大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
檀司郎は目を覚ます。身体に不調は感じられない。ならば蘇生は正常に行われたのだろう。
近くには桃華もおり、彼女も既に目を覚ましていた。
「桃華、大丈夫か?」
「ええ。檀司郎も問題なさそうですね。動きますか?」
「少し装備を確かめる」
プレートアーマーのヘルムとグリーヴに魔力が通る事も確認する。魔法の発動も大丈夫そうだ。
ふと周りを見回して、檀司郎は疑問を口にする。
「しかし、ここにもネエクはいないか」
「あの空間にもいませんでしたし、遠い場所に落ちたのでしょうか?」
「それだけだといいが……」
ネエクは強い。かつてのヴァルハイトも太鼓判を押していたし、魔境のモンスターが相手とはいえそう簡単に殺されないだろう。
桃華の
その桃華が何の怪我も負っていないのであれば、少なくとも外傷などはないはずだ。
肩代わりできない、たとえば窒息や病気などの不調が起きている可能性もないわけではないが、分からない以上は考えていても仕方がない。
「もしここが最後に聞こえた声の通り、五百三十三層ならこの先に広場があったと記憶している」
「特に戦闘音は聞こえてきませんね。行きますか?」
「次の階層への階段が広場の先だからな。行くしかない」
入念に身体を動かし、問題ない事を確認した檀司郎は広場に向かって、目の前の通路を歩き出す。
周りは石材のようだが、手で触れればピリつく刺激が感じられる。ダンジョン特有の謎素材であり、ダンジョンの外では一瞬で砂となって崩れる。
しかしダンジョン内ではかなりの頑強さを誇り、これを打ち砕く事など出来はしない。その筈なのだが、これをいとも簡単に崩落させた犯人がいるというのだから恐ろしい。
六法愚者。自由自在に己の望みを幻想として具現化させる魔法使いという生物の危険性を檀司郎はようやく理解し始めた。
「さて……」
しばらく歩き、辿り着いた広場にはやはりモンスター一匹見当たらない。檀司郎も、桃華も、広場に近づくにつれて薄々気付いた事だ。
ここは既に強者の
「ようこそ、光の姫君。そして死ぬ運命にあるイレギュラー」
では強者とは誰か。決まっている。今、広場の中央に陣取っている女性。
乳白色の長髪を流し、白磁の肌を黒いドレスで装飾した彫刻。その風貌は生物とは思えぬほどの美しさで、同時に見知った既知の姿。
「……よりによって、あんたもなのか。レドラ先生」
トレードマークのくたびれた白衣は既にない。レドラと瓜二つの彼女はただ、ドレスと同じ色の笑みを浮かべている。
「……聞きしに勝る、愚かさですね」
その口からレドラと同じ声で、レドラではあり得ない
完全な奇襲に檀司郎は思わず押し黙る。
「その程度の知能で、よくも恥を知らずに生きれたもの。レドラとはいったい誰なのか。まさかわたくしの事ですか? 汚らわしい人間めが。阿呆だ阿呆だと思ってはおりましたが、わたくしの事すら何も知らぬとは。ならばもう生きる価値も無いでしょう。なぜあなたは死んでいないのです? 疾く死ねばよろしい。猿のごとき低能に、かの姫君は相応しくありませんね」
これは本当にレドラなのか。いや、おそらくはレドラではないのだろう。
ヴァルハイトと違い檀司郎や桃華を前にしても一切の感慨を見せず、それどころか彼女の中で二人は格下であると認識している。
それは魔法使いの生態ではなかったか。檀司郎の頭に熱が宿る。
「しかしわたくしは寛大です。アルベルトとヴァルハイトを打倒し、ここまで来たイレギュラーには褒美を与えねばなりません。畜生以下の低能として今まで生き、そして自覚症状すらなかった哀れな生命を赦しましょう。えぇ、わたくしは寛大ですから」
とても寛大とは思えぬセリフに檀司郎は笑うべきか否かで悩む。
これはギャグか? 否、本気である。本気でジョークとしか思えぬのぼせ上った言葉を吐いているのだ。実に魔法使い的思考と言えるだろう。
「自称寛大なあんたは誰だよ」
試し切りとばかりに言葉を飛ばす檀司郎に、眉間に皺が寄る魔法使い。
煽り未満の発言に不快感を顔に出すのは、魔法使いの生態を引き合いに出したとしても未熟に過ぎる。やはり彼女はレドラではない。
悠久を生きる
だと言うのに目の前の魔法使いは表情を僅かに変えるほどの反応を見せた。あまりにも精神が幼過ぎる。レドラほど生きていない。檀司郎はそう結論付けた。
「……ええ、いいでしょう。確かに、下等生物に魔法使いの道理を理解できぬもの。わたくしもまだまだ勉強が足りませんね。しかし、このまま名前を間違え続けられるのも不愉快です。ありがたく我が名を拝聴なさい」
長い。くどい。アルベルトといいこいつといい、魔法使いは一々回り道しながら喋らないと我慢ならない病気にでも罹っているのか。
己の口から飛び出しそうになった言葉を必死に飲み込む檀司郎。
一方桃華は神妙な顔で魔法使いを見ているが、檀司郎と同様に鬱陶しいという感情を隠しきれていない。
「わたくしは『六法愚者』第四法【豊穣災禍】レネドクラエ。役目は二つ。一つ、そこの姫君を魔王へと献上する事」
そして。そう続けるレネドクラエは、自分の足元の地面をズルリと動かす。意のままに空いた穴の中には、既に虫の息となっているネエクの姿。
「──なッ!?」
「一つ、イレギュラーを排除して姫君を生贄とした世界救済の儀を邪魔させぬ事!」
黒いドレスから無数に生える手がネエクの身体を覆っていく。その瞬間、檀司郎は二振りの鉄槌を構えて突進する。しかし、それはあまりにも遅すぎた。
「もう既にこれの役割は終えました。ゆえにこうして、わたくしが処分をしているのです。いわゆる、製造者責任というやつですね。これの身体を解析されて、コピーを作られるのも面倒でしてね。後腐れなく潰してしまえばいいでしょう」
グシャリ、と。水気を含んだ何かが潰れる音がした。
「まあまあ役には立ちましたよ。イレギュラーの動向やある程度の強さを知る事ができました。ですが、これ以上の情報収集は不要です。イレギュラーはわたくしの敵にはなり得ないと判断しました。──よって、役目を終えた端末は殺処分。実に合理的ではありませんか? だと言うのに、イレギュラー。なぜあなたはそんなに顔を真っ赤にしているのでしょう? 風邪でもひきました? それで死んでくれれば、わたくしとしても手間が省けるのですが」
まあ、風邪で愚図が死ぬのならこんな苦労はしていませんがね。そう続けるレネドクラエの言葉など、もはや檀司郎は聞いていなかった。
「──死ね」
短く、檀司郎はレネドクラエに向かって死刑宣告を投げつけた。