大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金 天海
「【善き者達には豊穣を、悪しき者共に災いを。選び、与える事こそ我が権能】」
レネドクラエの口から唱えられた魔法の呪文。これは幻想をこの世界に喚び起こすための言霊。
それにあわせて地面が震え隆起する。すなわち、レネドクラエの権能とは──。
「【
大地そのもの。ネエクが揮った土の幻想とは比較にならぬほどの規模である。
土の属性であるものであれば何でも操る事ができる汎用性と、地形すら意のままに変える事ができる暴力性が合わさった、まさに魔法使いの頂点の一つに相応しい幻想と言えるだろう。
「それがどうした」
だがしかし。その程度で檀司郎が怯む事などありえない。
大地を意のままに操る。ああ確かに、それは強力な魔法だろうさ。
だが、それだけだ。強力なだけ。直撃すれば死ぬだけ。ならば何を恐れる必要があるというのか。
人間、これよりも小さい規模の攻撃でも死ぬのだ。かつてネエクが操った土の槍をブスリと刺せば、それだけで致命傷になり得る。
これ見よがしに地面をボコボコせり上がらせながら、見た事のない鉱物の雨を降らせているレネドクラエ。つまり目の前の魔法使いは、人間のスケールに合わせた攻撃ができない。
全てが大振り。全てが必殺。マウントを取らねばダメージを与える事が出来ない魔法使い同士の戦いであれば、それが正義だっただろう。
しかし檀司郎は魔法使いではない。ヴァルハイトから神秘的防御を揺さぶる力を与えられただけの、ただの人間なのだ。
「さぁ、潰れなさい」
檀司郎に向かって無数の鉱石が殺到する。地面に落ちて砕けようとも、その破片は狙い違わず檀司郎の身体に飛んでいく。
物理法則など魔法使いの幻想には無意味。それはネエクの攻撃を見ていた檀司郎には分かり切っていた事だった。
鉄槌を振るい、降り注ぐ鉱石を根こそぎ弾き飛ばす。一瞬だけ空いた空間に無理矢理身体をねじ込み、同じ動作を繰り返す。
少しずつではあるがレネドクラエに近づいている。しかしそれを許すほど彼女も甘くない。
「【金剛掌】!」
鉱石の雨を躱している最中、地面から飛び出した巨大な
それも一発や二発ではない。無数のダイヤが蠢き、檀司郎を圧殺せんと暴れ狂う。
「邪魔だ!」
ダイヤの特性、完全な
両手に持つ二振りの鉄槌が、レネドクラエが誇るダイヤを砕かんと唸りを上げる。
その檀司郎の渾身に対し、レネドクラエは鼻で嗤って切って捨てる。
「阿呆めが」
レネドクラエの金剛掌は砕けない。砕けるわけがない。現実のダイヤを幻想のダイヤ同一視するのは阿呆のやる事だとレネドクラエは嘲笑う。
靭性? 劈開? いったい何を言っているのか。そんな弱点が幻想にあるはずなどないだろう。
魔法使いの幻想に対して、檀司郎の認識がずれているのだ。幻想とは実在ではないから幻想なのだという大前提を忘れている。
火の幻想が酸素を消費しないように。土の幻想の破片が敵を追跡して飛んでいくように。レネドクラエの金剛掌は決して砕けない。
なぜならレネドクラエはダイヤこそが最強だと信じているゆえに。魔法使いの信じるという言葉は、狂信と言い換えて構わない。
最強たる己が信ずるのだ。ならばそれは最強である、と。至極単純な理屈であり、常人には理解が及ばぬ。だが、魔法使いにとっては常識の範疇。
「舐め、るな……ァッ!!」
砕けないというのであれば、無理矢理どかせばいい。押し迫るダイヤの群れを鉄槌で叩いて撃ち飛ばす。
瞠目するべき怪力である。本当に人間か疑わしくなるが、現に檀司郎はその方法で金剛掌を搔い潜っている。
金剛掌は生成されてから一定時間で消えている。溢れんばかりのダイヤがダンジョンの広場を埋めてしまわないのは、出現させる幻想に制限があるからだろう。
「なるほど、百鬼夜行ってやつの限界か」
魔王が与えた肉体ゆえに、そのスペックを超える魔法を使えない。一度使ってしまえば肉体が耐えきれずに自壊する。
現にヴァルハイトが己の幻想を揮って消えていた。その情報は真実なのだろう。だからまだ檀司郎は死んでいない。
最初から全力であれば言葉も発せずにあの世逝きであっただろう。百鬼夜行という枷により、檀司郎はレネドクラエと勝負という土俵が成立している。
とはいえ、これは檀司郎の死ぬ確率が僅かに低下しているだけに過ぎない。百鬼夜行で本来よりも魔法の質が下がっているといえど、幻想が必殺であるという点は何一つ変わらない。
「さあ、さあ、さあ! みっともない悪足搔きはやめなさい。神妙にするというのなら、あなたがネエクと呼んでいた端末のように、苦しむ暇もなく潰してあげましょう」
「俺がお前を潰してやるよッ!!」
だが、いくら金剛掌を退けたとしてもきりがない。レネドクラエは未だ動かず、幻想のダイヤを生み出し続けている。供給を断たない限り、檀司郎に勝利はない。
死角から迫ったダイヤに跳ね飛ばされる、その刹那に鉄槌の殴打を迫るダイヤに無理矢理叩き込んで反動を生み出し、自ら後ろへ跳躍する。
思考の回転を止めてはならない。諦めてはならない。生き残るのは常に頭を使い続けた者だ。勢いづいた跳躍で吹き飛び、壁に叩きつけられる事になろうとも思考にノイズを奔らせない。
どうする。どうする。どうする──沼の如き深みに嵌るその寸前、檀司郎の耳に声が届いた。
「はぁ、はぁ……そ、【其は、守護を尊ぶ……支配の、一翼──
桃華の魔法が檀司郎の身体に馴染んでいく。かなり消耗しているその様子に檀司郎は困惑するが、続く桃華の言葉に思考を切り替える。
「時間を、稼いでください」
血まみれの桃華は檀司郎へ命じる。時間を稼げ。後は全て引き受けると。
その様子で全てを悟った檀司郎は間髪入れずに頷いた。
「分かった」
檀司郎は疑問を思い浮かべない。桃華が時間を稼げと言った。ならば檀司郎の役割は彼女を相手に生き残り、攻撃に当たらないよう立ち回る事だ。
渾身の一撃は必要ない。レネドクラエが鬱陶しく思えるくらいにこの戦場をかき乱す。
檀司郎は己の仕事を全うすべく立ち上がる。桃華を信じているから。彼女がこの戦況を打開できると疑わない。ならば足を引っ張ってはならない。
「死なない事は得意だ。じゃないと魔境まで来れてないからな」
さあ始めよう。そう簡単に殺されると思うなよ。
ヘルムの奥で檀司郎は覚悟を決めて笑みを浮かべた。