大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
ダンジョン第百四十三層、アラクネの巣にて死者多数。腕に覚えのある者のみ立ち入るように。また死者増加に伴い、火葬業務のアルバイトを急募。
始業前の教室で告げられた連絡事項の内容にクラスメイトがざわついた。火葬業務アルバイトの募集である。
火葬業務は進んでやろうという者はいないのだが、その分時給が他の業種と比べて高く設定されている。急募という事もあり追加でボーナスもあるだろう。
そんな事情もあり、普段バイトをしない者も小遣い稼ぎに勤しむ事となる。前半のアラクネの巣の異常などもはや誰も覚えていない。
「檀司郎君、考え事ですか?」
「桃華さん」
いつもより少し騒がしい教室の中、スマホでダンジョンのトピックを右から左へ流し読みしている檀司郎に声をかけたのは百瀬桃華。クラスの人気者で、百相院財閥に連なる分家のお嬢様。
見目麗しく、光り輝く金髪すらも神々しい。希少な光属性の魔力持ちという事も相俟って、まさに聖女という言葉がピタリと当てはまる。
「連絡事項のアラクネの巣だが、情報が出回っていないんだ」
「普段であればトピックやニュースで流れてきますよね。……SNSでも不思議なほど話題に上がっていません」
「生還者が極端に少ないんだろうな。原因はアラクネではなく」
「
それも質が悪いのが住み着いたのだろう。檀司郎はそう判断した。
百四十三層は探索初心者がダンジョンに慣れてきて油断し始める階層ではあるが、死者は滅多に出ない。それはアラクネというモンスターが、百四十三層を攻略する探索者にとっては格下であるゆえだ。
アラクネの巣は二年生が主に探索する階層になる。そこに
より詳しい情報を得ようとするならば、火葬業務に参加して学園が回収した死体を見てみるべきだろう。
「死体の損傷具合を確認し、住み着いた
「あなたが駆除するのですか?」
「通り道なんだ。つい最近、百四十層の転移ポータルを解放したばかりでね」
「もうそこまで進んでいるのですか。入学して一ヶ月、それもソロで」
こちらはまだ八十二層なのに、という桃華の言葉に檀司郎はただ静かに首を横に振る。彼にとってこの程度は称賛されるべき事ですらない。ソロでダンジョンに潜り続けた檀司郎は、彼自身の魔力や体質が異質である事も含めて、一部の生徒や教諭以外の評価がすこぶる悪い。探索者のパーティ単位で活動すれば、必ず支障が出るほどに。
だからこそ檀司郎はソロでダンジョンに潜らざるを得ない。理解のある仲間が見つからなければ、孤独を友として潜らなければならないだろう。
そも、学園の卒業資格を得られる攻略階層のおよそ半分の道のりを既に踏破している彼と同行できる仲間がどれだけいるかという話にもなるが。
学園を卒業する資格を得られる到達階層は最低でも三百層。一学年毎に百層ずつ攻略する事が義務付けられている中、檀司郎は現時点で百四十層まで攻略している状態だ。一年生ではまず無理で、二年生でも厳しい。三年生でようやく釣り合うかに見えるが、彼自身は今の攻略速度を緩めるつもりは毛頭ない。
結果、残る選択肢は学園の中でも図抜けた強さを持つエリートしか彼に着いていけない。入学して間の無い檀司郎は既に学園の上澄みとして認識されつつある。
──だが足りない。この程度では雄々敷檀司郎という人間の価値を認められない。ゆえにこの程度で驕ってなどいられない。
目指すは学園卒業までにダンジョン最下層へ到達する事。それでこそ価値を証明できると言うものだ。俺は止まらん。必ずチャンスを掴み取ってやる!
百瀬桃華と付き合う事。それが雄々敷檀司郎の目標である。今はそのスタートラインに立つ準備を進めている最中なのだ。
ダンジョン学園史上最速の攻略速度という称号など、彼にとっては無価値なものでしかなかった。彼のこういった態度も周りの評価を落としている要因の一つなのだが、檀司郎は特に気にしていなかった。
◆
「おぉ。来てくれたか檀司郎君」
「お疲れ様です。ヴァルト先生」
生活指導教諭のヴァルト。彼は両腕を失ったケンタウロスであり、過去をあまり口にしないが鍛え抜かれた肉体からさぞ強い探索者だったのだろうと噂されている。
治癒に長けた水属性の魔力持ちという事もあり、よく保険医と一緒に仕事をしている姿を目撃されている。
「バイトを急募していただけあって、死体の数が多いですね」
「うむ。アラクネの巣でこれほどの死者が出るのは珍しい事だ。それに少し気になる事がある」
安置されている死体を確認する檀司郎は、眉をひそめてふと呟く。それほどに不可解な死体であったのだ。
「男子と女子で、随分損傷具合が違う……。これが
男子は顔を苦痛に歪めて死んでおり、女子と思われる死体は腰から上が喰いちぎられているかのように消失している。
ダンジョンで死んだ者は入ってきた入り口の近くに放り出される。たとえ五体が千切れ飛び、原形をとどめないほどに爆散していたとしても元の姿に復元される。であるならば、この死体の有様はどういう事だろうか。
「奇妙。あまりにも奇妙。たとえアラクネに捕食されたとて、死ねば復元されて入り口に転がるはずなのだ。……そのあたり、あなたはどう考えるかな?」
「どう、と申されましてもねぇ……」
安置室に新たに入ってきた女性が、ヴァルトに話を向けられて眉をハの字にして困ったように言葉を濁す。
保険医のレドラ。
「ダンジョンの仕組みは謎が多いものです。これが今回だけのバグなのか、それとも何かしらの条件に抵触した結果なのか……わたくしでは分かりかねます」
「そうか……いや失礼。こちらとしても、何か気になる事があるかと思ってな。違う目線での情報が欲しかったのだよ」
ヴァルトの言葉に呆れたようなため息を返すレドラ。そういう事は自分よりも若い生徒に聞いてくれとでも言いたげな態度である。
「結局のところ、あの階層のアラクネだけでは今回の事象は引き起こせないと考えてよいでしょう。ならば住み着いた
「違いない。……とまぁ、こちらが持っている情報もこの程度だ。それでも今、アラクネの巣に向かうかい?」
ヴァルトの問いに檀司郎は否を返さない。当然だ。この騒動が解決するまで足踏みするつもりは毛頭ない。
分かった事と言えば、異様な力を持つ
この程度で臆するならば、百瀬桃華と付き合うなどという願望などとうに捨て去っている。名家とはいえ彼女は二十三女。上にも下にも子供はいるし、このダンジョン学園に入学を許されている以上、最悪死んでもいいと見做されている事だろう。実績、栄光、それらを手土産にすれば少なくとも交流に口は挟まれないだろうと檀司郎がふんでいるのは、そういった事情があると推測しているからであった。
──やってやる。どこの馬の骨などと言わせるものか。俺の名を刻み込んでやる!