大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
ダンジョン崩落より少し時を戻す。
ここは大和国立国際ダンジョン学園の理事長室。そこにいるのは呼び出されたレドラと、呼び出した張本人。
「やあレドラ君。随分と下手人に好き勝手されたじゃないか」
「そういうあなたは随分と楽しそうですね」
「この学園はいつ来ても面白いからねえ。どうだい? 十年もあればこの威厳ある姿も僕に馴染んできたと思わないか?」
ニコニコという音が聞こえてきそうなほど爽やかな笑顔を浮かべる老人に、レドラは頭をそっと抑える。
本来、大和国立国際ダンジョン学園に理事長という椅子など存在しない。だが実際に今、理事長室という施設と理事長が存在する。普通であれば何かしらのミステリーが頭を過ぎるだろう。
しかしこれは謎でも何でもない。ただ単に、レドラの目の前に座る老人の異能が発揮されているだけなのだ。
万人に己の思い描いた姿を見せる。それは決してハリボテではない。老人が思い描く事全てが是となり、真となり、現となる。
この異能により、老人は十年ほど前から勝手に理事長として居座っている。年季の入った不法侵入者に対し、レドラはため息交じりに忠告する。
「いい加減に
「今の僕はダンジョン学園理事長にして、百相院本家当主にして、百相院財閥の長の百相院
「……そうですか」
剣呑な気配を滲ませ始めたレドラに対し、ウィルカインストは焦る事なく笑顔のままだ。
老人の姿も戯れだ。ただこの姿の方がハッタリがきくというだけの事。
悠久を生きる
それが長命生物のタイムスケジュールなのだ。一年の時間など彼らにとっては午睡の一時にも満たぬ。数千年生きてようやく知性が芽生えてくるものだ。
生きるというスケールが人間とは比べ物にならない。そんな生物の外れ値達が揃って談笑する風景がそこにあった。
「ははは、冗談。冗談だって。永く生きてると暇を持て余していけない。だけどねえ、魔王討伐の目途は立たないし、故郷の次元も見つからない。ちょっとは遊んでもいいじゃない。人生楽しくが僕のモットーってやつさ」
百相院本家の当主は怪物である。まことしやかに囁かれていた言葉であるが、これは比喩でも何でもない。文字通り、怪物なのだ。この世界に異次元から落ちて来た、別の理に生きる超常生物。
異次元の生物という点ではセンリと同じだが、彼は人類でありウィルカインストとは根本的に違う。
モンスターではない。魔法使いではない。ましてや人である筈もない。
それらとは別の区分にある生き物で、名前も無数に持っている。ゆえに付けられた
何にでもなれる。化けるのではなくその姿こそが正しいと世界に認識させる無限の
「ともあれ、レドラ君はヴァルト──ヴァルハイトという魔王の配下を学園内に手引きし、その当人が職員室を襲撃するという事件を起こした。その理由が僕の血族である百瀬桃華の探索禁止布告の撤廃、という報告は受けたけれどねえ。本当に? 本当にこれが理由なのかい? 何かヴァルハイトにとって得でもあったの???」
「ヴァルハイトの行動原理は至極単純かつ厄介なものです。その場のノリと勢いという、合理の欠片も存在しない、要はただの阿呆なのです」
ヴァルハイトは自らを豪放磊落と称する事があるが、レドラにしてみればほざけよガキとしか思わない。あれはただ己の快と不快をその場で考え、その場で取り繕うのが常なのだ。
良き先生でありたいと思ったならば良き先生であろうとするし、生徒の背中を押したいと思ったならば喜んで背中を押す。たとえ、それで生徒の命が尽きようともだ。
おお、見事な益荒男ぶりよ。そんな戯言で誤魔化しながら、次の言葉を紡ぐのだ。一貫性など最初から無いも同然だ。
そんなヴァルハイトだからこそ、彼が六法愚者として振るう魔法も一等奇妙なものだった。
前提として、魔法使いの代名詞とも言える幻想は必殺でなければならない。己が上だと証明するべく、他の魔法使いの追随を許してはいけない。
神秘的防御を纏う以上、敵の魔法使いに格下であると認識されてしまえばあらゆる攻撃が通用しないのだから、必殺であると言う条件は絶対に外せない。
その上で、ヴァルハイトの魔法は必殺の皮を被ったお遊戯でしかない。これはヴァルハイトを除く六法愚者全員の認識である。むしろ敵に利する類のものであり、ほとほと救いようがない。
事実、ヴァルハイトの魔法を喰らったとしても六法愚者に連なる者は誰一人として死なないだろう。これは実力差以前の問題で、ヴァルハイトの魔法が持つ特性上の欠陥なのだ。
必殺ゆえに殺せない。お前は何がしたいのかと誰もが詰めるヴァルハイトの力であった。
「まー、彼の動機はもういいや。レドラ君が阿呆と言うならば彼はただの阿呆として処理するとしてだよ。学園理事長としてはレドラ君が招いた人間……じゃないや。ケンタウロスなんだし? 責任をとるのが筋ってもんじゃないかな? そこんとこどうよ? とる気ある?」
「ではダンジョンに潜って六法愚者の阿呆共の首を根こそぎ狩ってくればよろしいでしょうか?」
レドラの過激な物言いにウィルカインストは大いに笑う。面白いよ、ナイスジョークだと。
しかし当のレドラは笑わないし、ウィルカインストの様子に困惑したかのように首を傾げる。
つまりは本気。本気で六法愚者の首を全員刈り取れると思っているのだ。
「ダンジョンが無くなれば、少なくとも
「ではこちらも言わせて頂きますが、たかが異界の生物ごときがわたくしに対して喧嘩が出来ると思い上がらないでください。変化と適応が真髄の
それはかつて、ダンジョンが影も形もなかった頃の、遠い昔の話であった。
ウィルカインストはこの世界に落ちて来た時、ここを故郷として創り変えようと企んだ。しかしその計画はレドラによって粉砕された。
ウィルカインストは敗北した。そしてこの世界を創り変えるのではなく、脱出して故郷の次元へ帰還する方向へ舵を切った。
「ともかく破滅太陽が封じられると困るのさ。異次元開拓を支えているのは、この世界の空に輝いている破滅太陽の残滓だ。その力は無人の異次元を照らし、人々が住む土地へと変える。異次元へ分霊してなお尽きる事ない無限のエネルギー。これを封じるだなんてもったいないじゃないか! 僕の故郷が見つかるまでは──ッ!」
「残念ですがもう無理です。そろそろ魔王が動き出す頃合いでしょう。そうですね、猶予は後一年といったところでしょうか」
開拓の速度はもはや一日に五百から六百もの異次元を拓くほどに高速化している。数千年の間にノウハウが蓄積され切っており、人類の総数も数千極と膨れ上がっている。
単一世界ではありえないマンパワーと、残滓ですら永久に稼働し続ける太陽光照射装置と化す破滅太陽が異次元開拓の要である。
「破滅太陽の力を今なお増え続ける開拓異次元に持って行ってるんだし、いくら残滓とはいえその総量は銀河数個分にも匹敵すると思うんだけど。それでも破滅太陽が本格的に稼働するって思ってるのかい?」
「その銀河という単位は知りませんが、破滅太陽からすればそれは薄皮が一枚剥がれた程度のものです。そも、調停者の力で蓋をした上で六法愚者第一法の全能力を代償にして封じていたものを、
異次元への分霊程度で代替できるわけがないでしょう」
レドラは現状を把握している。魔王の目的も凡そ検討はついているし、だからこそヴァルハイトの潜入にも協力した。
当の本人はその好意に泥を塗った上でとんずらかましたので処されたわけだが。
「結局、わたくしがダンジョンに行こうと行くまいと同じことです。もう世界の破滅は止められない。ならばもうマシな結末へ着地させるしかありません。おそらくは調停者の帰還と異次元への航路を全て遮断する事になるかと思います」
「……それは、認められないんだけど?」
「認める認めないの話ではありません。何度も言いますが、世界にはもう猶予がありません。破滅太陽が完全に目覚めてしまえば、世界が全て光となる。──私は調停者からそのように聞いています」
それはすなわち、世界に光しか存在しない死の世界。そこにはあらゆる生命、あらゆる空気、あらゆる大地、あらゆる大海。その全てが存在を許されない世界だ。
森羅万象とは光であり、光こそが全である。
「航路を遮断された異次元はどうなる? そこに住む人々は?」
「世界の繋がりが絶たれるのですから、そのまま時空の彼方に消し飛んで終わりでしょうね。この世界の破滅太陽を封じ込めるだけでも一苦労なんですよ? 異次元に散らばった残滓まで封じるにはリソースが足りません」
「だから全てを無かった事にすると?」
「あなたが始めた事業でしょう。数千極の人類が数十億に減る程度で世界の破滅を回避できるのですから安いものです」
人の命を何だと思っているとウィルカインストは激怒するが、レドラは一切取り合わない。
言うべきことは全て告げたのだ。後は彼がどうするか。ただそれだけなのだ。
世界修正の刻限はもう間近に迫っている。
更新を再開しますが、以前よりは更新ペースが落ちる予定です。
具体的には週二回更新から週一回更新になります。