大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!!   作:水金地火木土天海冥

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39.魔王への殺意

「そっちの話は終わったかな?」

 

 桃華との話が終わったのか、百相院家の当主の姿をしたウィルカインストが陽気に話を振ってくる。レドラの話によれば異次元開拓続行の直談判に行くという話だったが、特に気負っているような気配はない。

 自信があるのか、それとも何も考えていないのか。まさか話せば分かると頭の中をお花畑にしているわけではあるまい。

 

 その能天気さに檀司郎は底知れぬ何かを感じていた。

 緊張はおろか、これから自分が何と対峙するのかすら分かっていないかのような。あるいはウィルカインストにとって身を引き締めるという経験自体がないのかもしれない。

 

「話が終わったなら少し付き合ってよ、雄々敷檀司郎」

「俺に用事、ですか?」

「別に緊張しなくてもいいよ」

 

 にこやかに、ウィルカインストは人好きのする笑みと共に告げる。

 

「これから君を殺すだけだからさ」

 

 それは無慈悲で一方的な死刑宣告。恨み辛み妬みではない。ただ笑顔のままに純粋な殺意が漲る異常事態に檀司郎は面食らう。

 それが決定的な隙を生んでしまった。

 

「メヴァリア・ハウクスの残響──【渦巻く聖風(セントパスカル・ハリケーン)】」

 

 突如吹き荒ぶ暴風に檀司郎はなす術なく囚われる。

 プレートアーマー越しの檀司郎の肉体が削られていくが、プレートアーマー自体には傷一つ付かない。

 正確に檀司郎の肉体にのみダメージを与えているように見える。しかし檀司郎は痛みを感じない。痛覚が全く働いていないにもかかわらず、肉体は確かに傷付いて出血している。

 

「何だ、これは……?」

「これは自然現象さ。あくまでも僕の故郷の次元での話だけどね」

「いったい、何を言っている?」

無限貌(シェイプシフター)は変装だけが取り柄だと勘違いしたかい? 世界を騙すというその意味すら理解できなかったかい? まあ、いいさ。どうせ生かすつもりもないんだし」

 

 削られているのは檀司郎の肉体だけではない。ダンジョンの床もまた、ウィルカインストの起こした暴風で削られている。そして──。

 

「さあて、魔王謁見前の準備運動といこうじゃないか!!」

 

 レネドクラエが檀司郎達を魔境へ案内したように。ウィルカインストはダンジョンの床に穴をあけて檀司郎もろとも更なる下層へと落ちていく。

 

「ッ、ォオ!?」

 

 墜ちる。墜ちる。墜ちる。どこまでも、暗闇の中を浮遊感だけが檀司郎の身体を支配する。

 動けない。鉄槌を振り回したところで何かに当たる感触も無い。殴りつけても反動がなければ、それは身体を移動させるエネルギーにはなり得ない。

 

 そして厄介なのは、檀司郎の身体を削り取るやすりのような暴風が未だ衰えぬという事実。

 これは何だ。ウィルカインストは言った。これは自然現象だと。

 

「こんなアホみたいな風が吹く場所とか、それこそ人外魔境じゃないのかよ」

 

 檀司郎の経験上、この世界で肉体だけを削る風など聞いた事すらない。ダンジョンのトラップでも存在していない。攻略情報に探索者の身体だけを切り刻む風の記述など、どこにも出てこない。

 ウィルカインストの言葉を真正面から受け止めるならば、この風は異次元のものなのだろう。

 

「正確には、僕の故郷にいる聖女の異能さ。かつて強大なデーモンの討伐に貢献した風の聖女、メヴァリア・ハウクスの聖権(オラクル)……と言っても分からないだろうけどね」

 

 ウィルカインストの故郷である世界の常識を説かれたとしても檀司郎には理解できない。そも、理解する為の土台すらないのだ。

 聖女とは誰だ。デーモンとはどんな生物だ。聖権(オラクル)とはいかなる存在なのか。

 

「そもそも理解させる気もないだろう」

「まあね。冥土の土産にしてやる義理もないし。あぁ、君の特殊な魔法──飢餓満たし(アンダバエ)を発動させようとしても無駄だよ。さっきも言った通り、君の身体が削られているそれはただの自然現象だ。ダメージ扱いにならないから、僕の身体に傷が刻まれる事もない。僕の力で故郷の常識を再現させているんだけど、いやーこれなら楽に殺せそうだ」

 

 ウィルカインストの舐めた物言いに、檀司郎は何も言い返さない。こうして落下している間にも身体は削られ続けているのだ。

 少しずつ、少しずつ。蝕むように、確実に、檀司郎は今死に向かっている。

 

 ではどうするか。先程からウィルカインストの声は聞こえているが姿は見えない。

 檀司郎の目にはただの暗闇しか映っていない。このまま座して死を待つのみなのか。

 

「無駄さ。無駄無駄。無駄なんだよ。何もかも、君がやってきた事なんて何の役にも立ちはしない。雄々敷檀司郎。大和国立国際ダンジョン学園の二年生。魔力測定で不可判定になるも、呪詛に侵されないという特異体質でダンジョン探索を許されたイレギュラー。……それで? その情報(バックボーン)が何になる? はっきりと言ってあげようか。……君に百瀬桃華はもったいない。彼女にはもっと別の使い道がある」

 

 ウィルカインストは嗤う。

 

「あれは貴重な存在だ。僕の故郷でも指折りの聖女となれる才能を有した突然変異。なあ、不釣り合いだとは思わないか? 闇属性とかいう地上では何の役にも立たないゴミを持った君と、史上最高の光属性を有した百瀬桃華という存在。どちらが有用なのか、もはや語るまでもないだろう?」

 

 そして墜落に終わりが来る。落下による速度上昇に加え、檀司郎の身を削る風が追い風となってダンジョンの床へ叩きつけた。

 ここはダンジョン第八百三十七層。檀司郎がいたダンジョン第五百三十三層から三百層以上落ちてきたのだ。そのダメージは計り知れない。

 

「──ぅ、グ……ッ」

 

 それでも檀司郎は立ち上がる。たとえ探索者であろうとも死にかねないダメージを負ったとしても、雄々敷檀司郎は殺せない。

 目的を果たすまで死ぬわけにはいかない。ならばどうする。決まっている。

 

「は、ははは。こんな、もんかよ……物真似野郎」

「……ふーん。あっそ」

 

 檀司郎の不敵な言葉に、ウィルカインストは不快そうに顔を顰める。興味がなさそうな言葉とは裏腹に、煮え滾るような怒気がウィルカインストの身体を渦巻いている。

 こいつはここで殺すと、彼の目が告げている。なぜなら──。

 

「君は闇属性の魔力が強すぎる。魔王の玉座を簒奪しかねないほどに。それは困るんだよねえ。異次元開拓が潰されるのは都合が悪いんだよ。だからさあ、僕の為に死んでくれよ檀司郎」

 

 ──魔王を殺す。後継者たりうる者もまとめて消す。その為にウィルカインストはレドラを利用して、直談判という建前を使ってダンジョンに潜ったのだ。

 だから檀司郎が。イレギュラーが邪魔なのだ。確実に消さなければならない。ウィルカインストは新たな聖女の残響を開放すべく、その名を口にした。

 

「シェラス・リフル・ダモクレスの残響──【聖裁の断刃(セントジャッジ・ダモクレス)】」

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