大和国立国際ダンジョン学園所属! 雄々敷檀司郎は幼馴染と付き合いたいッ!! 作:水金地火木土天海冥
「それがどうした」
ウィルカインストは苛立ちつつ吐き捨てる。
「それが真実だったとして、それで勝ち目があるとでも?」
その通りだ。認めよう。聖女の力は人間を殺せぬよう不殺の制約が課せられている。
ウィルカインストの権能であろうとも、その制約を取り外す事は不可能だ。
メヴァリア・ハウクスの聖権《オラクル》の暴風の際、ウィルカインストが檀司郎の痛覚を麻痺させた理由もここにある。
あの風はデーモンに対しては有効だが、人間に対しては皮膚を薄く切り裂くのみの威力しか発揮しない。痛みと言う指標があれば、大した攻撃ではないと檀司郎に見切られる恐れがあった。
ゆえに痛覚という死への指標を遮断した。
もっとも、その後の駆け引きが雑魚すぎてすぐに不殺の制約がばれてしまっているが。
「質問を返すが、この殺せない力以外にお前は手札があるのか?」
俺はお前が死ぬまで殴れるぞ。檀司郎はウィルカインストへ獰猛に笑いながら己の鉄槌を突き付ける。
お前はどうだ。俺と殴り合う気概はあるのか。その言葉にウィルカインストは頷いた。
「あるさ」
手はある。殺す手段はまだ残っている。ウィルカインストも不殺の力のみでイキっていたわけではない。これはただの殺しやすくする為の、言わば下拵えの為の道具に過ぎないのだ。
「忘れたのかい? 僕はウィルカインストだ。──ダンジョン黎明期に人類へ魔法を授けた男だ」
謎多きウィルカインスト。魔法を開発・発展させた事以外の一切が不明。しかし肝心なのは、彼が魔法を開発したという点だ。
魔法使いの幻想ではない新たなカタチ。それは瞬く間に世界へ広がり、ダンジョン探索の力となった。その正体を、檀司郎は知っている。
「龍玉座の契約であろうと、そう簡単に行使できるのか?」
龍玉座に集う欲龍との契約。その契約紋を広め、装具に刻んで魔力を流す仕組みを作った。
契約者以外に契約紋を知る者はいない。逆説的に、契約紋を知るという事は契約者であるという詐術のような理屈でこの世界の魔法として成立させた。
もっとも、無理矢理成立させたものなのでウィルカインスト以外が行使すれば欲龍の権能の一側面しか出力できないというのは明確な欠点だろう。その事を知る者は、それこそウィルカインストくらいなものだが。
「もちろんこれにも制約はある。だけどね、異次元開拓を潰されるくらいならその程度のリスクなど吞み込めるのさぁ!」
指を鳴らし、ウィルカインストの正面に方陣が出現する。この世界の法則以外の力で、無数の文字と図形が不規則に蠢く不気味な陣。
「我が愛欲の契約により、来たれ」
そこから現れたのは一人の少女。しかし纏う圧は尋常ではない。まるで水中にいるかのごとく、檀司郎の身体が重くなる。ただの少女ではありえない。
つまり、目の前の少女はウィルカインストと契約した欲龍の一柱なのだろう。
肩まで伸ばした青い髪を揺らしながら、少女は檀司郎を見て呟いた。
【ふーん。わたしの好みじゃないわね、この男】
驚くほどに俗な一言であった。
しかし俗であろうとも、生物としての格が落ちるわけではない。多少のお茶目で親しみなど湧いてくる筈もない。明確に世界よりはみ出した怪物。
【ねえ、ウィルカインスト。わたしを呼び出したという事は──愛してほしい。つまりはそういう事でしょう?】
「もちろんだよ。存分に愛してくれ、愛欲龍フィゾロア」
瞬間、凶念が膨れ上がり爆発した。刹那にも満たぬ間に、檀司郎の身体を得体の知れぬ感覚に蹂躙される。
「があああああぁぁぁぁッッッ!!!!??」
手が、足が、血が、肉が、骨が、髄が、神経が。身体の端から端まで全身くまなく刺激される。
激痛と、高揚と、達成感と、全能感が、肉体の絶頂と共に押し寄せる。
それは実に気持ちよく、また気持ち悪い。反吐が出るほどに快感で、身を任せたいほどの嫌悪感に包まれる。
快も不快も一緒くた。境界などないとばかりに犯され続ける。
フィゾロアの狂熱が迸り、これこそが生物の幸福であると告げている。賢者のように性を貪り、獣のように己を律する。何もかもが矛盾を孕み、しかしそれこそが真理であると嗤っているのだ。
到底理解できる価値観ではない。瞳に映る世界が違う。生物としての思考が別物だ。
欲龍とは、己が欲望が暴走した果てに世界より放逐された存在だ。龍玉座はその掃き溜めと言えるだろう。
かつて出会ったグリム・グリムの蒐集欲も、檀司郎が体感しているフィゾロアの愛欲も、人の常識の範疇で測れるものではない。
【これこそが愛。素晴らしいでしょう? 愛されてよかったでしょう? かっこよく溺れなさい。みっともなく克服してよ。何もかも堕ちて、溶けて、砕けちゃえ。わたしの
フィゾロアの声が魅力的に聞こえてくる。それは檀司郎の肉体が徐々にフィゾロアの都合の良い存在になりつつある証左でもあった。
堕ちて、溶けて、砕かれたいと本能が望んでいるのだ。叫んでいるのだ。どうしようもなく願って、渇き、藻掻きたいのだ。
「……俺は」
だが、檀司郎には生きる目的がある。屈服しそうになる本能に喝を入れ、檀司郎は立ち上がる。こんなところで終わってたまるかと無様な欲に反逆する。
――その程度で克服できる程度であるなら、それは権能などとは呼ばれない。グチュグチュと体液が混ざり合う雑音が耳朶を支配し、フィゾロア以外の声は届かない。頭に入らずにすり抜ける。
「諦めて、たまるかああぁぁッ!!!」
性的絶頂にも似た突き抜けた興奮と肉体の弛緩を強引に無視する。手は震え、足はふらつく。
それでも檀司郎は折れない。屈さない。フィゾロアの愛に隷属しない。
一方的に圧し潰けられた凶念に愛と言うラベルを張り付けただけの紛い物に、どうして膝を折らなければならないのか。
【あらあら、随分素敵に化けたじゃない。まるで
檀司郎の抗う様を嘲るフィゾロアに、怒りを孕んだ声で低く唸る。このまま思い通りにはならないと、高を括っているフィゾロアへ告げた。
「俺を侮った事、後悔させてやるよ」