大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
「よくも……よくも、よくもッ!!」
「さて」
レネドクラエの血を吐くような怨嗟に、桃華は反応すらしない。する価値もない。
戯言を垂れ流すのは
土の槍でその手を貫いたネエクは、未だ消えぬ数多の手の墓標で静かに眠っている。レネドクラエを完全に殺さない限りネエクとの合流は不可能だ。
「どうしたものでしょうね」
動き出さぬレネドクラエを前にして、百瀬桃華は思案する。
今も呻きながら怒りに身体を振るわせているだけで、レネドクラエは幻想の具現化を止めている。
神秘的防御を一度貫かれた魔法使いは脆い。己こそが最強であるという真実が虚実と化し、信仰が揺らいで破滅する。
魔法使いの典型的な敗北パターンだ。現代ならいざ知らず、かつて六法愚者が活躍していた時代ではさして珍しいものでもない。
そういう意味では既にレネドクラエは敗北していると言えるだろう。神秘的防御が剥がれた魔法使いなど
そういう価値観で生きるのが魔法使い。最強からごみへの転落に並みの魔法使いは耐えられない。エリートからもどきへ。玉から石へ。墜ちた者は救われない。手を伸ばす者などいる筈もない。
「一種の社会不適合者というわけですね。自分が強いから他者を何も気にしない。力の強弱で相手を推し量って悦に入るのは、あなたにとってはさぞ楽しいものだったのでしょう」
己の上には誰もいない。頂点は常に己である。いっそ貧しいとも感じられる価値観こそが魔法使いの全て。
格下狩りしかやれない者に、同格以上の存在への対抗手段など持ち合わせている筈もないし、その気概もないだろう。
「わた、くし、は──ッ!」
「それはそれとして。私は今すっごく怒っています」
それでも尚、幻想で牙を剥かんとするレネドクラエ。それを足蹴にして地に伏せさせる桃華は穏やかに、そして確かな赫怒を以て告げる。
「な、にを……?」
「ネエクちゃんを殺そうとした事ですよ。
ゆえにこれは報復である。桃華は絶句するレネドクラエに突き付けた。
光属性の魔力が全身を覆う。その様は殺気を膨らませる悪鬼のそれだ。百瀬桃華の内に眠る暴力性が表に現れようとしている。
「ひ……っ」
息が詰まるレネドクラエには、もはや魔法使いとしての傲慢性は消し飛んでいた。挫折から立ち上がれぬ魔法使いは死んだも同然。ゆえに。そう、ゆえに──。
レネドクラエは今、ここで死ぬのだ。
「檀司郎に稼いでもらった時間で魔力を練り上げ、全身へ纏わせました。大抵のモンスターであれば一撃で粉砕できるほどに。あなたは、どうでしょうかね?」
光属性の魔力はモンスターへの特攻を有している。それが高密度に練り上げられて全身を覆っているとなると、もはやモンスター殺戮兵器と言うべきだろう。
「舐めるな……わたくしを、見下ろすなアアァ!!」
「言葉も取り繕えませんか」
一瞬の内にレネドクラエの全身がダイヤの鎧で覆われる。決して砕けぬレネドクラエの幻想たるダイヤが、完全無欠の要塞と化して輝いている。
「この【金剛身】を砕けるものか!!」
「じゃあ試してみましょう。それっ!」
決して気負う事なく、桃華は魔力を纏わせた拳を振るう。レネドクラエは己の金剛にて桃華の拳が砕ける様を幻視した。
つまりレネドクラエは現実を見ていない。悪い意味で無我となり、空想を現実に重ねてしまった。
魔法使いが己の幻想を信仰ではなく過大評価した。それはつまり、幻想を揮う資格を失ったという事だ。
まず最初に響いたのは硬質な何かが砕ける音だ。レネドクラエは薄く笑い、そして何が砕けたのかを理解した瞬間に顔面が凍り付く。
最強を誇る金剛が、所詮は
「──なッ!?」
「吹っ飛びなさい」
轟。およそ拳を振るったとは思えぬ音を置き去りにしながらレネドクラエの鳩尾に叩き込まれた。
身体をくの字に折り曲げられ、血反吐をまき散らし、ダンジョンの壁に叩きつけられた。
「あり、えない……っ!!」
呼吸するのも一苦労な様子で、レネドクラエは信じられぬと驚愕を吐き出す。
あり得ない。あり得ない。あり得ない。これは夢か。幻か。魔法使いがただの人間の拳で吹き飛ぶなど、あってはならない事態だ。
己は最強。己が頂点。絶頂を極める己が強さは、たとえ世界が滅ぼうとも決して死ぬ事はない特別な存在。
「わたくし、は、六法愚者だ」
魔法使いの頂点。己の上に立つ者など誰一人として存在しない。
「わたくしは最強だ」
そうとも。人類とは比較にならぬ強大な力で全てをねじ伏せる。勝利を約束された存在。
「わたくしは無敵だ」
誰一人。そう誰一人として己を倒す事などできはしない。寿命以外に死ぬ事など決してあり得ない。ゆえに、悠久を生きるレネドクラエは不滅を謳うのだ。
「わたくしが、世界だッ!!」
怒号と共に放たれたのはダイヤの砲弾。まだ稼働している砲台群が、一斉に桃華を狙う。
檀司郎でさえにやり過ごすには桃華の魔法による行動強化が必要だったのだ。桃華に躱せるほどの身体能力はない。
「ここに至っては全て殺しましょう。破滅太陽が何だと言うのですか。その上で生きればいいでしょう。わたくしは選ばれた存在なのだから!」
殲滅せんと吠え叫びながら最強の砲弾が桃華に飛来する。しかし桃華は何一つ狼狽えない。焦りすらしていない。
なぜなら彼女は信じているのだ。彼の言葉を。共に生きたいという彼の願いを。
「張りぼての最強が何を偉そうにしている。ここで引導を渡してやるよ」
レネドクラエの金剛砲、その砲弾は全て檀司郎の鉄槌によって叩き落される。
檀司郎がいる限り、レネドクラエに桃華を殺す事などできはしない。
その現実を直視する事なくダイヤの砲弾を射出し続けるレネドクラエ。その有様に檀司郎はため息を吐きながら、砲弾の雨に向かって突進する。
既に金剛砲は見切っている。戦闘の駆け引きというものを、レネドクラエは何一つ理解していない。ゆえに見苦しいのだ。その足掻く様が。
「なぜ、なぜ、なぜッ!!」
「お前が、弱いからだ!」
檀司郎の鉄槌がレネドクラエの脳天に叩き落された。神秘的防御など当然のように貫通する。
この期に及んでもはやレネドクラエが格上であるなどあり得ない。ただのモンスターのように、