大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
それは聖句にも似た響きであった。厳かに、朗々と、自らの力として変じさせるべく宣言された聖女の名。その意味を檀司郎はまだ完全に理解できていない。
だから今、四方八方に出現した巨大な剣の切っ先が向けられても尚、警戒する事しかできない。
「剣の聖女シェラスには、その名とは反対に剣の心得がない。だからこうして弾丸のように飛ばすしかない」
そう語るウィルカインストは、同時に剣へ射出命令を下す。飛来するは剣の群れ。檀司郎は鉄槌を振るい、弾く。
弾けるという事は実体を持っているという事だ。鉄槌とプレートアーマーで、剣は檀司郎の肉体まで届かない。
剣自体も酷く脆い。弾かれた程度で刀身が砕け、塵となって消えて──。
「この剣は確かに実体だけどね。だからといってさっきの風みたいな脅威はない、なんて甘い話があるはずがないだろう?」
剣の生成に使用された物質は、檀司郎の肉体を削った風と同質の力。砕けた剣が空気を漂い、檀司郎の呼吸と共に体内へ。
「ぐ、が──ァ!!?」
そして炸裂。削られても痛覚が無かった風と違い、今度は身を切り裂かれるような激痛が檀司郎を襲う。
「風は皮膚を撫でるだけ。剣は肉を斬り刻む。人が感じる痛痒は全て僕の掌の上だ。世界を騙す
自身が何者にも変わるように。周りの環境も、人の五感さえも自分の好きなように改竄できる。
あくまでも自分の周囲のみに適用される権能でしかないが、人を殺すには充分過ぎる力であった。
「僕よりも格下の生物は跪くしかないんだよ。僕の故郷のデーモンか、この世界の魔法使いだけがこの権能から逃れられる。どちらでもない檀司郎は、ここで死ぬしかないんだ」
魔王の芽を確実に潰す。そして魔王も殺す。かつてレドラに敗北したのは彼女が魔法使いであるからだ。
そしてレドラを除く魔法使いは全て天へと昇ったと、他ならぬ彼女が言ったのだ。ゆえにこの世界にはもう魔法使いはレドラしか存在しない。
それがウィルカインストの認識であった。レドラが殺した自分自身の百鬼夜行も魔法使いではあるのだろうが、所詮は紛い物であり己の権能からは逃げられないと本気で信じている。
「確実に殺したいなら、どうしてあの風を吹かせ続けなかった?」
「……まぁ、あれは殺すのに時間がかかり過ぎる。現に落下中削られていたのに随分と元気そうじゃないか。生命力だけは一丁前だねえ」
本当にそうか? 檀司郎の指摘に一瞬言葉を詰まらせ、少し上ずった声での悪態。
その反応こそが、ウィルカインストの内心をこれ以上なく代弁しているように感じる。
時間がかかる。それは事実なのだろう。しかし、それだけではないと檀司郎の勘が告げている。
都合の悪い事実を隠している。知られるわけにはいかないと白を切っている。それが
あの風の中では満足に動けなかった事を鑑みても、あのまま削り殺していたほうがリスクが少ない。ゆえに、檀司郎はウィルカインストが振るう力に何かしらの制約があると踏んだ。
「だけど、これだけ体内をズタズタにされたらさすがに諦めるでしょ。さあ、さあ、さあ!!」
剣の進軍は止まらない。砕け、塵となり、空気を伝って檀司郎の体内へ。そして炸裂する激痛。
息すらままならぬ生き地獄。そんな最中にあろうとも、檀司郎は死んでいない。
死ぬほど痛い。けれど死なない。呼吸が浅くなり意識が遠のく。けれど死なない。手足を動かす気力が消えていく。けれど死なない。
死なない。死なないのだ。ウィルカインストに生成された剣の残骸をいくら呼吸で体内に取り込もうが。いくら身悶えるほどの激痛に晒されようが。いくら身体を動かす事を拒否する本能を理性で圧し潰そうが。檀司郎は死んでいない。
「……なぜだ」
なぜ死んでいない。それはウィルカインストではなく、檀司郎の口から出てきた疑問符だ。
檀司郎は決して不死身の存在ではない。ただの人間の探索者だ。呪詛に侵されずにダンジョンを探索できるという特殊体質を有しているが、それは超人である事を意味しない。
魔法使いのように人類という存在を超越した生物ではない。それはウィルカインストの権能を喰らっている事からも明らかだ。
だからこその疑問なのだ。なぜなのかと。
嬲っている? 否。であれば最初の風を吹かせ続けて檀司郎の肉がミンチになるまで削り続ければ済む話だ。
それを時間がかかるなどという理由で取り止めたのだ。であれば、ウィルカインストは檀司郎を疾く絶命させる事を願っている。
ならば檀司郎を殺した後を見据えているというのはどうだろう。それもまた考えづらい。
確かにその可能性はある。下拵えを済ますまで檀司郎を殺せないと仮定するならば、これもやはり最初の風を取りやめた事がノイズとなる。
あの風は完全に檀司郎を閉じ込めていた。権能の範囲を調整すれば、ダンジョンの床を削る事なく檀司郎をミキサーにかけられた食材のごとくズタズタにできた事だろう。
ならば他に理由がある筈。そのヒントは何か。それはウィルカインストが僅かに零した、彼の故郷の概念だ。
『正確には、僕の故郷にいる聖女の異能さ。かつて強大なデーモンの討伐に貢献した風の聖女、メヴァリア・ハウクスの
檀司郎はあまり理解できなかったが、言葉を繋げると見えてくるものもある。
強大なデーモンの討伐に貢献、聖女の
デーモンという生物はどんなものかは分からないが、要は
「……ああ、なるほど。人を殺すようにできていないのか。その力、聖女の
檀司郎が辿り着いた一つの結論。それを聞いたウィルカインストは隠す事なく舌打ちした。