大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
「レドラ先生は、あの生物を魔王の前まで連れて行くと言っていましたが……」
「魔王が力を完全に取り戻せば、ウィルカインストの異次元開拓事業が潰れますからね。ですので、直談判の機会を与えようかと」
魔王が復活すればダンジョンという場所は不要となる。そうなれば魔王の力が世界を包み、昼夜という概念がようやく戻る。
常に太陽に照らされ続けたこの世界に闇夜という帳が下りるのだ。
「この世界を照らす太陽こそ、魔王──世界の調停者たるレズヴェルが封じていたものなのです。それが破滅太陽。光属性以外の概念を全て塗りつぶす原初の無極。レズヴェルはそこに正反対の力──闇属性を加えて
「それが事実なら、文字通りの世界創造神話ですね」
少なくとも、レドラの様子からして嘘は言っていないのだろう。檀司郎は続きを促す。
「今の状況は、
「俺が?」
「より正確に言うならば、魔力測定で不可判定になった人ですね。その原因が闇属性を持っているから。地上において失活する魔力では正常に測定ができませんし、ダンジョン内では測定器などまともに動作などしません。何せダンジョンの構成要素、モンスターのみならず壁や床、空気に至るまで闇属性の産物なのですから」
つまりは地上と真逆の環境だ。闇属性に満ち過ぎて、長期滞在によって異常をきたす。
「
これが
元から闇属性の魔力を持つ人間であれば、魔力が失活しようとも身体の組成は崩れない。魔力を持つ事と、魔力が汚染される事は別物なのだ。
また、怨念や妄執が力となって宿る魔剣や妖刀の類もまた闇属性の範疇だ。だからこれらも光属性に満ちた地上ではその力が失活する。
曰くつきの武器を溶かし固めた檀司郎の鉄槌も同様だ。そんな武器を扱い、ダンジョンでの長期滞在が苦にならないのは檀司郎が闇属性の魔力を持つためだ。
「その理屈なら俺は地上で何らかの異常が発生していないとおかしいのでは?」
「自分の魔力が失活しておいて、何の支障もないと言えるのは檀司郎君くらいでしょうね」
地上で力を発揮しない。それが闇属性に課せられた枷なのだが、檀司郎は特に気にしていなかった。ダンジョンに潜れるならば、地上で魔力が使えなくとも関係ないと。
「今では魔力発電が主流ですが、この技術が開発されていなかった昔……それこそダンジョン黎明期のエネルギー源は自分の魔力です。魔動式機械の話は歴史の授業でも習ったでしょう? 闇属性の者たちは文明の利器が扱えず、劣等種として差別されていました。現代は闇属性の者たちにとっては楽園でしょうね。差別されうるのは魔力測定の時くらいなのですから」
この魔力測定にしても、一般人が受ける機会などほぼない。ダンジョンを探索する上で呪詛に──闇属性の魔力に耐えうるだけの保有量があるかを確かめるためのものに過ぎないからだ。
魔力測定での不可判定は、ダンジョンを探索できるくらいの滞在時間を確保できないほどに魔力が少ない事を意味している。
その中には、闇属性であるがゆえに魔力が失活して正確な保有量を測定できていない者も当然含まれている。
「……その話が、なぜあの生物を魔王の前に連れて行く事に繋がるのですか?」
「魔王が完全に復活すれば、無極たる破滅太陽の力を抑え込み、再び
「まさか、異次元の人工太陽の話ですか?」
「ええ。大本の破滅太陽を封じても、その残滓がこの世界と繋がった異次元に散らばる破滅太陽の残滓が残り続ける事になる。それが第二、第三の破滅太陽になる可能性がある以上、魔王は異次元開拓事業を潰すしかありません。そう説明したのですが、それではウィルカインストが納得できないと駄々をこねるので、わたくしの用事ついでに魔王の前に引っ立てようと思いまして」
レドラの顔には壮絶な笑みが浮かんでいた。よほど腹に据えかねる駄々のこねかただったのだろう。
「もちろん、ウィルカインストにも考えがある筈です。そうでなければあれはもっと必死に抵抗しているでしょう。唯々諾々とわたくしの後をついてくるような能無しであれば、もっと気が楽だったのですがね」
魔王との交渉か、あるいは暗殺か。いずれにせよ魔王に対して何らかのアクションを起こすつもりだろう事はレドラも理解している。
理解した上で尚、連れて行くという事はウィルカインストの行動は何ら問題にしていないという事だ。
「あれに魔王は殺せない。むしろあれに殺される程度の強さしか残っていないのであれば、どの道この世界は終わります。既に世界の破滅は秒読み段階。世界の命運を握る分水嶺はすぐそこまで迫っています」
静かに語るレドラに、檀司郎は引き攣った笑みが浮かんでくる。もしかして、この世界はもう詰んでいるのではないだろうかと。
「想像以上に、世界存亡の危機だったりします?」
「はい。わたくしの百鬼夜行も言っていませんでしたか? 百瀬桃華を魔王の元へ連れて行くと。魔王はずっと探していたのですよ。次代の六法愚者第一法、光と闇を共存させる救世主を」
六法愚者第一法は特別だ。この席だけは魔王が、レズヴェルが認めた者でなければ座れない。その資格を持っているとされる候補者。
永い間現れなかった存在が、世界破滅の瀬戸際で見つかったのだと言う。それこそが百瀬桃華なのだと。
「世界救済の生贄にすると聞きましたが」
「間違ってはいませんね。世界の中心、魔王の玉座たる特異点にて第一法の役割を継承してしまえば、少なくとも数千年は地上に出る事など叶いませんから。……檀司郎君。あなたは彼女と世界、どちらを取りますか?」
「そうですね……」
わたくしはどちらでも構いませんよと、雑談のようにレドラは檀司郎へ究極の二択を突き付ける。百瀬桃華との永遠の別離か、世界の終焉か。
第三者であれば選択肢にもならないが、当事者である檀司郎にとっては何よりも重い選択となるだろう。
それを受けて檀司郎は少し考えて。
「その特異点、俺も滞在できませんか? できないなら魔王から玉座を奪いますよ」
「──く、ふ、ふふふ……っ! あっははははははははははははははは!!!」
檀司郎の答えにレドラは腹を抱えて爆笑する。可笑しくて可笑しくてたまらないと。
桃華と共にいるためならば、魔王から玉座を奪う事も視野に入れる。これ以上なく無謀で、傲慢で、それでいて面白い。
「なるほど、なるほど! 彼女が特異点から出られぬなら、玉座そのものを簒奪すると。ええ、ええ、何とも面白い答えです。世界を救い百瀬桃華を犠牲にするか、彼女を連れ出して世界を見殺しにするかを問うたつもりでしたが。ふふふふふ、あぁなんて愉快な答えでしょう。そうですね。あなたはそのまま突き進んだ方が良いでしょうね」
もはやダンジョン探索で名誉を、栄光を、などと言える状況ではない。しかし、檀司郎の目的はあくまでも桃華と共に生きる事だ。栄光を求めるのはあくまでもその目的を達成する手段でしかないのだ。
桃華と生きる場所が地上でも、世界の中心であっても、檀司郎としては何も変わらない。桃華と一緒にいるという目標を揺るがせるに足るものでは決してない。
桃華と共に在る為に魔王の玉座が必要というのなら、檀司郎は迷う事なく簒奪する。
なぜならば、雄々敷檀司郎は幼馴染たる百瀬桃華と付き合いたいがゆえに。