大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
ダンジョン第百四十三層アラクネの巣。人類を強靭な糸で縛り上げ、人型の上半身で捕食するモンスターが群れを成して暮らしているのがここだ。
人類のかたちをしていれば、たとえ
「どうして来たんだ、桃華さん」
「ダンジョン内では昔のように呼び捨てにする約束では? ねぇ、檀司郎」
「……悪かったよ、桃華」
桃華の言葉に檀司郎は肩をすくめる。こうなった桃華は頑固だと彼は既に諦めている。幼馴染でありがなら、普段から距離を置いた話し方をしているのは桃華の血筋が青いからだ。大和の皇族ほどの貴種ではないものの、その青さは檀司郎とは比較にすらならない。
それゆえに、周りの妬みを買わぬよう気を付けているのだ。しかしそれで桃華と檀司郎が疎遠になったかと言うとそうではない。
桃華は先に進んでいた檀司郎を追いかけて、一気にダンジョンを踏破してきている。もちろんソロでだ。普段は固定のメンバーでパーティを学園から組まされているにも関わらず、彼女は独断で檀司郎の隣まで突っ走ってきたのだ。
光属性の魔力はダンジョンのモンスターに対して特攻ともいうべき効力を発揮する。この程度の階層であればソロであろうと問題はない。
そんな彼女がパーティを組まされているのは、希少な光属性の魔力持ちの生還率を上げる為だ。学園側が忖度した結果とも言う。
「それに、私にもここに来る理由がありましたからね」
「一応、聞いてもいいか?」
「入学時にお世話になった先輩が探索していた階層がここなんです。もし死んでいても……何か遺品があれば持って帰ってやりたい、と」
そんな言葉に檀司郎はただ桃華の肩を軽く叩き、気負い過ぎるなと言外に告げた。
死体や衣服は修復されてダンジョンの入り口に転がるが、装備品はダンジョン内に取り残される。
ダンジョン内での拾得物は原則として拾った者に所有権が認められる。売ろうが、使おうが、遺品として弔おうが、それは拾った物の自由だ。
「しかし、聞いていた話とは違うな」
「えぇ。先輩たちからの情報では、この百四十三層は普段アラクネが群れ単位で歩いているとの事でしたが……」
蜘蛛の下半身を持つアラクネたちにとって、乱立する柱と充分なスペースがあるここは絶好の狩場であった。普段であれば悲鳴と戦闘音で賑やかな階層なのだが、今は地面に落ちる水滴の音すら響き渡るほどにしんと静まりきっている。アラクネの姿もどこにもない。
そこへコツコツと優雅な足取りが二人の耳朶を擽った。
「ようやく来たかね、待ちくたびれたよ。ふむ、確かにこれは聞いていた通りだ。今まで随分と……あー、探索者、だったか。それらを見てきたが、明らかに図抜けている。言わばそう、天才であると評されていても不思議ではないほどに。なぁ、百瀬桃華嬢」
このアラクネの巣で非常にリラックスした状態で雑談に興じ始めた
左右の手には一つずつ銀の指輪が輝いている。おそらくは魔法式が刻まれた装具であろうと檀司郎はあたりを付けた。
「ここの異常はお前の仕業か、
「やれやれ、君には聞いていないのだがね。それに
その奇妙な言い回しと長話に檀司郎は内心で舌打ちする。これが
狂い方には個人差がある。それは歌劇のような言い回しだったり、世界に存在しない事象を超え高々と語ったり、あるいは見えないものが見えていたりする。
こういった体内の魔力がダンジョンに蔓延する力に浸食された状態を、ダンジョン汚染とも言ったりするのだが──いくら言葉で取り繕ったところで、仰々しく喋るゴミでしかないのは変わらない。
「時に。これは所謂、世間話というものなのだが君たちに一つ聞いておきたい事がある。殺し殺されはお互い様なのだし、一度棚上げしようではないか。あぁ、別に気を張らなくてもいい。ただ今後の参考にしたいだけなのだ。私はね、ふと思う時があるのだよ。私が殺したやつらと君たちのような凡才と秀才、そして天才。その違いはいったいどこにあると思う? 曰く生まれが違う。曰く環境が違う。曰く才能が違う。曰く、曰く、曰く──山ほどある凡才の言い訳が、真に天才を貶めていると感じた事はあるかね?」
ダンジョン学園の生徒殺害を自白した口が活舌良く回っている。機嫌の良さが注油となり、言葉を吐き出す動作がスムーズになっているのだろう。
今の
しかし彼の本能が、迂闊に飛び出しそうになる足をその場に縫い止めていた。
「たとえばの話だが、歩行者は歩道をマッハ五で歩いても犯罪ではないと知っているかね? 車や魔動キックボードならともかく、歩行に速度制限が付いているかね? 付くはずがない。なぜなら歩行者がマッハ五で歩くという前提が法律にないからだ。そして前提がない事を天才がやってのけ、秀才が方法を確立し、凡才に広まっていく。これが天才、秀才、凡才の違いであると、少なくとも私はそう信じているし、信仰していると言っても過言ではない。これはつまり、私の価値観の話なのだよ」
身振り手振り、身体を大きく動かしながら
隙だらけなのはやはりフェイクか。檀司郎は不愉快そうに鼻を小さく鳴らし、桃華は静かに
「凡人は方法を知らなければマッハ五で歩けない。秀才は努力を重ねてマッハ五で歩けるようになる方法を探し出すが、天才は無意識にマッハ五で歩いてしまう。そうとも。天才とは生きて呼吸するだけで、人を想定した規則、法律、ルールを超越してしまうのさ。その有様は秀才と凡才の能力限界を引き上げ、その果てに策定された法を塗り替える。先の例で言えば、天才がマッハ五で歩いてしまったなら秀才がマッハ五で歩く為の歩法を生み出し、凡才が秀才に倣い、常識となって席巻する。そして法律に歩行者はマッハ五で歩いてはいけないという一文が記載されるわけだ。実に面白いとは思わないか? それはつまり、歩行者はマッハ五で歩いてはいけないという法律があれば人類、いや……人間は空だって飛べる可能性を秘めているという事になるのだから!」
気の触れたご高説は、桃華と檀司郎の心を揺らしもしない。そも
言葉通りだ。ふと思う事があった。だから話した。理由などそんなものでしかなかった。
「それで? その考えがあなたの所業と何か関係があるのですか?」
桃華の言葉に機嫌よく笑う
「もちろんさ。ではお見せしよう! 【其は法を尊ぶ支配の一翼――】」
紡がれるのは魔法の呪文。あらゆる法則を超越する幻想の業。左手の指輪に刻まれた魔法式に魔力が流され駆動する。
魔法発動の前段階、魔法式のセットアップだ。赤く輝く火属性の魔力光が、
「【