大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
煌めくダイヤの塊が四方八方に乱立する。地面は絶えず揺れ動き平衡感覚を狂わせるが、それらは檀司郎の枷にならない。
百鬼夜行のスペックに合わせて幻想をデチューンしているとは言え、直撃すれば死以外の結末などありえない。この状況で檀司郎に対して決定打を与えられていない現状にこそ、レネドクラエの傲慢が見て取れる。
本気で相手をする必要が無い。百鬼夜行の身体で揮える幻想を力任せにぶん回しているだけで、そこにレネドクラエの戦術、戦略が見えてこない。
勝利条件である桃華の確保と檀司郎の殺害を達成する為にどうするか。
鉱石の雨と金剛掌以外の動きが無く、いわばだれた状態だ。弛緩しきった戦場に、レネドクラエは飽いて思考に隙を晒している。
いくら攻撃を重ねても檀司郎は未だ健在だ。加えて一度攻撃が当たったものの、檀司郎の機転でただ壁に跳ね飛ばされただけに終わっている。致命傷には程遠い。
レネドクラエとしては大規模な幻想で脅しをかけ、
「だからまだ、付け入る事ができるわけだが」
レネドクラエを本気にさせてはならない。己の肉体を爆散させてでも殺しに来るような、捨て身を誘発させる状況を作ってはならない。
時間を稼ぐ事が目的であれば今の状況は檀司郎に味方していると言っていい。ぬるま湯を連想させる停滞は、レネドクラエの全力を引き出す導火線を確実に湿らせている。
「もう少し遊んでやる。そら、こっちだマヌケ!」
「そうですか」
檀司郎の発言に、レネドクラエは一切の違和感を拾わない。下等な人類の言葉に警戒するできるほどレネドクラエは熟していない。
しかしそれは、この停滞を打破する為の一撃を放つという意識を脳裏に浮かばせるほどに若いという事でもある。
「ならば手を変えましょうか。【金剛砲】!」
大地に砲台が創られ、そこに幻想の土で固められた無数の砲身が姿を現した。
弾は金剛。一山いくらとばかりに砲台の後ろに積み上げられた塊が、砲身へと装填される。
「どうです? 良い趣味でしょう?」
「悪趣味だな」
レネドクラエの自慢気な声を、檀司郎は無情の一言で吐き捨てた。
檀司郎の態度に怒りを覚えたレネドクラエは、己が創り出した砲台群に発射命令を下す。
「肉片一つ残しません」
砲台が火を吹いて、音速を超えてダイヤの弾が射出される。その威力、密度、攻撃速度。どれをとっても先程とは比較にならぬ。
呆けて立ち尽くしていればミンチは必定。ならば足を動かし、鉄槌を振るい、ダイヤの砲弾から逃れなければならない。
耳を千切り飛ばさんばかりの轟音と、五体をバラバラに分解されそうになるほどの爆風。加え、先程までの攻撃がお遊戯だと錯覚するほどの烈震が檀司郎の肉体を揺さぶる。
ダイヤの砲弾は当たっていない。当たらずとも砲撃の余波である不協和音の
しかし檀司郎はまだ死んでいない。確かに砲撃の爆風に晒されているが、ダメージはさほど負っていない。
桃華からの
檀司郎が死ななければレネドクラエは攻撃を続けるしかない。イレギュラーを殺し、桃華を連れて行くために。だからこそ檀司郎は今、最も不死に近づいていると言っても過言ではない。
「どうした!? 俺はまだ死んでいないぞ!!」
「図に乗った下等生物がッ!!」
死ななければレネドクラエの余裕を削り取り、隙を晒させる機会に恵まれる。レネドクラエの傍には未だに無数の手が重なり、ネエクの墓標のようにその存在を誇示している。
意識はおそらくしていない。レネドクラエは
ダイヤの爆撃をいなしつつ、檀司郎はレネドクラエに対する攻撃をどのように通すかを考える。
このまま逃げ続ければフラストレーションの溜まったレネドクラエが、更にもう一段階強い攻撃を繰り出してくるだろう。
その内容が読めない以上、これ以上の猛攻は何としても抑えたい。ならばどうするか。
大事なのは演出だ。攻撃が効いているとレネドクラエに錯覚させる事。攻撃への手応えを感じさせる事だ。
柳に風とばかりの反応ではレネドクラエは白けるだろう。そうなればもはや、桃華の事すらどうでもいいと殺意の過剰積載でこちらが潰されかねない。
「とはいえ、どうするか」
当然だが攻撃を喰らってやる義理はない。そうなれば檀司郎はともかく、
考えて、思考して、頭を回して──結局、思いついたのはいつも通り。バカみたいなゴリ押しで戦闘に興じるというものだった。
「下手に考えたところで、どうせ上から潰してくるような生物だしな!」
檀司郎にダイヤの砲弾を見切れるような動体視力はない。しかし今は
時間稼ぎに必要な能力を、檀司郎が必要とする域にまで押し上げてくれる。
射出される砲弾を捉え、鉄槌にて撃ち返す。強化された膂力は檀司郎の狙い通りの結果を生んでくれる。
ダイヤを撃ち返した先にはレネドクラエ。己が最強と信ずる金剛石の一撃を受ければ、彼女と言えど無傷では済まない。
「あらあら」
だのにレネドクラエは動かない。動く必要すらないとばかりに笑って、哂って、嗤っている。わずかな時間の間に嘲りを滲ませながら、ダイヤの砲弾が命中した。
地を抉り、華奢に見えるレネドクラエの肉体を吹き飛ばしかねない衝撃と爆音。舞い上がる砂煙がレネドクラエの姿を覆い隠している。
「あははははは──ッ!」
そして響く彼女の哄笑。ダンジョン内に轟かんばかりに響く声は、何よりも傲慢に己の健在を知らせていた。
どうした。こんなものか。この程度で魔法使いを倒せると夢を見たのか。
下らない、下らない、下らない。実に浅知恵。所詮は下等な人間か。
「もういいでしょう。充分でしょう。いい加減に理解したでしょう。あんよが上手とあやすのも一苦労なのですよ? わたくしは疲れました。魔法使いとしてイレギュラーたるあなたに名誉の戦死を贈ろうと思っていましたが、どの道望んでいないのでしょうし」
砂煙の奥から雪崩れ込むのは無数の手。圧殺しても構わないとのレネドクラエの意志を反映してか、波濤のごとく容赦がない。
手荒な波に潰されながら、しかし檀司郎の目は死んでいない。外傷はまだ負っていないからだ。まだ桃華へダメージは入っていない。
ならば、檀司郎の役目はまだ終わっていない。
「邪魔くさいんだよ。回りくどいんだよ。だからこうして」
ゴキリ、と。檀司郎は無造作に掴んだ手の束を躊躇いなく握り折った。檀司郎にとってもはやレネドクラエは怖くも何ともない。
ゆえにここでヴァルハイトから与えられた力が──神秘的防御を揺さぶる力が最大限の効果を発揮した。
「下等な人間とやらにバカにされるんだよ。マヌケが!」
「ぎぃ……ぁ……ッ!!」
たかがほんの一握りの手の骨を折られただけ。それは
しかしそれでも痛みは痛み。
下等な人間が、よりにもよって至高の魔法使いたる己に痛みを感じさせた。それはもはや罪と呼ぶのも生温い。万死に値する。レネドクラエはそう本気で信じている。
消さねばならぬ。そう、この痴態の原因たる人間を排除せねばならぬ。ゆえにレネドクラエの頭は完全に戦闘状態へと切り替わる。
「ありがとうございます、檀司郎。後は私に任せてください」
そして、檀司郎の役目もまた終わりを告げる。
「さぁ、反撃開始といきましょう。
その声に呼応するかのように、ネエクを潰したと思われていた手の墓標が、下から突き出てきた無数の土の槍で貫かれた。槍衾と表現できるほどにズタズタと貫かれていく。
檀司郎に手を折られた瞬間から、レネドクラエの神秘的防御がこの上なく揺らいでいる。桃華に命じられ、
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ──ッッ!!!?」
ゆえにこの結果は必定である。
今度こそ、レネドクラエはたまらず獣のような悲鳴を上げる事となった。