司郎の魔力によって発現した正裁(ウィザラヴァニエ)は、攻撃の増幅ではなく攻撃の保証というかたちで恩恵を歪められている。

 

 檀司郎の攻撃が敵に命中するという結果が出るまで、檀司郎は攻撃が不能になるダメージを攻撃後に受けるようになる。それは当然、四肢の欠損も含まれている。

 攻撃の増幅効果は消えているが、檀司郎の鉄槌が敵に当たるまでデバフもダメージも全て攻撃が当たった後に反映される。

 

 斬虐(ザンクード)による斬撃で檀司郎の首を断てなかった事に思考の空白が生まれたアルベルト。そこへ檀司郎が己の鉄槌を振りかぶり、脳天へ叩き落す。

 本来であれば魔法使いの神秘的防御によってダメージは受けない。格下からの害意を全て弾くのだから当然だ。

 

「ぐ、が──ッ!!?」

「やはり、か」

 

 鉄槌によりアルベルトの身体が潰される。魔法使いとしてあってはならないその結果に、檀司郎はただ静かに頷くのみ。

 アルベルトの斬虐(ザンクード)による影響も消え、身体を断ち斬られた桃華とネエクも元に戻る。

 

「な、ぜ。なぜ、だ? いったい、なにが、おきている? なぜ、ここまでイレギュラーなじたいが。よりによって、なぜ、わたしのときばかり」

 

 潰れた肉体で呂律の回らぬアルベルトの言葉に、檀司郎が答えようと口を開き──。

 

「当然であろう、アルベルト王。あれだけ魔法式を用いておいて、まさか本当に純粋な魔法使いでいられると思っていたのか?」

 

 ──新たにこのエリアに入ってきた男の声が重く響く。檀司郎の開いた口がそのまま硬直する。

 聞き覚えのある声だ。そしてダンジョン内では聞くはずの無い声だ。

 

「己の幻想を敵に叩きつけねば、魔法使いとは呼べぬ。ゆえに神秘的防御も薄れたのだろう。魔法使いの身体であっても幻想を駆使しないのであれば、それは魔法使いに非ず。……それを見破り、勝利を収めたその手腕。見事であった檀司郎君。桃華君。そしてネエク。先生として実に鼻が高い」

 

 入ってきた男はケンタウロスであった。両腕が義手となっており、自身の魔力で動かしている。

 その姿を見て、檀司郎は問いかける。

 

「どういう事です、ヴァルト先生?」

「ダンジョン学園の教師、ヴァルトとは我輩の仮の姿であり、名前だ。そうだな、アルベルト王を打倒した君に敬意を表し、名乗っておこう。──我が名は、『六法愚者』第五法【屍山血河】ヴァルハイト!」

 

 六法愚者。アルベルトも、自身の器の名前としてその肩書きを名乗っていた。

 

「六法、愚者……」

「元はアルティソール王国の魔法管理機関だ。そこのアルベルト王が何とかまとめた組織であったが、今ではその名残すら残っておらぬ。伝聞だが、魔法使いはほぼ全て天に昇って行ったとか」

 

 つまりは、何かしらの要因で全滅したと見ていいだろう。

 現代における魔法とは、魔法式へ魔力を流して発動させるもの以外に存在しない。魔法使いという埒外の存在など、他の人々は誰も知るまい。

 

「ヴァルト先生……いや、ヴァルハイト。あんたは何しに来たんだ?」

「アルベルト王を打倒した今、檀司郎君はこのまま魔境へ挑んで学園には戻らぬ予定だったな? 我輩がここに来た理由の一つは、桃華君の探索禁止が取り下げられた事を伝えたかったからだ」

 

 ヴァルハイトの言葉に檀司郎は押し黙る。それだけの理由でわざわざ本当の名前を名乗った上で姿を見せたのか。そんなリスクを負ってまで伝える事なのか。

 

「ヴァルハイトさん。あなたは、私達の敵……なんですか?」

「所属する組織としては敵であろう。今の六法愚者は全員、魔王の配下であるからな。しかし仮にも教師だったのだ。我輩一人が手を貸すくらい、誰も文句は言うまい」

「ここで戦わないと?」

「然り。魔境に踏み入れば他の六法愚者が行く手を阻むだろう。そしてもう一つ、我輩には仕事が残っている」

 

 既に虫の息となっているアルベルトに近づくヴァルハイト。アルベルトは訝しげに問う。

 

「なんの、つもりだ? わたしに、はいしゃに、ようじがあるのか?」

「我輩の仕事は昔から変わらんよ。死を看取る。それが【屍山血河】に課せられた義務ゆえに」

 

 ヴァルハイトはほぼ肉塊と化しているアルベルトを抱き抱え、ダンジョンの奥へと歩みを進める。

 

「檀司郎君達は一度戻るといい。万全の状態でなくば魔境攻略など成せはしない。これより先は今まで以上に危険であるからな」

「……分かっている。もしもあんたが邪魔をするなら、容赦なく倒させてもらう」

「その意気やよし、だ。ならば我輩は何も言うまい。では──」

『見逃すのですかヴァルハイト。それは六法愚者としての背信に他なりませんよ』

 

 ヴァルハイトと檀司郎の会話に割り込む、地の底から響く女性の声。それはアルベルトとの戦闘により、溶け落ちた床から届いていた。

 

『何人たりとも逃がしはしません。魔境に挑戦? 大いに結構。ならばわたくしも一肌脱いで差し上げましょう』

 

 ダンジョン第四百八十七層の床全体に罅が入る。それに伴い、立っていられなくなる程の揺れが檀司郎達の動きを封じる。

 

『墜ちてきなさい。ここはダンジョン第五百三十三層。魔境に踏み入る愚かさを、その身に刻んで殺してあげます』

 

 この日、ダンジョン第四百八十七層から第五百三十二層までの階層が消滅。該当階層を探索していた探索者の死体が、ダンジョンの入り口に山と打ち捨てられ、前代未聞の大事件となった。

 死体の中に雄々敷檀司郎、百瀬桃華、ネエクの三名は見つからず、行方不明扱いとなったまま一年が経過。

 

 ──死体すら戻って来れぬ死亡扱いとして、三人の名前が新聞に記載される事となった──。




この話で一段落になります。
一度更新を休止し、魔境での話を書き溜めてから再度投稿を始めます。
申し訳ありませんが、ご了承ください。
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